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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 ゆっくりと時間をかけて、ようやく俺となのはは家族になった。
 その翌日に父さんの目が覚め、俺と家族の間にあった薄い膜のような壁は、この日を境に徐々に消えて行く事になる。





 午前中、俺は父さんの病室に顔を出し、魔力による回復促進を行うのが日課になった。
 もちろんなのはのリンカーコアに刺激を与えるわけにはいかないので、治療中は病室の外に出てもらっているのだが、

「やーっ!」
「すぐ戻るからちょっとだけ待っててな。ほら、今日は姉ちゃんも一緒だから」
「なのは、ジュース飲みに行こ。すぐにアーにぃも来るから、ね」

 あの日以来なのはが俺にべったりになってしまったのが現在の悩みなわけで。

 あれ以来なのはは少しずつ家族に甘えるようになった。
 が、俺に対してのみ遠慮と言うものがなく、それ故俺から引き離すのも一苦労。
 そのせいで父さんの治療前はいつも大騒ぎで、ここの所病院の朝の名物となりつつある。

 そこっ、微笑ましげに見てないで手伝ってよ、父さん。

 なんとかなのはを引き離して治療に入る。
 まあ、20分以内に戻ると確約させられてしまったが。
 くくっと声を殺して笑う父さんをじろりと睨むと肩を竦めて苦笑された。

 ちくしょう。
 父さんはルックスいいからそう言うの似合うよなあ。

「しかしあれだな。
 目が覚めたらなのははアランにべったりか。
 父親としては複雑な所だ」
「なら早く治して帰ってきてくれよ。
 そもそも父さんが怪我しなきゃ、なのはもここまではならなかったろうさ」
「すまんすまん」

 口では謝ってるものの、その目が全てを裏切っている。
 そんな父さんの様子に溜息をつきながら魔力を送り続けた。

「けど良かったとも思うんだよ。
 おかげでアランも前より遠慮がなくなってきたしな」
「父さん……」

 やっぱり父さんには気付かれていたらしい。
 当人である俺でさえこうなってからようやく気付いたと言うのに。

 父は強い、か。

 淀みなく手を動かしながら、ふと父親というフレーズで思い出した事を語る。

「俺の親父の話ってした事あったっけ?」
「そういえばあんまり聞いた事ないな。
 確か時空管理局と言うところの局員だったか」
「ああ。そもそも親父はベルカの騎士って言ってさ、本来なら局じゃなくて教会に務める騎士のはずだったんだけど」
「へえ、そんな人がなんで局員に?」

 俺も昔疑問に思って聞いた事があった。
 そもそも教会と管理局は協力関係にあるが、そう仲は良くないのだ。

「『俺は昔正義の味方になりたかったんだ』だと。
 まあ、子供みたいな人だったな。
 内に篭っている教会より外へ手広くやる管理局の方が、遠くにいる人まで手を伸ばせると思ったから入局したらしい。
 ……最もそんな綺麗事ばかりじゃやってられないのが組織ってもんなんだけど」
「それは……そうだな。でも立派な人だったんだな」
「ああ。普段は抜けてて、マイペースで、強引な所もあったけど、そう言う所は尊敬してたよ」

 少ししんみりとした空気が流れる。
 魔力を送りすぎないよう注意しながら話を続けた。
 こういう時魔導師特有の思考分割術、マルチタスクは便利だ。

「ちょうどさ、俺が飛び級での卒業が決まった頃だったんだ、親父が殉職したのは。
 卒業のとき元上司だって言う局員の人が来て遺言を伝えてくれてさ」
「うん」
「たった一言だった。
 でも、わざわざ伝えに来てくれたその人に感謝したよ」
「うん、なんて?」

 静かに、父さんが続きを促す。
 ふいに俺の中で親父の姿と父さんが重なった。

 ああそうか、だから俺はこんな話を始めたのか。

「『どうか幸せに』って。それだけ」
「そうか……」

 治療は終了。
 あと10日もすれば完治するだろう。
 父さんの強靭な体と体力に脱帽だ。

 顔を上げると穏やかな顔で父さんが俺を見ていた。

 ああ、そうか、そうだな。

「俺は今、幸せだよ、父さん」

 するりと、当たり前のように言葉が出た。

 ずっと届かなかった言葉が、今ようやく届いた気がする。
 照れる事はない。
 アラン・F・高町は今、確かに幸せだ。

「さて、じゃあそろそろ行くよ。
 あんまり遅くなるとお姫様の機嫌が急降下だ」
「確かに。
 もうすぐ戻れると思うけど、それまで頼んだぞ、アラン」
「任しとけって」

