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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 翠屋は洋菓子をメインとするここいら一帯ではそこそこ有名な喫茶店だ。
 そんな店を経営している一家にクリスマスイヴが存在するはずもなく。
 一足先に今日、フェイトも交えたクリスマスパーティが行われた。
 居候である俺に与えられた当日の役割はキッチンでパティシエである桃ちゃんの補助。
 店内の客はみーちゃんや恭さん、それと恭さんの恋人である忍さんが捌く事になったらしい。

「明日は忙しいし、早めに帰らないとな」

 手元の携帯を弄りながら独りごちる。
 少なくとも夕方以降の本番に間に合わなければ、キッチンの桃ちゃんとシロさんが地獄を見るはめになるのだ。
 が、明日例の八神はやて嬢の所に見舞いに行こうとアリサから誘いをかけられたので、学校から直帰と言う線は消えた。
 桃ちゃんにその旨を伝えた所、

『いいわよ、行ってらっしゃい。
 刃護君、そのはやてちゃんとまだ顔を合わせた事ないんでしょ?』

 とあっさり了承されたので、お言葉に甘える事にしたのだ。

「プレゼントをどうするかは任せる……送信っと。これでオッケーだな」

 どうもアリサはクリスマスサプライズを狙っているらしい。
 見舞われる当の本人には行く事を伝えていないとの事。

「なあんか、嫌な予感がするんだけどなあ……」

 呟きは部屋の中に溶けて消え。
 ぐっと冷え込み澄んできた冬の夜空を見上げ、ざわざわと落ち着かない心臓を胸の上から押さえる。

「何も起きなきゃいいんだけど……」

 言いながら俺は、その希望が叶う事はないのだろうと微かに感じていた。




 終業式を終え、プレゼント選びも終了。
 少し時間は遅くなってしまったが、海鳴大学病院に到着する。
 俺は彼女の病室を知らないので、率先して歩いていくアリサ達の後ろをゆっくり追っていった。

 結構時間かかっちまったな。
 見舞いが終わったら急いで戻らねえと。

 時計を見ながら内心呟く。
 今は午後の四時半前。
 六時頃には少なくとも戻っていないと店が大変だろう。

「ここよ」

 アリサの言葉で顔を上げる。
 ふと違和感を感じて眉を顰めた。
 示された部屋内部には複数の人の気配。
 それはまあ、いい。
 八神はやてが一緒に暮らしていると言う親戚の人達が来ていると言う事で納得できる。
 今日はクリスマスイヴ、どこもおかしくない。
 問題は、そう問題は、この気配を俺が感じた事があると言う点で。

 まさか……昨日の予感はこれか!?

 可能性は論じていたはずだ。
 だが、こんなにも身近な事だとは思っても見なかった。
 ドアの傍にいる彼女等を止めようとして──




コンコン




 ――遅すぎた。

「「「「こんにちはー」」」」

 内部で動揺する気配が複数。
 やっちまったと額に手を当てる。

「……はい、どうぞー」

 明るい声で入室を許可されて、すずかとアリサがさっさと行ってしまう。

 仕方ねえ、腹ぁくくるか……

「なのは、フェイト」
「「?」」
「動揺を顔に出すなよ」

 俺の言葉に彼女達は顔に疑問符を乗せ、開かれたドアの先を視界に入れる。

「「っ!?」」
「わあ、今日は皆さんお揃いですか?」
「こんにちは、初めまして」

 すずかとアリサの挨拶する声が遠い。
 立ち止まったままの二人を肘で小突くと、彼女等は我に返った。

「あ、そっちがジンゴ君やね。初めまして、八神はやて言います」
「ああ、ジンゴ・M・クローベルだ。
 この前は用事が入ったせいで見舞いにこれなくてすまなかったな、八神」
「別にええよー、今日来てくれたわけやし。ほんま嬉しいわ。
 あ、でも私の事ははやてでええよ。私もジンゴ君って呼んどるし」
「そうか。じゃあそう呼ばせてもらうよ」

