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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 数日後、朝の鍛錬が終了し、シャワーを浴び終えた所でドラッケンが明滅している事に気付く。
 慌てて着信を確認すると──それ以外の選択肢がそうそうあるとは思えないが──アースラからのもので、俺は急いで折り返しをかけた。

「────おう、わかった。ありがとな、クロノ」
『いえ、ボクにはこれ位しかしてやれませんし、彼女自身の希望でもありますから』
「それでもお前が頑張った事にゃ変わんねえだろ」
『あ、えっと……』
『クロノ君照れなくてもいいのに』
「だな。そこは胸張って受け取っとけって。
 ま、仕事に支障が出るとまずいからクロノ弄りはそこそこにしといてやれよ、エイミィ」
『はーい』
『エイミィ! ……まったく、もう』

 モニター上で腕を組みながらぶつくさと愚痴を零すクロノに苦笑すると、エイミィと目が合う。
 あんまりいじめないでやってくださいねと言われているような気がして肩を竦めた。

 つかさ、エイミィは人の事言えんだろうが。

「それじゃ、こっちはあいつ連れてすぐに向かうから」
『……わかりました。よろしくお願いします』
「また後でな」

 そうして通信を終えると、急ぎなのはの部屋へ。
 鍛錬着から着替えに戻ったのがさっきなので、まだ部屋の中にいるはずだとドアをノック。

「はーい」

 すぐに鍛錬着のままのなのはがひょっこり顔を出した。
 ドアの影から覗くのは黒いインナーシャツ。
 どうやらまだ着替えてなかったらしい。

「なのは、外行くぞ。直接学校に行ける格好に着替えて来い」
「えっ、今から?」
「さっきクロノから連絡があってな。フェイト嬢が本局に移送されるらしい」
「そっか……」

 俯いたなのはの頭にぽんと手を置く。

「本局で事情聴取と裁判が行われる。クロノの話じゃほぼ無罪になるってよ」
「ほんと!?」

 ぴょこんとツインテールが跳ねると共になのはは顔を上げた。

「ああ。随分とクロノが頑張ってくれたらしい。
 そんでな、本局に移動するとフェイト嬢はしばらくなのはとは会えなくなるから、その前に時間を取ってくれるそうだ」
「え!?」
「だから、会えるんだってよ、今から。
 彼女がお前に会いたいって、そう望んだんだと」
「ほんとっ!? あ、えっと、急いで着替えるから待ってて!!」

 輝くような笑顔の後、バタンとドアが閉じられると中からどたばた慌てた音がする。
 その様子に1つ苦笑すると、今度はユーノを呼びに自分の部屋へ戻った。




 全力疾走するなのはに合わせて走る。
 運動神経はいいはずなのに、何度もこけそうになる妹をフォローしながら俺達は海鳴の街を疾走して行く。
 なお、ユーノはなのはの全力についてこれなかったので、フェレットモードで俺の肩の上だ。
 なのはの肩の上ではないのは、単純に気がはやったなのはがユーノの存在を忘れていたからだったりする。

 哀れ、ユーノ。

 海沿いの舗装路まで来ると特徴的な金とオレンジ、そして黒髪が見えた。
 遠目だが恐らくフェイト嬢とアルフ、クロノだろう。
 隣を走っていたなのはは、3人の姿を認めると手を振りながら更にスピードアップした。

「フェイトちゃーん!」

 俺は逆にスピードを落とすと、苦笑しながら彼等の元へ歩み寄る。
 クロノは俺と似たような表情でご苦労様ですと頭を下げた。

「あんまり時間はないんだがしばらく話すといい。ボク達は向こうにいるから」
「ありがとう」
「……ありがとう」

 笑顔でクロノに答えるなのはと、僅かに笑みを浮かべて礼を言うフェイト嬢。
 2人の笑みを受けて俺達は少し離れた場所、ベンチの方へ歩いていった。
 海を眺めながらぽつり、ぽつりと2人は話し始め、俺達は遠目でそれを見守っていて。
 朝の海鳴に穏やかな時間が流れていた。

────────interlude

 私はフェイトちゃんの横に立って、彼女と同じように海を眺める。
 色々話したい事があったはずなのに、何を言えばいいのかわからなくて。
 もどかしい想いをしながら言葉を探す。
 時間がもったいないから、と、なんとか口を開く事に成功した。

