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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 そうして俺達はいつもの日々に帰ってきた。
 なのははあれからも相変わらずの様子で、いつも通り魔法の訓練に精を出している。
 少し変わった事と言えばこの間フェイトからビデオメールが届いた事か。
 その日の内に見て、なのはと一緒に作った返事のDVDを俺がアースラへ届けに行ったのは記憶に新しい。
 まあ、クロノには、そう簡単にぽんぽん来ないで下さいよと苦言を呈されたのだが。
 遊び場とは思ってないからよくね? と思ってしまったのは俺だけの秘密だ。

 うちの家族はそう変わりもなく、八神家の方はと言えば平和そのものだ。
 最初はぎこちない所もあったが、今では家族同然に俺達とも話すようになった。
 ヴィータは初期の印象のせいか俺との距離をある程度置いていたようだが、それでもこちらに戻って来てからは一緒にいる事が多い為か最近では兄と慕ってくれるようになり、なんとなく妹分が増えた気分だ。
 なおヴィータに、

『兄ならもうザフィーラがいるんじゃないのか?』

 と聞いた所、

『あいつは今八神家のペットだからな』

 と当然のように答えていた。
 その答えを聞いて微妙な顔をした狼がいた事は内緒だ。
 凹んでいたザフィーラと酒を飲み交わしたのもいい思い出である。
 ……いい思い出である。
 俺が未成年だと言う事をぶっちする周りの連中に思う事がないわけではないが。




 そして本日、5月25日は夜天に取り付いていた闇をぶっ飛ばしてから丁度1ヶ月目に当たる。
 あれからずっと封印した状態のリインフォースを解析していた俺は、少し残念な知らせを持って八神家に向かっていた。

「っ!?」
≪キング、封鎖結界を確認。外部との通信途絶えました≫
「とうとう来やがったか。ドラッケン、そのまま外部との連絡手段を探れ」
≪ja≫

 突如切り離され、色を失う世界。
 舌打ちをしながらドラッケンをセットアップし、周囲を警戒する。

「うぉっ!?」

 速い!?

 風切り音と共に頬を掠めて行く攻撃に背筋が冷える。
 連続して襲ってくる攻撃を勘で捌きながら、頭の中に響く警鐘に従い前へと転がった。




────ゴウッ




 風を切っただけとは思えない轟音を出しながら振り抜かれる拳。
 あまりにも見事な薙ぎ払い方にただ見惚れていたいがそうもいかない。
 魔力をこめた拳を地面に叩きつける事で転がっていた身体を立て直しながら、初めて敵を正面に捉えた。
 瞬間、あまりの姿に片眉が吊り上がる。

「仮面?」

 白と紺の制服のようなバリアジャケットに白い仮面。
 シリアスな場面なのに、住宅街には合わない事この上ないなと思考して、苦笑。
 俺って奴は思ってたよりも余裕があるらしい。

≪北北西上空に魔力反応。2人目です!≫

 ああ、やっぱり。
 確実に仕留めるなら2人で来るよなあ。

 再度かかってきた片割れの攻撃を避けながら、チラリと空を見る。
 全く同じ見た目の男がそこにいた。

 なんであそこから動かないんだ?

 思った瞬間疑問は氷解した。
 上空の男が手を振り、

「なっ、あの距離からバインドだと!?」
≪bind break≫

 すぐさまドラッケンが解除してくれたが、その一瞬が命取りだった。
 目の前に足が迫る。

「しまっ!?」

 追い討ちの様に上空から砲撃が加えられて、俺は民家の塀を貫きながら吹っ飛んだ。




「ぐ……」
≪キング!≫

 まずい、頭打ってやがる。

 傷はそこまで深くないが、頭に負ったダメージが厄介だ。
 なんとか立ち上がるも足元がふらつく。

 この感じは軽い脳震盪か。

 額に手をやるとぬるりとした感触があった。
 見なくても分かる。
 血だ。
 今更流血程度で動揺するわけもなく、壁の向こうの様子に耳を傾けた。

「やったか?」
「手応えが薄い。恐らく受け流された」

 淡々とした酷く冷静な声だった。

≪奇襲しますか?≫

 その提案は非常に魅力的なんだけどな。
 気になる事もあるし、それに、

「なのはに『まずは話し合い』と教えてる手前、そういうわけにゃいかんだろ。
 一応問いかけはしておかんとな。
 できれば背後も同じ考えなのか探っておきたい」
≪キング……≫

