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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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「だああああああああああああああああああああああっ」

 アラン・ファルコナー、12歳。ただ今高度2000mから絶賛落下中です。






 


 始まりは1本の依頼だった。


 まずは簡単にその依頼を受けるまでの経緯を説明しようか。


 3年前、時空管理局という所謂警察的組織に勤めていた親父が、とある事件によって殉職した。
 お袋はとっくのとうにいない。
 俺が生まれて半年も経たないうちに病に倒れたと聞いている。
 親戚も特にいないため、俺は強制的に自立の道を歩まされたのだ。

 ちょうどその頃飛び級に飛び級を重ねて9歳で卒業した俺は、在学中に培った技術を以てA級デバイスマイスターの資格を取った。
 デバイスマイスターについてはそのうち説明するが、まあつまりデバイスを作っていいですよって言う許可証みたいなもんだ。
 本来ならすぐさま職に就かなければいけないところなのだが、両親が残した遺産や管理局から支払われた金は莫大で、俺はその金を使いながら1年間自分の工房に引きこもった。
 在学中に構想を練っていた俺の相棒を作成するためである。

 完成した相棒を持って俺はいろんな依頼を受けるようになった。
 遺跡発掘専門の一族に雇われて護衛したり、管理局からの依頼を受けて高度な魔法技術の遺産であるロストロギアを回収したりしながら、フリーの魔導師として生活する道を選んだのだ。

 ロストロギア──言うなれば高度に発達しすぎたせいで滅んだ世界の落し子だ。
 世界というのはいくつも時空を超えて存在している。
 その中には、発展が行き着いたせいで滅んで行く世界も多々存在していた。
 そうした世界で作られたこれらは、大抵は非常に便利な代物だ。
 だけど、当然の事ながら中には危険物が存在する。
 文明が発達するという事は、軍事もまた発達しているという事であり、こうした危険物であるロストロギアを回収する役目を管理局が負っている、らしい。

 まあ、俺は管理局至上主義というわけじゃない。
 実際、強引にロストロギアを回収しようとしてその世界との関係が悪化したり、世界そのものが崩壊に向かったりする事もあると聞くので、管理局が必ずしも正しいとはいえないわけだし。
 正直管理局で最後まで命を張った親父には悪いが、管理局がどうなろうが知ったこっちゃない。

 あ、金づるがなくなるのは困るか。




 閑話休題




 今回、管理局から俺に来た依頼は「休止中のロストロギアの回収」だった。
 依頼を受けたのは、よく世話になっている遺跡発掘民族スクライアの集落が近場にあり、久々に顔を出せるというのと、休止中のロストロギアならそこまで危険度は高くないと判断したからだ。




 後に俺はそれが大きな間違いだったと知る事になる。




 スクライアの集落によってから遺跡に向かった俺は、遺跡内で目標のロストロギアを発見した。
 そう、なぜか暴走気味に稼動しているロストロギア“刻の砂時計”を。

 ロストロギア“刻の砂時計”──起動に莫大な魔力を必要とするが、術者の肉体年齢を全盛期まで巻き戻してくれるという優れものアイテム。
 欠点は許容量以上の魔力を注ぎ込むとすぐに暴走する事と、発動すると周囲にある魔力を際限なく吸収して行く事。
 つまり起動すれば確実に暴走する迷惑な代物。

 なんでこんなにたった一つのロストロギアについて詳しいかというと、このロストロギア、俺が初仕事で管理局の依頼を受けて回収したものだからだ。
 なんでこんなところにこれが存在するのかなあ、なんて遠い目をしながら現実逃避したくなったのは、しょうがない事だと思う。

 まあそんな事しても目の前の状況がよくなるはずもなく。
 徐々に激しくなる暴走の魔力は、俺の体にも纏わりつき影響を与え始め、

────ピキリ

 と、ヒビの入る音を確かに聞いた。

「なあ、ドラッケン」

 首から掛けたクロスに話しかける。

≪ヒビが……入りましたね≫

 クロスが渋い声で答える。

 あ、こいつが1年間俺が引き篭って作り上げた俺の相棒、ドラッケン。
 まあちょいと色々手を加えて1から作り上げたせいで、他のデバイス──魔法の杖のようなものと思っておけばいい──とは毛色が違うんだが、今はそれ所ではないので割愛。