「にゃはは、なんだかいっぱい話したい事があったのに……変だね、フェイトちゃんの顔見たら忘れちゃった」
「……私は……そうだね、私もうまく言葉に出来ない」

 そう言ってからフェイトちゃんは緊張気味に息を吸って、

「だけど嬉しかった」
「え?」
「真っ直ぐ向き合ってくれて」

 ぽけっとフェイトちゃんを見詰めてしまう私。
 フェイトちゃんがこちらを向いて僅かに微笑んでくれたので、私も頷き笑顔で応える。
 言葉にしないと伝わらない事がたくさんあると教えてくれたのはお兄ちゃん。
 だから確かに言葉にして、フェイトちゃんに改めて伝える。

「うん、友達になれたらいいなって思ったの」

 あ、だけど。

 お兄ちゃんから教えられた事を思い出した。
 それを思うと自然声が沈んで、こんなんじゃいけないのにと思ってもそれが止められない。

「でも、今日はもうこれから出かけちゃうんだね」
「……そうだね、少し長い旅になる」

 少し沈んだフェイトちゃんの顔を見て、失敗を悟った。
 でも挽回のヒントはフェイトちゃんの言葉にある。
 旅に出ると言う事は、

「また、会えるんだよね?」
「!? ……うん」

 私の質問にフェイトちゃんはきちんと頷いてくれた。

 だから、大丈夫。
 私達はちゃんと、再会する事ができる。

「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから……
 あの人の言葉を借りるなら、やっとこの世界に私は生まれたから。
 ……今日来てもらったのは、返事をする為」
「え……?」
「君が言ってくれた言葉。『友達になりたい』って」
「っ!? うんっ、うんっ」
「私に出来るなら、私でいいならって。
 だけど私……どうしていいか分からない…………
 だから教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれるのか」

 分からない。
 その言葉で不安げな表情になったフェイトちゃんの横顔を見て気付く。

 そっか、今までフェイトちゃんはこんな風にしてる事もなかったんだ。
 ────でも、分からないならこれから知っていけばいいんだよ。

「簡単だよ」

 その言葉に少し俯きがちになっていたフェイトちゃんが私を驚いた目で見つめる。
 私は彼女を安心させて上げられるように、なるべく優しく微笑んだ。

「友達になるの、すごく簡単」

 今、目の前できょとんとしているフェイトちゃんへ言葉を届ける。
 それが今の私がフェイトちゃんにしてあげられる事だから。
 だから、たった一言に全ての感情を籠め、贈る。

「なまえをよんで」

 そう、たったそれだけの事なのだから。
 言葉にするとたったの、それだけ。

「初めはそれだけでいいの。
 君とかあなたとか、そういうのじゃなくて……ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの」
「……」
「私高町なのは。なのはだよ」
「……なのは」
「うんっ、そう!」
「な、の、は」
「うん」
「なのは」
「うんっ」

 感極まってフェイトちゃんの手を取る。
 フェイトちゃんはその小さな柔らかい手で軽く握り返してくれた。

「ありがとう、なのは」
「っうん」
「なのは」
「……うんっ」

 涙を堪えながらフェイトちゃんへ返事を返す。
 あと少しで溢れてしまいそうで、でもできればフェイトちゃんには私の笑った顔を覚えていて欲しくて。

「君の手は温かいね、なのは」

 フェイトちゃんが何度も何度も私の名前を呼んでくれる。
 それが嬉しくてとうとう涙が溢れた。
 だけどきっとそれだけじゃない。
 私が必死に袖で涙を拭っていると、フェイトちゃんがすっと目元を拭ってくれる。
 その優しさに、益々頬を伝うものが増えた気がした。

「……少し分かった事がある」

 ただただ泣きじゃくる私。
 フェイトちゃんがきちんと私を見て話しかけてくれる。
 それが嬉しくて、お別れが悲しくて、涙が止まらない。

「友達が泣いてると、同じように自分も悲しいんだ」
「っ、フェイトちゃん!」

 思わず抱きついてしまった私を、フェイトちゃんは抱き返してくれた。

「ありがとう、なのは。
 今は離れてしまうけど、きっとまた会える。
 そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」
「うん……うん……」
「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。
 だから、なのはも私を呼んで。
 なのはに困った事があったら、今度はきっと私がなのはを助けるから」

