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俺が泣き止む頃にはもう陽が落ちてしまっていた。
ちょっとしんみりした空気を払拭するように、桃子さんがパンと手を叩く。
「夕ご飯にしましょう」
その笑顔が伝染して、皆が笑顔になる。
本当に凄い人だ。
鼻歌を歌いながら台所に立つ桃子さんを見てそう思った。
「そういえばアラン君はご両親は? 連絡はつくのかい?」
「ああ、両親はもう亡くなってますし。
今は一人暮らしなので別段問題はありません」
で、士郎さんの何気ない質問に答えたらピシリと空気が凍った。
「あれ?」
≪キング、それは色々と説明不足です≫
首を捻っていたらドラッケンに突っ込まれた。
なんでだ?
≪今のキングの外見年齢は3歳です≫
「おおっ」
軽く忘れてたな。
そう言やそうだった。
この体はちっさいんだよ。
と、桃子さんにお姫様抱っこされた事を思い出して大いにへこんだ。
「えっと、その、不躾な質問ですまなかった。
それで、その外見年齢というのは?」
遠慮がちに士郎さんが聞いてくる。
いやはや悪い事をした。
「両親が亡くなったのは、結構前なのであまり気にしなくても大丈夫ですよ。
もう気持ちの整理も完全についてますし。
それで外見年齢というのは俺がこの世界に来た事情とも絡んでいるんですが……」
と、桃子さんが料理を運んできた。
早いな。
「ご相伴に預かりながらでも良いでしょうか? 実はかなり空腹でして」
ぐうーと空気を読めない腹が鳴った。
やばい、もの凄く恥ずかしい。
夕飯をいただきながらここに来る羽目になった経緯を話す。
ただし、管理局の介入があった事だけは話さなかった。
説明してしまえばこの人達も巻き込まれてしまうだろう。
この優しい家族の平穏を俺は崩したくはない。
「なるほどなあ。
じゃあアラン君は恭也の1つ上か。
それにしても12歳で独り暮らしはおかしくないかい?」
「へえ、恭也は11歳なんですか。
ミッドは就業年齢が低いんで、これ位で働いてる奴なら結構いるんですよ。
俺は学校飛び級してるから他の奴よりは早めですけど」
ちなみに説明してたときと口調が違うのは皆に言われたからだ。
呼び捨てかつ楽な口調の方が肩が凝らなくていいとのこと。
「特に魔導師は精神の成熟が早いんです。
1桁の頃から働いている奴も意外といますね」
俺は卒業後1年間引き篭もってたから、実際に働き始めたのは一昨年だけど。
その後も色々な事を話しつつ、家族の団欒にプラスアルファさせてもらって夕食が終わった。
で、今はなのはのリンカーコアを診察しているところである。
「ドラッケン、解析」
≪analyse≫
収納していた簡易救急セットを使いながら診察する。
中空にウィンドウを出しているのを美由希が脇から興味深げに眺めていた。
なのはのリンカーコアをチェックした所、一応現在は活動が抑えられていた。
魔力放出によるリンカーコアの損傷も小さく、この位なら痛みもないだろう。
2日もあれば傷ができた事さえわからなくなるに違いない。
これ以上精密に検査するなら専門の施設が必要になるので、ざっとデータだけ取ってウィンドウを消した。
「とりあえずこれで大丈夫かな。
ただかなりの魔力量だから、内側から封印を破って再度覚醒する可能性があるけど」
「ふええ。なのはってすごいんだ」
「ああ。今の時点で俺の魔力量近くあるからな。
成長如何によっては大魔導師クラスまで行くかもしれない」
にこに事笑っているなのはを美由希は見て、
「うーん、信じらんない」
「だよなあ」
俺も信じられないし。
実際なのはの魔力量はもの凄い。
俺の現在の魔力量が管理局の基準でAA程度。
この年代ではかなり多いほうである。
でもなのははまだ赤ん坊だ。
どう見ても伸び代が多く残っている。
何も知らずに覚醒してたらと想像し、思わず身震いをした。
「そう言えばデバイスだっけ。
それがない状態で覚醒するとどうなるの?」
「デバイスなしだと普通はそうそう大容量の魔力は扱えないんだ。
ちょっと不思議な力が使える人になる程度かな」
「ふーん」
「ぱっと見超能力者なんかと区別つかないだろうし、同じ扱いになるんじゃないか?
