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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 扉が開く。
 血が少ないせいで未だふらつく頭を気にしないようにしながら右手を挙げた。

「よお、クロ」
「無事で何よりだ、ジンゴ」

 彼から発された言葉は固く、苦々しい感情を含んでいた。
 身体をベッドから起こそうとした所を手で制される。

「まだ血が足りないだろう? そのままでいい」
「……悪いな」

 言ってから気付き、改めて言い直す。

「悪い」
「……それは何に対する謝罪だ?」
「しくじった。
 俺とした事が途中からコア強奪の件をさっぱり忘れてたよ。なのは達は?」
「なのはは医務室で診察中だ。
 フェイトはそれに付き添っていて、ユーノとアルフは事後処理に力を貸して貰っている。
 なのはは命に別状はないそうだ」
「そうか……よかった……」

 胸を撫で下ろしていると何故かクロは無言のままで。
 ふと、彼の右拳が尋常でない力で握りこまれている事に気付く。
 それについて聞こうとした所で、

「よくない!」
「え……?」

 怒鳴られた。
 それもかなりの大声で、だ。
 何故そんな風に怒られるのかも分からずに首を傾げる。

「今回一番の重傷者は、コアを強奪されたなのはでも、デバイスを破壊されたフェイトでもない。君なんだぞ!」
「そりゃ、そうだけど……」
「確かに君は強い。その上正規局員で執務官だ。
 だけど、少しは自分の心配をしないか!
 君はまだ執務官になって二年、たったの一〇歳だ……」

 急に言葉に勢いがなくなったクロを見遣る。
 悔しげな顔で、それでもしっかり俺を見据え、彼は繰り返した。

「たったの、一〇歳、なんだぞ……」
「ん……」
「全てを背負おうなんて、自分が怪我をしているのに、皆が無事でよかったなんて……そんなのは傲慢に過ぎる。
 僕が……僕達がどれだけ心配したと思っている!!」

 ああ、そうか。
 こいつは俺を、俺の歪みを諌めてくれているのか……
 今の俺は■■じゃない。
 ただの、ちっぽけな、人間だ。

「……すまない」
「そんな言葉が聞きたくて言ったんじゃない」

 一度首を捻り考えて、正解だろう言葉に辿りつく。
 この不器用な執務官の想いがありがたくて、少しだけ頬が緩んだ。

「そうだな。心配してくれて、ありがとう」
「ああ……」

 ゆっくりと身を起こしながらクロへ手を伸ばす。
 彼が握り込み過ぎて血を滲ませてしまった手の平に触れ、そっと開かせた。
 軽く魔力を通してやると、応急処置ではあるが血が止まる。
 大した怪我でもないので放っておけばすぐに自然治癒するだろう。

「リン姉は?」
「今上層部からの通信を受けている。今回の件、どうやらうちが担当になるみたいだ」
「そっか」
「君にも……と言うよりは君達にも協力を仰ぎたい。
 特にベオウルフは彼等と知り合いだったようだしな」
「構わねえよ。
 こちらとしてもなのはの事があるから、アースラとの協力体制はありがたい」

 俺の言葉にクロは難しい顔を崩さず、ただ頷いた。

「辞令は今日中に出るように調整しておく」
「ん?」
「どうかしたか?」
「確かアースラって今は本局で整備中だったはずだよな?」
「ああ。現在アルカンシェルの取り付けが突貫で行われている」

 アルカンシェルの下りで彼の顔がほんの少しだけ歪む。
 全てを消し飛ばす管理局所有の時空航行艦用極大砲。
 俺もあまりいい思いは抱いていないが、クロも思う所があるのだろう。

「整備中って事はすぐには動かせないだろ。本局に対策本部を置くのか?」
「いや、それじゃ初動が遅くなるだろう。
 中心となっているのは管理外世界が数多く点在している次元。
 後で正式に艦長から通達があるだろうが、司令部が置かれるのは恐らく――」

 この話が最後とばかりにクロは踵を返す。
 顔だけ振り向いた彼はいつもは浮かべる事のない表情をその顔に湛え、

「――海鳴市だ」

 俺達にとって馴染み深い街の名を告げた。




「ジンゴ!」
「ジンゴ君!」
「よっ、二人とも元気そうで何よりだ」

 退院の準備をしていた所、勢いよく入室してきたなのはとフェイトに手を挙げる。
 軽い感じで挨拶すると二人は心配そうに小走りで近寄ってきた。

「大丈夫?」
「ああ、基本的に血が足りないだけだからな。
 医療スタッフが動転してたのか処置がちょいと大げさになっただけさ」

 なのはの質問に頭に巻かれた包帯を指差しながら苦笑してみせる。
 嘘は言っていない。
 実際に出血は止まっているし、検査でも異常は出なかった。
 ただ、他人に触られたりするのを防ぐ意味を含め、念の為と言う事で包帯を巻かれたのだ。

