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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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────────interlude

 海鳴に出動してからもう30分近くが経っている。
 その間、ボクはすでに5つの結界を消し去っていた。


 ペースが速いと思う事なかれ。
 今までアースラに集まっていた情報から考えるに、ボクの前に現れる闇の欠片、生み出された結界の核である影は、恐らく先生達の前に現れたそれとは少々毛色が異なっていたのだから。

「一々一々なんで僕にばっかり地味な仕事を振るんだっ!?
 君のせいでもう3徹目なんだぞっ!!」
「情報の収集は必要不可欠な事だっ。
 そして……ボクでない“ボク”の事でボクに当たるなっ!!」
≪stinger snipe≫

 しなる青い閃光が淡い金髪をなびかせる少年の額を撃ち抜く。
 ユーノによく似た影は、散々ボクに対して悪態をつきながら消えていった。

 なんでボクにばっかりはボクの台詞だ!

 ボクが倒してきたのはヴォルケンリッターから、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの4名。
 色々と心中は複雑だったが問題はそこではない。
 どいつもこいつもボクを見るなり血走った目で不満をぶつけてくるのだ。

『ニート侍と言うなっ! ただ今は……働き口がないだけだっ!!』
『あたしは子供じゃねー。
 畜生、てめーボコるっ。ボコってアイゼンの落ちねえシミにしてやるっ!!』
『私だって、私だってお料理できるんです!』
『我は犬ではなく狼だっ! そして影が薄くなどないっ!!!』

 以上が彼等の主張を抜粋したもの。
 なお、誰が何を言っていたかは察してもらえると思う。
 更には先程のユーノだ。
 もしかすると無限書庫の探索を頼んだのがストレスになっていたのかもしれない。
 正直、つい先日グレアム提督から受け取った新しいデバイスの能力もあり、1人1人の強さはそこまででもない。
 スナイプを1発、急所に撃ち込めばあっさりと消えるレベルだ。
 だけど何より精神に来る。
 わからないと言う奴は毎度毎度恨み節をぶつけられる、と言うより垂れ流されるボクの気持ちになってみてほしい。

「……これはもう運が悪いとかそう言うレベルじゃないだろう。
 くそっ、呪われてるのか、ボクは? くじ運はそう悪くないんだけどな……」
『愚痴らない愚痴らない。
 そのおかげもあっていいペースで結界を破壊できてるんだから』
「……ならボクの立場になってみるか、エイミィ?」
『あははー、それは遠慮したいかにゃー。
 ほらクロノ君、次の結界はすぐそこだよ』

 お気楽なエイミィの台詞に溜息を落としながら、新しい結界の中に入る。
 結界内にいるはずの核を探して、

 ……いない?
 いや、そんな筈はない──っ!?

 背筋に奔った悪寒。
 考えるより先にボクは前方へ身を投げ出す。
 さっきまでボクがいた所を突き抜けるのは赤い奔流。
 振り返ったボクは、今までで最も長く深い溜息を吐き出した。

「ああ、本当に…………ボクは呪われてるのか?」
「今度はお前か、クロ坊。
 ……まあ、いい。影は全て叩き伏せる。1st dance start」

 そこにいたのは黒髪に赤眼の少年。
 だらりと下げた両腕には、赤黒いコアを持つくすんだ黒銀のガントレッド。
 だけどそんな特徴を見るまでもなく、ボクには彼が誰の影だかわかってしまった。
 ボクをあんな風に呼ぶのは、呼んでいたのは世界にたった1人しかいない。

「くっ!?」

 ついでに言ってしまえば、ボクが飛び込んだのは彼の罠の中だったらしい。
 こんな微妙な計算高さばっかり似ていなくてもいいのに、そう内心で愚痴る。
 襲い来る赤いバインドを避けながら、S2Uよりも少し持ち手が太くなっているデバイス、デュランダルを構えて、

