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「マジで、ばあちゃん!?」
『ええ、そろそろアースラの方にも連絡が行ってるはずよ。久々に頑張っちゃった』
笑うばあちゃんに何度も礼を言ってから通信を終える。
俺は自分の仮住まいを飛び出すと、アースラの廊下を駆け出した。
「クロ! 聞いたか?」
「ああ」
ちょっと行った所でクロを捕まえると、共だってブリッジに向かう。
「なんとかフェイトの願いも叶えてやれそうだし、よかった」
「だな」
ブリッジで仕事をしていたエイミィに頼んで、地球への通信準備をしてもらう。
「ジンゴはどうするんだ?」
「俺がここですべき事はほぼ終わったからな。任務に戻るさ」
「任務、ね」
その内容を思い出しながら互いに苦笑い。
任務内容は微妙だけど、俺にとって地球で暮らす事はプラスに働く。
そう思っているからクロも強く“任務”について突っ込んでこないのだろう。
「裁判なんかもあるからちょくちょくこっちに来る事になるだろうけど」
「君との縁は切れないって事か……」
「嬉しいくせに。クロは寂しがりだからな」
「ジンゴ!」
そうやって顔を真っ赤にして反論する姿が面白いんだっていつ気付くかな、クロは。
そうして彼をからかっていると、いいタイミングでエイミィが声を掛けてきた。
「二人共仲いいのは凄くいい事なんだけどね、もうこっちの準備できたよー」
「あいよ。サンキュ、エイミィ」
「いえいえ」
「だから! ……二人とも、後で覚えてろよ」
エイミィがなのはの携帯にコールをかける。
一度目は切られてしまったが、二度目にはなのはの慌てた声が飛び込んできた。
こりゃ目覚ましアラームと間違えたかな?
俺が密かに苦笑する隣で、クロがなのはに話をしていく。
内容は、フェイト・テスタロッサのこれからについて。
「――ああ、さっき正式に決まった。
フェイトの身柄はこれから本局に移動。それから、事情聴取と裁判が行われる」
『うん』
「フェイトは多分……いや、ほぼ確実に無罪になるよ。大丈夫」
「クロノ君あれからずーっと証拠集めしててくれたからねー」
「エイミィ、そう言う余計な事は言わなくてもいい」
「照れちゃって」
「照れてない! 大体ジンゴだってかなり手を回してくれてたろう」
「いやいや、クロの頑張りにゃ負けるって」
俺達のやり取りになのはがくすくす笑うのが聞こえて、
『ありがとう、クロノ君、ジンゴ君!』
「ありゃ、俺も?」
驚く俺。
本当に大した事してねえんだけどなあと頭をかいた。
実際動いたのはばあちゃんで、俺は彼女が動き易いようにこまごまとした処理を行ったに過ぎない。
微妙に困っている俺の事は気にしない事にしたのか、クロは一つ咳をすると説明を続けた。
「事情聴取と裁判、その他もろもろは結構時間がかかるんだ。
で、その前にフェイトが望んだ事があってね」
『うん』
「君と会いたいんだそうだ。時間は少しだが取る事が出来た」
『うん!』
「場所はあの時の臨海公園、時間は今からだけど、来れるかい?」
『うん、すぐ行く!』
「じゃあまた後で」
『うん!!』
通信が終わる。
クロと顔を見合わせ、互いに頷いた。
さあ、なのはが来る前に俺達も彼女達を連れて行かないと。
通り抜けていく潮風が心地良い。
すっと深呼吸をすると、肺に飛び込んでくる新鮮な空気に全身が洗われた気分になった。
「……そろそろ来るかな」
「フェイトちゃん!」
言った瞬間、角を曲がってなのはが姿を現す。
走りながら手を振るもんだから、こけやしないかと冷や冷やした。
嬉しそうなフェイトとなのは。
二人の顔を見て、苦労した甲斐があったなとクロと笑い合う。
なのはが俺達の元に到着すると、彼女の肩の上にいたユーノが素早く降りてアルフの肩に駆け上がった。
またフェレットモードなのか……
ここまで来るとユーノが人間なのを忘れそうになるなと思いながら、クロを促す。
彼は一つ頷いて、なのはとフェイトに向き直った。
「あんまり時間はないんだが、しばらく話すといい。僕達は向こうにいるから」
「ありがとう」
「ありがとう」
二人の言葉を聞いてから、俺達は少し離れた場所にあるベンチに腰掛ける。
俺達から見ると、なのはとフェイトの向こう、柵を挟んで海と青空が見えていて。
なのはの白い制服と、フェイトの金髪が映えていた。
「何話してるんだろうね?」
「さあ? しっかし、絵になる二人だな」
ユーノの疑問を流しながら、海の方を向いて並ぶ二人を眺める。
しばらくぽつりぽつりと話していた二人は向かい合い、それから抱き合った。
