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自覚が、ある。
俺は今きっと、最高潮に不機嫌だ。
「はい、それでは転入生を紹介します。クローベル君、自己紹介を」
若い女性教員の言葉で少し前に出る。
目の前には白い制服を着て、こちらを興味深々に見ている大勢の一応同年代。
俺は大きく溜息をつきながら口を開いた。
「……ジンゴ・M・クローベルだ。
家庭の都合でちょくちょく抜ける事もあるだろう。
なに、窓辺に置いてあるサボテンと似たような扱いで構わんよ」
「え、えっと、クローベル君。その自己紹介はどうなのかしら……?」
「問題ありません」
戸惑う教員の言葉を切って捨てる。
ああ、そこの栗毛の猫。
あまり困惑するな。
疑問げな顔を向けるな。
俺も似たような気分だ。
再び溜息をつきながら指定された席に着く。
座った瞬間、精神的疲労からぐんと身が重くなった気がした。
【え、ええ……ええーー!? ジンゴ君、どう言う事?】
【俺が知るか。……ばあちゃんに聞け】
【……ええーっと、なんかよくわかんないけど元気出して】
ああ、その言葉が身に染みるぜこんちくしょう。
すぐに始まった授業を聞き流しながら俺は自らの身の不遇さについて考える。
基本的に俺はばあちゃんの事を尊敬しているのだが。
それと同時に日常における愉快犯的な部分は直して欲しいと切実に願っている。
ばあちゃんから送られてきた転入手続きに関する事務処理の完了通知には、クラス調整が完了したと書かれていて。
その為初登校の俺は、早朝にあったばあちゃんからの指示通信に従い登校後直接職員室へ向かった。
思えばこの時気付くべきだったのだ。
なぜ、クラスを調整する必要があったのかを。
で、担任に引き渡された俺は担任である女性に連れられて行き、教室の前についた瞬間初めて悟った。
今朝、ばあちゃんがなぜほくそ笑んでいたのかを。
どこからどう見ても教室ドア脇に掲げられたプレートには『三年』と書かれていた。
更に教室に入ってこれが原因かと頭を抱えたくなった。
見覚えのある栗毛と金髪、紫がかった黒髪がいたのだ。
っと、メールか。
教員に見咎められぬよう誤魔化しながら、先日購入したばかりの携帯電話を開く。
差出人欄を見て肩に乗る何か重いものが更に重量を増した気がした。
ばあちゃんかよ……
【そう言えば、ジンゴ君って私の一つ上なんだよね。
年齢が違うのにどうやって三年生になったの?】
【俺は先天性のアルビノで、昔は体が弱かった為に就学が一年遅れたんだと。
今そう言う風な設定にしたからってメールが来た。話合わせてくれな】
【あ、うん、わかった】
【それとなのは】
【何?】
【トレーニングするなとは言わんが、念話する時位はシミュレーションをやめろ。イメージが少しこっちに流れてきてる】
【あ!? ごめんね】
ようやく頭の中に響いていた爆撃音が消える。
魔法好きもここまで来ると病的ですらあるなと内心ごちた。
一応ストッパー役はユーノに任せてあるが、一度俺の方からも注意した方がいいのかもしれない。
なにせなのはの奴、常時魔力負荷をかけた上で早朝は屋外での魔法訓練、授業中はレイジングハートの作った脳内戦闘シミュレーションを行っている。
更に塾や翠屋の手伝いがない時は放課後も魔法訓練、夜は機動系訓練。
まさしく魔法漬けと言う言葉がぴったりな状況だ。
下手な武装隊の連中よりもよっぽど密度の濃い日々を送っている。
それでも近接系訓練がないのは、砲撃魔導師らしいと言った所か。
そろそろ完全休養を取らせないとな、疲労もピークに来る頃だろうし。
ユーノもその辺のさじ加減を分かってるかが微妙だからなあ。
いっその事クロに教導資料を送ってもらおうかと考える。
