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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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────────interlude

「兄ちゃんが来れんくなった時は焦ったけど、何事もなく終わってよかったなあ」

「そうですね、主はやて。騎士カリムも中々のお人柄のようですし」
「あたしはあのヴェロッサって奴が面白かったな。
 事ある毎にシャッハに睨まれてたしよー」
「ヴィータちゃん、あまり失礼はしないようにね。
 私、いつ口に出して笑出しちゃうのか冷や冷やしてたんだから」
「そう言う湖の騎士も所々で方を揺らしていたがな」
「ですですー」
「2人共酷いっ!?」

 酷く賑やかな一団の中に埋れながら、出てきたばかりの建物を振り返る。
 歴史を感じさせる荘厳な建物の名前は聖王教会本部。
 ミッドチルダ郊外に位置するベルカ自治区、その中央に聳える聖王教会の象徴的な建物だ。
 その歴史はかなり古く、ベルカが国と言う形を失ってすぐの頃にはもう存在していたらしい。
 尤もその中身は時代を経るに合わせ改築を繰り返されてきている為、古代ベルカの様式を色濃く残しているのは外観や中の装飾だけのようだったが。
 建物の外には巡業に訪れたのであろうローブをまとった人々の姿。
 ご老人方が多いのは現代において宗教があまり重要視されていない証なのかもしれない。

「だが、ここはよい場所なのだな。人も空気も……どこか懐かしく温かい」
「うおっ!? いたのかよ、ザフィーラ!?」
「……我は朝家を出た時からずっと一緒だったが」
「あはは、ごめんなさいね、ザフィーラ」
「と言うよりこれはお前が少しも喋らないのが原因だろう」
「烈火の騎士の言う通りだな。
 寡黙なのは元々だが、最近殆ど話している所を見ないのは流石にどうかと思うぞ?」
「すまんな、リインフォース。
 この姿だ、あちらの世界では喋った方が問題になる。その癖が抜けんのだ」
「でもでも、シルフィはもっとザフィーラとお話してみたいですよ?」
「うーん、ザフィーラは殆どの時間今の状態で過ごしとるからなあ。
 人型になるんも兄ちゃんと組手する時位やし……シルフィの言う通りもっと自由にしててええんよ?」
「お気遣いありがとうございます、主。しかし、別段不便と感じた事はありません故」

 そう、今我は狼姿のまま主達の少し後ろをついて行っている。
 我にとっては元々の姿がこちらなので不便を感じた事がないのは本当の事だ。
 この状態であっても念話で会話は可能なので意思疎通に困った事もない。
 普段シルフェルフォルトと話す時も念話が殆どだ。

 尤も、常時この姿でいる事にあの忠告が関係している事は否定せんが……

 あれはそう、我等があちらの世界で暮らし始めたばかりの頃だったか。
 アランから1つ注意点を告げられた事があるのだ。
 我はそれまで意識した事がなかったのだが、我等ヴォルケンリッターの雄体は我のみ。
 そして今代の主も未だ幼子とは言え女性だ。
 帰ってきたリインフォースやシルフェルフォルトも加えればちょっとした女系家族に見えるだろう。
 そんな中、男である我が我が物顔で主の家に出入りすると近所からあらぬ誤解を受けかねない、と。
 我等の容姿が似通っていたのであればそんな些細な事を気にする必要はなかったのかもしれない。
 しかし我等はリインフォースとシルフェルフォルトを除けば年齢も、その髪の色からなる容姿もばらばらだ。
 唯一の男である我が女性だらけの家に出入りしているとあれば、確かにいらぬ憶測を呼び込んでしまう確率はそう低くない。
 故に彼の忠告を我は素直に受け取る事にし、基本的にこの姿でいる事を決めた。
 何よりもこの姿であれば病院や図書館の内部などを除き、主の側へ常に控えていたとしても違和感がない。
 あの世界では通常我位の年頃の男子は勤労しているのが一般的らしいので尚更だろう。
 更に言えば態々耳や尻尾を隠す手間が省けるのがいい。
 変身魔法の重ねがけは、他人が思っているよりも面倒なものなのだ。

