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覚醒した時最初に目に入ったのはつい最近見たばかりの天井、次いで泣きそうななのはの顔、最後に変な顔をしたクロだった。
「あー………………おはよ?」
「君って奴は……」
「うう……よかった……よかったよぉ……」
おいおい泣くなよ。今のは突っ込む所だろ?
身体を起こそうとするも、なのはが俺の腹に顔をつけて泣いているので起こせない。
どうしたもんかと考えていたら釘を刺された。
「言っておくが起き上がるんじゃないぞ。
医療班がどうやったらここまでボロボロになれるのかって首を捻るぐらいの怪我だったんだから」
「……俺どんくらい眠ってた?」
「あれは睡眠じゃなくて失神だ!
……じゃなくて、まあ、倒れてから三時間って所か」
「そっか」
意外に短かったみたいだな。
「ごめ……ごめんね……」
「で、なんでなのはは謝ってんだ?」
「僕が知るもんか」
「だって……」
涙を拭いながらようやくなのはが俺の腹の上からどいてくれる。
実は、頭だけとは言え乗られてると結構腹が痛かったので助かった。
「私……ジンゴ君、置いて……」
ああ、そう言う事か。
「アホか」
「ふぇっ!?」
「あのままあそこにお前がいたとして何が出来た?
途中で魔法が使えなくなって、庭園と一緒にお陀仏するしかなくなるだろうが」
「でも……」
「俺は自分が生還する手立てがあるから先に行けって言ったんだ。
お前が謝る事じゃねえよ」
「……う、ん」
納得いかなそうではあるが、ようやく頷いてくれる。
それとは対照的にどんどん不満顔になっていくのはクロだ。
「僕の方からは聞きたい事が山程ある」
「だろうな。まあ条件付なら」
「条件?」
「報告書には上げない事、それだけだ。
口頭でリン姉達に伝えるのは別に構わない。
元々俺のこれについてはばあちゃんクラスの特秘事項なんだよ」
一応、話す話さないを判断する権利は貰ってるけど。
「……わかった」
クロがベッドサイドの椅子に腰掛ける。
尤も隣でなのはがまだぐしゃぐしゃ泣いているので、厳しい顔をしてもどこか間が抜けている。
「聞きたいのはアームドデバイスの筈の白銀が狼の姿になった事、アリシア・テスタロッサをこの世に現した事、不可解な詠唱を伴う魔法のようなものの事、そして虚数空間から生きて戻った方法。この四点だ」
まあ、普通はそこに突っ込むよな。
……追及が来るのは分かってた事けどめんどいなあ。
「その全ての質問は繋がっている。なあ、クロ。ソウル式って知ってるか?」
「いや、聞いた事がないな。あの魔法の名称か?」
「まあ正式名称は鬼道って言うんだがな。
ミッド式なんかに合わせてソウル式ととりあえず呼んでる。
不思議に思わなかったか?
確かにベオウルフは貴重なユニゾン可能なデバイスだが、果たしてそれだけでロストロギアに指定されるに値するのか」
「確かに……まさか、そう言う事なのか!?」
勘付いたらしいクロに頷き返す。
「ベオの契約者はな、ソウル式が使えるんだよ」
でも、真実全てを語る気はさらさらない。
事実のみで逃げさせてもらおう。
「俺の髪の色、昔黒かったのは一種の防衛反応だって話はしただろ?」
「ああ、地球式の魔力と管理世界系の魔力。異なる力が体内にあるからだと」
「正確に言えばその二つと霊力だ。
霊力はなぜかは知らないけど魔力と反発する性質がある。
そのせいで二つの魔力が表に出る事が出来なかったんだ」
「嘘をついていたのか!?」
いいや、俺は一度も嘘をついてないさ。
「俺達は一度も二つの力しか持ってないとは言ってない」
「あ……」
だからあの時、ベオは『複数の異なる力』なんて曖昧な表現をしたんだ。
「霊力ってのは簡単に言えば魂を司る力だ。
俺の中に溶け込んだベオは、普段霊力を魔力に変換する事で俺の身体を護っている」
「……………………なるほど。
魔法以外の手段があるから、虚数空間から抜け出せたわけか」
まずいな、クロの奴少し慎重になってきてやがる。
これから先の言い訳は、嘘はついていない分穴だらけだ。
突っ込まれたら、負けだ。
「白銀は俺の魂、つまり霊力が形になったような存在だ。
普段は魔力で運用してるけどな。
あの姿は元々白銀が持っていた姿。
日本刀になってるのはその方が武器として扱い易いから、だな」
「……アリシア・テスタロッサが現れたのは?」
「なに、プレシアが張った結界のせいで囚われたままのアリシアが見えたからな。
彼女の願いを叶える為に、一時的に俺の霊力を彼女の魂に流し込む事で存在の密度を濃くして誰にでも見えるようにした」
「あ、あのさ……」
小さな声でなのはがおずおずと手を挙げる。
軽く促がしてやると恐る恐ると言った様子で口を開いた。
「それって、ジンゴ君には幽霊が見えるって事?」
「見えるぞ」
「ふえっ!?」
「なんて非科学的な……」
「クロ、科学だろうが非科学だろうが、目の前で実際に起きた事は認めろよ。
じゃなきゃその内自分の事も信じられなくなるぞ」
「それはまあ……そうだが」
リン姉への報告が大変そうだとか考えてんだろうなあ。
「ゆ……幽霊……」
「ああ、なのは、そんなに気にする事ないぞ。
霊っつっても見えなきゃ同じだし、奴ら存在が薄いからすぐに成仏する。
現世で悪さなんて出来るような奴はいねえさ」
アリシア・テスタロッサみたいなのは例外中の例外だ。
「大体、魂の存在を否定するなんて俺から見りゃアホらしいぞ」
何せそこら中に漂ってる。
時たま視界に入りすぎて邪魔な位だ。
すぐに消えるが。
「つまり……ベオウルフさんと契約すると霊能力者になるって事?」
「うーん、ちょっと違うな。ベオは霊能力者を宿主にしてるんだ。
最初から俺達は知ってるんだよ、魂の扱いってやつをな」
「……最後に」
渋面をますます深くしてクロが口を開く。
「魔法以外の力が使えるのになんで普段から使わないんだ?