ユーノは一応正規教育を受けたらしいが、当然の事ながら人に教えるのは初めて。
同様に俺も魔法を誰かに教えた経験はない。
何かしらの資料がなければ、これ以上の事を正しく教えるのは難しいだろう。
【ねえ、ジンゴ君】
と、考え事をしているとなのはからの念話。
念話している間はシミュレーションは出来ないようにさせたのでちょっとは休憩になるだろうと思い、会話を長引かせようと考えながら返事をする。
【っと、なんだ?】
【どうして三年生なの?】
【んー、俺も今日ここに来るまで三年に編入とは聞いてなかったんだぞ。当然ながら理由も聞いてない】
【そっかあ】
【ただ、想像はつくな】
【ふぇ?】
【俺を学校に通わせる為の名目上の任務とは言え、任務は任務。
一足先に卒業したんじゃ護衛失格だろ】
【あ……ごめんね、ジンゴ君】
【なんでお前が謝る?】
【だって、教室に来た時ジンゴ君凄い不機嫌そうだったし。
一歳とは言え年下の子に囲まれてるのって、居心地悪いんじゃないかな?】
【まあ、少しはそう言うのもあるけどな。
でも教室に来た時に不機嫌だったのは別件でだ】
【そうなの?】
【ああ】
内心で嘆息してから続ける。
【俺が怒ってたのはな、それが全く俺に伝えられてなかった事と、ヒントはあったのに気付かなかった俺自身に対してだ。
ついでに加えりゃさっきの任務云々は建前で、単に面白そうって理由でばあちゃんがそうした可能性が高いって事だな】
【お……面白そう……】
【覚えておけ、なのは。
ばあちゃん、クローベル統幕議長はな、ミッドチルダじゃ伝説の三提督なんて英雄視されてるけど仕事以外じゃただのはっちゃけ婆さんだ。主に、被害者は俺だが】
【……大変なんだね】
【分かってくれるか?】
あ、やべ、涙がちょちょぎれそうだ。
チャイムが鳴って休み時間に入っても、転入生にありがちなクラスメートに群がられての質問タイムはなかった。
恐らく俺が教室に入ってきた時、機嫌の悪さにかまけて無意識に威圧してしまったせいだろう。
目つきの悪さも手伝って、怖い人だと認識されてしまったらしい。
まあ、この方が面倒がなくていいか。
元々日本人離れした容姿を持ち、現在右腕を三角巾で吊っている俺は異常に目立つ。
囲まれでもしたら休み時間は丸々ぱあだろう。
ばあちゃんのメールに返信しながら次の授業の準備をしていく。
はて、教室の人が減ってるのはなんでだ?
ふと現状に気付いて首を捻ると、特徴的な三色が視界に入る。
「あ……あの……クローベル君」
「ん?」
「次、移動教室なのよ。あんたまだ特別教室の場所、知らないでしょ?」
なるほど、そう言う事か。
立ち上がりながらこのお節介な、お人よしの女の子達に少しだけ笑いかける。
「ああ、ありがとな。えっと……」
知ってるけど、今名前を呼ぶのは不自然だしなあ。
「アリサ・バニングスよ」
「つ、月村すずか、です」
「バニングスと月村な、サンキュ」
人見知りするっぽいすずかから少しだけ距離を取り、教科書を掴む。
「……何よ、思ってたより普通じゃない」
「何がだ?」
聞こえてるとは思ってなかったらしい。
アリサはびくりと肩を震わせて、俺を睨みつけてきた。
「あんたがよ!」
答えになってないぞ、アリサ・バニングス。
いまいち要領を得なかったので金髪の後ろで苦笑いしている、栗毛の猫へと視線を飛ばす。
彼女は俺と目が合うと、笑みを深くした。
「なのは、どう言う意味か分からねえんだが……」
「にゃはは。ジンゴ君今朝は機嫌悪かったから。私でもちょっと怖かったもん」
「なるほど、そりゃすまんかった。
安心しろ、二人共。朝は別件で機嫌が悪かっただけで、素の俺はこんなもんだ」
「って言うかあんたら知り合い?」
む、どう答えたものか。
俺の勘的に、アリサはクロと同じような匂いを感じるんだよなあ。