「だよなあ。今こいつが内包してる魔力量で壊れたら…………どうなる?」
≪最低でも小規模次元震、下手すると次元断層が発生するかと≫

 わあお、最低でもそれですか。
 思わず口笛吹いちゃったよ、ちくしょう。

 次元断層ってのは、次元空間にヒビが入って穴が開く現象だ。
 その中は虚数空間。
 中で魔力を用いる事はできないので、当然魔法も使用できない。
 とりあえず理解すべきは、帰ってこれる保障はゼロって事だな。
 今まで虚数空間に落ちて帰ってきたなんて例聞いた事ないし。

「どうにか」
≪なりません≫
「だよなあ」

 人間、諦めが肝心ですか。
 溜息をついて、周りを見渡す。
 と、目に付いたものを拾う。

「これは……」
≪キング?≫

 口を開こうとした瞬間に真横から衝撃が走り、俺はあっけなく意識を手放した。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 で、気がついたらいきなり落ちてるわけですよ、これがっ。
 って、地面とキスしてたまるかぁっ!

「ドラッケン、セットアップ!」
≪error...please input the start key≫

 って、なんでこんなときにっ!? ちくしょうっ

「我、大いなる意志を受け継ぎし者也
 契約によりて、汝の力借り受けん」

 早口でキーを紡ぐ。
 いくら言霊が大事だからって長ったらしいキーにした自分を本気で殴りたくなった。

「誓いを胸に
 手にするは龍の牙
 我が意に応え
 顕現せよ!」

 やばいやばいやばい、高度…………足りるか?

「ドラッケン、セットアップ!!」
≪stand by ready, set up≫

 起動成功。
 すぐさまバリアジャケットが展開され風圧から体を守る。

 黒のタンクトップに白いズボン、赤い腰布を纏い、金属の鉢がねが装備される。
 腕には燻し銀のごついガントレッド、両の肩付近にはシンプルなビットが浮かぶ。

「ウェンテ!!」
≪boost flier≫

 瞬間、蒼い風が落下速度を緩和する。
 それからすぐに蒼い魔力が足元に集い、落下が止まった。
 あと20mも落ちれば森に激突するところだった。

 やれやれ、大分ギリギリだったな。って

「痛えええええええええっ」

 半端なく体が痛い。
 そりゃもう、ものすごく酷い筋肉痛の上に両手足がバキボキ折れてるかと錯覚する位に痛い。
 それでもなんとか慎重に、素早く地面に降り立つと、ドラッケンが勝手に全ての魔法を解除した。

 特に痛いのは…………胸の辺りだから、リンカーコア周り?

「ドラッケン、今の状況は?」

 力が抜けて座り込みながら相棒に尋ねる。
 暫く黙ったままだったが、どうやら体のスキャンをしてくれているらしい。

≪どうやら我々は運良く虚数空間から放り出されこの世界に辿り着いたようです。
 先程から全身、特にリンカーコアが痛んでいるのは、ロストロギアの暴走した魔力を一身に受け、体内でその魔力が暴れまわっている影響でしょう。
 おそらく落ち着くまで約1日はかかるかと≫
「そうか。とりあえず暗くなる前にこの森を抜ける必要がありそうだな。
 落ちてくる時に街が見えたし、まあなんとかなるか」

 鬱蒼と生い茂る木々を見上げてちょっと憂鬱になった。
 が、こうしていてもしょうがないので痛む体に鞭打って立ち上がる。

 ん? 何か違和感があるような…………気のせい、気のせいだよなあ?

≪現実を見つめましょうキング。真実、現在の肉体年齢は3歳前後かと思われます≫
「なんじゃそりゃあああああああああああああああっ!!」

 ああもう、今日は叫んでばっかりだ。




≪キング≫
「あ?」

 一通り発散し終わったのを見計らってドラッケンが俺を現実に引き戻す。

 ほんと、いい相棒だ、こいつは。

≪とりあえず移動しましょう。
 現在のキングの体調では魔力使用は控えた方がよろしいかと。
 この森で夜を越えるのはあまりお勧めできません≫
「む、確かに。とりあえずあっちの方に街が見えたから向かってみるか」