 そう呆れるな。
 自分でも馬鹿だとは思ってるさ。
 だけど、だけどさ……

「ちょっとだけ、もうちょっとだけ、俺が生きてる世界は、あいつ等が信じた世界は美しいんだって信じたい。
 それによ、敵対しなきゃならん事もあるけど、そうならんよう努力しなきゃ敵を増やす一方になっちまうだろ」
≪前々から馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、馬鹿ではなく大馬鹿でしたか≫
「違いねえ」
≪まあ、私はその大馬鹿が大好きなわけですが≫
「くくっ、言ってろ。
 まあどうせ、俺はなのは達みたいにゃ純粋になれねえよ。
 俺のこれは打算込み、だからな」

 笑みに歪んだ口元はそのままに、瓦礫を越え2人と対峙する。
 吹っ飛ばされた俺がへらへらしながら戻ってきたもんだから、向こうさんは警戒心を強めたらしい。
 じわりと距離を取る相手に気付かれないよう、少しずつ魔力を放出して行く。
 額から汗が流れ、汗と一緒に流れてきた血液で左の視界が塞がれた。

「……お前等の目的はいったいなんだ?」

 なんとなく予想はついているが一応聞いておく。
 ここではっきりすればその後の対応も決めやすい。
 正直あのスピード相手に防ぐ・避けるの2択だと厳しいものがある。
 出来れば攻勢に回るか守勢に回るかだけでも決めておきたい。

 油断無く距離を取っていた2人がようやく口を開いた。

「キサマが知る必要はない」
「邪魔者は……排除する!」

 OK、それが答えか。
 聞きたい事はあと1つだ。

「ミスターはこの行動を容認してんのか?」

 言った瞬間、激昂したように片方が飛び掛ってくる。
 どうやらこの2人、勝手に飛び出してきたらしいと当たりをつけた。
 振るわれた右拳を大きく避けると目を瞑る。

 なまじ見えるから視界に依存しちまうんだ。
 なら視覚情報なんぞいらん。

「ドラッケン!」
≪wind area seach≫

 疲れるからあんまりやりたくねえんだけど……なっ!

 マルチタスクをフルに利用して頭の中に戦場の立体映像を描く。
 空気や魔力の動きから2人の位置、行動を算出。

「死んでも恨むんじゃねえぞ……タケミカヅチ、セットアップ」
≪stand by ready, set up≫

 いきなり空間に出現するバインドや魔力弾、そしてかなりのスピードで迫る拳や脚を避けながらタケミカヅチを鞘に収める。

 噂に違わず優秀なのが2人もいるんだ。
 手加減や出し惜しみなんぞしていられるかってんだ。
 今の所厄介なのは、突然出てくるバインド!

 狙いを上空に定めて、式を発動。
 相棒は俺の意を汲んで勝手に準備を進めていたらしい。

 流石だな、ドラッケン!

「瞬動!」
≪max flash≫

 いつもより多めに魔力を篭めて空へ駆ける。
 その先にいるのは、1人の仮面魔導師。

 行くぜ、俺が持つ最速の連続技。

≪wind blade≫
「我流不破抜刀術──────紗散華[さざんか]」

 刀身が敵を捉えた感触。
 瞬間目を開き、

≪air walker≫
「回天──────逆巻[さかまき]」

 空気を踏みしめ、遠心力を使って右から左へと斬り下げ、

「連戟──────月時雨[つきしぐれ]」

 刺突の連続で意識を刈り取った。

「アリアッ!?」

 落ちて行く男をもう一方が受け止める。
 仮面の下からでも感じ取れる程の殺気が俺に向けられ、すぐさま飛び掛ってきた。

「このやろおおぉぉぉぉっ!!」
「あっちも空戦行けるのか。片方は陸戦だけだと思ってたんだがな。
 タケミカヅチ、アーマーフォーム!」
≪amor form≫

 あのスピードに対抗するには刀が邪魔だ。
 咄嗟にアーマーに変えながら拳を受け止める。

「っぐ」

 さっきまでより数段重い!?
 そんなの詐欺だろ!?

