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今までならジュエルシードがある所に確実に現れると予想できたが、全てが回収された今向こうに対する餌が殆どないのだ。
多分近い内にボロを出すか、なんらかのアプローチがあるのではないか。
現在の手持ちの情報で判断できるのはその程度の事でしかなかった。
仮眠後行われたリン姉との方針会議でそう結論付けると、俺はさっさと海鳴に戻り、久しぶりの我が家の扉を開けた。
「ただいまー」
「お帰りアラン、眠そうね。きちんと寝たの?」
「ただいま母さん。一応2時間程仮眠は取ってきたさ。
まあ学校行ってる間はそう体力を使わないから大丈夫」
家の中が俄かに騒がしくなる。
どうやら丁度恭也達も戻って来てこれから朝食のようだ。
いいタイミングと言えばそうだろう。
「なのはとユーノは?」
「まだ寝てるわ。悪いけど起こしてきてもらえるかしら?」
「あいよ」
今日は朝の鍛錬に参加していないらしい。
まあ、ここ数日予定が詰まってたからなあ。
疲れてても仕方ない。
なのはの部屋の前で立ち止まる。
どうやら起きてはいないようだ。
一応ノックしてから中に入ると、外に漏れ出していた音が一段と大きくなった。
思いっきり携帯のアラーム鳴ってんぞ。
「んー」
ごそごそと布団から出る事なく手だけで携帯を探し始めるなのはを見ながら頬を緩ませ、軽く山になっている布団を揺する。
「なのは、起きろ」
「うん……お兄ちゃん……お兄ちゃん!?」
いきなりがばりと起き上がるなのはに俺は笑みを深めた。
「なんでそんなに驚く。朝には戻るって言ったろう?」
「あ、うん。けどびっくりしたの」
「そうか。そろそろ朝食だから着替えて降りてこい」
「はーい」
返事を聞いたのでさっさと部屋を出て、隣の俺の部屋へ入ろうとした所で、
「あ、おはようございます。もう帰ってたんですね、アランさん」
「ああ、おはようユーノ。さっき帰ってきた所だ」
タイミング良く出てきたユーノを連れてリビングへ。
飯食ったら学校か。
だりいな。
授業の初っ端から寝ようとしたら、なのはから念話が入った。
【あのね、アリサちゃんが犬を拾ったんだって】
【犬?】
【うん、オレンジ色の大型犬。おでこに赤い宝石が付いてたって……】
【あいつか】
【多分。それでアリサちゃんが今日家に来ないかって言ってるんだけど】
【昼休みお前等の所へ行く。俺とユーノも行けるように約束を取り付けよう】
その後約束を取り付けたものの、昼休み以外はずっと寝ていた。
俺はいったい何をしに学校へ行ったんだろう?
バニングス邸の庭に置かれた大型犬のケージ。
その中にあいつはいた。
【やっぱり、アルフさん】
傷だらけの体を見て顔を顰める。
最悪だ。
フェイト嬢は無事なのだろうか?