≪icecle canon≫
「ファイアっ!!」

 貫く氷結属性の砲撃を軽々と彼は避ける。
 どうやら、今までの影とは一味違うようだ。
 軽く距離を取りながら、再度嘆息。

「やっぱり……呪われてるな」
「何をごちゃごちゃと……ドラッケンッ!」
≪flash move≫

 突如眼前に現れた彼の右拳を、デュランダルで受け止める。
 次いで飛んできた左脚を右足を上げる事でガード。
 崩れた体勢、だけどデュランダルは自由になった。
 すぐに前方へ向けて、狙いもつけずに射撃。
 先生の影はそれを右手のガントレッドで防いで、

 ────え?

 魔弾に弾かれた勢いを殺さず、肩を支点にして打ち出してくる。
 その手に宿るのは暗めの赤い光。
 体術でかわすのは限界。
 そう判断して移動魔法で身体を右方へずらす。
 明後日の方向に放たれていく光を尻目に、ボクは再び射撃。
 これもやはり、ガントレッドで防がれた。
 ボクはそのまま大きく後退して、今しがた浮かんだ違和感をマルチタスクをフル利用してまとめ始める。
 少しだけ開いたボク達の距離に、彼は僅かに首を傾げて。

「どうした、クロ坊? 影とは言え最後に会った時から進歩してないじゃないか……ああ、俺の記憶が元になっているんだから仕方ないのか」

 どうやらあちらはボクを闇の残滓が生み出した影だと思い込んでいるらしい。
 それは兎も角として、ボクは違和感の正体を確かめる為、もう1度彼の間合いに踏み込んだ。
 先生と対峙するのであれば、絶対的に不利な領域へ。
 当然のように襲い来る拳。
 ボクは左へ紙一重で避けて、

≪break impulse≫

 驚く程あっさりと踏み込めたインレンジ。
 僅かな動揺と共に魔法を発動させる。
 彼は咄嗟にプロテクションを展開し、それを置き去りにして離脱。
 ここに来て違和感から立てられた仮説が確信に変わる。

「……そう言う事か」

 1つ、先生は避けられる攻撃は可能な限り避ける。
 先生の魔力量はボクよりもずっと多いけど、無限ではないからだ。
 任務や探索等、戦闘が強いられた時、この場での諍いが全てとは限らない。
 故に先生は余程の事がなければ連闘になっても問題ないように、必要外の魔力を使うのを嫌う。
 魔力配分に関しては初期の頃から耳にたこができるほど聞かされて来たから間違いない。

「行くよ、デュランダル。アレが先生の影と言うなら……負ける気がしなくなった」
「ハッ、あのチビクロがよく吼えたっ!」

 踏み込む。
 用意すべき魔法は3つ、余計な魔力は使わない。
 術式をデュランダルに通しながらボクは宙を駆け抜ける。

 2つ、アレが本物の先生と同等ならば、先程近距離で戦った時にボクは戦闘不能に陥っていてもおかしくない。
 否、陥っていた筈だ。
 理由がないのに墜とせるチャンスをむざむざ逃すような甘い人ではない。
 何しろボクの格闘能力も危機察知能力も、先生とは大きな開きがある。
 それは再開してからの日々で嫌と言う程理解した。
 だからこそボクは、こんな一見無謀な賭けに出れる。

≪knuckle buster≫
≪stinger snipe≫

 飛んでくる赤い砲撃をかわしながら、前へ。
 ボクのスナイプはあっさりと避けられる。
 これは予想の範囲内。
 常の先生では出せないだろう、見た目以上に魔力の篭められた砲撃は確かに恐ろしい。
 ボクが喰らったら1発で墜ちてしまうレベルだ。
 だけど、怖くはない。
 何故なら、

