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地球の施設ではリンカーコアの診察が出来ないので、現在フェイトは本局附属医務室を使用しているらしい。
それを聞いて俺とリン姉はいそいそと医務室に向かう。
扉を開くとそこには未だ眠り続けているフェイトと落ち着かない様子のアルフがいた。
「あ……」
「ただいま、アルフ。フェイトさんの容態は?」
「医者の話じゃ命に別状はないって。
眠ってるのはここの所訓練で溜まってた疲労のせいらしいよ」
「そうか。フェイトも自分を追い込むタイプだからな」
「ぅ、ぁ……」
少しうなされているようだ。
リン姉はベッドサイドによるとフェイトの右手を握る。
アルフもすぐ傍に座ると心配そうにフェイトの顔を覗き込んだ。
フェイトの額に浮かぶ汗を認めた俺は、棚からタオルを取り出すとリン姉に渡す。
「ありがとう、ジンゴ君」
一旦手を離してタオルを受け取ると、彼女はフェイトの顔に浮かんだ汗を拭い、手を握りなおした。
それに、フェイトの顔が少しだけ安らかなものになるのを感じ、俺達は安堵の息を一つ。
「…………ジンゴ君」
「ん?」
しばらくフェイトの様子を見ていると、ふいにリン姉に呼ばれる。
頭を上げると、彼女は顔だけをこちらに向けていた。
「フェイトさんはしばらく起きそうもないから、ジンゴ君は先に海鳴に戻ってていいわよ」
「でも……」
「こっちはあたし達がいるから大丈夫さ」
「それに気になってるんでしょう、なのはさんが。さっきからずっとそわそわしてる」
「あー……」
ばればれですかと視線で問うと、隠してたの? と返ってくる。
自分でも落ち着かないとは思っていたが、まさかそこまで表に出ているとは。
参ったな。今の俺、そんなに分かりやすいのか。
なのはの方は別に攻撃されたわけじゃないから、後回しにしようと思ってたんだが……
行われる脳内会議。
俺の迷いを読み取ったのかリン姉が言葉を続けた。
「フェイトさん、明日の学校は大事を取って休ませるわ。
きっとなのはさんも気にしてるだろうから、ジンゴ君の口から伝えておいてくれない?」
内容はこの流れなら当然のものだが、明らかに俺を後押しする言葉。
言いながら彼女がウィンクする。
それが妙に様になっていた。
ホント、参ったな。
俺は頬をかきながら彼女の気遣いを受け取って。
一つ首肯してから頭を下げ、踵を返した。
医務室を後にしようとして、一つ言い忘れていた事を思い出す。
「そうそう」
「何かしら、ジンゴ君」
「明日からでいいんだけどさ、訓練室を一週間ほど貸してもらえるかな?」
「ええ、構わないけど……訓練?」
「ん、そんな感じ……かな。
以前はこの状態でもいいかと思ってたんだけど、今回は敵勢力が予想以上に強いっぽいから。
奥の手を使えるようにしておこうと思ってね」
「……そう、わかったわ。
エイミィに話を通しておくから、使う前に彼女の所へ行ってちょうだい」
ありがとうと告げて部屋を出る。
途端白銀が勝手に具象化し、俺はその白き大狼をジト目で睨んだ。
「勝手に出てくるなよ」
≪細けえ事ぁ気にすんじゃねえよ。
あれか、ようやく取り戻す気にでもなりやがったか?≫
「まさかここで必要になるとは思っちゃいなかったんだよ。
大体あれはこの世界では強すぎるんだ」
≪そうかねえ。ロストロギアとかの事を考えりゃ、もっと早くから求めてもよかったんじゃねえかと思うぜ≫
「我ながら泥縄だとは思うがな。なんにせよ、明日からやるぞ白銀」
≪あいよ。しっかしあれだな、ジン。
ただでさえ特殊な立場だってのに、今回のは極め付けだ。
お前さん、歴史に名を残せるぜ≫
「名が残るって……なんで?」
≪一度繋がりが切れたとは言え二度も屈服させようとする男なんざ、どこを探してもお前くらいのもんだろうよ。
そもそも切れた関係を繋ぎなおすなんて芸当をやってみせたのも俺はお前しか知らねえな。
とは言え久々に羽伸ばせてんだ。俺の方も簡単に屈服してやる気はさらさらねえぞ≫
「そう言う奴だよ、お前は」
転送ポートに向かいながら深々と溜息をつく。
なんでこいつは主を敬おうともしねえんだろうなあ。
前々から思っていた事ではあるのだが、ベオウルフが俺の傍にいるようになり比較対象が出来た事でその事が目立つようになった。
尤もベオウルフはベオウルフでよく言えば主を立てる従者然としており、悪く言えばお固く融通が利かない。
この二人は足して二で割ったほうが丁度いいのかもしれない。
実際、どうして白銀の立ち位置が今のような状況にあるのかは理解している。
それだけ白銀は特殊なのだ。
けれど分かっていても他と比較してしまうのが人情と言うものである。
そんな詮無い事をつらつら考えてから、俺はやれやれと首を振った。
放課後はまっすぐハラオウン宅へと向かう。
なのはもこちらに来たがっていたが、今日は塾があるという事で断念したようだ。
管制コンソールの前に座るエイミィに軽く右手を挙げて挨拶した。
「よっ、お疲れさん」
「あ、ジンゴ君。艦長から話は聞いてるよ。訓練室を使いたいんだって?」
「ああ、学校には一週間ほど家庭の事情で休むって言ってきた。篭らせてもらうぜ」
「それは構わないけど……そんなに休んで大丈夫?」
「今までもちょくちょく抜けてたから平気さ。んで、どこの訓練室が使えるって?」
「んとね、アースラが使えるよ」
「あ? アースラはまだ整備中だろ?」
「うん。でももう殆ど終わってるから、中を使う程度なら構わないって。
……壊さないでね?」
「大丈夫だって。ちゃんとベオが専任で結界張るから」
その言葉にエイミィは安心したように溜息をつき、それから首を捻る。
「えっと、ベオウルフさんが結界に集中って事は対人訓練じゃなくて自己鍛錬?
