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────────interlude
アースラからプレシアさんのいる時の庭園へと転移する。
うわあ、モニターで見てたから知ってたけど、これは……
「いっぱい、いるね……」
ユーノ君が辟易とした感じで呟く。
モニターで見るのと生で見るのは大違いだ。
「まだ入り口だ。中にはもっといる」
そういえばエイミィさんは全部Aクラスって言ってた。
きっと奥に行けば行く程増えるだろうし、そうなってくるとちょっと大変。
「クロノ君、この子達って?」
「ただの傀儡兵、つまり無人兵器だ」
「そっか、うん、それなら」
ベオウルフを構える。
加減が必要ないならこの程度! と気合を入れた所で、クロノ君が私を止めて一歩前に出る。
「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ」
手に持っているのは確かS2Uって名前のデバイス。
そういえばクロノ君のは詠唱以外喋らない。
ストレージデバイスなのかな?
≪stinger snipe≫
「早い!?」
鞭のように発射された誘導弾は、一筆書きのように次々と傀儡兵を破壊して行く。
「スナイプショット!」
クロノ君のトリガーワードと同時に誘導弾が加速する。
あっという間に玄関前の傀儡兵は駆逐されてしまった。
そのまま駆け出したクロノ君を私達も慌てて追いかける。
途中、虫食いみたいに床や壁に穴があいている所があった。
「その穴には気をつけて!
虚数空間と言って、あらゆる魔法が発動しなくなるんだ。
落ちたら最後、重力の底まで落ちて上がってこれなくなる」
興味深げに見ていたのを察したのかクロノ君が注意してくれる。
これが虚数空間……お兄ちゃんが地球に来る時に落ちた場所。
落ちたら最後上がってこれない空間から帰還したお兄ちゃんの非常識っぷりをどうなすればいいのか、思わず悩んでしまう。
まあ、お兄ちゃんだから仕方ない、かな。
よそ事を考えている内に、クロノ君が2つ目の扉を開いた。
中には大量の傀儡兵。
さすがにこれはある程度倒さないと駄目そうだね。
「これはまだ序の口だ。
奥にはもっとうじゃうじゃいるだろう」
クロノ君が私達を振り返る。
その顔は真剣そのものだ。
「だけどボク達はここを通る。通らなければならない」
「行くよ、なのは」
「うん、ユーノ君!」
そうして私達がデバイスを構えたまま踏み出そうとしたその時、
【どうでもいいがさっさとそこをどけ。さっきから射線が取れん】
頭の中にいつもより数段低いあの人の声が響く。
咄嗟に両脇に飛びのくと同時、
「風力開放────70%」
な、70%!?
こんな所でそんな力解放したらっ!?
私は隣にいたユーノ君の後頭部を押さえ、伏せながら向かいに飛びのいたクロノ君に向かって叫んだ。
「わあっ!? なのは、何を──」
「クロノ君っ、伏せてぇっ!!」
今からじゃ大した強度にならないけど、それでもないよりはまし!
「ベオウルフ!」
≪protection powerd≫
「──────我流・嵐槌」
物理耐性強化版プロテクション、プロテクションパワードの発動とお兄ちゃんの声は同時。
私はただ伏せて目を瞑り、頭上の暴風が通り過ぎるのを待つ。
クロノ君、無事だといいんだけど。
嵐は数秒間猛威を振るい、収まった。
「無事か、なのは」
いつもの感覚を頭に感じ、顔を上げる。
よかった、いつものお兄ちゃん…………じゃない!?
切れてる、お兄ちゃん切れてるよっ!!
「ん、どうした?」
私のおびえを感じ取ったのか心配そうにお兄ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。
でも気付いて、お兄ちゃん。
今の状態で冷静な行動をされると逆に怖いの。
「アランさん、眼、色が変わってますよ。紫通り越してもう赤に近いです」
「先生!? って、その眼どうしたんですか!?」
≪キング、このままでは暴走の危険性が。
解放するか、気を静めるか、どちらかをしなければ!≫
皆が一斉に喋ったもんだから、なんだか混乱してきた。
「だああああっ、うるせえっ、黙れっ、一気に喋るな!
ったく、面倒な体質だな、これは。……おい、ドラッケン!」
≪ja≫
お兄ちゃんも同じだったのか、3人を一喝した。
っていうか皆凄い。
あの状態のお兄ちゃんってちょっとした事で爆発しそうだから、私はあんまり話しかけたくないのに。
「お前の主はこんな所で引くような男か?」
≪nein≫
「それでこそ俺の相棒だ。
──────今ここに奏でん、永遠なる光の唄」
ああ、クロノ君がすごい聞きたそうな顔してる。
後で説明が大変そうなの、と台風一過のせいでぼろぼろになった部屋を眺めながら嘆息した。
「我が魂を以て紡ぎ、命ず──────真血開眼[circuit open]」
≪get set ready≫
あ、そうだ。
「お兄ちゃん、トップギアはなしだよ! あと私のリミッターもお願い!!」
「わーってるよ、俺はセカンドギアな。
お前は魔力分けてやるからラストリミットは残しとけ」
「ええー」
「コアの傷も治りきってないんだし、あんま負担かけてっとぼろぼろになるぞ」
「すでにぼろぼろのお兄ちゃんに言われたくないの!」
「お前なあ……」
「ごほん」
「「あ……」」
咳の元を見たらクロノ君が微妙な顔で立っていた。
ユーノ君もなんだか手持ち無沙汰な様子。
「兄妹喧嘩は後にしてもらえますか、先生。時間がないんです」
「あ、あー、わりい、クロノ。
とにかくなのは、俺もトップギアは使わないんだからラストリミット手前まで使えるって事で納得しろ」
「はーい」
「さて、ギアチェンジ・セカンド、解放」
≪gear 2nd, release magic≫
「ほれ、魔力だ」
一気にお兄ちゃんの魔力が膨れ上がる。
あの時いなかったクロノ君は凄くびっくりしてるけど、説明している暇は今はない。
ベオウルフに触れたお兄ちゃんの手から、魔力が送られ、満たされた。
これなら!