「それならええんやけど…………ふう」
「はやてちゃん、お疲れですか? 少し休んで行かれたら──」
「あ、違うんよ。それにこれから皆は騎士登録せなあかんやろ?
 ランディさんとの待ち合わせに遅れるわけにもいかんし」
「シルフィも残るですから大丈夫ですよ?」
「しかし、お前は未だ幼いし──」
「ならば皆が戻ってくるまで我も主の側にいよう。
 我は魔導師としての登録にさほど意味を見出せんからな」

 お膳立てしてくれたアランには悪いが、立場の確立と言う意味では我は主の守護獣という位置づけのみで充分だ。
 常時人型であるシグナム達とは違い、我はそれだけでこの身の存在を立証できる為騎士としての称号は必要ない。
 何より魔導師ランクなどつけられてしまえば、主と共にある時間が減ってしまいかねない。
 管理局には各部隊における魔導師保有制限が存在するのだから。
 ちなみにシルフェルフォルトがこの場に残ったのは単純に、この子が認定試験を受けるのはまだ早いと判断された為だ。
 先程騎士カリムと話し合った結果、もう少し中身の成長を待つ事になった。
 シルフェルフォルトと我の言葉に4人は主の様子を頻りに気にしながら登録場へと向かって行った。
 と、再度主の口から溜息が落ちる。

「主、あまり無理はなされないでください。
 お疲れでしたら我の背か、近場のベンチでお休みを」
「ですよー?
 シルフィは……えっと、まだ何もできないけどはやてちゃんの側にいますから」
「あはは、ほんまにありがとうな、2人共。ほな、ちょっと休みながら皆を待とか」

 言うと主はすぐ側にあったベンチに腰かけ松葉杖をそこへ立てかけた。
 そう、松葉杖なのだ。
 あの強く優しい風が主の身体を浸食する闇を吹き飛ばしてから2ヶ月と半月が経つ。
 2週間程前から主は車椅子の使用をやめた。
 最初の1ヶ月こそ突然麻痺が消えた事に対する検査三昧だったが、その後は鈍ってしまった足の筋力を取り戻すリハビリに精力的に取り組んできた。
 主の話ではそろそろ高町達の通う学校へも行けるようになるらしい。

 そう言えばあの金髪の……テスタロッサとか言う少女もその頃から通うようになるのか。

 テスタロッサと我等の間に直接的なやり取りはない。
 ただアランが時折進捗状況を教えてくれているので、主も新たな友が増える事を楽しみにしていた。

「む……?」
「あはは、流石に疲れたんかなあ、生まれたばっかりやし。可愛い寝顔や」

 気が付けばシルフェルフォルトは主の膝の上で寝息を立てていた。
 まったく、これでは主の護衛が果たせないではないかと思う反面、その穏やかな寝顔を崩してしまう事に躊躇する我は大概末っ子に甘いのかもしれない。
 尤も主がシルフェルフォルトを見る柔らかな視線がそれを後押ししていた事は否定しないが。
 ふ、と落ちた溜息の発生源はシルフェルフォルトを見詰めていた主。
 シルフェルフォルトから視線を外し首をあげると主はそれで初めて自分が溜息をついていた事に気付いた様子で我の頭をくるりと撫でた。
 いや、まあ、主が我を犬扱いしているのは知っていたが、望んだ事とは言え少々落ち込んでしまいそうだ。

「どうかされましたか、主?」
「んーん、なんもあらへんよ。ただ……幸せやなあって」

 嘘だ。
 特に根拠もなくそう思った。
 確かに主は幸せそうにシルフェルフォルトを、日向の木々を眺めてはいるが、どちらかと言えばその表情は沈んでいるように見える。
 臣下として、主を守る守護獣として、踏み込むべきではないのかもしれない。
 しかし我は自然と口を開いていた。

「何やら悩み事ですか?」
「っ!?」

 ただの騎士であれば、こんな言葉を主にぶつける事など言語道断だろう。
 しかしこの小さく聡明な主は、初めて我等に会った時こう言ったのだ。
 夜天の王として、最初で最後の命令を。

『私の家族になってくれへん?』

 その命が、今は誇らしい。
 ただの臣下では主の気持ちを軽くする事などできようはずもないのだから。
 控え守るだけのものではなく、並び立ち背中を預けられる存在へ。
 そんな関係を望んでくれた我が主を誇らしく思う。