「3つ、判断速度が先生よりもずっと遅いっ!
 ボクがどれだけあの人の背中を追い続けてると思ってるんだっ!!」
「戯言をっ!」

 彼はボクが砲撃を避けるのを確認してから右拳を突き出してくる。
 だけどさっきも言ったけど遅すぎる。
 これが本来のあの人なら、避けられた時の為に2,3個罠を用意している。
 あの人を追いかけて、あの時よりずっとボクは強くなったと思っていた。
 だけど先生は更に強くなっていて、負けた悔しさとそれを上回る誇らしさがボクにはあった。

「何よりっ、先生の姿で出てきたお前にボクは負けるわけにはいかないんだよっ!!」

 デュランダルを手の中でくるりと回す。
 つい最近相棒になったばかりのデバイスは、意図を汲んでボクの手に馴染むように納まる。
 流石に先生の影と言うべきか、ボクにはどこに攻撃が仕掛けられるのか見切る事ができない。
 打ち込む速度は先生より多分遅いけど、ボクにとっては速すぎるから。
 だけどその代わり、ボクにはあの人がくれた戦闘経験がある。
 あの濃すぎる2年間は決して無駄じゃなかった。
 ボクは、先生が本気で人を墜とそうとした時にどこを狙ってくるのかを誰よりも知っている。

「っ!?」
「ブレイク──」
≪──impulse≫

 だから防げる。
 ボクの左脇腹を狙って突き出された拳を、デュランダルのその突先で。
 瞬時に展開された魔法の振動は、確かに彼の手を痺れさせ、右手のドラッケンもどきを破壊とまでは行かないが故障させた。
 右手が空く。
 ボクはそのまま、空になった手を前へ伸ばして、

「捕まえ……たぁっ!!」
「くっ、だがこの距離なら──」
「デュランダルッ!」
≪struggle bind≫

 それでも抵抗を続けようとした彼を、青い縄が縛る。
 当然その程度の事で彼が止まる筈もなく、繰り出されるのは魔力の篭っていない蹴り。
 身体強化も何もない蹴りをデュランダルで防ぐと、ボクは衝撃を殺す為後退する。
 対する彼は飛行魔法を展開できずに落下し始めていた。

 ストラグルバインド。
 その効果は縛られた対象のあらゆる魔法効果を打ち消す事。
 身体強化や、飛行魔法までも。
 これだけ聞くと至極便利な魔法に聞こえるが、現実派そんなに甘くない。
 言い方はおかしいが、それを補って余りある程のデメリットが存在する。
 1つは効果範囲。
 発動させるにはかなり対象に近い位置に行く必要がある。
 もう1つは詠唱の長さ。
 ボクが間合いに踏み込む前から詠唱を始めていたのはこの為だ。
 そしてもう1つが、

「これで勝ったつもりか、クロ坊っ!!」

 青い縄を、先生の影が無理やりに引きちぎる。
 赤い魔力を、全身から噴出させながら。

 もちろん、これで終わってくれるのであれば申し分なかった。
 だけどきっと無理だろうとも思っていた。
 何故ならこれこそがストラグルバインドの最大の欠点。
 このバインドは、拘束力が弱すぎる。
 だからボクは、右手で軽く指を鳴らす。

「まさか……先生に鍛えられたボクがこの程度で終わる筈がないでしょう?
 …………スナイプショット」

 瞬間、こちらにターンしてきていた青い魔法が加速した。
 そう、これが最初から敷いていた布石、スティンガースナイプ。
 誘導式の魔弾が影に迫る。
 驚いた表情の彼は、力ずくでバインドを破った代償か動くことも叶わず背中から撃ち抜かれた。
 なんだか複雑な気分だ。
 影とは言え先生の姿をした人を、この魔法で撃ち抜く事になるなんて。
 しばし撃ち抜かれた衝撃で固まっていた彼は変わりゆくそれに気付くと、参ったな、と呟いた。