まあ実際問題なのはの魔力量は将来的にとんでもなくなるだろうから、自然覚醒したら超能力者どころの話じゃないが。……うん、結構危険かも」
「うわっ、だとしたら今わかったのはまだ幸運だったかもよ、アラン君」
「いや、ずっと覚醒しなかった可能性もあるわけだし。
その辺りはなんとも言えないな。
…………こちら側はこの世界にとって異常者の世界だから、関わらないで済むならそれが一番だ」
あ、失敗。
どうにも今日は思考がネガティヴだ。
ちなみに、さっきから微妙に美由希がはしゃいでいるのは、桃子さん曰く弟が欲しかったから、だそうな。
中身はともかく、今の俺は外見は3歳児だし、仕方ないのかね。
診察も終わり、ゆっくりとソファーに身を任せる。
少しずつ体の痛みも収まってきたし、明日には大丈夫か。
さすがドラッケン。体調管理は完璧だな。
「さて、アラン君はこれからどうするんだい?」
士郎さんがお茶を飲みながら何気なく俺に尋ねてくる。
多分タイミングを計ってたんだとは思うが。
これから、か。
実際どうしたもんかと頭を掻く。
「何も考えてないんですよ、これが。
とりあえずなのはの様子も気になるので暫くこっちに居ようとは思ってます。
ちょっと事情があって時空管理局、あ、次元世界で起きる魔法犯罪なんかを取り締まったりしてる警察と裁判所が一緒になったような所なんですが、そっちには頼りたくないんですよ。
尤も連絡を取る手段もないんですけど」
そう言って軽く肩を竦める。
あのサーチャーの件から考えれば、今回の事故は仕組まれていた可能性が高い。
おそらく俺を狙ったのは管理局だし、狙ってきた奴等に俺が生きている事がばれれば、また狙われるかもしれない。
この人達にそんな迷惑は掛けられない。
「ならうちの子にならない?」
「は?」
だからその桃子さんの発言は俺の思考斜め上を行き過ぎていて理解できなかった。
なんちゅうか、突き抜けて頭を通り過ぎていった感じで。
えっと、今、なんつった、この人。
「だから、うちの子にならないかしら、アラン君」
「ああ、それはいいかもしれないなあ」
って士郎さんまで!?
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。
自分で言うのもなんですが、俺相当怪しいですよ!?」
「でもいい子だわ」
ピシャリと俺の発言は切って捨てられた。
「もう1人位男の子が欲しかったのよね。
それにほら、なのはとも年が近いからちょうどいいでしょうし」
「俺12歳ですよ」
「今は3歳よね」
再びピシャリ。
「いや、でもお世話になるのは」
「世話、じゃなくて家族になるの」
うわー。このまま行くとどんどん流されそうな予感。
「でも戸籍が」
「それ位なら簡単に用意できるわ」
犯罪です、それ。
「仕事を探して一人暮らしでも」
「こちらに残るのよね。なら貴方はただの3歳児よ。誰も雇わないわ」
ご尤もで。
「ご両親はいないって話しだし、行く場所ないんでしょう?」
「う」
「お金もないでしょうし」
「一応宝石類は持ってますが」
「どうやって換金するの?」
「うう」
ずっと桃子さんのターン。
俺、フルボッコ。
だけど……
「俺が近場にいるとなのはのリンカーコアが……」
「あら大丈夫よ。
アラン君が責任を持って抑えてくれるでしょう?」
「決まり、だな」
と、ダメ押しに笑顔の士郎さん。
≪キング≫
「おおっ、なんだドラッケン」
≪このままご厄介になる事を推奨します≫
ブルータス、お前もかっ
右、満面の笑みの美由希。
左、微妙に口角が上がってる恭也。
正面、にこにこ笑っている高町夫妻となのは。
おおう、四面楚歌。
仕方がないので一度情報を整理する。
考えるべきは、俺が管理局に狙われてないか、それによって巻き込んでしまわないかと言う事。
管理局の方は多分俺が死んだと思ってるだろう。
実際虚数空間に飲み込まれて生還した例は俺を除いて聞いた事がない。
とすると、狙われてる件の方は向こうに俺の生存が知れるまでは大丈夫、か?
