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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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「結論から言おう。リインフォースを元のままの形で残す事はできそうにない」
「そんなっ!? 兄ちゃん、なんとかならへんの!?」
「残念ながら無理だ」

「……アラン、回りくどい言い方は止めろ。
 このまま、と言ったな。つまりは残す方法がある、と言う事なのだろう?」
「……それ、ほんまなん?」

 車椅子の上で暴れようとしたはやてを抑え込んでくれたシャマルに目線で礼を言い、シグナム達の問いに頷きを返す。
 同時に、片手で操作して中空モニターを開いた。
 映し出されるのは銀髪赤眼の美女、リインフォースの全身の姿。
 所々に赤いマークがされたそれを、八神家の面々が覗き込む。
 今更だが現在俺達は八神家のリビングにいる。
 俺は、先日の襲撃事件で棚上げされていたリインフォースについての少し残念な知らせを伝えにやってきていた。

「なー、兄貴。この赤い点々なんだ? よくわかんねえんだけど……」
「そう慌てるな、ヴィータ。今説明する」

 コンソールを開き、いくつかキーを押すとマークされていた位置がピックアップされ拡大していく。
 真剣にモニターを見続ける面子にほんの少し真剣な表情を作り話を続けた。

「俺がさっき言ったのは管制人格としてのリインフォースの話だ。
 このマークされた位置はな、彼女に残る致命的なバグの位置になっている」
「って、心臓にもあるやないか!?」
「彼女はプログラム体だから人間の器官はあまり関係ないかと思っていたんだがな。
 どうも心臓部分に管制人格として重要な機能があったらしい。
 だから完全な形で残してやる事は難しいんだ。
 バグが残っているとあの防御プログラムとやらも再生されちまうからな」
「……方法、あるん?」
「バグっている所は完全に破棄する。
 が、それだけだとリインを助ける事にゃ繋がらん」
「せやね。バグを破棄するんは心臓の破棄と同義やから……」
「そう。だから利点はただ1つ。リインフォースの奴がプログラム体だって事だ」
「どう言う意味だ?」

 ザフィーラの疑問にもう1つウィンドウを立ち上げる。
 こちらに表示されているのはとあるデータ。
 ずらずらと列挙されている文字群に、全員が顔を顰めた。

「これはなんだ、アラン?」
「リインフォースの人格データ、その一部だ。
 魔導書の方に完全依存してたなら無理なんだが、幸い彼女はそうではないらしい。
 身体と違って、こちらにバグの入る余地はない。
 バグは全て書の方に存在していたからな」
「つまり……」
「そう、つまり、だ。書を破棄したところで彼女自身のデータは残す事が可能。
 ついでに面白い物も見つけた。こっち、見てくれるか?」
「ふむ……守護騎士プログラム、か?」
「ご名答だよ、ザフィーラ。こっちのプログラムも独立で存在していた。
 いや、流石はロストロギアって所だな。あのサイズにこれだけのデータが入っていたなんて恐れ入るよ」

 肩をすくめながら皆を見渡すと、納得した顔をしているのはシグナム、シャマルとザフィーラ。
 ヴィータとはやては未だ訳が分からないと言った表情だ。
 進まない説明に業を煮やしたのかヴィータが怒鳴った。

「だあああああっ、わけわかんねえよ兄貴! いったい何が言いてえんだ!?」
「む、すまん。技術屋の悪い癖でな、全部説明せんと気がすまねえんだ」
「……とりあえず兄ちゃん、私等にも分かりやすく簡潔にお願いできへん?」
「そうだな……人格データのバックアップを全部取ってから管制人格を一度破棄。
 書のバグが存在する部分を切り取って、必要と思われる部分を再構築。
 一度完全フォーマットしてから管制人格を新規に作成し、新しい管制人格の力を借りて残しておいた人格データから守護騎士をもう1人創り出す」
「アラン君、もっと簡単に言えないかしら?」
「これ以上となると……あー、魔導書の中身を完璧に安全な物にしてから、新しく管制人格を作って、守護騎士としてリインフォースを再誕させる、か?」