 それ以上は言葉に出来なくて、私はフェイトちゃんに縋りついたまま、ただ泣いた。

────────interlude out

「あんたんとこの子はさ……なのはは、本当にいい子だね」

 2人のやり取りに感動したアルフが俺達の隣で号泣している。
 それにハンカチを差し出すと彼女は礼を言って受け取り、ちーんと鼻をかんだ。
 元々そうなるような気がしていたのでもはや怒りも湧いてこない。

「フェイトが……あんなに笑ってるよ……」

 ああ、本当にいい子に育ったよ、なのはは。
 独りでいる寂しさを知っているから、寂しさや悲しみに敏感で。
 優しくされた時の喜びを知っているから、誰よりも優しく在る事が出来る。
 きっと俺なんかよりもずっと、なのはの心は強い。
 それはある意味で俺達家族の罪の形なのかもしれない。
 あそこでフェイト嬢と笑い合っている妹を、なのはを俺は誇りに思う。

「『なまえをよんで』……か」
「先生?」

 きっとそれは単純だからこその真理。
 子供はその純粋さゆえに、事の本質を見抜く。
 世界は薄汚れているけど、こんなにも美しい。

 そうだろ、アラン。

 俺は今はもういない半身に呼びかける。
 返事はないけど、それでいいんだと思えた。

「なあ、クロノ」
「はい、先生」
「大人になるにつれて世界は薄汚れて行くけど、それは俺達がそんな風にしちまってるだけなのかもしれないな」
「……そう、かもしれないですね」
「『この醜くも美しい世界で』か」
「え?」
「なんでもない」

 疑問顔のクロノに笑いかけ、俺は立ち上がる。
 トントンと左手首の時計を指して見せるとクロノはそうですねと頷いて。
 全員で2人に歩み寄り、この場のまとめ役であるクロノが口を開いた。

「……時間だ、そろそろいいか?」

 抱擁を解くと、なのはとフェイト嬢が俺達に向き直る。
 これでお別れか、と思っていたら、フェイト嬢がおずおずと右手を挙げた。

「あの……もう少しだけ」

 フェイト嬢が何故か俺の前に立つ。
 そのまま口を開き逡巡する彼女を見て、何か話したい事があるのだと気付き、きっかけを与えてやる事にした。

「アランだ」
「え……」
「アラン・F・高町。前にも言ったが、それが今の俺の名前だよ、フェイト嬢」
「アラン……」

 そうして彼女は何度か口の中で俺の名前を転がすと、真っ直ぐに俺を見る。
 その瞳の中に、あの時感じた翳りを見る事はなかった。

「アラン、あの時答えられなかったけど」
「ん?」
「私は、フェイト・テスタロッサ。母さんの娘」
「そうか」

 その回答に頬が緩むのを自覚しながらも頷いた。
 この答えが聞けただけで俺は満足だ。
 事件に最後まで関わりあった甲斐があったと、そう思える。

「名前……」
「え?」
「名前を……」
「フェイト嬢?」

 もじもじする彼女を見て首を捻っていると、なのはに脇腹をつつかれた。

「お兄ちゃん、そうじゃないよ」

 酷く端的な言葉。
 これがなのは以外に言われた言葉なら気付けなかったはずだ。
 それだけで通じてしまうのは、付き合いの長さのなせる業だろうか。

「ん、と……フェイト、でいいか?」
「あ……うん」

 正解だったらしい。
 ふわりと笑うフェイトを見て、胸の内に温かいものが溢れる。
 まだ完全に立ち直ったわけではないはずだ。
 ともすれば一生引きずり続けるような出来事だったのだから。
 だけど、今の彼女なら大丈夫だと何故か確信が持てた。

 まあ、あの人も大概狸だしだしなあ。
 いや、イメージ的には狐なのか?
 とにかく、俺の予想が正しけりゃ、絶対覗いてるはずだよな。

 手の中の物をいじりながら、そんな詮無い思考と共に虚空に呼びかける。

「リン姉」
『はいはーい、呼んだ?』

 いきなり宙を見詰め始めた俺に訝しげな顔をしていた面々が、突如中空に現れたウィンドウを見て驚いていた。
 俺は右手を掲げ、親指と人差し指の間に挟んだ小さなチップを彼女に見せる。