魔力発動のない力なら戦術は広がるだろう?」
「おいおい、俺の状態が目に入らないのかよ……」
段々痛覚が戻ってきて、身体も起こせそうにないんだが。
「最初に言ったろう。
霊力は魔力と反発するんだ。使い続けりゃ……死ぬぜ、俺が」
「あ……」
まあさらっと言ったから聞き流してても仕方ないが。
って言うかこれが最後なら乗り切ったか?
どうもクロは聞きたい事を全部聞いたわけじゃないみたいだが。
……もしかして、気を遣われてんのかなあ?
「ところでさ、内臓と右肩だろ、逝ってんの。これ、完治までどん位?」
「日常生活に戻るまで三日。完治はもっと先、一ヶ月位だ。右肩は二週間固定だな」
「うげ、三日も寝たきりかよ……」
「ジンゴ君……」
見るとなぜかなのはが俺を睨みつけていた。
なんで睨まれにゃあかんのかと首を捻っていると、
「すっごく心配したんだから! もう使っちゃ駄目だよ、その……霊力?」
最後、疑問系な辺りが締まらない。
「ま、今回みたいのは例外だからな。
悪霊化寸前の霊なんて二度と遭わねえだろうよ、安心しな」
また遭ったら同じ事をするけどな。
内心をおくびにも出さず笑いかける。
これは俺が俺である以上、譲れない事なのだ。
「……なら、いいけど」
なのはは勘が鋭そうだ。
こりゃこれから誤魔化すのに苦労しそうだな。
やれやれと内心嘆息すると、同じタイミングでクロが溜息をついた。
「どうした?」
「いや、報告書の作成が大変そうだ」
「まあ整合性が取れるように俺も手伝うさ。そう言やフェイト達は?」
「ぁ……」
「彼女らは重要参考人として隔離中だ。本局に護送しながら事情聴取、だな」
「そうか。力が欲しければ言ってくれ。ばあちゃん経由して手を回す」
「助かる」
最後に男臭い笑みを見せてクロは去っていった。
背中に漂う雰囲気には明らかな疲労の色。
事後処理で忙しいのだろう。
そんな中、わざわざ俺が目覚めるのを待ってくれていた事に気付き、感謝した。
って、あれ? なのはが残ってるぞ。
泣きやんでくれたのはいいが、未だ目元の赤いなのは。
そうやってじっと見られているのは落ち着かない。
どうしたものかと考えて、無難な話題を思いついたので聞いてみる事にした。
「そう言やユーノは?」
「ユーノ君は今局員さん達の怪我を治しに行ってるの。
……ねえ、ジンゴ君、なんであんな事したの?」
「うん?」
「あ、いや、そのね、あの結果に文句があるわけじゃないの。
ただ、ジンゴ君は霊力を使えばそうなっちゃう事は分かってたんでしょ?
だから、なんでそこまでしたのかなあって思って」
「むう……」
なぜ、危険を冒してまで彼女を顕現させたか、か。
それが俺にとっての当たり前ってのは、なのはにとっての答えにはならねえんだろうな。
「……霊ってさ、見てる事しか出来ねえだろ」
「……」
「思いを通じさせる事が出来るのは、俺達みたいな霊能力者だけ。
本当に届けたい人には、決して届けられない……」
アリシアみたいに伝えたい事のある真っ当な霊なんて、そうそういるもんじゃないけど。
「だから彼女とフェイト達を繋ぐ橋になりたかった……なんか違うな」
「にゃ!?」
確かにそう言うのもあるが、それが一番じゃない、か。
途中で言ってる事を覆した俺になのはが抜けた声を出す。
肩透かしを食らったような展開に彼女が微妙な目を向けてきた。
それに肩をすくめる事で返す。
「結局の所、俺の我儘なんだろうよ」
「我儘?」
「アリシアみたいな魂が、悲しい気持ちのまま留まり続けるのが我慢できなかった。
彼女の想いを知らずに、傷付け合う人達を見てるのが嫌だった。
そんなのを見過ごしたら、俺は俺でいる資格を失っちまう。
だからやった。…………だから、これは俺の我侭だ」
「ジンゴ君の、我儘……」
なのはは俺の言葉を租借するように繰り返し、それから少しだけ、笑った。
「ねえ、ジンゴ君」
「なんだ?」
「私、ジンゴ君の我儘好きだな」
「は?」
いきなり何を言い出すのか、こいつは。
「ジンゴ君の我儘が、アリシアさんとフェイトちゃんを繋いだの。
終わり方は悲しかったけど、なんだかあったかい。
だからきっと、ジンゴ君の我儘は優しい我儘なんだよ」
徐々に満面になっていくなのはの笑みに、少しだけ頬が熱い。
って言うかこっぱずかしい!
「……なのは、無自覚だって言われねえ?」
「にゃっ!? なんでわかるの? アリサちゃんとかにはよく言われるけど……」
「お前ね……」
額に手を当てながらやれやれと溜息をつく。
シロさん、早めに手を打たないとまずそうだよ、これ。
なぜか、可愛いからいいんだと胸を張って笑うシロさんの幻影が見えた気がした。