「…………ふう。クロ坊にやられるなんて、俺も焼きが回ったもんだ」
「先生っ」

 そう言って苦笑する彼が、初めて最近の先生と重なった。
 先生の影は声を上げたボクを驚いたように見て、仕方ないなあと言いたげに眉を落とし、やっぱり、笑った。
 消え始めた自分の身体の事なんて、全く感知していないかのように。

「あー……こりゃあアレか。実は俺の方が闇の残滓だったってオチか。
 まったく……相変わらずこの世界はクソッタレだよなあ」
「先生……」
「そんな顔するなよ、クロ坊。お前は偽者とは言え、俺に勝ったんだぞ?」
「でも……」

 消え逝く姿が最近の先生とダブる。
 先生は最近、どこか変だ。
 いつも通り力強いはずのその姿が、時々消え入りそうな程儚く見える。
 ボクの表情を見て、彼は気まずげにぽりぽり頬をかくと、にやりと口元をゆがめた。
 いつもの、先生の表情だった。
 その姿に乗せられる色は全く違うのに、ボクが憧れた魔法使いそのものの笑顔だった。

「1つだけ、アドバイスをやるよ、“クロノ”」
「え……?」
「お前の近くにいる“俺”がどんな“俺”なのかは知らねえけど……引きずられるなよ?」
「それは……どう言う……」

 もう殆ど彼の姿は残っていない。
 キラキラと輝く粒子は胸の近くまで来ていて。
 彼はそのまま右手を額の近くまで挙げて、

「お前は…………“俺”にはなるな」
「先生っ!」
「じゃあな……元気でやれよ」

 最後に、人差し指と中指を立てたまま右手を1度だけ振って、彼の姿は完全に掻き消えた。
 後に残るのは太陽を呑み込んだ海と輝き始めた星、そして消えかけの結界。

「……引きずられるなってどう言う事ですか、先生」

 風が吹く。
 荒々しくも、穏やかでもない冷たい潮風が。
 ボクはそのまま、エイミィの通信が入るまでの時間ずっと動けずに、黙って空中に立ち尽くしていた。

────────interlude out

 おかしい。

 胸の内にくすぶる疑問。
 シャマルを倒した後、次の結界に移動していた俺は違和感を覚えてその場に留まっていた。
 もうこの場で状況が推移していくのを観察し始めてから結構な時間が経っている。
 留まった直後、エイミィに頼んで逐一現況をドラッケンに送ってもらっているのだが、違和感は益々強くなるばかりだった。

「おかしいよな、これ?」
≪残念ながら私もキングと同意見です。
 ……貴方、また妙なカードを引いたんじゃないでしょうね?≫
「なんでもかんでも俺のせいにするのはやめろ」
≪…………………………ふう≫
「……何か文句があるなら聞くぞ?」
≪いえいえ、なんでもありませんよ、トラブルマスター≫
「ああ、そうかよ」

 ドラッケンと口げんかをしている場合ではない、と俺は再び思索に耽る。
 海鳴近海上空で活動している魔導師は俺を含めて5名。
 俺、なのは、ユーノ、そして後から来たクロノとフェイト、ついでにアルフ。
 ちなみにアルフは使い魔だから魔導師には数えない。
 それはとりあえず置いておいて、なのはは左肩の治療の為に一旦アースラへ戻ったらしい。
 治療ってあいつ何をやったと思わなくもないが、今は関係ないので省く。
 現在フェイト、アルフ組はユーノに合流すべく動き始めた様子。
 単独で動いているのは俺とクロノなので、全部で3組に分かれている事になる。
 しかしそれにしては、

「結界が消えるペースが早すぎる。いや、悪い事じゃないんだが……」

 明らかに俺達関係者のいない所でも結界が消えていっているのはどう言う事なのだろうか。
 第三者の介入、と考えてから首を振る。
 先程リン姉から上層部の頭の固さについて愚痴られたばかりだ。
 八神家の方も忠告通り誰も動いていない様子だし、未確認の魔導師がこの街に潜んでいない限り他方からの介入は考えにくい。