巻き込む、に関してはなんとも言えない。
ただ、ここが地球である以上、それなりに管理局との接触がある可能性は否めない。
ここ出身の魔導師も多いが、なぜかロストロギアもよく見つかる土地なのだ、地球は。
が、
ふと顔を上げると笑顔なのになぜかプレッシャーを感じ取れる桃子さんが真正面にいた。
……向こうは折れてくれそうにないな。
まあ、奴等が来たとしても、余計な情報をここの人達に知らせてなければ、危険は最低限に抑えられるか。
やれやれ、と溜息をつく。
今日は妙に溜息が多い気がする。
No! と言える日本人、といつだか聞いたフレーズが頭をよぎった。
「お世話になります」
俺が頭を下げると同時にハイタッチを交わす桃子さんと士郎さんを見ながら、俺ってこんなに押しに弱かったかなあと現実逃避する事になった。
それからの士郎さん達の行動は早かった。
どこかに電話を掛けたかと思うと、あれよあれよと言う間にイギリスに俺の戸籍を作成。
そのまま日本に帰化させて、あっという間に養子縁組を決定。
所要時間2時間40分。
本当に何者だ、この夫婦。
「というわけで今日から君は俺の息子だ」
と受話器片手に笑顔で言った士郎さんに俺は戦慄した。
「書類はもうすぐ届くはずだからもうちょっと待っててね」
とお茶のおかわりを注ぎながら朗らかに笑う桃子さん。
もしかしたら俺は人外魔境に足を踏み入れたのかもしれないと本気で思ってしまった。
30分もしないうちにチャイムが鳴り、士郎さんが席を立つ。
戻ってきた士郎さんは俺に2枚の書類を渡してきた。
「アラン・ファルコナー、3歳。
イギリスから日本に帰化後、両親が死去。
孤児院に引き取られる直前、遠い親戚である高町夫妻に引き取られ養子縁組。
アラン・F・高町、か」
カバーストーリーが書かれた書類と、養子縁組された俺の戸籍。
戸籍の偽造ってそんなに短時間でできるものだっけ? と疑問に思うものの、これを突っ込むと酷い目にあう気がして口に出すのは控えた。
「じゃあアラン君は私の弟になるんだね」
ああ、無邪気な美由希が俺には眩しすぎる。
俺はもう汚れちまったんだね。
って、誰か疑問に思えよ、これ。
≪キング≫
ドラッケン。もう俺の味方はお前しかいないかもしれない。
≪おめでとうございます≫
ジーザス! 神は死んだっ。
「すまない、ああいう両親なんだ」
へこんでいる俺を見ていられなくなったのか恭也が声を掛けてくれる。
肩に置かれた手が温かすぎて涙が出そうになった。
とりあえず「高町家最後の良心は恭也」と心のメモに赤ペンで記しておく事にする。
「ええっと、なんて言ったらいいのか……」
がりがりと頭を掻く。
どうもこういうのは照れるな。
立ち上がって頭を下げた。
「これからよろしくお願いします」
「「「「こちらこそ」」」」
ああ、やっぱりこの家は暖かい。
この日はそのままお開きになった。
夜も遅いし、なにより俺の体調が最悪だったからだ。
桃子さんが用意してくれた部屋のベッドに転がると、俺は泥のように眠った。
目が覚めるとやっぱり目の前には知らない天井で。
きっとそのうちこの天井が当たり前になって行く、そう思うと不謹慎だが嬉しくて少しだけ笑みが零れた。
枕元においていたドラッケンを掴むと立ち上がる。
体調は8割方完治。
「サンキュ、ドラッケン」
≪キングの役に立つ事が、私の存在意義です≫
従者の鑑のようなマイデバイスに感謝。
リビングにはすでに桃子さんがいて朝食を作っていた。
トントンと等間隔で響く包丁の音は、遠い昔、俺が日本人だった頃の母を思い起こさせる。
「おはようございます、桃子さん」
「あら、おはようアラン君」
サラダをテーブルに運びながら笑顔の桃子さんが挨拶してくれた。
「なにか手伝える事あります?」
「うーん」
と、いきなり桃子さんが思案げな顔になり黙ってしまった。
なんだろう、俺にできる事なんてないならそういってもらっても構わないのだけど。
「あの、桃子さん?」
「そう、それよ!」
「へ? なんですか?」
「私達は家族になったの。