「渡しちまってもいいか?」
『もちろん』
「あとで没収とかはなしで頼むぜ?」
『“それ”には私は全く関知してない事になってるから。
 存在を知らない物を没収できるはずないでしょ?』
「サンキュ」
『いいのよ、別に。私は知らないんだから。じゃあまたね』

 それだけ言うと彼女はさっさとウィンドウを閉じた。
 自然、くっと口角が吊り上がってしまい、とうとう堪え切れなくて喉の奥で笑う。

 まったく、素直じゃねえっつうかなんつうか。
 彼女なりの最大限の譲歩ってとこかね。

「先生?」

 疑問顔のクロノ達を黙殺し、きょとんと俺を見ているフェイトと目を合わせる。
 少し腰を屈ませて、彼女の目を本当に真正面から見つめた。

「フェイト、今でもお母さんの事、好きか?」
「うん」

 即答だった。
 その様子に笑みが零れる。
 流石の俺もまさか即答とは思ってなかった。
 本当に、本当に、優しい子だ。

「じゃあ、これをあげよう」
「え……これは……」

 彼女の手に乗せたのは先ほどリン姉に見せたチップ。
 あの時、時の庭園のラボで俺へのメッセージと共に受け取ったものだ。

「お兄ちゃん、それは?」

 なのはが皆を代表して質問してくる。
 どう答えたもんかと考えて、止めた。
 あるがまま、それを答えるのが一番いい。

「シアの……プレシア・テスタロッサの最期のメッセージさ。
 あの場でただ1人、昔からの彼女とアーシャ、アリシア・テスタロッサを知る者として託された」
「母さんの……」
「あんたっ、なんだってあんな奴の──」

 唖然と手の中を見るフェイト。
 俺は激昂して今にも食いかかってきそうなアルフを手で制す。

「ヤマアラシのジレンマって話、知ってるか?」
「? 今それになんの関係が──」
「ヤマアラシは身を守る為の針のせいで、近付けば近付く程互いを傷付けてしまう、そんな話だ」

 訳が分からないといった顔をした皆に苦笑した。

 ま、これだけじゃ分からんか。

「シアは、これを俺に託すのは自分の弱さなんだと言ってた。
 どうするかは俺に一存する、とも。俺はこれは君が持つべきだと思う」
「母さんが……」
「だから、貰ってくれないか?
 1番最期に、ただのプレシア・テスタロッサがフェイトへ宛てたメッセージだ」

 俺の言葉に彼女はぎゅっと手の中のチップを抱きしめた。
 何よりも雄弁な答えに満足し頷いて、俺は中腰にしていた腰を伸ばす。
 そこへクロノが不満げ顔で歩み寄ってきた。

「先生、あんな物があるなんて、一言も言ってくれなかったじゃないですか」
「悪いな。一応リン姉には許可を取ってあったんだけどさ。
 方針が本決まりする前に渡すと取り上げられちまうだろうし、な」
「それは……」

 事件に関するものは基本的に証拠品として全て没収されてしまう。
 それは局員である限り破ってはならない1つのルールだ。
 その事を思い出したのか、クロノは苦々しく顔を歪めた。
 俺は、その基本的なルールを破ってでも、フェイトに直接あれを渡してやりたかったのだ。
 母親の遺言さえも没収され証拠として扱われてしまうなんて、あまりにも酷だと思うから。

「彼女の最期の願いなんだよ。フェイトを頼むってな」
「そう、ですか……」

 彼女も別に悪人だったわけではない。
 ただ、色々な想いがすれ違って、ああなってしまっただけ。
 結局、今回の事件に悪人なんて1人もいなかったのだ。

「アラン」
「ん、なんだ?」
「アリシアの事、知ってるんだよね?」
「ああ。アーシャとは幼馴染だったから」

 その言葉を聞いて少し考えると、意を決したように彼女は顔を上げた。
 視線の先には当然俺の姿。
 彼女の赤い瞳に、俺が映っていてなんだか妙な気分だ。

「今度会った時は、アリシアの、姉さんの話を聞かせてもらえる?」
「もちろん。
 俺も何度か本局に行かなきゃならん用事があるし、その時にでも。
 ついでにバルディッシュも調整しなきゃならないからな」
「にゃ!? そんな事聞いてないよ、お兄ちゃん」
「バルディッシュを?」