 立ち上がって荷物をまとめる。
 さて、妹君の機嫌を取りながら翠屋に行くとしますか。

────────interlude

 アランと入れ替わりで美由希が病室に戻ってきた。

「あれ、とーさんなんかあった?
 なんだか嬉しそうだけど」

 ベッドサイド、先程までアランが座っていた備え付けの椅子に座りながら質問してくる。
 そんなに顔に出ていただろうかと思案しながら、美由希の問いに頷いた。

「ああ、アランとちょっと話をしてね」
「そんなのいつもの事じゃない」
「まあな。
 でもあの時強引にでも養子にして良かったとようやく思えたんだよ」

 出会った頃のアランはどこか張り詰めた雰囲気を持っていた。
 第一印象は硬いが脆い。
 何かに躓いたらそのままこけて砕けてしまいそうな、そんな子供だった。

 なのはの恩人であると言う事もあるが、その雰囲気が気になったからこそあそこまで強引な手段を講じて養子にしたのだ。
 子供とは思えない彼の言動が、どうやら素のものらしいというのはこれまで一緒に暮らしてきて理解したのだが、その事を除いてもあの頃のアランはどこか無理をしているように見えて仕方がなかった。
 ようやく、俺達家族とアランの間にあった壁が取り払われてきている。
 その事が嬉しく、またそれを成したのが娘のなのはだという事がいっそう誇らしかった。

 まあ、欲を言えば俺自身がその壁を破ってやりたかったのだけれども。

 きっとあの子のあの言葉は俺に向けてのものじゃない。
 父親として嫉妬を覚えないわけではないが、アランが幸せだと言ってくれた事の方が嬉しかった。

 とても父の事を尊敬し、愛していたのだろう。
 ちょっとした言葉の端々からその感情を垣間見る事ができた。

 ……だからこそ父の事を話している時の誇らしげな顔と、管理局の事を話す時の苦々しい顔のギャップが気になった。




「……考えてわかるものじゃないしなあ」
「ん、なにか言った、とーさん?」
「いや、なんでもないよ」

 まだあの子は色々な事を隠している。
 以前から思っていた事ではあるが、それが今回の件で確信に変わった。

 アランの人柄はこれまで一緒に暮らしてきて大体わかっている。
 大方隠しているのも俺達に迷惑をかけたくないとか、話すと巻き込んでしまうとかその辺りの理由だろう。

 もっと甘えてくれてもいいのに、と大きく溜息をつく。

「?」

 と、思いっきり美由希が訝しげにこちらを見ていた。

「ああいや、早く復帰したいなあって。
 さすがにベッドにこうも縛り付けられると身体も勘も鈍る」
「ちゃんとおとなしくしててよ?」
「わかってるよ」

 心配性の娘に苦笑して、新しい家族を思う。

 誰がなんと言おうとアランは俺の大事な息子だ。
 あの子が言い出すまで俺は待っている事にしよう。

────────interlude out

 ご機嫌斜めのなのはを連れて歩く。
 さっきからずっと宥めているのだが、今日は中々機嫌を直してくれない。
 ここの所病院帰りのなのははいつもこんな感じだ。
 どうやら駄々をこねて俺が困る様子が楽しいらしい。
 それをわかっていても許容してしまう俺は、やっぱり皆が言う通りなのはに甘いのだろう。
 妹なんて今までできた事がないから、どう接したらいいのか加減がわからない。

「ほらなのは。店が見えてきたぞ。
 早く行って母さんに昼飯作ってもらおう」
「やー」

 まったくどうしたものやら。

 困り果ててる俺を微笑ましげに観察しながらおばさん達が通り過ぎて行く。

 ちょっとは助けてくれてもいいのに。

「あら、アラン君。こんにちは。
 もう病院帰り?」
「こんにちは。
 ええ、これから店でお昼です」

 と、俺を呼び止めたのは翠屋常連のおばさん。
 俺が立ち止まるとなのはも立ち止まり、ちょこちょこと寄ってきて俺の着ているシャツの裾を掴んだ。

「なのはちゃんも、こんにちは」

 おばさんが目線を合わせて優しげに話しかけると、なのはは裾を引っ張って俺の後ろに隠れてしまう。
 最近になって知ったのだが、なのはにも人見知りはあるらしい。
 まだ3歳前だから当たり前なのだが、それまでそういった様子がなかったので酷く驚いた記憶がある。