【あんたらか……】
【その怪我、どうしたんですか? それにフェイトちゃんは……】
途端、なのはの念話にアルフは背を向けて項垂れてしまった。
「あらら……元気がなくなっちゃった」
「やっぱり傷が痛むのかな? そっとしておいてあげようか……」
すずかがそう言うとなのはとアリサが同意し、その場を立つ。
「あれ、アランさん?」
「ユーノは一緒に遊んで来い。俺は獣医術の心得もあるし、治療を施しておく。
多分知り合いの飼い犬だしな【アルフからは俺が事情を聞いておく。
回復促進も使うから2人がこっちに来ないように頼む】」
「アランさんって……なんでもありね」
違う、なんでもありだと認識されるように行動しているだけだ。
その方が都合がいいからな。
内心の突っ込みは顔に出さない。
「お兄ちゃんに任せればすぐに元気になるよ【わかったの。それじゃあお願い、お兄ちゃん】」
【わかりました、アランさん】
そうして4人はバニングスの館の中へ足を向けた。
「それじゃあそろそろはやても来るし、お茶にしましょ。
おいしいお茶菓子があるの。アランさんにも後で鮫島に持って来させるわ」
「お構いなく」
わいわいと話しながら去って行くのを確認し、アルフに向き直った。
指を噛み千切る。
軽く陣を張って、展開。
「人払い完了。ほれ、こっち来い。治してやる」
「あんた……」
「プレシア、だな?」
「!? 知ってたのかい【あんたがここにいるってことは……管理局の連中も見てるんだろうね】」
全員に聞こえるようオープン回線で念話を始めるアルフ。
俺はケージを開けるとアルフに近づき、魔力を送り始めた。
特にわき腹が酷い。
【時空管理局、クロノ・ハラオウンだ。こちらもいくつか予想は立てている。
正直に話してくれれば、悪いようにはしない。
君も、君の主、フェイト・テスタロッサの事も】
俺達は返答を待つ。
予想は立っているが、当事者の言葉はやはり大事なのだ。
【話すよ、全部。だけど約束して。
『フェイトを助ける』って。あの子は何も悪くないんだよ】
【約束しよう】
【エイミィ、録音を。罪を軽くする材料に出来る】
【もう出来てるよ、アラン君。いつでもOK】
その言葉にアルフは頷くと、話し始めた。
【フェイトの母親、プレシア・テスタロッサが全ての始まりなんだ……】
やはり、何も知らされてない、か。
全てを聞き終わって俺は内心で嘆息する。
シアの奴が何をしようとしているのかはわからない。
だけど、今までの流れから考えればこの2人に良い事ではないのは確実だろう。
【2人共聞いたな】
【うん】
【はい】
【どうやら先生の予想の中でも最悪のパターンですね。
アルフの証言も嘘偽りなさそうです】
ちなみにはやてがここに来る事が分かった時点で、彼女にはあらかじめ秘匿回線で念話に反応しないよう言いつけてある。
あの子の存在が管理局に知られるには、まだ早い。
【どうなるのかな?】
なのはの疑問はユーノとはやての疑問でもあるのだろう。
それにクロノが執務官として答えた。
【プレシア・テスタロッサを捕縛する。
アースラを攻撃しただけでも、逮捕の理由にはお釣りが来るからね】
【そうなるだろうな。アースラ組みはリン姉の指示待ちか】
【先生達はどうします?】
【そうだな……なのは、遣り残した事があるよな?】
【うん。私はフェイトちゃんを助けたい。
アルフさんの意思と私の意思、フェイトちゃんの悲しい顔を見ると……私もなんだか悲しいんだ。だから助けたい。
それに友達になりたいって言った、その返事を聞いてないしね】
いい決意だ。
ならその決意を俺は後押ししよう。
【ならその舞台を俺は整えておく事にするか。
リン姉と一緒に作戦を立てておこう。ここを辞したら一旦そちらに向かうぞ】
ほっとした雰囲気が念話を通し伝わってくる。
【わかりました。こちらとしても先生達の協力はありがたい。
フェイト・テスタロッサの事は先生達に任せます。……それでいいか?】
アルフは頷き、更に念話を送ってきた。
【アランとなのはだったね。
頼めた義理じゃないけど……お願い、フェイトを助けて。
あの子、今ほんとに独りぼっちなんだよ】
【うん、任せて】
【頼まれるまでもない。アーシャの妹なら俺の妹分でもあるしな】
【アーシャ?】
【アリシア・テスタロッサ。
……亡くなったフェイト嬢の……姉で、俺の幼馴染さ】