 これでもわからんと言われたら、これ以上噛み砕ける自信がない。
 俺の言葉にシグナムが少し手順内容を検討するよう口の中で繰り返し、顔を上げた。

「かなりの手間がかかるな。リインフォースを管制人格として生み出す事はできんのか?」
「それについては俺も考えてみたんだけどな。
 一旦管制人格としての部分を破棄してしまうとは言え、元々あいつは夜天の管制人格だったろう?
 その人格と管制基板を繋いだ時、あの狂った形に復活されんとも限らない。
 何せ相手はロストロギアだ。念には念を入れて、管制とはまったく関係ない所からの復活の方が安全性が高いと思ってな」
「なるほどな……」

 話についてこれているかとはやて達に振ってみると、流石に今回の説明はわかったようだ。
 尤も、はやては未だ頭の中で情報を整理中みたいだが。

「えっと……つまり、新しく家族が増やして、その子にリインを生んでもらうんやね?」
「……その認識でも問題ないっちゃないがな。
 そこに至るまでの過程が一番大変なんだぞ?」
「かめへんよ。あの子を幸せにしたげられるんなら、どんな苦労もばっちこいや!」
「……はやて、“ばっちこい”は流石に古いぞ」
「そうなん!?」

 本気で驚くはやてにどことなく張り詰めていた空気が緩む。
 少し言い出しづらくなってしまうが、それでも俺は技術者の1人としてきちんと言っておかねばならない。
 すなわち、

「ただまあ、問題もある」
「うえっ、まだあんのかよ」
「何もかもがハッピーエンドとは行かねえさ。
 特にこれは恐らく次元世界でも初の試みだからな」
「アラン君、その問題って……?」
「5人目の守護騎士、それ自体はプログラムの想定範囲外になる。
 正直、リインフォースがどんな形で生まれてくる事になるのか予測がつかない」

 リスクがまったくないわけではないのだ、と。
 元々守護騎士プログラムはシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルの4人を呼び出し維持する為だけのもの。
 彼等をプログラムから完全に切り離した状態で容量に余裕があるとしても、プログラムの想定外である事は変わりないのだ。
 それが生み出されるリインフォースにどのような影響を与えるのか。
 こればかりは実際にやってみないとわからない部分になる。

「姿形が原型を留めない程変化する事はないと思うが……」
「具体的にどんな変化が考えられるん? 記憶とか、大丈夫なんやろか」
「記憶領域らしきものは人格データと共にあるから記憶喪失になったりはしないと思う。
 1番可能性が高いのは……魔力値が以上に低い、とかだな」
「……兄貴、それって守護騎士なのか?」
「この場合は殆どただの人になるな。守護騎士プログラムで生まれたただの人。
 もちろんリインフォースの方にも了解はとるつもりだが……どうする、はやて?」

 それでも実行するのかと小さな夜天の王に尋ねる。
 正面にはやてを見据えると彼女は一瞬たじろいで。
 だけどすぐに答えを出した。

「私な、あの子の力が欲しいんやない。あの子を家族に迎えたいんよ。
 心が同じなら、生まれてくる子ぉはリインフォースで間違いない」
「そうか……よく言った。すまんな、こんな中途半端な方法しか取れなくて。
 もっと専門的な研究所なら完全復活も可能だったかもしれんが──」
「ありえんな。私達はお前だからこそリインフォースと夜天の書を任せるのだ。
 一介の研究者、それもどこの馬の骨ともしれん者など信用できん」
「ははっ、なんとなくだけどそう言うような気はしてたさ」

 シグナムから寄せられる信頼に自然頬が緩む。
 こんな俺にも、成せる事がある。
 破壊のみしかできないわけじゃない、その事実が嬉しかった。

「リインの人格データサルベージと管制人格体の破棄、夜天の書の改修とフォーマットまでは俺が行う。
 はやてにやってもらうのは新しい管制人格の作成と、生まれてきた子と協力しての守護騎士の作成だ。
 はやて、夜天を貸してくれるか?」
「うん……兄ちゃん、頼むで?」
「ああ、任せろ。多分俺の方の作業は3,4日で終わると思う」
「そっか。ほな私は──」
「その間にはやてにやってもらわないといけない事だが」

 いや、そんな意外そうな顔するなって。
 まさかお前、なんの準備もなしに色んな作業をするもんだと思ってたんじゃないだろうな?