風が吹く。
彼女等を、涙を流すなのはを慰めるかのような、優しい風が。
「……なまえをよんで、か」
「? 何だ、それは」
「いや、少しだけ聞こえたんだ。
友達になるにはどうすればいいかを聞いたフェイトに対するなのはの答えだよ」
「よく聞こえるね、ジンゴ」
「切れ切れだけどな。ほら、風が吹いてるから」
肩をすくめてユーノに返すと空を見上げる。
思ったよりも眩しくて、思わず目を細めた。
「単純だけど、綺麗な言葉だと思ってさ」
「……そうだな」
「人の汚い所を数多く見てきた俺達にとっちゃ、眩しすぎる言葉だ」
「ああ。でもこの仕事も捨てたもんじゃない。こう言う子達に会えるからね」
「俺もそう思うよ」
話す俺達の隣で、アルフが泣き始めた。
アルフにハンカチを貸してやると彼女は受け取り、涙を拭いてからちーんと鼻をかむ。
おい……
「あんたんとこの子はさ……なのはは、本当にいい子だね。
フェイトが、あんなに笑ってるよ……」
……まあ、いいか。
ここで怒るのもなんだし。
特にアルフはフェイトの使い魔だ。
彼女とリンクが繋がっている分、その感動もひとしおなのだろう。
様子を窺っていたクロが立ち上がる。
時間か。
俺達は離れた時と同じように、ゆっくりと二人に近づいていく。
「時間だ。そろそろいいか?」
「うん」
「フェイトちゃん!」
抱擁を解いて俺達へフェイトが頷くと、なのはが慌てて声を掛ける。
少し考え込んだ彼女は、その髪を結わえていた淡いピンクのリボンを解く。
そうしてその二つのリボンをフェイトに差し出した。
「思い出に出来るもの、こんなのしかないんだけど……」
それを見て同じようにフェイトも、その金の髪をツインテールにまとめていた黒いリボンを解いた。
「じゃあ、私も」
「あ……」
差し出された手の平に、互いに手を重ねる。
そのまま二人は見つめあった。
「ありがとう、なのは」
「うん、フェイトちゃん」
「きっとまた」
「うん、きっとまた」
ゆっくりと二人の手が離れる。
たったそれだけの事なのに、そのやり取りがとても神聖な儀式に俺には見えた。
「ん」
アルフがユーノをなのはの肩に戻すと、なのははアルフに向き直る。
「ありがとう。アルフさんも、元気でね」
「ああ、色々ありがとうね。なのは、ユーノ」
「それじゃ僕も」
「クロノ君もまたね」
「ああ」
最後に、なのはが俺の方を向く。
「ジンゴ君は?」
「俺はこっちに残るよ。
一段落と言ってもまだやる事は残ってるから、何度かアースラに行く事はあるけど」
「そっか、じゃあまた一緒だね」
「ああ」
笑顔になったなのはを見ていると、フェイトが一歩俺に近づいた。
「あの……」
「どうかしたか、フェイト?」
「え、と……名前、聞いてなかったから」
いけねと頭をかく。
そう言えば最初に彼女等を止めた時以外、俺は自己紹介をした覚えがない。
「悪い悪い。ジンゴ・ミナギ・クローベルだ。
本局に行っても裁判なんかでまた顔を合わせる事もあると思う。
よろしくな、フェイト」
「うん。よろしく、ジンゴ」
彼女は俺の名を呼びながら握手をすると微笑んで。
照れ臭くなった俺はそっと手を離すと誤魔化すように頭をかいた。
背中でくすくす笑っているなのはの事は気にしない方向で。
一段落した時、クロの咳払いで我に返った。
すまんと手を胸の前で合わせると気にするなと返ってくる。
そのまま彼は通信をアースラに繋いだ。
「ああ、よろしくエイミィ。フェイトとアルフは僕の周りに来てくれ」
クロの指示を受けて地面に大きめの転送陣が展開される。
三人はその上に乗って俺たちの方へ向き直った。
「ばいばい、またね。クロノ君、アルフさん、フェイトちゃん」
なのはの言葉にフェイトが目に涙を溜めながらも笑顔で手を振る。
同じような表情でなのはは大きく手を振り、俺もユーノも手を振った。
魔力光が辺り一面に溢れ、三人は海鳴の街から消えていった。
波の音が耳をくすぐる。
なのはの一歩後ろで、俺はフェイト達がいた場所を見つめ続けるなのはを見ていた。
なんだか声を掛けるのがもったいないような気がして。
青い空と広い海、それを眺める彼女と言う絵を崩したくなくて。
でもずっとこうしてるわけにもいかないから、ユーノと目配せをして声を掛ける。
「……なのは」
振り向くなのは。
ああ、この子には、曇りのない青空がよく似合う。
「うん!」
とりあえず、あの日に立てた誓いは護れたようだ。
彼女が破顔するのを見て、跳ねるような気分のまま、俺は、俺達は家路につく。
願わくば、彼女のこの輝きが、ずっとずっと曇りませんように。