 気にしてる場合じゃないってのはわかるんだが……

 それでも、不確定要素ではないのかと気にかかってしまう。
 どうしたものかと悩んでいると手の甲の相棒が明滅した。

≪もしかしたら、ではありますが……≫
「どうした、ドラッケン?」
≪私達が対峙してきた皆さんは、別の記憶に基づいて形作られた人も存在しました。
 そして、少なくともシグナムさんやザフィーラさんは自分達が闇の欠片によって生み出された影である自覚を持っていませんでしたね≫
「…………続けろ」

 一応促したがドラッケンの話す仮説の結論は、救いのないものなのだと俺はすでに気付いていた。
 嗚呼、だとすると、なんて悪趣味な仕掛けなのだろう、これは。

≪例えばキング、例えばなのはさん。
 今の貴方達が自覚なく闇の欠片の核となったのであれば、あるいは──≫
「……俺達は、原因を突き止めようと動き出す、か?」
≪はい。そしてこの現象を止めようと、戦うでしょう≫
「………………ありえない話じゃないな」

 また1つ、結界が消える。
 また1つ、結界が生まれる。
 いたちごっこの様に繰り返される結界の生死が、とても馬鹿げた、とても救われない、そして終わらない輪舞曲に見えた。

「核の中心を潰さないと今夜のダンスは終わらない、か……本気で悪趣味だな」
≪同感です≫
「さてどうしたもんか……このまま無駄に消耗し続けるわけにもいかんし」
≪キングの場合、何も考えずに動いた方がいいかと。
 トラブルの中心はおのずと向こうからやってきますから≫
「またそれか、お前は……」

 呆れ混じりに苦笑。
 ありえないと気って捨てられない辺り、どうにも俺はこいつに毒されてきたのかもしれない。
 だがある意味で、ドラッケンの言う事は正しい。
 そして俺は、この体質に感謝してさえいる。
 確かに周囲を巻き込んでしまう可能性を秘めたこの体質は、俺にとって忌むべきものだ。
 だけど同時に、なんらかの事件に巻き込まれた大切な人達を見過ごさずに済むと言う側面も持つ。

≪行きましょう、トラブルマスター。今はそれが最善の行動です≫
「ああ……行こう」

 俺の元にトラブルと言う名の幸運が舞い込んで来る事を願って。
 俺は次の結界を目指し動き始めた。

────────interlude

 僕は、いや正確には僕とフェイトとアルフは唖然としたまま状況の推移を見詰めていた。
 ちなみに僕達が合流したのは今しがた僕が入っていた結界の中での事だ。
 その中で対峙したのは、多分、リインフォース。
 とは言っても僕がよく知る今のリインフォースではない。
 かつて、ほんの僅かな時間だけ僕達の側に存在した、大きいままのリインフォースだ。
 彼女にはまだ名前がないらしく、僕が名前を呼んでも無反応だったけど。
 なんとなくだけど、わかってきていた。
 そもそも僕に与えられた情報は少ない。
 海鳴市近海上空で大量の結界群が突然現れた事。
 結界の術式がミッドチルダ式ではなくベルカ式、それも古代ベルカのものである事。
 そしてこの現象になんらかのロストロギアが絡んでいる事。
 この3点のみだ。

 それでも……ああ、それでも、だ。
 すぐ横を飛行しているフェイト達より僕には手持ちの情報が多い。
 故に仮説は立てられてしまう。
 そのせいで攻撃の手が思わず緩んで、危ない所を彼女達に助けられてしまったのだけれども。

