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抜けていく。
奪われていく。
消えていく。
俺が俺である為の力が。
待てよ。
そいつを、持っていかれたら、俺は……!!
「持って……いくなあああぁぁぁぁっっ!!」
叫びと共に口から鉄臭い液体が飛び出して。
≪sammlung≫
≪まずい!? ジン、早く刀を納めろ!!≫
「ジンゴ君!?」「ジンゴ!?」「クローベル!!」
「てめえかあっ!!」
右腕を背中側に振るう。
ちらりと赤い視界に入るのは仮面。
力を籠め振りぬいたはずの白銀に、逆に俺が振り回される。
全てが熱に犯されていく中、右頬だけが妙に冷たく、心地よかった。
「きっ、貴様!?」
「何を憤る? ただお前達の手助けをしただけだろう?」
≪ジン! そのままでいいから早く俺を納めろ!!≫
ああ、俺は今、地面に転がってんのか……?
遥か遠くから相棒の声が聞こえる。
この感覚は二度目だ。
だけど、あの時と違って俺の胸にはぽっかりと穴が開いていた。
物理的にではない。
ただ、酷い喪失感があって。
「あああああああああああああっ」
「何故だ!? リンカーコアの蒐集だけではこうはならんはず……」
「その少年は特別製らしくてな。
リンカーコアに溶け込んだロストロギアがそいつの体内バランスを取っていたのだ」
そうか、あいつが、いない。
前の時は魔力変換機構を止めてもベオウルフが俺の内部で調整してくれていた。
今回はそれがない上に白銀が解放状態。
あらかじめ覚悟をした上で解放するならともかく、いきなりバランスを崩されれば、
「あああああああああああっ!!」
開いたままの左眼に渦巻く霊力が映る。
痛みにのた打ち回る内に星空が目に入った。
「……ごふっ」
≪ジン!!≫
血液が逆流してくるのを感じながら、遠く相棒の声を聞いた。
「最後のページは不要となった守護騎士自らが差し出す。
これまでも幾度か、そうだったはずだ」
≪sammlung≫
≪ジン! 頼む、一言でいい! 戻れと言ってくれ!!≫
どこかで知っているはずの人の声、苦しみに満ちた叫びが聞こえる中、相棒の声だけがリアルだった。
星空を斬れよとばかりに右腕を掲げる。
視界の中、紅に染まった相棒が妙に美しかった。
それに魅入られるように俺の動きは止まり、だから、もうこれ以上は動けないと思っていた。
──────その言葉を聞くまでは。
「壊れたロストロギア、こんな物で誰も救える筈もない」
灼熱が灯る。
胸にではない、瞳にでもない、俺の意思に。
何よりも許せないもの。
彼女等の意思を、想いを、誇りを、馬鹿にするようなその言い草。
「……っは……ぐっ……」
口から溢れるものも、耳障りなその声も、赤く明滅する視界も、全てどうでもよくなった。
トサカ……来たぜ。
「ぐっ、じろ゛……がね゛ぇ……」
≪そうだ、呼び戻せ!≫
「も゛ど……れ゛……」
たったの一言。
それだけでぐんと身体が楽になる。
体内に戻った相棒に、圧し掛かっていた重圧は消え去って。
上半身を起こし、膝をついたままの体勢で胸の中心を掴んだ。
落ち着け……いつもやってた事だろう。
あいつが俺の半身になるまでは……いつも!
一度集束させていた霊力を徐々に拡散させていく。
同時にリンカーコア周りを霊力で囲い込み、更に霊力に魔力で蓋をする。
じとり、汗が滲むが作業は遅々として進まず。
いつもなら少し集中すれば簡単に霊力を操れるのに、沸騰した脳みそは中々上手く身体に指示を出してくれない。
しかも、耳障りな声が聞こえる度、集中が揺らいで困る。
鉄槌の悲痛な叫びを聞いた。
守護獣の雄叫びを聞いた気がする。
だが、
「あの二人は……なのはとフェイトの二人は大丈夫か?」
「四重のバインドにクリスタルケージだ。抜け出すまで数分はかかる」
「そいつは?」
「動けまいよ。何せこいつ特有の力は魔力と反発するらしい。
あのロストロギアがなければ動けない半端者だ」
「ふん、ロストロギアが半端なら主も半端者か。ならいい、充分だ」
何よりその言葉が、俺の、かろうじて繋がっていた理性を焼ききった。
「う゛っ……おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
ふらつくままに立ち上がる。
額が割れているらしい。
右目に滑り込んだ赤いものが目に染みる。
だけど!
「馬鹿に、ずん゛な゛あ゛っ!!」
唯一自由に動かせる左眼を開く。
目の前にはなのはとフェイトのナリを真似たふざけた野郎共。
俺だけならまだしも、あいつ等を馬鹿にすんのは許さねえ!!
見た目は似ているのだろう。
だが、決定的に目が違いすぎる。
あいつ等はあんな酷薄な目はしない。
見下すような目はしない。
それに、輝きが違いすぎる。
「因縁の終焉の時だ。満身創痍の貴様に何が出来る」
何より、こいつらはベオウルフを侮辱しやがった!!