「主……?」

 主は驚いたように我を見た後、眉尻を落として頬をかく。
 どこか気まずそうなその表情は、年相応の少女のそれだ。

「あはは、かなわんなあ。私、そないわかりやすいやろか?」
「いえ……ですが我は、主の家族ですから」
「そうやな……そうやった。私が望んで、皆でそうやって暮らしてきたんやもんなあ」

 主が目を細め、我の頭を再び撫ぜる。
 どうもこの癖、アランからうつったものらしい。
 あれも何かあると事ある毎に頭を撫でる癖を持っているから、近くにいた主にうつっても仕方がないのだろう。
 主は太陽に照らし出された目の前の光景を眩しそうに見詰め、それからぽつりと呟いた。

「なあ、ザフィーラ。私が今幸せなんよ……」
「はい」
「友達がいて、家族がいて、もうすぐ夢だった学校にも通えるようになる」
「はい」
「せやのに……せやけど、なんでやろか。
 私に幸せを運んできてくれた兄ちゃんが、どこか苦しそうに見えとった。
 ずっと……ずっとや」

 その台詞に我はなんの言葉も返せなかった。
 我はアランをそう深く観察してはいないから。

「今は……そこまででもないかもしれん。
 せやけどついこの前、なんや事件が起こるまではほんま苦しそうやったんよ」
「そう……なのですか?」
「うん。まるで息苦しいのに苦しいって言えん、そんな顔しとった。
 そんで事件が終わってからもちょう変わったな」

 確かに先日、海鳴で事件が起こってからかの人物はどこか吹っ切れたような雰囲気であった。
 しかし今主が問題にしているのはそこではないらしい。

「今もきっと……何かを抱えとる、そんな顔しとる。
 私が悲しいんはな、ザフィーラ。
 そんな兄ちゃんに対して何も知らされない私ができる事なんかないって思い知らされ続けてる事なんよ」
「主……」

 息が止まった気がした。
 ここ最近のアランの動きは我から見ても性急すぎる。
 今回我等を聖王教会へ誘った件にしてもそうだ。
 我等の事は極一部の人間しか知らず、そして他に情報が漏れる事はないとアランは自信を持って言っていた。
 にも関わらずリインフォースが復活してすぐの聖王教会幹部への面会取り付けと騎士登録。
 確かに我等の身分確立が早いに越した事はないだろう。
 しかしそれだけではこうまで登録を急いだ理由に少し弱い。
 我等の存在が管理局に露呈するには、アランの言を信じるのであればまだ猶予があったのだから。
 ならばこの性急さは、もう1つの秘められた理由が大きい事を意味している。
 同時にそれは、我の口から説明できない理由だ。

 恨むぞ、アラン……

 何故なら家族とは言え他人の口づてに伝えられたとすれば、この年端もいかない少女がどれだけ傷付くのか想像にかたいから。
 少なくとも、アランの口から語られねば主は納得されないだろう。
 戸惑うように喉に何かがつっかえたかのように我は何かを話さねばと口を開き、

「我は……」
「ああ、無理に話そうとせんでええよ。多分やけど……口止め、されとるんやろ?」
「……申し訳ありません、主」
「ええよ。悪いのはザフィーラやなくて兄ちゃんなんやから。
 ……そう、こんなに私に心配させる兄ちゃんが悪いんや」

 やはりこの幼い主は聡く、それ故に悲しい。
 もしも子供のようにその言葉をアランにぶつけられれば、きっともっと楽になれたと言うのに。
 先んじて我の言葉を封じた主は、ベンチよりぶらぶらと足を揺らす。
 この状態に至るまで、主はいったいどれだけの努力をしたのだろうか。