「なのは、ご挨拶は?」
「あの……こんにちは」

 押し出すようになのはをおばさんの前にやるとようやく挨拶をした。
 おばさんは気を悪くした様子もなく、あらあらちゃんと挨拶できてえらいわねえ、と微笑む。
 俺がご褒美に撫でてやると、ふにゃりと笑顔になった。

「それじゃあ俺達はこれで。
 またいらっしゃって下さいね」
「ええ。
 今度はアラン君達がいる時に行くようにするわ」

 にこやかに笑うおばさんと別れると、自然と手を繋ぐ。
 どうやら機嫌は直ったらしい。

「今日の昼飯はなんだろな」
「なのは、オムライスがいい!」

 元気良く歩くなのはが、転ばないよう気をつけながら歩く。
 母さんが経営している喫茶翠屋はもうすぐそこだ。




 昼食はなのはの希望通りオムライスだった。
 皆は俺がなのはに甘い甘いと言うけど、俺から言わせてもらえば皆もかなり甘いと思う。
 どう見ても我が家最強は末っ子のなのはだ。

 で、今俺は翠屋の手伝いをしている。

 本来俺は調理も可能なのだが、体格の関係で断念。
 仕方なく注文をとったり、配膳を行っている。
 体が4歳児とはいえ、きちんと鍛えてあるので料理を運んだりするのも問題ない。

 ただ、傍から見ている分には少々危なっかしく見えるらしい。
 新規の客に微妙な顔をされる事もしばしばある。
 逆に常連のおばさん達や女子高生からは恭也も俺もかなりの人気があった。
 一生懸命頑張っている姿がかわいいんだそうな。

 俺も恭也もかわいいって言葉からはかなり遠い位置にいると思うんだけどなあ。

 で、我が家の姫さんはと言えば、

カランカラン

「いらっしゃいませー」

 レジ近くで愛想を振りまきまくっている。

 あの日の後、なのはに何かお手伝いがしたいと言われた結果こうなったわけだ。
 さすがに俺達と同じ事はできないからこの形に落ち着いた。
 ただ愛想を振りまくだけなのだが、どうも家族の役に立っていると言う感覚が重要らしい。
 おかげで翠屋にいる間はなのはも始終上機嫌だ。

「ありがとうございましたー」

 最後の客がはけた。
 ここから先は俺となのはは逆に邪魔になるので、先に帰っておく事にしている。

「母さん、恭也、先帰ってるぞ」
「はい、お疲れ様。
 悪いけど家の事お願いね」
「俺も掃除が終わったらすぐ帰るからな」
「りょうかーい」

 これから母さんは明日の仕込み、恭也は店の掃除がある。
 俺となのはは来た時のように手を繋いで家路についた。




 帰ったらすぐになのはと一緒に手を洗う。
 今日の夕食は何にしようかと、頭の中で冷蔵庫の中身を思い出しながらなのはを抱き上げてリビングへ。

 ちなみに外ではなのはを抱き上げないようにしている。
 2歳児を軽々と抱き上げる4歳児の姿は、かなりシュールだからだ。

 冷蔵庫を漁って材料を取り出す。

「なのはー、今日は魚でいいか?」
「うん!」

 言うと同時になのはが台所へ入ってくる。
 ここでもやらせてやる事が大事なのだとこの1週間でよく学んだ。
 固く絞った台布巾と箸立てをなのはに渡す。
 食卓の準備はなのはの仕事なのだ。

 ご飯を炊いて味噌汁を作る。
 今日は煮物と焼き魚で完璧に和食で揃えてみた。
 身長が足りないので台を使うが、最近では大分慣れてきて作業もスムーズだ。

 魚をグリルにセットして後は皆の帰宅を待つだけになったので、なのはを呼んでソファーに座る。
 すぐさまなのはがやってきて、ここが定位置とばかりに俺の膝の上に座った。
 この後はゆっくりと2人で話をするのがここの所の習慣だ。
 今日楽しかった事、大変だった事、ほんの些細な事でも報告し合い、分かち合う。
 時間が余ればなのはにねだられるまま、御伽噺や御伽噺のような俺の体験談を話して聞かせる。

 恭也と母さんが帰ってきたら皆で夕食を食べ、風呂に入ってなのはは就寝。
 俺はそれから道場で鍛錬し、風呂に入って就寝。

 ここ数日繰り返した、もはや日常になってしまったサイクルだ。

 ベッドに転がって、窓から空を見上げる。
 雲1つない空に、真円の月。

 神なんか信じてないが、それでもただ1つだけ願いたかった。

「おやすみ、ドラッケン」
≪おやすみなさい、マイキング≫




 どうかこの幸せな日々が、ずっと続きますように。
 

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ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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