 先程までの攻防じゃ気付かなかったが、俺とこいつはかなり相性が悪い。
 同程度のスピードと攻撃の重さ、体術の錬度はあちらが上。
 そのせいで魔法を行使する隙がほぼない。

 なんとか繰り出される拳を捌きながら、現状を打開する方法を考える。

 最初に流した血が思ったより多かったみたいだな。
 決着には時間がかかりそうだが、時間が過ぎれば過ぎる程俺に不利になる。

 徐々に霞み始める視界に焦りが募る。

【ドラッケン、通信は?】
【駄目です。未だ繋がりません】

 くそっ。
 ドラッケンでも抜けないなんて、どんな緻密な結界張ったんだこいつ等。

 愚痴る事で落ちそうな自分を鼓舞しながら自分を保つ。

 龍眼は使えない。
 今使ったら余裕がない分確実に破壊衝動に飲まれる。
 それだけは────まてよ?

【キング?】
【この結界、外部にどれ位魔力が洩れてると思う?】
【まさか──】

 にいっと口角を吊り上げる。
 やってから我ながら不気味だとごちたが、相手は挑発だと思ったらしい。
 繰り出される攻撃は更に苛烈さ、敵意をを増して行く。

「ぐう……」

 少しずつだがあちらの攻撃が入るようになってきた。
 今はなんとかガードできているが、もう時間がない。

【しかしキング──】
【このままじゃ確実にやられるだろうが! なら無理矢理にでも助けを呼ぶしかない】

 出来ればなのはかシグナム辺りが望ましい。
 じゃなきゃこのスピードに対処できないだろうから。
 正直なのはをこんな事に巻き込むのは心苦しいが……

【答えろドラッケン。いくつまでなら可能性がある?】
【……1つまでならなんとか。それ以上は確実にアウトです】
【上等。通してみせるさ。なんたって──】

 相手の拳を上に弾く。
 寄りかかるよう懐に入ると、右拳を相手の腹に置いた。

「────駄目兄貴でもな、意地があるんだよ、男の子にはっ!!」

 我流・絶砲。

 突き貫いた拳は、バリアジャケットを徹り抜け、内臓へとダメージを届ける。
 あちらは、ただの突きがバリアジャケットを貫いたのがよほど意外だったらしく、ダメージを喰らいながらも大きく距離を取った。
 チャンスは1度きり。
 だからすかさず口を開く。

「星々が巡る天空[そら] 願いは地に堕ちて
 ────受け取りし人間[ヒト]の運命[さだめ]を負わん」

 詠う。

 詠唱破棄も可能だが、この方が絶対的安定度が高い。
 すなわち、俺の生還率も、あちらさんの存命率も上がるって寸法だ。

「悠久の時を越え 約束の地今は遠く
 前進も後進も 全ては意思によりて
 ────さすらば自ら希望を指し示さん」

 助かったらまたなのはに怒られるんだろう。
 頭の片隅で思考し思わず苦笑する。

 全ては命あっての事。
 ならば今俺に出来る最善を。

「今ここに奏でん 永遠[とわ]なる光の唄」

 目蓋の裏に妹達を見る。

 ようやく1人立ちが始まって、もうちょっとで皆幸せに暮らせるようになるんだ。
 これから始まる未来の為にも、俺はまだこんな所でやられるわけにはいかない。

「我が魂を以て紡ぎ、命ず」

 ようやく向こうは俺の口が動き続けていた事に気付いたようだ。
 魔法の発動を阻止しようと間を詰めてくる。
 その行動を俺は戦闘中だと言うのに鼻で笑った。

「はっ、もう遅えっ! 真血開眼[circuit open]、ギア・ファースト」
≪1st gear ignition≫
「なっ、こんなのデータになかったのに!?」

 その言葉に相手の正体を確信した。
 否、一応そうだとは思っていったが、今までのはカマ掛けに近かったのだ。
 けど今は魔力の練り上げで、思考を纏める所じゃない。
 地の底から這い上がってくるような言葉が脳裏に響く。
 それが、頭痛のようにも感じられ、俺はただ眉を寄せて、