「それに……今の私にできる事がないんやったら、できる私になればええんやから」

 そうしてその為に、どれだけの努力を重ねて行くのだろうか。

「ま、その様子やと皆には話してるみたいやから、ちょう気が楽になったわ。
 少なくとも独りで無茶しとるわけやないって事やし──」

 自身の心を押し殺したような言葉。
 傷付かない筈がない。
 主にとってアラン・F・高町と言う人物は、それ程大きな意味を持つのだから。

「──ほんなら、私がそこに辿り着けない理屈もない」

 何も話す事ができぬ我は空を仰ぐ。
 主の強い決意を籠めた視線から目を逸らすかのように。
 ミッドチルダの空は、地球と変わらず青かった。

────────interlude out

 後方支援とは言えずっと戦場に張り付いたままだったのだ。
 緊張の糸が切れた事で溜まっていた疲労が一気に噴出したのだろう。
 クロノに報告を終え海鳴に戻ってきた瞬間なのはの頭は船を漕ぎ始めた。
 転送ポートのあるハラオウン家からなのはを背負ってきた俺は部屋のベッドに妹を横たえ、窓の外を見やる。
 雨が降っていた。
 小降りとはいえ、ここ最近はずっと晴れていたから久しぶりの雨だ。
 夜の帳が下りた事で静かになった海鳴にしとしとと雨が降っている。

 ふらり、何かに誘われるように外に出た。
 特に何か目的があったわけではない。
 ただ熱暴走しそうな頭を少しでも冷やそうと言う意図があった事は否定できなかった。

 息を吐き出すと、どこか熱を持ったそれが雨の中に消えて。
 ふらふらと覚束ない足取りで街を歩く俺は端から見れば不審者のそれだったっだろう。
 すでに真夏をすぎ残暑と言ってもいい日中だが、夜の風は少し冷えてきたように思う。
 そのまま辿り着いたのは近所の公園だった。
 一瞬躊躇してベンチに座り込む。
 どうせ傘もなく歩いてきたのだ。
 びしょ濡れの身体は今更ベンチに座ったところで変わりようがなかった。
 見上げる空は雲がかって暗い。
 星の1つも見えないそれを、何故か優しいと思った。

「――眠れないのか?」

 背中にかかる声に驚く事はない。
 家を出てしばらくしてから追ってくる気配には気づいていた。
 どちらかと言えば、今の今までよく声をかけずにいてくれたとさえ思う。
 振り返る事なく俺は口を開いて。

「いや……そう言う気分じゃないだけだ」

 尤も、そもそも気配を探るまでもなく彼女の存在には気づいていた。
 なにしろ雨粒が傘で跳ねる音がずっと後ろからついてきていたのだから。

「そうか」

 一際目立つ雨音が背中から正面へ回り込んで行く。
 彼女は静かに俺へ傘を傾けつつ、止める間もなく隣に座り込んだ。

「濡れるぞ」
「それは貴方も同じだろう。それに手遅れだ」
「俺はいいんだよ。今日はそう言う気分なんだから」
「ならば私も構わない。貴方と同じなら、それも存外悪くないと思えるからな」

 雨脚が弱まっているとはいえ折角の傘を閉じて、彼女は俺と同じように雨をその顔に受け始める。
 その穏やかな横顔を、俺はぼんやりと見つめて。
 視線に気づいたのか彼女が俺の方を向く。

「どうかしたか?」
「……頑固者め」
「ああ、それは仕方がない事だな。
 子は親に似ると言うし、ならば私とマイスターも似るのが道理だ」
「そのマイスターってのはやめろよ」
「不可能だ」
「やだとかじゃなくて無理なのか」
「当然だろう」

 降り注ぐ雨粒が彼女の肌を伝い、跳ねる。
 きっと俺も彼女より酷いが似たような状態なのだろう。
 べっとりと額に張り付き始めた前髪が不快で、だけど振り払おうとは思わない。
 今日は、本当に濡れていたい気分だった。

「今日、人を殺したよ」
「……そうか」

 返ってくる言葉は簡潔で、感情の介入が認められないものだった。
 ただ事実を認めただけの相槌。
 そこには嫌悪も忌避もない。
 不思議だったがそんな事はどうでもよかった。
 きっと俺は、誰かに聞いてもらいたかったのだろう。

「見えすぎる目を持つのも難儀でな。
 ロストロギアに取り込まれた犠牲者の魂、その外郭みたいなもんがぼんやり見えるみたいだ」
「……」
「助ける方法なんて知らない。
 知っていたとしても、俺は自分の周りを護るだけで精一杯だ。
 だから……ロストロギアの片鱗ごと、そいつらの魂を吹っ飛ばした」
「……後悔、しているのか?」