 なんとなくこの辺り、なのはのぽややん気質がうつっている気がしてならない。
 作業内容を言葉で表現すればたったの一言になってしまうが、やるべき事やその手順などはそれこそ山のようにあるのだ。
 とりあえずはやてから受け取った魔導書を鞄にしまい込みながら嘆息。
 流石にこいつを持ち帰るのを忘れて行ったら洒落にならない。

「管制人格の生み出し方と守護騎士プログラムの使い方を覚えにゃならんだろうが。
 守護騎士の方は管理者権限でなんとかなるかもしれんが、管制人格の方はそうもいかんぞ?」
「あ、あー……そやねえ。具体的にはどないしたらええんやろか」
「リインはユニゾンデバイスも兼ねてたからな。
 新しい子も同じにした方が矛盾が少なくなるしエラーも起き難いだろう。
 そうなると……融合事故が起こらんように、はやてのリンカーコアをコピーしてそいつを元に形を整えるのが一番安全性が高い。
 ついでにシグナム達ともユニゾンできるようにするなら更に調整、コアを弄る作業が入るな」
「……それ、はやてちゃんが全部やるのかしら?」
「勿論人の手を借りても大いに構わないさ。
 けどリンカーコアのコピー方法については、はやて自身が知らんとお話にならんだろ?」
「方法って……兄貴、リンカーコアのコピーなんて聞いた事ないぞ?」
「まあ俺も昔デバイスマイスターの勉強をしてた時に、ちょっと聞いた事があるだけだったんだけどな。
 ユニゾンデバイスである融合機は基本的に使用者のコアをコピーして作られてたんだと。
 で、それを思い出して、ちょっくら依頼を出してみた。その結果が……これだ」

 ワンタッチで立ち上がるウィンドウには文字の羅列。
 こいつは退院時クロノから受け取ってきた物だ。
 画面に連なる文字を見て、はやてが眉を寄せた。

「……兄ちゃん、読めへん」
「まあ今の段階なら当然だろうな。
 とりあえずシャマル、データ受け取ってくれるか?」
「はい。クラールヴィント」
≪ja≫
「ミッド語のようだな。目録か?」
「ああ。リンカーコアコピーに関係ありそうなものや、アストラル器官の調節法。
 その他必要と思われる資料を片っ端から入れてもらった」

 なお、協力ユーノ・スクライア。
 無限書庫で書物に埋もれながら、俺とクロノの依頼を受けて必死に探してくれた。
 あの本の海で一気に資料を検索していくユーノの姿は末恐ろしいものがあった。
 10冊以上の本を同時に読み解いていくのだ。
 その姿に書庫の司書達は感動していたが、同時にそれを見たリン姉の目がギラリと光った事は記憶の彼方に消し去ってしまいたい。

「んっと……いくつかベルカ語のもあんな。
 兄貴、これをはやてが全部読むのは無理なんじゃねえか?」
「もちろん手分けしてくれて構わない。
 特にベルカ語は読み解くのも大変だから、ヴィータ達が読んで内容をはやてに伝えた方が効率がいいだろうしな」
「にしても……凄い量ですね」
「まあな。ユーノがこれでもかってくらい頑張ってくれたから」
「ユーノ君が?」
「ああ、本局のデータベースから今も資料を探し続けてくれてる。
 今ある資料で足りないようならこっち、局の協力者のアドレスを渡しておくから連絡してみてくれ」
「……アラン、その協力者は大丈夫なのか?」
「ザフィーラの心配は尤もだが……問題ない。元俺の教え子だ」