 あくまでにこやかに挨拶する俺に魔導師組が困惑した様子を見せる。
 その微妙な雰囲気を感じ取ったのか、意外にも空気を読むのが抜群に上手いアリサが遠慮がちな声を出した。

「あ、すみません。お邪魔でしたか?」
「あ……いえ」
「いらっしゃい、皆さん」

 シグナムが動揺を隠し切れずに上げた声に、シャマルが柔和な顔で歓迎の言葉を被せる。

 流石は参謀役ってとこだな。
 さて、どうしたもんか……

「なんだ、よかった」
「ところで、今日は皆どないしたん?」

 そのはやての言葉にすずかとアリサは顔を見合わせ笑顔になる。
 両手に被せていた上着に手をかけ、

「「せーの、サプライズプレゼント!」」
「あ……ははっ」

 嬉しそうにプレゼントの箱を受け取るはやて。
 はしゃぐ三人とは対照的に魔導師組は緊張しっぱなしだ。
 鉄槌の騎士にいたってははやてに抱きついたままこちらを睨みつけている。
 溜息を一つ。

 この様子だとはやては本当に何も知らない。
 なら、ここで事を起こすのは得策じゃねえ。
 少なくともそれだけは間違いないだろ。

「なのは、フェイト」
「あ……」
「うん……」

 未だ微妙な雰囲気を保ち続けている事に気付いたのだろう。
 はやてが不思議そうにこちらを見てくる。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、どないしたん?」
「あ……う、ううん、なんでも……」
「ちょっとご挨拶を……ですよね?」

 フェイトの台詞にあちらもこの場は誤魔化す事を決めたらしい。
 すぐにシグナムが頷いた。

「はい」
「あー、皆、コート預かるわ」
「はーい」
「じゃあ俺のもお願いしようか」

 シャマルがクローゼットを開いたので、俺とフェイト、そしてシグナムがクローゼットの前に集まる。
 と、フェイトが会話しているはやて達に届かない程度の声を出した。

「念話が使えない。通信妨害を?」
「アストラから聞いているかも知れぬが、シャマルはバックアップのエキスパートだ。
 この距離なら造作もない」
「確かにベオもそう言ってたな。
 守護騎士の将シグナム、俺達は今ここで争う気はない。
 こちらには事情を知らんのが二人いるし……」

 ちらりとベッドの方を見遣る。
 何故だかヴィータがはやてに鼻をつままれていた。
 この病室には笑顔が溢れている。
 少し緩んだ頬を自覚しながら彼女に肩をすくめて見せた。

「彼女は何も知らんのだろう? わざわざ険悪な所を見せる必要もあるまい」
「お見舞い、してもいいですか?」
「……ああ」

 静かに、本当に静かにかの将は頷く。
 殆ど動きのない表情とは裏腹に、彼女の心の中は嵐のように様々な思いが渦巻いているのだろう。
 そんな彼女の肩をぽんと叩く。
 気安い俺の動作に彼女は酷く驚いた顔をした。

「よかったらベオが生きていた頃の話を聞かせてもらえないか?
 あいつと共に在るようになってもう五年が経つけど、あいつ昔の話はあんましてくれないんだ」
「……今この場は休戦するが、馴れ合うつもりは毛頭ない。
 お前はそれを理解しているのか?」
「昨日酒を飲み交わした相手が、今日は剣を交える敵になる事もある。
 相棒の受け売りだがな、俺はあんまそう言う事にこだわりねえんだ。それに、さ」

 ベッド脇には未だ多少ぎこちなくはあるものの、姦しい様子を見せている五人がいる。

「あれに混ざるのは、ちょっとな。
 周りが女の子だらけだと俺が圧倒されて終わりそうだし、それよりシグナムと話してる方が面白そうだ」

 微笑ましく思いながら彼女達を眺める。
 戸惑いながらも話しに混ざっているヴィータと、それを見守るシャマル。
 シグナムはその様子と俺をしばらく見比べてから、ふっと表情を緩めた。

「変な奴だな、お前は」
「よく言われるよ」

 肩をすくめ、窓際に背を預ける。
 俺を挟むよう、左側にシャマル、右側にシグナムが立った。
 なのは達に対するよりも警戒の色が強いのは、民間協力者や嘱託魔導師である彼女達と、執務官である俺との差なのだろう。
 管理局における発言権や現場での権限において、俺と彼女達では立場が違いすぎる。

