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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 アランさんはなのはの言葉を最後まで聞く事なく、暴風となって行ってしまった。 後に残されたのはボロボロになった室内と、破壊しつくされた傀儡兵、そして唖然と彼の去った先を見詰めている僕達。
 一足早く我に返ったなのはが仕方ないなあと溜息をつく。
 どうやらアランさんのこうした行動には慣れているらしい。
 思わぬ所でなのはが意外と苦労人だという事が発覚した。
 実を言うとさっきので改めて2人は兄妹なんだなあと感じてしまったのだけど、内緒にしておいた方がよさそうだ。

「クロノ君、多分急いだほうがいいの。
 今のお兄ちゃんだと庭園ごとプレシアさんを沈めかねないし」
「……はは、流石の先生でもそこまでは──」
「できるよ。それにお兄ちゃん……すっごく怒ってたもん」

 なのはが真剣な表情でアランさんの消えた先を見遣る。
 それで僕もクロノもなのはが本気でそう考えているのだと気付かされた。
 確かに、闇の書の防御プログラムのコアを吹き飛ばした時の事を考えれば不可能ではないだろう。
 すうっと僕の顔から血が引いていく気がした。
 気を取り直すかのようにこほんと咳払いしてからクロノが口を開く。

「ここからは2手に分かれよう。
 エイミィからの報告では、プレシア・テスタロッサはジュエルシード以外にもこの時の庭園の動力炉を共鳴させているらしい。
 多分ロストロギア級の代物だ。この封印を2人には頼みたい」
「うん」「わかった」
「動力炉はここの最上階にあると言う事だ」
「2手に分かれるって事はクロノ君は?」
「ボクは先生の後を追いかけるよ。元々ボクの任務はプレシアの逮捕だからね」

 そうクロノはにっと笑ってから地下に向かう階段へと走り始める。
 その後姿に少しだけ不安を覚えて、僕は声を上げた。

「クロノ!」
「なんだ、ユーノ」
「気をつけて!」
「そっちもな!
 ボクの方は粗方先生が壊して行ってくれているが、君達の方はそうじゃない。
 特にユーノはきちんとセットアップしてから行くんだぞ!」
「わかった!」

 駆け抜けていったクロノを見送ってから、僕は上へと続く階段を見、それからなのはの方を向いた。

「行こう!」
「うん!」

 走りながらなのはが何やらモニターを開いて確認している。
 先程アランさんから受け取ったデータを見ているらしい。
 彼女は素早く確認を終えるとモニターを閉じ、走るスピードを落とす事なく僕を見た。

「ユーノ君、復唱して! ミネルヴァの起動キー、教えるから」
「うん」
「我、翡翠纏いし地の民也」
「我、翡翠纏いし地の民也」

 ブンと音がして左腕にはめたブレスレッド、そのコア部が輝く。
 こんな状況で不謹慎だとは思うけどドキドキしてきた。

「守護者たる意志もちて 今、その力解き放て」
「守護者たる意志もちて 今、その力解き放て」

 僕はこの年にして優秀な魔導師と言われながら、同時に落ち零れでもあった。
 理由は単純、デバイスとの相性が極端に悪かったからだ。
 もちろん、デバイスがなくとも魔法を使う事は可能だ。
 でもデバイスが扱えないと言う事は、大魔力を一度に操作するのが難しいと言う事を意味する。
 故にこれまで僕は魔力コントロールを精密にする事と、魔法式を緻密にする事で利用可能魔力量の低さを補ってきた。

「高らかに詠え、平和への祈り この手にするは絶対の楯也」
「高らかに詠え、平和への祈り この手にするは絶対の楯也」

 それは同時に、人よりも多めにある魔力量をまったく活かしきれていない状況を生んでいた。
 更に言えば僕の攻撃魔法に対する適正の低さもある。
 僕に与えられた選択肢には、前線魔導師と言う文字がなかった。
 それが、ずっと悔しかった。
 そうだ、悔しかったんだ。
 僕にもっと力があれば、なのはやアランさん達と肩を並べて戦えるのにってずっと思っていて、凄く悔しかった。

「「目覚めよ智者の額冠──────ミネルヴァ、セットアップ!!」」




 だから今────それを覆す!