 懐疑的だった皆の視線が少しだけ柔らかくなる。
 納得してくれてなによりなのだが、どこか腑に落ちないのは何故だろうか。
 特に、シャマルの呟きである、

『アラン君の教え子……なら大丈夫よね。
 彼を怒らせる事の恐ろしさを知っているはずだもの』

 と言うのは聞き流した方がいいのだろう。
 いや、寧ろここは怒るべきタイミングなのだろうか。
 迷った挙句に話を先に進めてしまう事にする。
 どうにもこの話題を掘り下げていった所で、俺だけがダメージを負うような気がしたからだ。

「実際の施術の際にはユーノにも手伝ってもらう予定だ。
 あいつのデバイスの処理能力はドラッケン並みだし、あいつ自身の知識も馬鹿みたいにある。
 施術基礎がベルカ式とは言え、ミッド式のバックアップはあった方がいいからな」
「ふえええ、ユーノ君て実は凄かったんやあ」
「はやて、お前な……ああ見えてユーノは一流の術者だぞ?
 この前の事件だってかなり活躍してたし」
「人は見かけによらんもんなんやねえ」

 いや、それは酷い言い草だって。
 つか見た目は関係ねえって。

「ま、まあそう言うわけで俺が作業している間はやてはお勉強だ。
 きついなら日程を延ばしても構わないが……」
「んー、元々本読むんは好きやし、頑張ってそれまでに覚えとくわ。
 それに、あの子も早く外に出たいやろし、私もはよ会いたいもん」
「そうか、頑張れよ。
 ……さて、今後の予定はこんな所だが何か質問はあるか?」
「兄貴の方の作業は1人で大丈夫なのか? 結構大変に見えるけど」
「大変は大変だな。けど繊細な作業になるし、人手が多ければいいってもんじゃない。
 デバイスマイスターの知識があるなら手伝ってもらう事も可能なんだが……」

 ちらりと守護騎士達を見遣ると、一斉に目を逸らされた。
 ヴォルケンリッターは戦う者だ。
 故に最初から過度な期待などしていなかったのだが、まさかここまであからさまとは。
 やれやれと溜息をつきながらはやての方を向くと、苦笑いのみが返された。

「まあ作業場所が場所だからな。お前等について来いとは言わねえさ」
「作業場所……高町家ではないのか?」
「まあ……シグナムの言う通り最初は俺の部屋でやろうと思ってたんだ。
 あの部屋には結界も敷いてあるしさ。ただ……猛反対されてなあ」
「猛反対って……誰にだよ、兄貴」
「クロノ……っと、教え子にな。『地球上で作業するなんて何を考えているんですか! 何かあったら地球ごと攻撃しないといけなくなるのはボク達なんですよ』って怒鳴られてさ……」
「確かに……アラン君のお部屋の結界は凄いけど、防衛プログラムの暴走を完全に抑え込むのは不可能だもの。
 ……とは言え面と向かってアラン君にそれだけ言える子も凄いわね」
「何かあった時に攻撃する、と言う事は先程言っていた局の協力者か……」
「つまり作業場所は局の監視下になると言う事か?」

 ザフィーラの呟きをシグナムがまとめる。
 とりあえずシャマルの言葉の後半部は聞き流す事にした。
 いったい彼女は俺の事をどんな目で見ているのだろうかと思わなくもないが、あえて聞く事などはしない。
 否、できない、か。
 これで斜め上の答えが返ってきても、想像通りの答えが返ってきても、どの道へこめそうだ。

「確かに局の監視下だよ。提供してもらったのは無人の管理世界。
 比較的地球に近い所にあるらしい。
 この世界、以前は無人じゃなかったみたいでな、ある程度の研究施設が残ってるんだと」
「いざとなればアルカンシェルで消し去れる、か……しかしよくそんな都合のいい世界があったな?」
「はは、昔の俺と同じ事言ってんぞ、シグナム。
 なんでもそう言う危険物処理用の世界ってのはいくつかあるらしいんだよ。
 俺も使わせてもらうのは初めてだけどな」