「あ、えっと、ジンゴ君はね――」
「生死を共にした仲だ」
「は!?」「え!?」
なのはが余計な事を言う前に言葉を重ねた。
おうおう、きょとんとしてる顔がおもろいねえ。
「む……なんかいまいちだな。
そうだ、生き別れた幼馴染で最近感動の再会をしたんだ」
「はあっ!?」「ええっ!?」
「にゃ!? ジンゴ君、言ってる事滅茶苦茶だよ!?」
「誇張表現はあるが嘘は言ってないぞ」
「誇張表現がある時点で充分すぎるほど嘘よ!」
べしっと教科書で叩かれる。
角でなかっただけマシだとは思うが、充分に痛い。
「……ん、ナイス突込みだバニングス」
それはいいから教室移動しようと言うとアリサに呆れた顔を向けられた。
まあ、さっきまで緊張で固まっていたすずかがくすくす笑っているので、俺としては作戦成功と言っていいだろう。
「で、結局本当の所は?」
廊下を歩きながらアリサに詰問――これはもう詰問と言っていいと思う。主にその表情が――される。
「幼馴染ってのは本当だ。尤もなのははさっぱり覚えてなかったけど」
髪の色が変わっているから無理もないのだろうが。
そう言った事情はおくびにも出さずいけしゃあしゃあと言い放つ。
妙にあわあわしているなのはが面白い。
「「なのは(ちゃん)……」」
「にゃ、にゃあああっ。
三、四歳の頃の事なんてジンゴ君みたいに詳しく覚えてないよう」
「ふっ、月日が過ぎるのは早すぎるぜい。
あの頃のなのはは本当に懐いてくれて可愛くてなあ。
ちょこちょこ俺の後ろをついて歩いては、刃お兄ちゃんって呼んでくれてたのに今はこんなものか……」
「ほえ!? そ、そうなの!?」
「……あれ?」
「ん、どうした月村?」
突然疑問顔になったすずかに話を振る。
「ジン……お兄ちゃん?」
「ああ、そう言う事か。俺はなのはの一つ上だからな。ついでに四月二〇日生まれだ。
なのはが早生まれな事を計算に入れりゃ、二年弱年上だな」
「もう過ぎてるわね……って、あんた一こ上なの? なんで三年にいるのよ」
「あー」
カバーストーリーとして用意されたアルビノの話をすると、二人ともなんとか納得はしてくれた。
尤もアリサの方はまだ訝しんでいたようだが。
曰く、肌の色が普通だし目茶目茶元気じゃない、だそうな。
一応、成長たおかげで身体も丈夫になってきたと言い訳しておく。
やっぱこの設定無理があるぞ、ばあちゃん。
恨みがましい目で上空を睨む。
まあ俺の思いが届くはずがないし、届いてもあの人は笑い飛ばすだろう。
話の流れで二人に名前で呼んでいいとの許可をもらう。
三人の中でなのはだけ名前呼びなのは違和感があると言う事らしい。
俺の方も苗字は長くて呼びにくいので名前で呼んでもらう事にした。
「それでその右手、どうしたのよ?」
「ちょっと前に女の子をなのはに向かって投げ飛ばしたら脱臼した」
「ええっ!? 大丈夫、ジンゴ君?」
「突っ込む所が間違ってるわよ、すずか。
って、そうじゃなくて、流石にそんな馬鹿な話あるわけないでしょ。
ジンゴ、冗談も大概にしなさいよ!!」
「むう……俺は冗談は好きだぞ、冗談は」
なんせさっきから俺がギリギリ発言をする度に慌てるなのはの顔が堪らない。
「なによその含みの持たせ方。なのは、実際はどうなの?」
「にゃはは、の……のーこめんとで」
「……ジンゴ?」
「さて、な。秘密にしておいた方が面白そうだ」
嘘はついてないしな。
むきーと奇声を上げるアリサを見ながら特別教室に入る。
この分ならそれなりに楽しくやっていけそうでなによりだ。
なお、昼休みになのはが、朝俺が忘れていった弁当を教室内で渡したせいで一悶着あったのはご愛嬌だろう。
そのせいで現在高町家に居候している事がばれてしまったが、まあ割とどうでもいい話である。