≪standing by ......... start up≫

 機械的な女声と共に、広がるのは僕の魔力、翠の光。
 アランさんに手渡された力の欠片は、僕の前で形を大きく変えていく。
 広がった輪はアンテナのような角を左右から伸ばして、額当てのように幅広になった冠の中央には翠色のコア。
 デバイスらしからぬ装飾をコア周辺に施されたそれは、一瞬強く輝くと僕の額に収まった。

「これは……」
≪初期設定を開始します。
 魔力パターン照合、オールグリーン。
 マスター登録者、ユーノ・スクライア…………登録完了。
 現行のバリアジャケットをパージ、登録済みの物に変更……完了。
 智者の額冠ミネルヴァはこれより貴方の友であり、半身となります。
 よろしくお願いしますね、マイフレンド≫
「え……あ、うん。よろしく、ミネルヴァ」

 瞬時に切り替えられたのはバリアジャケット。
 一応僕の術式でも組んではいたのだけど、どうやらアランさんがあらかじめ設定しておいてくれたらしい。
 着せられた服の見た目はスクライア一族の民族衣装をベースにしたもの。
 動きやすいようにとの配慮からだろう。
 上着はいつものひらひらしたマント状の物ではなく、一般的なジャケットのように身体に沿ったものに変化して。
 クリーム色の半袖ジャケットは各所に僕の魔力光色があしらわれ、その下にはシンプルな黒いインナー。
 一瞬スクライアの紋章がなくなったかと思いきや、なのは曰く背中には刻まれているらしい。
 少しだけミネルヴァを装着した頭に違和感があるけれども、それもすぐに慣れてしまうだろう。
 何よりも、

「身体が……軽い」
≪私にあらかじめ登録されているのは各種結界と探索魔法、防御・拘束魔法、そして身体強化の術式になります。現在は身体強化を実行中≫
「身体強化!?」

 それなら今までも使ってたのに、こんなに違うものなの!?

≪ドクターが言うには、ユーノは今まで自分で術式を処理していたので行動時には思考がずれてしまいロスが発生していたそうです。
 ああ、呼び方はユーノで構いませんか?≫
「うん、構わないけど……君、よく喋るね」
≪私のAI基礎はドラッケンお兄様からいただいていますから≫
「うにゃー、いいなあ、ユーノ君。お兄ちゃんとお揃いなの」

 あ、なんか気が抜けた。

 ここが戦場だと忘れてしまいそうになるほど呑気ななのはの声。
 彼女は本気で羨ましそうに僕の額を見ていて、思わず脱力してしまう。
 そんな僕を呼び戻したのは、

≪ユーノ、来ますよっ≫
「っ!?」

 ついさっき起動したばかりの僕の相棒。
 気付けば階段はもう終わっていて、目の前には大量の傀儡兵。
 隣にいたなのはの気配が常の物から戦士へと切り替わる。

「行くよ、ユーノ君!」
「でもっ、ミネルヴァをどうすれば──」
≪いつも通りで構いません。ドクターの調整はパーフェクトです。ついでに私もパーフェクトです≫

 後半は聞き流して、いつも通りって……えと、いつもなら僕が縛ってなのはがとどめだから、

「チェ、チェーンバインド!」
≪chain bind≫

 叫んだ瞬間信じられない量のチェーンバインドが出現する。
 それらは縦横無尽に動き回り、目の前の敵を拘束していく。

 ……僕操作してないよね?
 こんなに呼び出してないし……

「さっすがユーノ君! 行くよ、ナックル──」
≪あ、なのはさんストップです。ここはユーノに任せてください。
 早く私の扱いをパーフェクトに覚えてもらわないといけませんし≫
「にゃっ!?」