 ちなみにこの世界が使えるよう手を回したのはクロノ達じゃなかったりする。
 犯人は何を隠そうミスタグレアムだ。
 今朝方、ミスター本人から連絡を受けた時は本気でびっくりした。
 いや、クロノが何か他の方法を考えておくって言ってたからその内作業場所の連絡はくるだろうと思っていたけど。
 俺はこの件でミスターの力を借りるつもりはなかったのだが──そもそもミスターに提示した取引内容に含まれていない。元々自分の部屋でやるつもりだったし──、このくらいはさせてくれと譲らなかった彼に俺が折れた形だ。
 確かに以前クロノに指摘された事は尤もだし、そう考えるとミスターの助力はありがたい。
 それにしても、

 冷静に考えるとヴォルケンズとリインをアレから切り離したのって、かなり綱渡りだったんだよな……

 5月上旬に見たうごめく闇、アレの排除もかなり危険な行為だっただろう。
 確かに危険な事はわかっていた。
 否、わかっていたつもりだった。
 はやてから切り離した時のデータを後で参照させてもらい、血の気が引いた気分になったのを覚えている。
 アレが本格的な侵食を始めていたのなら、部屋の結界なんぞ跡形もなく消え去っていただろう。
 焼け石に水でもいい所だったに違いない。
 とは言え今回は大規模な切り離しなどの作業ではなく、細かいバグを破壊し再構築して行く作業だ。
 含まれるバグのデータ量はかなり少なくなり、前回の切り離し作業とは比較にならない。
 故に自分の部屋でも平気かと思っていたのだが、

『どうして先生はそうも楽観的なんですか?
 何かあって真っ先に被害を被るのは先生なんですよ?』

 と、クロノに諌められてしまった。
 なんとなくリン姉の、最近クロノの小言が増えて……と言う愚痴を実感してしまった俺である。

「ともあれ宿題はたっぷり残してってやる。喜べ」
「うへえ、流石の私もこの量を読むんは大変そうやね」

 口調とは裏腹に画面を見詰めるはやての表情は真剣そのものだ。
 この分なら俺がケツを叩くまでもなく、進んで術式を学んでいくに違いない。
 モニターを覗き込むはやての後ろに控える4人──3人と1匹か?──にちらり目をやると、一糸乱れぬ動きで彼女等は頷いた。

 どうやら心配いらなそうだな。

 と、言い忘れていた事を思い出し、ぽんと手を叩く。
 一転、訝しげな目を向けてくる皆に苦笑した。

「いや、こっちはお前等にゃあんま関係ねえ事なんだけどな。
 ついでにその間に嘱託魔導師認定試験を受けてこようと思って」
「……兄貴、管理局になっちまうのかよ」

 そんな嫌そうな顔で言わなくても……あとちゃんと員をつけなさい、員を。

「そう言うなって。必要な事なんだから」
「必要な事……? アラン君、民間魔導師じゃいけないのかしら」
「んー、なのはがなあ……」

 って、いきなり納得した顔になるなよ。
 お前等の中で俺ってどんな奴になってるんだ?

「フェイト、ああ、シグナム達は見た事あるだろ? あの金髪の魔導師だ」
「あの者か……将来が楽しみな戦士だったな」
「いや、そう言う観点は求めてない。
 とにかく、今はあの子、一応犯罪に加担したってことで裁判を受けててな。
 多分、一定期間の無償奉仕に落ち着くはずなんだ。
 なのはがフェイトを手伝いたいって話だったから、俺が資格取ってその傘下で手助けする形にしようかと思って」
「なるほどな。お前らしい理由だ」