「ユーノ? あの……行かないの?」
「ううん、行こう」

 ゆっくりと移動を開始しながら僕は考える。
 目指すべき場所は、もう1つしかない。
 と言うのも、もはや星が瞬いている空には、1つしか結界が残っていないから。
 僕達がその他全てを消したとか、そう言う話ではない。
 ただ1つ残った今も存在感を主張する結界、あの結界が他の結界を喰らったのだ。
 僕が対峙したのはヴィータ、なのは、リインフォースの影、その3人のみ。
 だけど他の所ではクロノとアランさんが、僕やヴォルケンリッターの皆、そしてはやてと戦い勝利している。
 中にはアランさんの影もいたらしいけど。
 これだけなら僕達に近しい人が犯人、そう思えなくもない。
 だけどそれは半分正しく、半分間違っている、と僕は思う。
 それだとクロノやフェイト達が核として現れない理由がつかないからだ。
 そして何より僕は、この事件に絡んでいるロストロギア、その名称を知っている。

「闇の書の…………闇」
「? 何か言ったかい、ユーノ?」
「なんでもないよ、アルフ」

 だからこそ、僕は戸惑っていた。
 眼前には今までと比べ物にならない程の大きな結界。
 その色は──嗚呼、どうして気付けなかったんだろうか。
 この結界は最初からずっと、闇色をしていたのに。
 思ってしまった。
 最後の結界、これはもしかしたらパンドラの箱なんじゃないかって。
 その考えが浮かんだせいで、僕は結界を前にして入る事とに対し二の足を踏んでしまっていた。

「ユーノ! フェイト! アルフ!」
「クロノ!?」
「あ……」
「無事だな! 先生は!?」

 僕の内心にフェイト達が気付くより先、後方からクロノが飛んでくる。
 クロノにしては珍しい焦燥とした表情。
 それはこの場にはいない人物を心配するもので。
 僕とフェイトは1度だけ顔を見合わせ、首を振る。
 少なくともここに来るまでの間にアランさんの姿は見ていない。
 見通しのよくなった空にも、然り。
 つまり彼は、1歩先にこの結界へ入っていった事になる。

「先生が心配だ……行こう!!」
「あ……クロノ」
「なんだ、ユーノ? 何か気になる事があるなら手短になっ」

 一瞬だけ右手を伸ばした僕は、結局掴む先の物を見つけられずに手を下げた。

 今、僕は何を……

 ほんの少しだけ、なのはがこの場にいなくてよかったと思った。
 だって、嫌な予感がするんだ。
 それでも、僕達には結界に入らないと言う選択肢が与えられていない。
 故に、僕は首を横に振った。
 今の考えを否定するように、僕の迷いを振り切るように。
 思わず握り締めてしまった拳。
 手の平に爪が食い込んで、痛い。
 その痛みに迷いを解かしたかのように、僕は前を向いた。

「行こう…………多分、これが最後だ」
「「ああ!」」「うん!」

 そうして僕達は、最後の1歩を空に刻んだ。




 風が────風が吹いていた。
 別に今に限った事ではない。
 今日はいつも穏やかな海鳴にしては珍しく、よく風が吹く日だった。
 だけどその風は今までに増して冷たくて、そしてどこか悲しくて。
 広々とした結界の中心、その空中に、2人の男性が立っていた。

 1人は僕達のよく知る人。
 銀色の短い髪を風になびかせ、それでも不動で立っているアランさん。
 その姿はどこか近寄りがたく、普段の飄々とした雰囲気を感じ取る事はできない。

 もう1人は僕の知らない人。
 クロノやフェイト、アルフを見ても戸惑った表情で、多分皆も知らない人。
 黒髪黒眼のその人は、恐らく恭也さんよりも年上だと思う。
 濃い色のジーンズに黒シャツ、更にその上には黒いコート。
 所々燐光が溢れているこの夜空に溶け込んでしまいそうな、そのなんの変哲もない姿は、街中にいても気にかけられない程普通の格好で。




────だからこそ、この結界内では異様だった。




「…………世界は、いつだって……こんな筈じゃなかった事ばっかりだ」

 一瞬、声を発したのが誰なのか、僕にはわからなかった。
 ただ、黒髪の男性の肩がびくりと揺れた事で、発生源がアランさんだと知る。
 それ程までに、今の彼の声は異質だった。