 そう聞かれると言葉に詰まってしまう。
 確かに後味の悪さはある。
 罪悪感もある。
 だけど、後悔と聞かれるとわからなかった。
 あの戦場で、全てを助けたいなんて傲慢な事を言えるほど、俺は純粋ではいられなかったから。
 そんなものよりも自分の命の方がずっと大事だった。
 そんな事よりもあの子のところに帰る事の方がずっと重要だった。
 ただ1つ言えるのであれば、ただ1つわかる事は、

「そこに手を伸ばそうともしない自分の我が侭さと無力さが嫌いだよ」
「そうか」
「多分だが、後悔はしてない。酷い奴だろ、俺は?」
「ああ、そうだな。マイスターは酷い男だ」
「これまた辛辣だな」
「その方が貴方は気に病まずにすむだろう?」

 細められた紅の瞳に、敵わないなと嘆息する。
 もしかしたら俺は、誰かに責めてもらいたかったのかもしれない。
 悲劇の主人公はやめたつもりだったのに、そうそう人は変われないということか。
 相変わらず成長の欠片も見えない自らに思わず嘆息が漏れそう。

 俺の周りにいる奴らを、護ると決めた。
 例えそれが他の誰かを泣かせる事になるのだとしても。
 だけど周りの奴らはそれを賞賛こそすれ、責めてはくれないのだろうと容易に想像がつく。
 俺の身内は、身内を責めるなんて頭を持っていない奴等ばかりだから。
 だから俺はこいつに、

「甘えてるな」
「ああ。だが構わないだろう。マイスターは全知全能ではないのだから」
「そうか。……甘えついでにもう1ついいか?」
「好きにするといい」




 本当に――――そう、本当にこいつは俺に甘すぎる。




「……俺は、間違ってるか?」
「それは何に対しての評価だ?」
「俺が、これからしようとしている事に対して」

 だから、それにずるずる甘えるのはこれで最後にしよう。




「間違っている。ああ、貴方は間違っているよ、マイスター」




 こいつは俺が望む言葉をくれすぎるから。




「そう、か……」
「だがやめる気はないんだろう?」
「ああ。誰がなんと言おうとやめられない。
 それが俺と言う人間に託された義務……いや、権利だと思うんだ。
 少なくとも俺は、自分の意思でそうしようと決めた」
「なら周りの評価に惑わされるな。マイスターは全力で間違えばいいだろう」

 そう、そんなこいつだから、俺の望む言葉をくれすぎるこいつだから、頼もうと思える。
 甘えと言われればそうだろう。
 でも、はっきりと線引きしてのそれなら悪くない。
 少なくとも俺はそうなのは達に教えてきた。
 人が1人でできる事には限界がある。
 だからこそ、自分の手が届かないにも関わらず達成せねばならない物が出来た時、人は他人を頼るのだ。
 思えば俺が意識的に甘えようとしたのはこいつが初めてなのかもしれない。
 一瞬息を吸い込んで、緊張と共に決定的な言葉を吐き出す。

「ならさ……俺が外道に堕ちたら、俺を殺してもお前が止めてくれ」
「わかった」

 予想外な事に、返事は即答だった。

「…………お前って奴は本当に……」
「本当に、なんだ?」

 不思議そうに言葉の続きを促す彼女は、あの儀式の副作用で若返ったにしても酷く幼く見えた。
 年相応なようで実は全然違う、そんな彼女の表情に自然と口元が緩んで。
 一瞬だけ彼女に向けた視線を雲の立ちこめる空に戻す。
 雨は、いつの間にか上がっていた。




「本当に――――優しすぎるよ、リインフォース」




 それはきっと、他の奴等とはまた別の優しさなのだろう。

 上空では風が強いのか分厚い雲が流れていくのが見える。
 その急流に、怒濤過ぎたこの半年を思う。

「…………マイスター程ではないさ」
「馬鹿言うな。俺はただの自己中野郎だ」
「そうだな」
「……ちったあ否定しろっての」
「それはできない」
「酷え奴だ」
「マイスター程ではないさ」
「そこでその返しかよっ」

 2人の顔に浮かぶのはきっと陰りのない笑みで。
 穏やかに、笑い合う夜は優しかった。
 そして、




 雲の切れ間から覗いた星空も泣きたいくらいに美しかった。
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プロフィール
HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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