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病院を辞し、手を振るアリサとすずかを見送ってからビルの屋上に上がる。
緊張しきりの俺となのは、フェイト。
背後にはピッタリとついてくるシグナムとシャマル。
彼女等の発する強い気配を感じながら、数歩歩いて振り向いた。
強張った表情をその顔に湛えたままの二人と、俺達は対峙する。
「はやてちゃんが闇の書の主……」
動揺を隠さぬままになのはが呟く。
その言葉にヴォルケンリッターの二人は表情を更に硬くした。
「悲願はあと僅かで叶う」
「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達でも……」
「待って! ちょっと待って、話を聞いてください!!
駄目なんです、闇の書が完成したらはやてちゃんは……」
「……やれやれ、せっかちなのが一人いるな。
人の話は最後まで聞きなさいって、幼い頃言われなかったか?」
呟き、一歩、なのはを庇うように前に出る。
上空から舞い降りてくる覚えのある魔力。
守護騎士の中でも最も直情的な彼女だろう。
左手を掲げ、命を紡ぐ。
「防げ」
≪gravity shield≫
「っ、はあっ!!」
展開された深蒼の魔方陣に巨大化したハンマーがぶつかり拮抗する。
思った以上の重さに目を細め、このままでは不利と判断した俺は、
「バースト」
≪burrier burst≫
「ぐあっ」
結果を視界に収めようとした俺は、ここ最近で聞きなれてしまったチャンバーの音を聞く。
弾かれたはずの彼女は……いない!?
「しまっ、狙いはなのはかっ!?」
「きゃあっ!?」
「なのは!?」
回りこんだヴィータに吹き飛ばされるなのは。
驚く俺とフェイト。
そこに飛び掛ってくるシグナム。
フェイトがなんとか自身の愛斧を杖化し防ぐが、完全になのはと分断されてしまった。
歯軋りする俺とは対照的に、シグナムとシャマルは表面上冷静に、しかしその激情を胸に秘め口を開く。
「管理局に我等が主の事を伝えられては困るんだ……」
「私の通信防御範囲から出すわけには……いかない!!」
一方、分断されたあちら側ではなのはとヴィータが対峙している。
ヴィータの着ていた私服が初めに見た時と同じ騎士服へと、変化した。
「ヴィータちゃん……」
「邪魔……すんなよ……」
「ぁ……」
「もうあとちょっとで助けられるんだ。
はやてが元気になって、あたし達のとこに帰ってくるんだ!
必死に、頑張ってきたんだ。もうあとちょっとなんだから……」
彼女の頬を透明な雫が伝う。
そこに溢れているのは、彼女達のはやてへの紛れもない愛情。
目を伏せる。
やりにくくて仕方ない。
彼女達を突き動かしているのは、書の守護騎士として与えられた役目でも、騎士としての誇りでもなく、ただ人が人を想うが故の愛だ。
だけど、
「例えお前等の行動原理がそうだったとしても、結果が誰も救われねえもんなら認められるかよ! 俺は……」
「っく、邪魔、すんなあああああああああああっ!!!」
ヴィータの槌からカートリッジの空莢が舞う。
あまりの魔力量に小規模な爆発が起きた。
舞い散る爆炎に負けぬよう、煙の中にいるなのはに聞こえるよう俺は声を張り上げる。
「俺は、物語はハッピーエンドが好きなんだ!!!」
だから、必要とあらば俺は悪役の汚名をかぶる事も厭わない。
決意を籠めてシグナム達を見詰め、ロブトールをセットアップする。
ずしりと両手に感じる重みに、俺は悪役としての笑みを浮かべて。
肩で息をするヴィータを尻目に、そちらを見ることはない。
そんな隙を見せていいような甘い相手ではないし、何より、
あいつが……この程度でやられるタマかよ!
考えを肯定するように、煙と炎の中から、俺と同じように決意をその目に湛え、無傷のなのはが姿を現した。
「悪魔で、いいよ……」
杖化するレイジングハートを彼女は握る。
チャンバーが動き、薬莢が排出された。
≪accel mode drive ignition≫
バリアジャケットも纏ったなのはは、そのまま構えて。
無表情で構える彼女は、なるほどヴィータの言う通り悪魔と言うに相応しい貫禄があった。
さしずめ、バリアジャケットの色とかけて白い悪魔と言うところか。
「悪魔らしいやり方で……話を聞いてもらうから!!」
さあ、一緒に、悪役を張りに行こうか!