だから敬語もやめてお母さんって呼んでくれないかしら?」
「ええっ、いや、さすがにそれは」
わたわた慌てる俺を桃子さんはただ見つめる。
その優しい目の光を見ているうちに徐々に俺は落ち着いていった。
「えっと、でも」
「良ければ、でいいの。抵抗感が強いなら強制はしないわ」
「いや、そういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ、呼んでくれないかしら」
「俺はお袋ですらそう呼んだ事がないわけで、ちょっと照れくさいかなあ、と」
「おかあさん」
「う……」
「お・か・あ・さ・ん」
「……………………母さん」
弱っ、俺弱っ。
ぼそりと呟くように言った言葉に、桃子さんは満足そうに頷いた。
「うん、じゃあ敬語もなしね。
そうすると息子に君付けもおかしいから、アラン、でいいかしら?」
頷くと桃……母さんは満面の笑みを見せて俺に箸立てを渡した。
誰がどの席とか、どれが誰の箸とかを説明してくれる。
当たり前に俺の席と箸を説明してくれたときは、不覚にも涙が出そうになった。
ああもう、この世界に来てからなんか涙もろくなってないか、俺。
「……母さん、終わったよ」
「じゃあ士郎さん達を呼んできてもらえるかしら。裏の道場にいるはずだから」
「ん」
まだ慣れない呼び方に少し照れながら頷き返し、リビングを出ようとしたら母さんに呼び止められた。
「恭也達は呼び捨てでもいいけど、お父さん、よ、アラン」
悪戯っ子の目で笑う彼女。
きっと俺は一生この人に頭が上がらないに違いないと確信した。
ちなみに、3人を道場へ呼びに行ったとき、美由希がお姉ちゃんと呼んでと駄々をこねたのは、まったくの余談である。
高町家で暮らすにあたり、俺は1つだけ自分に制約を課した。
それすなわち「鍛錬と緊急時を除き魔法の使用を禁ずる」事である。
もちろん一番はなのはへの影響を考えての事だが、俺自身のためでもある。
実は最近ちょっと魔法に頼りがちで、肉体鍛錬を怠っていたのだ。
そもそも現在管理世界で使われている魔法様式は大きく分けて2つある。
ミッドチルダ式とベルカ式だ。
これら両式への適正は誕生時に行われる検査で魔力値と共に確認されるのだが、俺は両方に適正があった。
両方に適正があるというのはそう珍しい事でもないのだが、大体の魔導師は親がどちらの式を学ばせるか決めてしまう。
が、そこはうちの両親、
「せっかくだから両方使えるように育てましょ」
というお袋の鶴の一声によって、その後の俺の地獄が決定された。
なまじ前世の記憶があったために、魔法の教導は早期から開始。
あまりに聡すぎる自分の子に親父は疑問を持ったようだったが、別段気にしない事にしたらしい。
それからの日々は本当に地獄だった。
AAランクのベルカの騎士である親父から、直接ベルカ式を叩き込まれる3歳の頃の俺……あかん、涙出てくる。
本来なら、ミッド式に関してはお袋が担当するはずだったらしいが亡くなってしまったのでそれも叶わず、ベルカ式だけですんでよかったと思っていたら、いきなり全寮制のミッド式学校へ放り込まれた。
そもそも1つの魔法様式を修めるだけでも大変なのだ。
方向性の違う2つの様式を修めるのに必要な努力と言ったら…………もうあの頃の事は思い出したくない。
だがこうなってくると努力して学んだものを生かせないのはもったいない。
しかし通常、普通の魔導師はどちらか一方の魔法しか使わないので、両式を扱えるようなデバイスは存在していなかった。
学校に放り込まれた時、この事に気付いた俺は泣く泣くデバイスマイスターの勉強を始めた。
まってくもってうちの両親はスパルタンである。
実は卒業後ドラッケンを作るために篭った1年がそれまでで一番苦労した。
父の元同僚に頼んで、管理局本局にある無限書庫という管理世界中の資料を詰め込まれている場所に2ヶ月ほど引き篭もったのだ。
過去のデバイスの資料や両式に互換性を持たせるためにはどうすればいいか、管理局で扱われているデバイスやかつての伝説と呼ばれたデバイスマイスターの作品設計図まで、とりあえず資料を漁れるだけ漁った。