 詰め寄るなのはを宥め、

「まあちょいと例の魔導書の件でな。
 バルディッシュの件はシアから頼まれてんだ」
「え……」
「強化したのはいいけどシアはデバイスマイスターって訳じゃないからな。
 がんがんカートリッジを使うのを見て肝を冷やしてたみたいだぞ。
 身体に負担がかかりにくいよう調整してやってくれ、だとさ」

 それが、俺へのメッセージに含まれていた依頼の1つだった。
 シアのメッセージを思い出し、くつくつと喉を鳴らす。
 そうして思った。
 相変わらず彼女が親馬鹿だった事が、俺は酷く嬉しいらしい、と。

「そうなんだ……母さんが……」

 嬉しそうに笑うフェイトにつられるようになのはも笑顔になって行く。
 その笑顔はユーノへ、アルフへ、クロノへと伝染して、自然俺も笑顔になって。
 ふと我に返ったようにクロノが咳払いして場を整える。

「さて、そろそろ時間も押してきたか」
「うん。クロノ、ありがとう」
「フェイトちゃん!」

 別れの時が近付く。
 なのはは彼女を呼びとめ、自分の髪留めを解いた。

「思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど……」

 そう淡いピンク色のリボンを差し出すと、

「じゃあ、私も」

 フェイトも黒いリボンを解き、差し出す。
 手を伸ばしたのは同時。
 2人は手を互いのリボンに添えたまま、視線を重ね微笑み合った。

「ありがとう、なのは」
「うん、フェイトちゃん」
「きっとまた」
「うん、きっとまた」

 2人の手がそっと離れる。
 それが何故だかとても神聖なやり取りに思えた。

「……色々ありがとね、なのは、アラン、ユーノ」
「うん、アルフさんもありがとう」
「出来ればチップの内容はアルフも一緒に見てやってくれ」

 その言葉に渋々ではあったがアルフが頷いたのを見て安心する。
 変な内容ではないと確信はしているが、一応支えがあった方がいいはずだから。

「それじゃあボクも」
「クロノ君もまたね」
「ああ」

 クロノがアースラに連絡すると、転送陣が大きく展開された。
 その上に3人が乗る。
 その様子を俺達はずっと見つめていて。

「……ばいばい、またね。クロノ君、アルフさん、フェイトちゃん」

 なのはの言葉にフェイトが目尻に涙を浮かべたまま笑み、手を振った。
 それに応えるように俺達も手を振る。
 そのまま光が溢れ、3人はアースラへ帰って行った。




 3人が消えてからも、なのはは彼女等がいた場所を見続けていて。
 俺は少し後ろで、ユーノを肩に乗せたままそんななのはを見続けていた。

 ああ、こうして髪を下ろすと本当に母さんによく似ている。

 風がそよぎ、なのはの髪をさらう。
 青い空と青い海、白い制服を着て佇むなのは。
 この子には青空がよく似合う。

 俺はきっと、この光景を忘れない。

 そう、思った。

「なのは」

 もったいない気もするが、声をかける。
 ふわりとその髪を風になびかせてなのはが振り向いた。
 どきりと跳ねる心臓を無視して、俺はなのはと笑い合う。

 さあ帰ろう、日常へ。
 俺達のこれからは、まだ続いて行くのだから。




「「始まり」くれた君にそっと囁く、2人だけの約束を──」

 帰り道、歩きながら口ずさむかつてのヒットソング。

「その曲、お兄ちゃんが使ってる着メロだね」
「ああ。ちょっと前に流行った曲だ。いい曲だぞ」
「ふーん、珍しいね、お兄ちゃんが歌うなんて」
「んー……なんとなく、だな。
 この辺りのフレーズがなのはとフェイトにぴったりだと思ったんだ」
「そっか。……ねえ、お兄ちゃん、歌って!」

 いきなりそんな事を言い出すなのはに驚き、すぐに納得する。

 そう言えばなのはの前で歌ったりした事はなかったか。

 だからという訳ではないが、俺は最初から歌う事にした。

 俺に色々なものをくれた半身と、
 俺を支えてくれている周りの皆と、
 俺を包んでくれる世界へ、
 無上の喜びと感謝を籠めながら。




 「始まり」くれた君にそっと囁く
 2人だけの約束を
 変わることのない永遠の魔法

 未来が囚われても遠く消えても
 澄んだ風[こえ]が覚えてる

 僕の名前を呼んで
 あの日のように笑いかけて
 

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HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
目次はこちら

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