 ザフィーラの呟きにヴィータは何かに気付いたように不満げな表情。

「でもよー、兄貴が資格取る必要あんのかよ?
 わざわざ資格取んなくても協力者でいいじゃんか」
「それは……ああ、これってまだ言ってなかったっけ」

 そうだよな。
 こいつを知ってなきゃ話が繋がるわけもない。

「俺、実は死んでるんだ」
「「「「「はあっ!?」」」」」
「ははっ、すげえシンクロ率。
 流石はヴォルケンリッター、長い間一緒にいたのは伊達じゃないな」

 はやても一緒だったけど。
 ザフィーラまで目を丸くしているのは珍しいと言わざるを得ない。

 いい主従だな、こいつ等。

 微笑ましい気分になりつつ、何故かふるふる震えているはやてを見遣る。
 突然、はやてがガバッと顔を上げたかと思うと、

「兄ちゃんって幽霊やったんかーーーー!!!?」
「アホーーーー!!」

 こけた。
 こけながらもはやての頭をはたいた自分を褒めてやりたい気分だ。
 守護騎士達はと言うとズコーっと一昔前のコントのようにこけていた。

 いやホント……いい主従だよ、こいつ等。

「まったく……まあ誤解を招くような言い方をした俺も悪いんだがな。
 ちゃんと足もあるし触れるだろうが」
「あ……せやね。兄ちゃんが幽霊さんやったらもう撫でてもらえんくなるし……」
「気にするのはそこなのか……」

 がっくり肩を落とすと突き刺さる鋭い視線達。
 いつの間にやらはやての側に控えている4人からだ。
 目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだと思う。
 彼女達の瞳は百の言葉を重ねるよりも雄弁に、俺へ説明を要求していた。
 溜息が一つ、零れる。
 否、わざと零した。

「こほん、そもそもの始まりは──」

 そうして俺は、この世界に来て何度目になるかわからない昔語りを始めた。




「──と言うわけだ」
「……それがどうして兄貴が管理局に入る理由になんだよ?」「なるほど、そう言う事か」

 不満を隠そうともしないヴィータと納得してくれたシグナム。
 思考の回転の速い奴と話すのは楽でいい。
 10の内3まで説明すれば大体7までは理解してくれるから。
 ヴィータも頭が悪いわけではないのだが、こちらは性格の問題だろう。
 直情型の彼女は深く考えたり詳細な説明をされるより、簡潔な結論のみを求める傾向がある。

≪少々言葉が足らないのではないですか、キング。
 今のでわかるのは極小数の人のみだと思われます≫
「……起きてたのか。
 ずっと黙ってたからてっきりスリープにでも入っているんだと思ってたぞ」
≪起きていましたよ。ですが私も偶には休みたい時があるんです≫
「………………そうか」

 ホント、なんでこいつはこんなに人間臭くなったんだろう。
 基礎プログラムに妙なものを入れた記憶はないんだが。

≪分かっていない方々の為、キングの説明に補足を加えますと≫
「へ、へえ……誰だよ、まだわかってねえのって。なあ?」

 お前だよ、ヴィータ。
 あとははやてくらいか。

≪……つまりキングは改めて足場を固める必要があるのです。
 それには一時的にでも管理局に属してしまうのが手っ取り早い≫
「嘱託とは言え局にはアランの記録が残る。“今”のアランの記録が、だな?」
「そうすれば以前いたアラン君と今のアラン君は別人として扱われる事になる。
 管理世界においてこの上ない存在証明になりますね」
≪ザフィーラさんとシャマルさんが正解です。つまりキングは……≫
「管理世界で動く気満々、と言うわけだ。まさかとは思うがまた悪巧みか?」
≪exactry!!≫
「って、シグナム、ドラッケン、俺がいつ悪巧みをした!
 人聞きの悪い言い方をやめろ」
「そない慌てんでも大丈夫やって、兄ちゃん」
「はやて……」

 気付けばはやてがすぐ傍にいて。
 何故だか酷く優しい目をしながら俺の肩を叩いた。

「兄ちゃんがいくら悪巧みをしようが、私は兄ちゃんの事大好きやから」
「アホーーーーーーーー!!!」

 誰かこの暴走一家を止めてくれ…………




 なんだか色々な事が有耶無耶になりながらも夕食までいただき──もちろん家には連絡を入れた。入れなかった時の事など考えたくもない──八神家を後にする。
 その前にシグナムを呼び出して、だが。