 な、なんでデバイスだ……

 驚いて魔法の発動を止めたなのはを見ながら僕は冷や汗を垂らす。
 そんな僕等の様子を気にした風もなく、ミネルヴァはイメージしてくださいと言った。

「イメージ……」
≪そう、イメージです。
 ユーノ、貴方は今までの経験から自分のできる事に上限を決めてしまっています。
 ですが今は違う。私と貴方なら今まで届かなかった領域にも手が届く。
 それは間違いなくユーノ自身の力です≫
「僕自身の……力」
≪私はただ貴方の魔法発動を補助しているに過ぎません。
 私が魔法を発動させるより、ユーノが発動させるほうが処理は早いんですよ。
 その高速演算処理能力はユーノが自分で育ててきた力です≫

 その言葉に肌が粟立つ。
 セットアップしてからずっと感じている、目の前がクリアになったかのような思考の冴え。
 それを彼女は気のせいではないと肯定した。

≪だからあのバインドももっと強靭なものに出来ますし、やろうと思えば敵を切り裂く事だって可能です。
 知っていますか、ユーノ。
 ドクター曰く、想いや意思の力は何よりも強いんですよ≫

 ただ、集中する。
 言われるがままに、より強く、より細く。
 僕の意思を汲んでミネルヴァが輝きを放ち、チェーンバインドが細い糸状の物に変化して。
 だと言うのに拘束は引き千切られる事がない。

≪ワイヤーバインド、と言った所でしょうか。……ユーノ≫

 言われるまでもない。
 僕は頷くと高らかにトリガーワードを叫んだ。

「切り裂け!」
≪wire slash≫

 一瞬にして拘束されていた敵はワイヤーバインドに細切れにされ爆散する。
 あまりの威力を目の当たりにし、僕は人知れず冷や汗を流した。

「……やりすぎじゃないかな?」
≪まあ最初ですしこんなものでしょう。基本は斬撃魔法とそう変わりませんよ≫

 しれっと言った彼女になのはは苦笑して、今ので機能を停止しなかった敵に対し砲撃を放つ。
 それに追随するように僕も続いた。




 途中、合流したアルフやフェイトと別れ、僕達はただひたすらに最上階を目指す。
 ミネルヴァの扱いにも大分慣れてきた。
 従来僕の脳内で行っていた処理の4割を彼女が負担してくれているので、以前から使っていた魔法などは楽に発動ができるらしいと理解する。
 流石にワイヤーバインドなんかは処理する事項が多いので、きちんと演算しないといけないけど。
 つまりは今までと同じ処理能力を用いて、ワンランク上の魔法が使えると思えばいい。

「チャクラム!」
≪cakram bind≫

 指先に発現したリングを振りかぶる。
 こいつはリングバインドを応用したもの。
 それが本当なのかは多分に疑わしいが、一応相棒の言った事を信用する。

「ショット!」

 投げたチャクラムは円の軌道を描きながらも傀儡兵を切り裂いて。
 これはあくまでバインドなので、思念操作が効かないのが残念だ。
 隣では肩で息をしているなのはがまた1体沈めた所。
 これでこの階はクリアだ。
 再び並んで駆け出す。

「いったい何階あるんだろう……」
「わかんない……けど、ユーノ君凄いね」
「実は僕も驚いてる。まさかデバイス1つでこんなにも違うなんて」

 フロアは流石にそろそろ終わりだと思いたい。
 体力的にも魔力的にも大分厳しくなってきた。
 何より、

≪くくっ、楽しいですねえ、ユーノ。
 あれですよ、パーフェクトユーノ爆誕! ですよ。
 あまりのパーフェクトっぷりにエクスタシーを感じてしまいそうです≫

 精神的に、やばい。
 主に、僕の頭に引っ付いてるこいつのせいで。

 おかしいなあ……最初の方は良く喋るけど一応礼儀正しい感じだったのに。

「ミネルヴァってドラッケンのAIが元になってるんだよね……ドラッケンってこんなにアレな感じだったっけ?」
「わかんないの。ほら、あの2人はお兄ちゃんが突っ走るほうだからドラッケンはストッパーに回っちゃってるし」
≪お2人共、聞こえてますよ≫