「さて、アストラの事だったか」
「ああ。シグナムから見てあいつはどんな騎士だった?」
「ふむ……残念ながら生前の記憶は酷く薄くしか残っていなくてな。
 詳しい事など覚えていないがアストラの事はよく覚えている。
 あいつは正しくベルカの騎士と言うに相応しい男だった。
 その心根は真っ直ぐで好ましい」

 ほんの少しだけ口元を緩ませた彼女に驚く気配が俺の左隣から伝わってくる。
 まさか彼女も敵対している魔導師にシグナムがこんな話をするとは思っても見なかったのだろう。

「私とアストラは気の合う友人だった。
 そうだな、ヴォルケンリッターの三人の次に付き合いがあったのがあいつだ。
 だからこそ覚えていたのだろうが……
 確かあいつは後輩に慕われていたな。私とは大違いだ」
「シグナムはあんま他の騎士と繋がりがなかったのか?」
「いや、その辺りは覚えていない。
 だが恐らく……殆どなかったはずだ。
 私はこの通りあまり人付き合いがよくなくてな。
 印象に残っている人物などアストラとその弟子、後はシャマル達くらいのものだ。
 だからこそアストラのそう言う所を羨ましいと、今でも思う」
「へえ」

 意外だな。
 面倒見もよさそうだし、特にその姿に憧れる女騎士なんかからは人気が出そうなもんだけど。

「……ああ、そうか」
「どうした?」
「いや、きっとさ、シグナムも慕われてたんじゃねえかなって。
 多分憧れが強すぎて気軽に声がかけられなかったとか、そんなとこだろ」
「……そう思うか?」
「ああ。ベオとシグナムの差なんてさ、自分から話しかけたかどうか程度のもんなんじゃないかと俺は思うよ。
 俺が言うのもなんだけど、ベオって結構な鉄面皮だし。
 黙ってたら近寄りがたいだろ?」

 俺の言葉にシグナムは心底面白そうにくつくつと笑う。
 まあ、左側からも笑いを堪えるような気配が伝わってきているが。

「そうか、鉄面皮か。どうやらアストラの今回の主も随分と面白い男のようだな」
「今回もって?」
「その指輪、アストラの弟子、モヴァノがつけていたものだ。
 恐らく彼女が指輪をデバイスとして作り直したのだろう?
 ならばアストラをモデルに管制人格を作った後、自分で使用したに決まっている。
 あいつも随分変わり者でな、流石はアストラの弟子と感心したものだが……そうだな、少々お前に似てるかもしれん」
「へえ」

 初代、と言う事はルーツは俺と同じはずだ。
 なるほど、似ているのも道理かもしれない。

「って、ジンゴ! あんた何一人で俺は関係ありませんって顔してんのよ!!
 あんたはやてのお見舞いに来たんでしょうが。ちょっとはこっちの話に混ざんなさいよ!」
「あー、悪いシグナム。俺から聞かせてくれって言ったのに」
「いや、構わん。……できれば、お前とは戦場以外で会いたかった」

 とん、と窓から背を離す。
 心の中で、俺もだと呟いてから一度だけシグナムを振り返った。

「ジンゴ、だ」
「うん?」
「ジンゴ・M・クローベルだ。
 魔導師ではなく、管理局の執務官ではなく、ただシグナムと言葉を交わした男の名として覚えておいてくれ」
「……本当に変な男だな、クローベル」
「自覚はあるさ」

 来た時より少しだけ柔らかくなった彼女の表情と言葉に満足して右手を振る。
 アリサ達の方へ歩み寄りながら、ぽつりと俺の口から想いが零れ落ちた。

「……叶うなら、俺はお前と友人になりたかったよ」
「……ああ、私もだ」

 聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量で発された言葉を俺は胸の内に大切にしまい込む。

 さあ、気合を入れよう。
 これから行く所は、ある意味どんな戦場よりも厳しいのだから。
 

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ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

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