「フォースリミット・リリース!」
≪release 4th limiter≫
体が軽い。
くるりとバスターフォームのベオウルフを回して、ナックルフォームに変えた。
この形が私は一番速い。
「それとユーノ、渡し忘れてたがこいつを付けとけ」
「これは……」
ぽんと放られたのは銀細工の腕輪。
中央に翠の宝玉があり、その周りを複雑な文様が覆っている。
「約束してた後方支援型専用思考補助デバイス“ミネルヴァ”だ。
本当は今朝渡す予定だったんだがな、タイミングを逸した」
「あ、ありがとうございます。でも……」
言い淀むユーノ君の気持ちはよく分かる。
このタイミングで渡されても困るのだ。
試運転もなしにいきなり新デバイスを実践投入と言うのは結構怖いものがある。
「大丈夫だ。シンパレートにはかなり気を遣ってあるし、それに言ったろう。
『思考補助デバイス』って。そいつはお前の脳みその拡張領域だ」
「僕の脳みその拡張領域……?」
「展開すれば分かる。起動パスワードは……っと、ベオウルフに送っといたから使え」
言われると同時ベオウルフのコアが輝く。
どうやら通信で起動パスワードを送られたらしい。
届いたと言う意味を籠めて頷くと、お兄ちゃんは顔を上げ、庭園の奥を睨みつけた。
「さて、行こうか。ああ、悪いが俺は先行させてもらうぞ。
あの馬鹿には言わんとならねえ事が山ほどあるんだ」
「執務官としてはあまり単独行動は許可したくないんですが――」
『行きなさい、アラン君。私が許可します』
「艦長!?」
『いいのよ。どうせ言っても止まらないんだから。
それにその中じゃ多分アラン君が一番速いわ。
出来ればプレシア・テスタロッサをさっさと押さえてもらいたいの。
これから次元震を抑えに現場に行くんだけど、あれかなりの負担だから』
「リン姉、サンキュ。クロノもな。
ある程度は削りながら行くが、なのはもユーノも気いつけろよ」
「うん、お兄ちゃんも──」
私が全部言い切る前に、お兄ちゃんは凄いスピードで吶喊して行った。
怪我なんかは大丈夫だと思うけど……壊しすぎて庭園沈没とかしないよね?
「あ、なんかすっごい不安になってきたの」
クロノ君達と再び走り出しながら、私は大きく溜息をついた。
────────interlude out
【聞こえるかしら、アラン】
【……ああ】
秘匿回線が開いたと思えば、庭園の最奥にいるはずの大馬鹿野郎からの念話だった。
俺は失念していたが、彼女がこの回線を使えるのは何もおかしい事ではない。
元々この念話法は幼い頃彼女に習ったのだから。
【そう、まだこの回線を使ってたのね。
ねえアラン、あなたに渡したいものがあるの】
【何を、だ? 問答する時間はとっくに終わったと俺は認識してるが】
【ええ、そうね。私達はどこまで行っても平行線。交わる事はない】
【ならなぜ俺に話しかける】
【あなたにしか託せないものがあるからよ】
その言葉に思わず足を止める。
傀儡兵が一気に襲い掛かってくるが、旋[つむじ]で蹴り飛ばした。
【……何を企んでいる?】
【何を……ね。そうね、私は何がしたいのかしら……】
先程までの狂気はそこになく、俺の知るプレシア・テスタロッサが静かに言葉を紡ぐ。
【きっとこれは私の弱さなの。
この場で唯一私とアリシアを知るあなたに、他でもないアラン・ファルコナーに私はこれを託したい】
【……今、あんたが持ってるのか?】
【いいえ、私の研究室のデスク上に置いてあるわ。
あなたがいるフロアの、私の真上に位置する部屋よ】
降りかけていた階段からUターンする。
時間稼ぎかもしれないが、いざとなったら床をぶち抜けばいい。
【ありがとう】
【礼を言う位なら止まってくれないか?】
【無理ね。私はもう止まらない……止まれないのよ!】
それを最後に念話が切れた。
くそっ、なんでここはこうも無駄に広いんだっ。
研究室の扉は……あった!