「それをよく、知ってるよな? ……俺も、お前も」
「……んなんだよ、お前……なんなんだよ、お前ッ!!」

 黒髪の彼が激昂する。
 違う、彼は泣いていた。
 ただの一般人のようで、しかしてそれとは一線を画してしまった彼は、その左目からのみ涙を流して。

「ユーノ、クロノ……それとフェイトとアルフだな?」
「あ、はい……先生」
「悪い。ここまで足を運ばせてなんだが……あいつだけは俺に任せてくれ」
「しかし──」
「クロノ」
「…………………………わかりました」

 振り向きもせずに発された言葉には、有無を言わせない何かが篭められていた。
 不承不承頷いたクロノが、手に構えていた見覚えのないデバイスを下げる。
 本来ならクロノがアランさんの言葉を聞く必要なんてない。
 これは管理局の作戦で、クロノは現場指揮官。
 アランさんは一介の嘱託魔導師にすぎないから。
 それでも、2人の世界に立ち入る事を躊躇させる何かが、アランさんの言葉にはあった。
 更に言えば、何故かこの結界に入った時から極端に飛行魔法が行使しにくくなっている。
 なんの影響もなく立っているように見えるアランさん程に、僕達が戦えるとは考えにくかった。
 涙混じりに睨み付けてくる男性を前に、アランさんは何故か空中で歩くようにして距離を詰める。
 間隔10m、そこで銀色の魔導師は立ち止まった。

「これは泡飛沫の夢だ」
「え……?」
「クソッタレな現実が跋扈するこの世界で、あの2人は“俺”に何を伝えようとしていたのか……きっと本来なら知る必要があった。
 それは俺にとってもお前にとっても超えなければならない壁なんだろうよ」
「何が……言いたい?」
「いや、少し違うか……俺は立ち止まる事なく最期まで進んでしまったから。
 もしかしたら俺は……まだ間に合うだろうお前が少し羨ましいのかもしれない」

 独白は続く。
 戸惑う男性を気にする様子もなく、銀色のあの人は背中でしか僕達に語らない。

「今いる場所の事は忘れろ。考えても今のお前では理解が及ばない筈だからな。
 構えろ■■■■■────大馬鹿野郎からお前に送る、最初で最後の贈り物だ」

 風が、うるさい。
 そのせいでアランさんが彼をなんと呼んだのかが聞こえなかった。
 確かな事は、アランさんが彼を知っていると言う事のみ。
 両手を合わせて、礼。
 突然そんな行動を取ったアランさんに、何故か彼も慌てて同じ動作をして、

「え……?」

 それは果たして誰が発した疑問だったのか。
 構えたアランさんと男性の姿は、鏡写しのように瓜2つだった。

「我流格闘術アラン・F・高町────否、■■■■■、参る」
「なっ!? お前まさか──」




 聞き取れない名乗りと共に、銀が、踏み込んだ。

────────interlude out

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無題
ちょっ!
なんの武器を使うんですか彼は!?

そしてなのはさんが終わった後に登場するに期待(ぇ
GIN 2011/03/07(Mon)17:49:45 編集
>GINさん
ここまで読んでくださっている方にはバレバレなラスボス登場。
恐らくリリなの史上最弱のラスボスなんではないかと思います。
彼がどうやって戦うかと言いますと……まあ、その辺りが次話で出てくるわけですが。

最後になのはさん……登場するのかなあ?
現在大幅修正中なので今のところ作者にもわかりません(マテ
とりあえず一つ言える事は、この話リリなのPSPなのになのはさんの影が妙に薄いよねって事ですか。
リリなのオリ主モノって基本オリ主に焦点が当てられるからなのはさんの影薄い物多いですよね。
内海トーヤ 2011/03/20(Sun)20:14:42 編集
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プロフィール
HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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