 こそこそ話していた僕達はびくりと肩を揺らす。
 尤も、ミネルヴァが額についている時点で、僕もなのはも内緒話が出来るなんて思ってなかったけど。

≪それについてはドクターも首を傾げ、そして褒めて下さいました≫
「お、お兄ちゃんが……褒めたの?」
≪ええ。『ドラッケンが元になってるのになんでこんな性格になったんだろう』と、ドクターは首を傾げられ、『お前は近年稀に見るいい性格だな』と≫

 それ褒めてない! 褒めてないよ!?

≪何故でしょうね。『お褒めいただき光栄です』と私が返したらドクターは溜息をつかれました≫
「にゃああああっ、なんでお兄ちゃん知ってたのにAIをこのままにしてるのっ!?」

 僕もなのはに激しく同感。
 これって遠まわしないじめなのかなあ。

≪なんでも、『まあユーノの影が濃くなりそうだからいっか』との事ですが。
 あ、なのはさん、左前方に来ますよ≫
「っ!? ナックルバスター!」
≪knuckle buster≫
「さらっと流さないで!? ああもう、アランさんは何考えてんのさっ。
 影が濃くなる所かキャラ食われちゃいそうだよっ!!」

 微妙に動きの止まっていない敵にチャクラムを飛ばす。
 何やら電波を受信した気がしたが、気のせいだと思いたい。

≪『あいつ、突っ込みの才能あるぞ』と、ドクターは──≫
「「アランさん(お兄ちゃん)の……アホーーーーーーッ!!」」

 なのははバスターで、僕は遠隔操作したプロテクションのバーストで、目の前の扉を撃ち砕く。
 ぽっかり開いた穴の向こう、今までとは違う広いホールのような内部が見える。
 どうやらようやく目的地についたらしい。
 潜り抜け、開けた視界に僕となのはは同時に息を呑んだ。
 真ん中に見える大きな物が動力炉の中心だろう。
 いや、クロノは動力炉がロストロギアのような事を言っていたので、あれはロストロギアの受け皿でしかなく、本体はもっと小さいのかもしれない。
 だけど、僕達が呑まれたのはそんな事ではなく、

≪ひのふの……壮観ですねえ。優に50体は越えてますか。
 普通の人型から大型、飛行型、なんでもござれ。
 ここは大型デパートの傀儡兵売り場ですか?≫
「ミネルヴァ……」
≪何を呆然としているんですか、ユーノ。言ったでしょう、あんな木偶の坊、貴方達の相手にもなりませんよ。何より──≫
「私達の目的は傀儡兵の破壊じゃなくて動力炉、ロストロギアの封印。そうだよね?」
「なのは……」
≪パーフェクトです、なのはさん。ユーノ、少しはなのはさんを見習ってくださいね。
 女声に先出しさせるのはマナー違反ですよ≫
「あー……」

 なんかもう、どうでもよくなってきたかもしれない。
 つまりはあれなわけでしょ。

「僕が防御して、なのはが吶喊、封印。やる事は変わらないって事?」
≪正解です≫
「……ふう。いいよ、任せて。1機たりともなのはには触れさせないから」

 トン、と足の爪先で調子を整え、なのはの前に出て顔だけで振り向く。
 アランさんを真似てにっと笑って見せたら、彼女は一瞬キョトンとして、すぐに破顔した。

「ね、ユーノ君」
「何? なのは」

 名前を呼ぶだけで心が温かい。
 僕は、ようやくなのはの隣に立てた事を実感ながら、魔法を組み上げていく。

「私達、結構いいコンビだよね?」
「そうだね。…………ははっ」
「どうしたの?」
「あの日アランさんが言った通りになったと思って。あの人もしかして預言者なのかな?」
「違うよ、ユーノ君」