乱暴に扉を開く。
1分1秒が惜しい時なのに、俺はなんでこんな寄り道をしてしまうのか。
自分の行動の不合理さに苛々する。
≪あなたはそれで良いのだと思いますよ≫
「ドラッケン……」
≪だからこそ、多くの人がキングを慕うのですから≫
「……サンキュ、相棒」
そうしてラボに足を踏み入れた。
第一印象は、随分と汚れている、だ。
綺麗好きの彼女が片付けもしないなんて、随分と追い詰められていた事が分かる。
デスクの上には小さな情報チップが2つ。
一方には何も書いてなかったが、もう一方には『アランへ』と小さなメモが付いていた。
両方を手に取り、ドラッケンに収納する。
ふと、それが目に入った。
「カルテ?」
日付は8年前だ。
文字を目で追って、理解する。
彼女がやけに焦っていたその意味を。
「だとすると……」
頑張ってくれているリン姉達には悪いが、ここで内容を確認しておきたい。
クロノが現場に着くまでにはもう少し時間がありそうだし、ドラッケンに頼んで俺宛のチップを解凍してもらう。
音声ファイル、か。
再生を始めると彼女の声がラボに響いた。
最後まで聞いて歯を食いしばる。
拳を、握った。
「馬鹿野郎がっ」
右手に魔力を集束させる。
下に感じる彼女の魔力、それにようやく近づいてくるクロノの魔力。
それらを感じながら拳を床に叩き付けた。
「貫け! 獅子吼!!」
────────interlude ... 20 minutes ago
「あいつは強いから大丈夫だとは思うけど……やっぱりあの子達が心配だからあたしもちょっと手伝ってくるね」
アルフが私の頬に手を当てる。
それを私は他人事のように、どこか遠くで眺めていた。
「すぐに帰ってくるよ。
そんで全部終わったら……ゆっくりでいいから、あたしの大好きな本当のフェイトに戻ってね。
これからはフェイトの時間は全部、フェイトの自由に使っていいんだから」
そうアルフは微笑むと、部屋を出て行った。
私はやっぱりぼんやりとモニターを見つめる。
母さんの傀儡兵を倒しながら先に進む3人。
そこへ暴風が吹いて、彼が現れた。
とくん……
その姿を認めた瞬間、あの時彼が触れた場所が熱を持つ。
とくん……
抜け切ってた力が体に籠もる。
とくん……
ずっと頑張ってきたのは、ただ母さんにもう1度微笑んで欲しかったからだった。
認めてもらいたかった。
それだけが生きてる理由だった。
とくん……
なのに、あんなにはっきり切り捨てられたのに、私…まだ母さんに縋りついてる。
とくん……
何度もぶつかり合った銀と白の兄妹。
初めて私と対等に真っ直ぐ向き合ってくれた2人。
何度も出会って、戦って、何度も私の名前を呼んでくれた……
何度も……何度も……
とくん……
生きていたいと思ったのも、母さんに認めてもらいたかったからだ。
それ以外に生きる意味などないと思ってた。
それが出来なきゃ生きていけないんだと思ってた。
とくん……
あの子の顔を思い出す。
捨てればいいってわけじゃない。
逃げればいいってわけじゃ、もっとない。
とくん!
そうだ、と言わんばかりに心臓が跳ねる。
ずっと私が諦めかけていた時も、まだ死ねないと私の体は脈打っていた。
『『俺はここにいる』と、ただそれだけの』
それが彼の産声だと言うのなら、私はまだ生まれてもいないじゃないか。
私の……私達の全ては、まだ始まってもいない。
手の中にあるバルディッシュ・アサルトを起動させ、掴み取った。
「そうなのかな、バルディッシュ。
……私、まだ始まってもいなかったのかな?」
≪get set≫
バルディッシュが輝く。
勝手に修復を始めたのを見て私は驚き、そして納得した。
ぼろぼろのバルディッシュを抱きしめる。
「そうだよね、バルディッシュもずっと私の傍にいてくれたんだもんね」
私達は2人で1つだった。
そうだ、私はずっと1人なんかじゃなかった。
アルフも……その前はリニスだって一緒にいてくれたんだから。
自然涙が溢れ、バルディッシュに伝う。
「……お前も、このまま終わるなんて嫌だよね」
≪yes sir≫
涙を拭いバルディッシュに魔力を込めた。
「上手くできるかわからないけど、一緒に頑張ろう」
ゆっくりと為されていた修復は私の魔力によって促進され、バルディッシュが完治して行く。
≪recovery≫
『今更であるが問おう────君は、何者だ?』
蒼い目が私を射抜く。
でももう怖くない。
今なら答えられるから。
「私は……フェイト・テスタロッサはここに、いる。
そう、まだ始まってもいなかったんだ」
マントを羽織り、バリアジャケットを展開。
バルディッシュを握り締め、力強く、意思を込めて前を向いた。
「だから本当の自分を始める為に」
転送陣を開く。
転送先がどこかなんて、そんなの決まってる。
行こう、あの子の、あの人の元へ。
「今までの自分を終わらせに行こう」
全てを伝え、この世界に生まれる為に。
────────interlude out