効率悪くないかな」
「まあ皆忙しそうだし……それに、今回俺の相手をするのはベオじゃなくて白銀だから」
「シロガネ……って、あの狼だよね。訓練になるの?」
≪嘗めるなよ、小娘≫
エイミィの疑問に我慢ならなかったのか、白銀が勝手に表へ出てくる。
突然現れた狼に彼女は驚き、白銀はそれを見て獰猛な笑みを形作った。
あーあ、こいつ妙にプライド高いからなあ。
相棒がエイミィに説教を始めるのを見ながら苦笑。
実際エイミィの疑問は分からなくもない。
普通ならあの守護騎士達に対抗する為に対人訓練をするのが順当だ。
だが、こと俺に関しての訓練であれば話は別。
俺自身のパワーアップを図るなら白銀と戦うと言う選択肢こそが最も近道なのだ。
それら全てを彼女に説明してやる気は毛頭ないのだけど。
「なんにせよ、しばらく訓練室締め切っちまうが大丈夫か?」
なんとか白銀を引き剥がすと、エイミィは額に浮かんだ汗を拭って、
「うーん、まあ大丈夫、かな。
あ、緊急出動とかあると困るからきちんと通信は通じるようにしておいてね」
「おうよ。ベオに対する回線はきちんと残しておくから。
じゃあ……行ってきます。
ほら、白銀、いつまでやってんだよ。行くぞ」
≪ふん、この続きはまた今度だ≫
「あはは……え、遠慮しときます」
持ってきた一週間分の食料を入れた鞄を担ぐと、渇いた笑いを漏らすエイミィに手を振って転送ポートへ向かった。
「っし、ベオウルフ、頼む」
≪はっ。防音と防魔法、不可視でよろしいですか?≫
「大丈夫だとは思うが一応対物もつけておいてくれ。全部三重な」
≪御意≫
ベオが詠唱を始めたのを視界に入れながら、俺はロブトールをセットアップする。
それを感じ取ったのか、白銀が再び具象化し牙をむいた。
相変わらず好戦的だな。
鍛錬は怠っていないとは言え、かつて俺がこいつを屈服させた時より確実に今の俺は弱いだろう。
あの頃の肉体年齢は大体十台後半程度。
リーチも体格も違いすぎるし、小さい身体用の技術も完璧になったとは言い難い。
一週間で成し遂げる事が出来るかは微妙なライン所か、確立にして一割を切るだろう。
そもそも、一週間でどうにかしようと言う方がおかしい。
「でもまあ、やらなきゃ男じゃねえよなあ」
ぐっと足を伸ばしながら独りごちる。
しっかりと準備体操をして身体が温まってきた所で、
≪主、結界を張り終えました≫
「サンキュー、ベオウルフ。
もしかしたら外部から通信が入るかもしれないから、お前は結界とそっちに集中しててくれるか?」
≪はっ≫
一度臣下の礼を取ってからベオが下がる。
代わりに白銀が俺の前に立ちはだかった。
にやり、と大狼が笑う。
いつなんどきも、変わる事のない相棒の笑み。
だけど今彼から伝わってくるのは、相棒としての信頼ではなく、絶対者としての気概だ。
≪さてジン、覚悟はできてんだろうな?≫
「お前と共に生きていく覚悟ならな」
≪上等。条件はあの時と同じだ。シンプルに行こうぜ≫
「つまり──」
徒手のまま構える。
手に輝くはいぶし銀のガントレット。
「お前を打ち倒しゃあいいわけだ」
≪加減はなしだ。
お前が俺の主だろうが、二度目だろうが、お前があの時より弱っちくなってようが俺には関係ねえ≫
「無論だ。それでこそ俺の相棒。そうでなきゃ屈服させる意味がねえ」
≪そうだ。そこで受けて立ってこそのお前だ≫
互いに久々の本気を受け取り、笑う。
主従ではなく、相棒でもなく、ただ一人の戦士として。
与えられた関係ではなく、ぶつかり合いながら少しずつ構築されてきた繋がり。
だからこそ、俺達の間には確かな絆があると信じられる。
「やろうか、白銀。俺が俺自身を取り戻す為に」
≪行くぜ、ジン。俺は俺の存在意義を確かめる為に≫
「いざ」
≪尋常に≫
「≪勝負!!≫」
獣と獣が牙をむいた。