出来るだけ不敵に笑おうとして、失敗した。
アーシャの話をする時はいつも情けない顔をしている気がする。
【そうかい。だからプレシアの事を知ってたんだね】
【ああ】
会合はそれで終了した。
ミスタ鮫島に紅茶を頂いてから、仕事が入ったとバニングス邸を一足先に辞す。
その足で俺はアースラへと向かった。
────────interlude
「フェイト……起きなさい、フェイト」
目を覚ますと直ぐ傍に母さんがいた。
「はい、母さん」
「あなたが手に入れてきたジュエルシード7つ、これじゃ足りないの。
最低でもあと7つ、出来ればそれ以上。急いで手に入れてきて、母さんの為に」
「……はい」
返事をしてから上半身を起こす。
マントが体にかけられていたのはアルフがやってくれたのだろうか。
あれ? そう言えばあの子の魔力を感じない。
「……? アルフ?」
誰に聞くでもなく発されたその問いに、答えたのは母さんだった。
「ああ、あの子は逃げ出したわ。恐いからもう嫌だって」
母さんが屈んで私に触れる。
ああ、こうして手で肩を抱かれるなんていつ以来の事だろう。
「必要ならもっといい使い魔を用意するわ」
母さん、アルフはいい子だよ。
そう言いたいけど、結局言葉は出てこなかった。
「忘れないで、あなたの本当の味方は母さんだけ。いいわね、フェイト」
なんでだろう。
母さんの顔が見れなくて思わず目を逸らしてしまった。
それでも私の口はいつも通りの返事をする。
「……はい、母さん」
母さんが立ち上がる。
転送魔法陣が母さんの手の中に展開され、現れたのは待機状態のバルディッシュ。
「バルディッシュ?」
「ええ、そうよ。あなたのデバイス。あちらにはアランがいるでしょう?」
アラン……母さんに伝言を頼んだ魔導師。
銀の髪と蒼の眼を持つ、不思議な人。
「私が聞いた噂が全部正しいならあの子はかなりの使い手よ。
きっと今のままのあなたじゃ勝つのは無理」
それでも、私は母さんの為なら勝つよ。
「だから私がデバイスを改造しておいたから使いなさい」
「え……」
「あの子が現場に落としていったこれ。
同じものを倉庫から探してきてデバイスに組み込んだわ。
これがあなたの新しい力になるはず」
言って見せられたのは、あの銀の魔導師が使っていた薬莢のようなもの。
そう言えばアルフが、母さんの雷を受け止めた時に使った物が私のジャケットに引っかかっていたと言っていた。
でもそれよりも気になっているのは、
母さん自ら私に何かしてくれるなんていつ以来の事だろう。
私はそれだけで満たされた気分になって行く。
「使い方はデバイスに聞きなさい。インストールしておいたわ。
いい事フェイト。この力で、ジュエルシードを必ず取ってきてちょうだい」
だから返事なんて決まってる。
「はい、母さん」
────────interlude out
「さて、どうするか。ようやくフェイト嬢保護の名目が立ったわけだが」
「問題はフェイトさんの現在位置が分からない事と、プレシア女史の拠点座標が割り出せてない事ね」
ミーティングルームには俺とリン姉、クロノにエイミィの4人。
「正直この状況じゃあ穴のある作戦しか立てようがないな」
「やっぱりそうですか」
「アラン君はどう思う?」
「そうだな……」
結局の所、事件の全てはシアに帰結する。
ならば、
「フェイト嬢の保護はさて置き、プレシアの根城を割り出す事を優先する」
「そうね、それが一番かしら」
俺とリン姉の言葉を聞き、2人の表情に苦いものが混ざる。
理性は理解しても感情が納得していないと雄弁に語っていた。
そして実際の所、それは俺とリン姉も同じだ。
ただ俺達は顔に出さない術を見につけているだけ。
クロノとエイミィのポーカーフェイスも中々のものだが、俺達に比べると僅かに年季が足りない。
「アルフが求めたのはフェイト嬢を時空管理局で保護する事じゃない。
彼女を助ける事だ。ならばプレシアを優先するのは当然だろう」
「それは……わかっていますが」
搾り出すような声に肩を竦める。
どっちがフォローするかをアイコンタクトして彼女に任せる事にした。
「それに結局座標の割り出しにはフェイトちゃんがいた方がいいものね、アラン君」
「「え?」」
「と言うか今のコンタクトだけでよくそこまで読めるな」
「伊達に提督やってないのよ」
参りましたと両手を挙げる。