『なんや最近兄ちゃんとシグナムが仲ええなあ。兄ちゃんもお年頃やし、まさか……』

 などと言うはやての呟きは聞かなかった事にしたい。
 恐らく気のせいだろうし。
 断じて気のせいだ。
 大体シグナムとどうやったらそういう関係になれるのか、俺の想像力では浮かんできそうにもない。
 そんな思考を即行で破棄しながら、俺はシグナムとゆっくり夜の海鳴を歩いていた。
 俺達の間に会話らしい会話はない。
 元々シグナムはそうべらべら喋る方ではないし、俺もこの無言の空間は気に入っているのだ。
 尤も今回は俺が呼び出したのでシグナムは俺に何か話したい事があるのだと気づいているのだろう。
 それでも黙っているのは、多分俺の雰囲気を感じ取って気を遣ってくれているからではないかと思う。
 そんな心地いい空間にも、終わりは来る。
 いや、本来なら俺が終わらせなければいけなかったのだろうが。

「アラン、ここならいいだろう。私に聞きたい事とはなんだ?」

 シグナムが足を止めたのはなんの因果かなのはとフェイトが分かれたあの場所で。
 俺は失礼と知りながらも彼女に眼を合わせる事なく海を見渡せる公園の手すりに歩み寄った。
 空を仰いで、目に入る頭上には満天の星空。

「少し前からお前の様子はおかしかった。
 具体的には、そう、お前達の父と私にあの話をしてからだ」
「……」
「今日の話は……いや、お前の悩みはそれに関係ある事なのか?」
「…………ここは、温かいな」

 鋭すぎるシグナムの指摘。
 対する俺の呟きは星空に飲み込まれて。
 隣に来たシグナムの視線がいぶかしげな物に変わる。

「あ、ああ……少々蒸し暑い位だが。
 今日は雨が降っていないが、この世界では梅雨と言ったか」
「違うよ、シグナム。そう言う事じゃないんだ」

 入梅したにしては珍しく晴れ渡った今日の空。
 瞬く星々を見ながら首を振ると彼女はそれだけで俺がなんの話をしているかに気づいたようで。
 どうやって話すか、色々と考えたはずなのに言葉にならない。
 搾り出すように、俺の喉の奥から出てきたのはたったの一言だった。

「怖いんだ」
「………………そうか」

 返す彼女も一言。
 それだけの事なのに何かが繋がったような気がした。
 もしかしたら俺達は存外に相性がいいのかもしれない。
 そんな思考を余所に、俺達の間に波の音だけが響き渡る。
 不意に、彼女の気配が動いた気がして隣を見遣る。
 シグナムは俺ではなくどこか遠い所を、海と空の境界線よりも更に先を見ていた。

「今から話すのは私の独り言だが……」
「シグナム?」
「ここに来たばかりの頃、私はこの街の、主はやての温かさに触れて恐怖を覚えた」

 多分、他の守護騎士達も同じだろうと、俺の言葉に反応する事もなくシグナムは語り続ける。
 その横顔を見て気づいた。
 独り言なら俺はただ聞く事しかできない。
 これは、そう言うルールなのだと。

「私は……私達はこれまでこの手で多くの命を奪ってきた。
 例えもはや曖昧にしか覚えていないとしても、数え切れない程……多くの。
 私達の手はもはや血で汚れきってしまっている」

 違う、そう言ってやりたかった。
 だけど今の俺にシグナムの言葉を否定する事はできなくて。
 これは独り言なのだからと自らを律する。
 否、そう言い訳をした。

「私達がこんなにも幸せでいいのか。私達が……この手で主はやてに触れてもいいのか。何度も何度も葛藤した」

 そんな事微塵も知らなかった。
 俺から見た守護騎士達とはやては、本当に家族のようで。
 いつも一緒に、笑ってて。

「ヴィーたがあんな風に無邪気に笑うなど知らなかった。
 ザフィーラが散歩好きなど知らなかった。
 ……シャマルの料理があんなに酷いとは思いもよらなかった。
 知らなかった事ばかりを、この世界は教えてくれる」

 オチはシャマルなのかよ……

 思わず突っ込みそうになって、苦笑。
 意外と余裕があるな、なんて頭の片隅で考えた。

「それでも、私達の罪は許されるものではない。
 ……いや、許されてはいけないし、許されたくないのだ。他でもない、私達が」
「っ!?」
「確かにかつての主の命であり、私達に自由意志など存在しなかった。
 だが手を下したのは私達だ。それは、奪われた者達にとって変わらぬ事実であり、私達の意志の有無などそこには関係がありようもない」