「シャマル、お前は離れて通信妨害に集中していろ」
「けど……」
「お前達の将は敵が複数だったとしても、負けるような騎士か?」
「シグナム……」
彼女の涼やか且つ揺るぎない言葉に、渋々とシャマルが後方へ下がる。
まあ、元より彼女を狙う気はねえけどさ……
シグナムを避けて彼女に行くよりゃ、シグナムに二人でかかった方がいいだろうしな。
それでも釈然としない物は感じる。
これではまるで俺が嘗められてるみたいではないか。
尤も、彼女にそんな気はないのだろうけど。
不満を表す俺の前にフェイトが踏み出し口を開く。
「闇の書は悪意ある改変を受けて壊れてしまっている。
今の状態で完成させたら……はやては……」
「我々はある意味で闇の書の一部だ」
「だから当たり前だ! あたし達が一番闇の書の事を知ってんだ!」
「ならなんで!」「じゃあどうして!」
上空に飛んだヴィータの声に、即座に反論するのは俺となのは。
きっと止めたい想いの大きさではなのはの方が上だろう。
だからこそ、この場は譲る。
≪accel shoter≫
「どうして、闇の書なんて呼ぶの?」
「え……?」
「なんで、本当の名前で呼ばないの!?」
「ホントの……名前?」
混乱するヴィータに畳み掛けるように俺が続ける。
「そう、お前達はある意味で闇の書の一部だ。
だが……だからこそ、分からない事もある」
≪load cartridge≫
右手を前方へ掲げ、左手で固定する。
並々ならぬ衝撃と共に空莢が吐き出され、渦巻く深蒼が右拳へと集う。
「どう言う……事だ?」
「本体と同格の管制人格と異なり、守護騎士は書の影響をダイレクトに受ける。
シグナム、お前ならその意味する所が分かるだろう?」
「っ……」
彼女は無言で自らの剣を構え、騎士服をその身に纏う。
同様にフェイトがバルディッシュを構えた。
≪barrier jacket sonic form ... harken≫
「……薄い装甲を更に薄くしたか」
「その分速く動けます」
「緩い攻撃でも当たれば死ぬぞ。正気か? テスタロッサ」
「あなたに……勝つためです! 私にはジンゴ程の技量はない。
強いあなたに立ち向かうには、これしかないと思ったから」
「死なせないさ。その為に俺がいるんだから!」
「クローベル……」
シグナムが空を仰ぐ。
深い、深い葛藤がその姿からは感じられた。
その声色には隠し切れない無念がある。
彼女が、守護騎士の将が、騎士服を纏う。
「こんな出会いをしていなければ……私とお前達はいったいどれ程の友になれただろうか?」
「まだ……間に合います!」
「……止まれん」
彼女が構え、俺達に対峙する。
その頬には、溢れ出した彼女の無念が伝っていた。
俺は彼女の言葉に返せるものを持たない。
ただ、拳を構えた。
時空管理局の執務官としてではなく、彼女を止めたい一人の男として。
「我等守護騎士、主の笑顔の為なら騎士の誇りさえ捨てると決めた。もう……」
シグナムが顔を上げる。
葛藤は消え、瞳に映るは強い決意。
「止まれんのだ!!」
「来い……白銀!!」
≪おう!≫
「止めます……私とバルディッシュが!!」
≪yes, sir≫
刀化した相棒を水平に構える。
訝しげにこちらを見てくるシグナムに、ただ俺は視線を返す。
初っ端から……行くぜ!
「いつだって、悲しい事ばっかりさ。
だから俺達は悲しい魂を生み出さぬよう、想いを背負ってきた。
これまでも、今も、これからも!」
「クローベル……」
「止めるぜ、ここで」
「止められるものか!」
「止めてやるさ! そうだろ? 相棒!
始解・蹂躙せよ、白銀!!!」
ズンと音がしたかと錯覚するような勢いで爆発的に俺の魔力量が上がる。
白木拵えの鞘柄に、白銀の美しい刀身。
本来の姿を取り戻した相棒を右手で握りなおした。
そんな俺をシグナムはどこか合点がいったように眺め、呟く。
「面妖な……いやに魔力量の少ない執務官だとは思っていたが……それがお前の切り札か、クローベル」
彼女の言葉に口角を上げる事のみで答えた。
未だ俺は奥の手を出してはいない。
だが、勘違いしてくれていた方が都合はいい。
シグナムが切りかかってくるのをフェイトが受け止めた。
鍔迫り合いに移行しようとする前に俺がフォローに入ろうとして、
「ジンゴ!」
「任せろ!」
丁度その時上空から彼女の動揺する声が聞こえてきた。
「バインド!? また!?」
「なのは!?」
「んだとおっ!?」
ヴィータに縛り付けられたわけじゃない。
俺と似た青い魔力光。
それで形作られたバインドになのはが囚われていた。
やばい、なんか嫌な予感がする。
一瞬揺らいだシグナムとフェイトの間に、そのままの勢いで強引に割り込みをかける。
「ジンゴ!?」
「行け!」
「んっ」
フェイトがなのはの救出に向かう。
それに安堵し、改めてシグナムと対峙しようとし、
──────ドクン
「な……んだ、と……?」
眼前には驚愕に目を見開いたシグナム。
しかし、彼女が見ているのは俺の顔ではない。
──熱い……
見ているのはもっと下。
──熱い……
そう、突如俺の身体に現れた熱源。
──熱い!!!
「ぐっ……あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
胸から、腕が、生えて、いた。