「……も゛う……いい……」
だらりと下げていた腕を上げ、奴等を指差す。
一瞬戸惑った二人は、どうせ何も出来まいと侮った目で俺を見ている。
それを睨みつけながら、口内に溜まった物を全て吐き出した。
コンと言う軽い音は、多分砕けてしまった奥歯の成れの果てだろう。
「もう……疲れた……」
「この期に及んで泣き言か……」
そうだ、もう疲れた。
だから、やめちまおう。
――――――力を抑えるなんて事は!
「破道の八十八、飛竜撃賊震天雷炮」
「なっ!?」
「これが噂のソウル式か!?」
雷が奔る。
八〇番台の詠唱破棄は、鬼道の苦手な俺にとって発動するかどうか微妙な賭けで。
成功したとしても大したダメージは与えられない。
現に、仮面達には避けられ、受け止められる。
だが、得る物はあった。
知ってるって事ぁ、俺達の誰かに近しい人間って事かよ!?
鬼道について、俺は極々親しい人間にしか情報を開示した事がない。
ばあちゃんから許可を得て、報告書にさえ上げた事がないのだ。
最悪に顔を顰めながら、稼げた時間で一気に懐まで踏み込んだ。
「破っ」
繰り出せたのはただの正拳突きのみ。
ただし、身体から溢れ出してしまった霊力の全てを乗せた。
なのはの姿を真似た馬鹿が吹き飛んでいくのを見た瞬間、
「ぐっ……ぅ……」
屋上に、墜ちる。
くそ……もう限界なのかよ……
手足がだるい。
明らかに霊力反発によるダメージが大きすぎるのと出血多量が原因だ。
無理矢理顔を上げると、フェイトのナリをした奴が、吹き飛んだ奴を受け止めていた。
「油断しすぎだ」
「すまない。奴にも拘束を」
「わかった」
言った瞬間、二重のバインドが俺を縛り上げる。
なのは達が囚われているクリスタルゲージが一時壊れ、そちらに向かって放り投げられた。
「「ジンゴ(君)!?」」
「持っておけ。大事な仲間、なんだろう?」
厭味ったらしく言うと、再び俺達の周りをケージが囲む。
更にその外を囲まれて、クリスタルケージが二重になってしまった。
やべえな、脱出が難しくなりやがった。
「すま……ない……」
「何が!?」
「ジンゴ、いいから喋らないで!」
「破るの……難しく……ぐっ」
血が、溢れる。
はは……まだあんのかよ、血液ってのは。
人間ってのは血袋だな。
「お願いだから黙ってて、ジンゴ君!」
なのはの言葉に微かに頷いて返すと、先程と同じように力を抑える事に集中し始める。
浅く繰り返される呼吸、ひゅーひゅーと喉が五月蝿い。
だが、今度は割とすんなり収まってきた。
多分もう溢れるだけの霊力が表向き体内に残っていないのだろう。
片目を開きビルの屋上の方を見ると、倒れ伏したザフィーラと磔のように宙に浮いているヴィータ、相変わらずふざけた格好をしている奴等と、
「……はや、て?」
「え?」
そう、何故か屋上にはやてがいた。
しかも車椅子がない。
と言う事は奴等が呼び寄せたのだろう。
何を考えているんだ?
疑問に思っている内にザフィーラとヴィータが闇の書に吸収されていく。
「どう? フェイトちゃん」
「うん、もうちょっとなんだけど……」
フェイトとなのははバインドとケージの破壊に集中している。
俺の分までやらせてしまった申し訳ないとは思うが、今はあちらの方が気になる。
思考を回すが、溜まった熱が邪魔でうまく考えが纏まらない。
はやてが何事か叫んでるのが見え、
「ベルカ式、魔方陣……」
「ええっ!?」
「はやてちゃん!?」
しくった、覚醒が始まっちまったのか!?
はやてを中心に展開された白銀色の魔方陣が闇色に染まっていく。
やばい、やばすぎる……!!
「白銀、術式への、介入は……可能か?」
≪そりゃ出来るけどな、ジンの身体が……≫
「四の五の言ってる場合じゃ……ねえだろ!!」
「「ジンゴ(君)!?」」
残り一つになったクリスタルケージに手をつく。
内に残る僅かな霊力を無視して魔力を一気に流した。
当然、反発は大きい。
きっついなあ、おい!
あと一息が足りない。
焦る俺を落ち着かせるかのように、右手と左手、それぞれの上になのはとフェイトの手が重ねられた。
顔を上げると二人と目が合う。
覚悟を決めて、力を籠めた。
「ブレイク!!」
パリンと思っていたよりも軽い音がして檻が砕け散る。
「はやてちゃん!」
「はやて……」
「うおっ!?」
すぐさま飛行魔法を展開できた二人とは違い、俺はなんとかその場の霊子を固めて踏み留まる。
胸に鋭い痛みが奔るが、顔に出さぬよう歯を食いしばった。
こりゃ、足手纏いになってんな、俺。
苦々しい思いを噛み潰し、屋上へと顔を向ける。
瞬間、はやての顔が絶望に染まって。
「……うあーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
咆哮、爆発。
「……覚醒、しやがった……」
闇色の魔力柱が天を衝く。
後に残ったのははやてではなく、流れるような銀髪に紅い目、黒いバリアジャケットを纏い、そして六枚の黒翼を携えた、俺の知らない女性だった。