おかげで2ヶ月過ぎて図書館から出てきたときはモグラになった気分だったけど。
太陽が眩しすぎて直視できなかったときには涙が出るかと思った。
まあ今思えばこの辺りが今回管理局から狙われるようになった要因ともいえるが、今の話とは関係ないので割愛。
2つの式の特徴を生かそうと思えばデバイスの設計はかなり難航した。
現在の主流であるミッドチルダ式は汎用性に富む。
その分繊細な式とかなりの演算能力を必要とするが、魔法が関わるのが戦闘と言った非日常だけでなく、日常生活もある事を考えればこちらの利便性は高い。
戦闘はオールマイティにこなせ、得意な距離は中・遠距離だが、頑張れば1対1などにも対応できる。
つまり、応用範囲が広く機転も利かせやすい。
俺が使う高速飛行魔法≪boost flier≫もミッド式だ。
対してベルカ式は完全な戦闘、しかも対人仕様だ。
1対1で絶対的な強さを見せ、ベルカ使用者は屈強な騎士──一般にはベルカ式の優れた魔導師を騎士と呼ぶ──が多い。
デバイスも武器の形をした頑丈なアームドデバイスである事が多く、その最大の特徴はカートリッジシステムにある。
あらかじめ溜め込んで圧縮した魔力をカートリッジに詰めておき、ここぞという時に解放して自分の魔力に上乗せするというシステムだ。
戦闘時には便利だが、体に多大な負荷がかかるので多くの使用は控えた方がいい。
戦闘特化型のため担い手が少なく、好んで使うのは聖王教会の騎士たち位じゃなかろうか。
つまる所この当時の俺は、ミッド式を使うための高い演算能力と、ベルカ式を使うための頑丈さ、更にはカートリッジシステムの取り付けを同時に行わなければいけなかった。
これの設計を考えるだけで半年近くはかかったな。
元々無手を得意とする俺は、デバイスの形状としてガントレッドを選択した。
それだけではただのアームドデバイスと変わりがないので、主にミッド式を扱うためのオプションとして、2つのビットをオプションとして作成。
ところが、このビットのせいで絶対的な演算能力が足らなくなってしまった。
で、色々試行錯誤した結果、1つで足らないなら2つにすればいいという単純な方法をとる事にし、1つのデバイスにコアを2つ乗せるという前代未聞のデバイスが完成する事になる。
もちろんこいつらはただのコアではない。
ほとんど機構が同じいわゆる双子コアである。
メイン側はAIを乗せ、演算を受けて式を表出させる普通のデバイスコアと同じ役割を果たし、サブは常に演算を行いながらメインへ情報を流し続ける。
つまり見た目としては2つコアがあるが、やっている事は1つの時と対して変わらないのだ。
こういった経緯を経て、おそらく世界初のマルチシステム仕様デュアルコアデバイス“ドラッケン”が俺の相棒として誕生する事になる。
閑話休題
さて、大幅に話がずれてドラッケン誕生秘話まで話してしまったが、本題はそこではない。
ミソは俺がベルカ・ミッド両式の使い手という事だが、いかんせんミッド式が便利すぎて最近あまりベルカ式を使ってないのだ。
つまり、今の俺はミッドの魔導師としてはそれなりだが、ベルカの騎士としてはいまひとつ。
ここいらできちんと鍛えなおさねば、ベルカを仕込んでくれた親父に顔向けができない、というわけである。
ちなみに俺が無手なのは、生前の俺が格闘技馬鹿だった影響を受けての事だ。
決して親父が俺に剣の才はない、とばっさり言われたからではない。ないったらない。
ただ、居合いに関してのみ、かなりの才能があるらしい。
母親の形見である刀型のデバイスを振っていたら、
「これが血か」
と親父が呟いていた。
なんでも祖母さんの家系から連綿と受け継がれている業があり、お袋も居合いを使わせたら右に出る者がいなかったんだとか。
聞けば聞くほどばあさんの家系の謎が深まって行く、と思ったのは俺だけではあるまい。
ともあれ、高町家の人達は足運びから見て刀を使うようだし、家に道場もある。
そのうちこの体に慣れたら鍛錬に混ぜてもらおうと考えながら、おいしく朝食をいただいた。