 今度こそ違うと叫ぼうとして、止まる。
 シグナムが俺を真っ直ぐ見つめていたから。
 射抜かれる視線に目を逸らさず、どれ程の時間が経った事だろうか。
 唐突にふっとシグナムの目元が緩んだ。

「同じ事が、今の生活にも言える」
「え……?」
「私達の複雑怪奇な想いや罪の意識など、主はやてにはなんら関係のない事だ。
 私達があの小さな主の下での幸せを拒絶すれば、きっとあの方は悲しまれる」
「シグナム……」
「私達は百戦錬磨のヴォルケンリッターだ。
 主の為なら、主はやての為ならば全てを賭けられると思い、そして誓った」

 何を、と目線で問う書ける。
 口に出して問う事はできない。
 それがこの場でのルールだから。

「私達は主はやての幸せの為、全力で幸せになると。
 あの心優しい少女の笑顔を、護る為に」
「……強いな、お前等は」

 漏れでた感想は答えを期待したものではなかった。
 しかし彼女は僅かに微笑を浮かべ、首を横に振り、

「なに、お前には負ける」
「……俺?」
「その小さな肩に、どれだけの人の想いを背負おうとしている?
 背負う必要のない重いまで、全てその肩に乗せて……それでもお前は前を見ようと足掻く」
「俺は……足掻けていると思うか?」

 どんな返答を求めていたのかは、自分でもわからない。
 それでも、その疑問を俺は自分の内に留めておく事ができなかった。
 だって俺はこんなにも弱いから。
 季節はずれの空っ風が俺とシグナムの間をさらう。
 それを契機にして、彼女は踵を返した。

「見失うなよ、アラン。私達は……主はやても、なのはも、お前の家族達も、誰もお前の不幸など願っていない。
 私達が知るアラン・F・高町は、目の前にいるお前が全てだ。過去など知らんし関係がない」

 参ったな……たったあれだけのやりとりで、そこまでわかっちまうのかよ。

 颯爽と去ろうとするシグナムが俺を見ずに右手を挙げ、振った。
 それは俺から見ても格好いいと思えるような仕草で。

「いまだ夜の風は存外に冷える。早く戻れ」
「シグナム!」

 去る背中を呼び止める。
 彼女は立ち止まると、顔だけで振り返って見せた。

「…………ありがとう、な」
「さて、なんの事だかわからんな。私はただ独り言を言っただけだ」
「なら、俺のも独り言だ。気にするな」
「ふ、そうか。それではな。良い夢を……戦友」

 言って、今度こそシグナムは去っていった。
 大きく息をつき、手すりに寄りかかる。
 仰ぎもしないのに空が見えて、綺麗だなと純粋に感想を漏らした。
 そうだ、この世界は美しい。
 どんなに、汚れて見えても。
 それはあいつが残してくれた言葉ではなかったか。

「……ドラッケン、聞こえてるか?」
≪なんでしょう、キング。私は何も聞いておりませんが≫
「いや、いい。お前は覚えておいてくれ。ずっと傍にいたお前だからこそ、覚えていて欲しい」

 深く、呼吸する。
 じめっと湿気をまとった空気のはずなのに、酷く美味しく感じた。

 誓いを。
 たった数個の言葉に、俺の想いを篭めよう。

「忘れず、抱えて、そのまま前へ。ドラッケン、俺達は幸せになるぞ」
≪キング、達……ですか?≫
「ああ。前にも言ったろ? 俺は物語りはハッピーエンドが好きなんだって。
 俺とお前と俺の周りにいる奴等、全員で幸せになってやる」
≪本当に、欲張りですね、キングは≫
「その位ずっと前から知ってただろ。それで……返答は?」
≪...yes, my master≫




 長い間俺の傍に居続けた相棒は、機械音だというのに妙に温かみのある声で、俺の誓いを受領した。
 

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