「ジンゴ……無理、しないでね」
「大丈夫だって。ここんとこ平和な生活してたから少し気は緩んでたけど……」

 右拳を左手の平に打ちつける。
 ばしっと小気味いい音が返ってきた。

「次は、後れは取らん」

 気合を入れなおしていると、そうだねと言う返事の後、二人が沈んだ表情を見せた。
 空気を変える為にも、そう言や、と言葉を続ける。

「二人は大丈夫だったのか?」
「うん、私は皆が護ってくれたから大丈夫。
 ちょっと数日は魔法が使えないみたいだけど」
「私はさっき保護監察官をしてくれる人との面接も終わったから一応自由の身、かな」
「そうか」
「「でも……」」

 なのはとフェイト、二人の声が重なった。

「でも?」
「レイジングハートとバルディッシュが……」
「あの戦闘でボロボロになっちゃったの。
 ユーノ君が言うには、基礎構造の修復が済んだら、一度再起動した後に部品交換をしたほうがいいって」
「まあ、そりゃそうだよな……」

 むしろあれで無事だったとしたら、インテリジェントデバイスである事を疑う。
 レイジングハートはあのボロボロの状態で大魔力を放出するスターライトブレイカーを撃っているし、バルディッシュに至ってはインテリジェントの身で剣士と打ち合ったのだ。

「とりあえず私となのははデバイスが直り次第、この事件に協力する事になったよ」
「ん、俺の方も……っと」

 ピピッと音がして、端末にメールが入る。
 悪いと一言置いて内容を確認した。

「今、辞令が来た。アースラに協力して事件を終息せよ、だとさ」
「そうなんだ。司令部はね、私の家のすぐ近くになるんだって」
「ああ、海鳴になるってのは聞いた。そうするとフェイトも海鳴入りするのか?」
「うん」

 なのはの近くに入れるのが嬉しいのだろう。
 先程とは異なり年相応の笑みを浮かべたフェイトに思わず頬が緩む。

「よかったな、なのは」
「ふぇ?」
「これでようやくフェイトをアリサやすずかに紹介できるじゃないか」
「あ……うん!」

 そうと決まれば、と纏めた荷物を右肩に担ぐ。
 医務室から出るとなのはが突然苦笑して、俺はフェイトと一緒に首を傾げた。

「どした?」
「えっとね、アリサちゃん達に説明するの大変そうだなあって」

 なのはが指差したのは俺の頭。

 そう言や包帯でぐるぐる巻きにされたんだったか。

 俺に取ってはこの程度、日常茶飯事なのだが、一般的に見て大怪我だろう。
 アリサ達が心配するのは目に見えている。

「あー」

 どうしたもんかと頭をかこうとしてやめる。
 さすがにこんな事で傷口が開いてしまうのは馬鹿みたいだ。

「ベタな所ではこけた、だけど……
 以前怪我関係でからかったから信じねえ可能性も高いな。
 恭さんとの手合わせでぶっ飛ばされた事にでもするか」
「にゃ……にゃはは……
 そんな事起きないよって言いたいけど、ありえないって言えない所がつらいね」
「なのはのお兄さんって……」

 フェイトの顔に浮かぶ表情は複雑だ。
 未だに彼女自身が近接訓練で俺にクリーンヒットを出した事がないのも関係しているのだろう。
 速度は彼女の方が上なので浅いのは結構喰らっているのだが、いかんせん経験がまだまだ足りない。
 それでも近い内に完封は不可能になるだろうし、クリーンヒットを喰らう日も近い気がする。
 それだけの才能が彼女にはあった。

「フェイト」
「?」
「高町家については深く考えるな。あそこは魔境だ」
「にゃっ!?」
「……そうなの?」
「あそこん家に行くと一般人の定義について考えさせられるぞ。
 魔力がない事と一般人はイコールで繋げねえってな」
「そんな事はない………………と思うなあ。思いたいけど…………うぅ……」

 強く否定しない辺り、なのはにも自分の家がいかにおかしいかの自覚はあるらしい。
 実際に皆がどう言う剣術を使うのかなどは、ここ最近俺達と一緒に鍛錬するようになってようやく知ったようだったが。
 最初に俺達の手合わせを見た時なんぞ盛大に顔を引き攣らせていた。
 多分、自分も実践を経験したが故に、高町家の人々の非常識さがよくわかるようになったのだろう。

「人柄はなんの問題もないどころか、本当にいい人達だからな。そう力まなくても大丈夫だ」
「う、うん。頑張る」

 いや、だから頑張る必要はねえって。

 未だ顔を強張らせ、緊張気味のフェイトに苦笑を漏らす。

 俺の言い方が少し大げさだっただろうか。
 嘘は言ってないがここまでするほどの事でもない。
 一〇分ほど高町家の人々がいかにお人よしかを語り、フェイトがようやく落ち着いた後、明日局員と一緒に海鳴入りすると言う彼女と別れ、俺となのはは家路に着いた。
 

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内海 トーヤ
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ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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