 ギシギシと言う事を聞かない体を無理矢理動かしながら歩き始める。

 しっかし、3歳児の体って動かし辛いなあ。
 この体験も2度目だから大分なれたっちゃあなれたが。

 ただ歩き続けるのも暇なので、ついでに情報をまとめておこう。

「まあ、かなり魔力素も薄めだし、基本的に魔導師はいないだろ。
 恐らくどこかの管理外世界か」
≪そうですね≫
「そういや、なんで体が縮んでるんだ?」
≪推測でよろしければ≫
「頼む」

 いや、大体予想はついてるんだけどさ。

≪あの場にあったのが一般的なロストロギアだったなら、おそらく次元断層を作るだけで終わりだったのでしょうが。
 暴走中キングの周りに魔力が纏わりついていたのを覚えていますか?≫
「ああ、あのやーな感じの魔力な。確かに纏わりついてたぜ」
≪“刻の砂時計”が暴走しながらも起動していたと推測します。
 暴走中ゆえに全盛期まで戻すと言った作用ではなく、とりあえず若返らせるという機構だけ動いたのではないかと≫
「うっわー。すげえ迷惑。暴走に巻き込まれたって事か」
≪ええ、仮説が正しければキングは次元断層のおかげで助かったと言えます≫
「あ? なんでだ。いきなり上空2000mに吹っ飛ばされたし、運が悪けりゃ虚数空間の中で永遠をってやつだろ?」
≪いえ、虚数空間に落ちたからこそ、纏わりついていた魔力がはがれました。
 あのままでしたら、際限なく若返っていったのではないかと≫

 ちょっと想像して体調不良以外の理由で顔を青くする。

 想像しなきゃよかった。

「だとするとかなりのラッキーか。
 結果的にこの程度の被害で済んだし、どうなったのかはわからんが虚数空間からは放り出されてるみたいだしな」
≪ええ、さすがトラブルマスター≫
「お前そう言う時だけ俺をマスターって呼ぶよな」
≪キングはキングです≫

 トラブルマスター。
 以前通っていた学校でついた俺の二つ名である。
 まったくもって嬉しくない二つ名だ。
 誘蛾灯のようにトラブルを引き寄せ、どんなに努力しても巻き込まれる。
 レアスキル認定してもいいんじゃないかと思う位トラブルに遭遇するのだ。
 おかげでただでさえ飛び級と言う事で敬遠されがちなのに、俺の周りで起こるトラブルを恐れてか仲の良い友人なぞ殆どできなかった。
 まあ、周りでは俺を対象にしたトトカルチョが行われていたらしいが。

 うわ、へこむなあ。

 そんな事を考えながらザクザクと無言で歩く。

≪そういえば虚数空間に落ちる前、何か言おうとしていませんでしたか?≫
「ああ、あれか」

 ふと思い出したようにドラッケンがたずねてきた。
 ごそごそとポケットを漁り、取り出したのはかなり小型の機械。
 あの遺跡の部屋で拾ったものだ。

≪これは…………サーチャー、ですね≫
「ああ。しかもここ見てみ。この機構は間違いなく──」
≪時空管理局≫
「そゆこと。“刻の砂時計”があそこにあった時点で大方予想はついてたがな。
 これで下手な奴等にゃ頼れなくなった。
 おそらく俺の死亡通知も勝手に出されてるだろうし。
 上の方は多分…………真っ黒、だな」
≪キング……≫

 心配そうなドラッケンの声を聞きながら肩を竦める。

 実際これからどうすればいいかなんて、俺の中にもプランはない。
 上が黒なら管理局全体に助けを求める事は不可能だ。
 俺に好意的な奴がたまたまこの管理外世界の近くを通りかかって、たまたま俺を発見してくれる、なんてラッキーが起こる可能性はかなり低い。

 どうすっかなあ、と木々に隠れて見えない空を見上げた。

「親父にゃ悪いが、いっそこのままこの世界に骨を埋めるってのも悪くないかもな。
 っと、やっと森から出られる」

 ようやく森の切れ目を見つけて太陽の下へ出る。
 森の暗がりに目が慣れていた俺には存外に眩しかったが、そんな事より俺は目の前の景色に目を奪われていた。




 陽の降り注ぐ緑の丘、青空と海、そして街並み。
 感じる独特の空気。
 なにもかもが懐かしくて、思わず涙が出そうになる。




≪キング?≫

 ドラッケンの訝しげな声も今は気にならない。
 心の奥底でずっと望んでいたものが、今、ここにある。

「第97管理外世界…………地球」




 それは、間違いなく、俺にとって故郷の風景だった。
 

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