まったく、どこまでお見通しなんだか。
「クロノもエイミィも最後まで聞きなさい。
大体アラン君が非人道的な作戦を立てられるわけがないんだから」
「甘ちゃんで悪かったな」
「いいえ、それがあなたのいい所よ」
「え……ええ!?」
これだからリン姉は苦手だ。
あっさりこちら側の考えを読んで、揺さぶりをかけてくるのだから。
敵には回さんようにしよう。
勝てるしねえ。
置いてけぼりの2人にも分かるようにぴんと人差し指を立てて説明を始める。
「今までの状況を見る限りプレシア・テスタロッサは地球に顔を出さない。なら座標を割り出すには?」
「あ、次元干渉魔法」
「正解。だが先のように“行き”だけの魔法ならアースラにも干渉されちまう。それなら――」
「“行って来い”の魔法を使わせればいいのよ。
それならプレシア女史の所へ戻るまでをトレースするのは容易いわ。
問題は女史が干渉してくるかどうかよね」
「ああ」
ここまで来てクロノとエイミィの顔にようやく理解の色が点る。
「正直な、海のジュエルシード6つ、あの時に彼女が干渉してくる確立はそう高くないと踏んでいた」
「え……そうなんですか、先生?」
「ああ、良くて2割程度、そんな所だな。
そして恐らくアースラの行動停止時間がもう少し長けりゃ、フェイト嬢の切捨てではなくジュエルシードの回収をしてたはずだ。
ここに来ての性急な動き。そこから導き出されるのは?」
「……プレシア・テスタロッサは焦っている?」
「多分な」
あの攻撃は殺傷設定だった。
恐らくフェイト嬢から座標が洩れる事を恐れての口封じ。
アルフはシアの根城である時の庭園から落とされ転移したらしい。
アルフから洩れる事を考えて、フェイト嬢を送り出した後座標を変えているだろう。
つまり、フェイト嬢が時の庭園にジュエルシードを持って帰ることは不可能。
「以上の事からジュエルシードを無防備にすりゃあ、ほぼ確実に彼女は魔法を使うと考えられる。
今度は確実にジュエルシードを確保する為に」
「そして物質転送魔法なら私達の邪魔をする余裕は流石のプレシア女史にもないでしょう」
「問題は、彼女に渡るジュエルシードはなるべく少なくしたい事」
「そこでフェイトちゃん、ね」
頷く。
ここから先は私情も入ってしまうので、あまりほめられた作戦じゃないのだが。
「アルフの話じゃ必要最低限と言われたのは14個。多けりゃ多い程良いらしい。
すでに街に散ってるジュエルシードは殆どないって事も彼女等は分かってた。
……ならば、俺達から奪うしかない」
「かと言って大きな組織、管理局から奪うのは難しい。
アラン君には軽くあしらわれている彼女が出す結論は恐らく1つ」
「「なのは(さん)を倒して奪う」」
そうして俺とリン姉は不敵に笑い合う。
そりゃそうだ。
これまでの彼女との戦いで、なのははまだ1つも切り札を出してないのだから。
「恐らくなのはが提示する方法は決闘。ジュエルシードを賭けた一騎打ちだ」
「そうか。そこでなのはが勝てば良し、負けてもその転送で場所は割れる。
すぐに局員を送り込んで制圧すれば」
「この一連の事件は終了ってわけですね」
「ま、それが大体の理想的流れだな」
結論が出ると俺はおもむろに立ち上がった。
「どうしたの?」
「なに、結論も出たことだし、俺も今日までは休日だ。
明日の朝になったらまたこっちに来るよ」
「そう。明日の朝までにフェイトさんと遭遇したら──」
「ああ、上手くやるさ」
「彼女達に連絡しておきます」
「頼んだ」
ひらひらと手を振り歩き出すが、会議室を出る直前に思い出し、振り返る。
「よお、リン姉」
「何かしら?」
「ありがとな」
「なんの事かさっぱりわからないわ」
「そうかい」
悪戯っ子の様に笑う彼女に苦笑して、今度こそ部屋を出る。
まったく、狸だな。
さっきの流れじゃなのはとあの子が決闘しなければならない理由は1つもない。
それでも俺の案を通してくれたのは、なのはの、そして俺の事を考えてくれたからだろうに。
本当に、俺の周りにはどうしてこうもお人よしが集まるんだか。
≪あなたも人の事は言えないとは思いますが≫
「何か言ったか?」
≪いえ≫
そうして海鳴に舞い戻る。
俺は確かに、この事件が終局に向かうのを感じていた。
さあ、シア。
俺が勝つかあんたが勝つか。一発限りの大勝負といこうじゃないか。