 やべ……今にも引っ張られそうだ。

≪キング!≫

 今相棒も制御しようと頑張ってくれてんだよ。
 俺だけ負けるわけにゃあいかねえんだ。

 紅に染まった視界で相手を睨みつける。
 仮面の為、表情は窺えない。
 が、




────今、こいつ、恐怖しやがった。




 それだけを理解し口元が愉悦に歪む。
 危うさに気が付いて、慌てて自分の舵を取った。

 駄目だ。
 時間が延びりゃ、そのまま飲み込まれる。

 未だ続くナニカの声に俺は──

「ドラッ、ケン」
≪あと一息、あと一息なんです!≫

 そのあと一息がどれだけ遠い事か。
 敵はすでに我を取り戻し、再び俺に襲いかかろうとしている。

 くそっ、これだから猫みたいな本能の退化した連中はっ。
 尻尾丸めて引っ込んでろってんだ!

 今はまずい。
 本当にまずいのだ。
 近寄られたら俺はきっと、

≪キング、意思を強く持って下さい!!≫




────アイツヲコロシテシマウ────




「おおおおおおおおおおおおおおっ」

 咆哮。
 一瞬だが敵の動きが止まる。

 時間がない。
 このままでは俺が俺でいられなくなる。

「フレット……ウネ、ウェン、テ……」
≪キング?≫
「逆巻、け……旋、風【撃ち砕け 紫電】」
≪二重詠唱……まさか!?≫
【全力で結界を撃ち砕く。
 すぐ回路を閉じるが最低でも俺は気絶だな。お前が救援を呼べ】
≪しかしっ≫
【ドラッケン、俺はこんな所で化け物になり下がる気は毛頭ないっ】
≪……わかりました≫

 その言葉に詠唱を再開する。
 狙うはあの忌々しい結界ただ1つ。

「空の理[ことわり] 今その力解き放て【我が怒り以て其[そ]に鉄槌を】」

 衝動と意思が合致する。
 今はあれを完膚なきまでに破壊する、と。

「うねれ 大気【駆逐せよ 轟雷】」
「【召ばれるがまま ただ猛れ!】」

 俺の周囲に渦巻く魔力に奴が足止めを喰らう。

────歪む──ユガム──世界が──オレガ。

「ラストタイクーン【ミョルニール】」

 血管が破れ左右の腕から血液が迸る。

 まだだ、まだ俺を消せない。
 ここからがこいつの本領なのだから!

「【合成】」
≪composite≫

 叫ぶ。
 最後の意思を振り絞って。

「かっとべこの野郎っ──────神の息吹[god's breath]!!!」
≪god's breath≫

 全てを蹂躙する息吹を見送って、俺は全ての目を閉じて行く。

【ドラッケン、あいつ等を捕、ばく……】




──────闇に────沈んだ。




────────interlude

 突然空を裂いた蒼い閃光に私は目が釘付けになった。

「お兄ちゃん……?」
「なのは? どうしたのよ?」
「なのはちゃん?」

 アリサちゃん達の声が今は遠い。
 感じるのは消え去った光と共に徐々に弱まって行く魔力源。
 ────常に隣に感じられていた熱。

「……嘘」

 否定したい。
 だけど私が間違うはずがない。
 だってこの温かさは、ずっと私の傍らにあったもので。

【──早く、誰でもいいからキングを!】

 その念話を聴いた瞬間バリアジャケットを纏い文字通り飛び出した。
 アリサちゃん達の事も、魔法の秘匿も、全て頭から抜け落ちて。
 ただ、一心に空を駆けて行く。
 一秒でも早く、前へ。

 足りない。
 どうして私はもっと速く飛べないんだろう。

 ぎり、と歯を食いしばりながらもどかしいまでの30秒が過ぎて、私はその場に降り立った。

「お兄……ちゃん」

 倒れた人が1人。
 立ってる人が1人。
 そして、




──────赤く、紅く、朱く、アカく染まった────大切な人。




 ぶつん、と何かが切れる音がした。

「あ、ああ……ああああああああああああああっ」
≪master, it's denger zone≫

 聞こえない。
 そんなの知らない。

 認証をとばして私に掛けられた枷を無理矢理外す。
 ゆらりとベオウルフを構え……放った。

 周りが妙に五月蝿い。
 でもそんな事は関係ない。




 アレは────敵だ。




────────interlude out
 

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HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
目次はこちら

魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
目次はこちら

異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
目次はこちら

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