 力強い否定の言葉。
 もう、僕は振り向かない。
 やる事は決まってるし、背中の温かさが教えてくれるから。
 僕達は、即席でも、パートナーだって。

「お兄ちゃんは────魔法使いなの」
「確かに、違いないね。準備はいい? 真っ直ぐ……突っ切るよ!!」
「「ready ......... GO!」」
≪spear protection≫

 絶妙なタイミングで展開されるのは翠色の盾。
 常の球形ではなく、先の尖った槍のようなそれを右手に掲げ、僕は真っ直ぐ前へ飛行する。
 背中には、守り抜きたい人がいる。
 だからいくらでも強くなれる。

「もっと……」
≪compression≫
「もっと……!」
≪quick action≫
「もっと突き抜けろ、僕の盾!!」
≪grow and up≫

 駆け抜けるは翠と桜。
 目の前に立ちはだかる大型でさえ容易く貫いて。
 数瞬に満たない時間の中、僕達は風になる。

 動力炉の中心は……見えた!

「なのはっ!」
≪sealing form ... set up≫
「リリカル、マジカル……リリカルマジカル……リリカルマジカルッ!!」

 何度も繰り返し彼女が呪文を唱える。
 それは、なのはの力量を以てしてもそこまでしなければ目の前の動力炉を止められないと言う証左。
 左右から襲い来る傀儡兵達に僕等は互いの身体を入れ替える。
 なのはは動力炉に、僕は傀儡兵共に、にっこり笑って手を広げた。

「言ったでしょ? なのはには指1本触れさせない!」
≪spire protection ... breake≫
「動力炉……封印!!!」
≪zero buster ... sealing≫

 背後から広がる桜色の閃光に僕は身を任せる。
 この光が、僕を害す物ではないと知っているから。
 だから慌てる事なく次の手を打てる。

「ミネルヴァ!」
≪cakram bind≫
「ショット」

 翠の円輪が左右の敵を爆散させる。
 それを認め、ほんの僅かな時間彼女を見た。
 なのはは手を掲げ、ゆっくりと下りてきた手の平に乗る程度の赤い結晶を掴むと、ベオウルフにそれを格納する。
 ほんの少しだけ、地面の揺れが小さくなった気がした。

「……終わったよ、ユーノ君」
「うん。後は脱出……かな?」
「え、と……そう、だね」

 本当に一気に突き抜けたもんだから僕等の目の前にはまだ多くのミネルヴァ曰く木偶の坊がいる。
 一瞬なのはが地下の方を見た事に気付き、僕は密かに溜息をついた。

 やっぱり、気になるよね。
 フェイトと……アランさんの事。

 だから僕は彼女の背中を押してあげよう。
 それが、期間限定でも彼女のパートナーだった僕の役割だと思うから。

「なのは、行って」
「え……?」
「アランさん達の所、行きたいんでしょ?」
「でも……今からじゃ間に合わないよ」
「うん、そうだね…………普通なら」
「ふえ?」

 確かに今まで僕達が通ってきた道を後戻りした所で、アランさん達がいる最下層に着く前に庭園が崩壊してしまうだろう。
 どう考えても間に合うはずがない。
 だけどそれは馬鹿正直に来た道を戻った場合の話。
 僕は今出来る最高の笑顔を作って、床を指差した。

「ユーノ君?」
「突っ切りなよ、なのは。最短距離を行けば、きっと間に合う」
≪なのはさんの実力であれば、造作もない事だと思われます≫
「じゃあユーノ君も──」
「なのは」

 一緒に行こうと言おうとしたのだろう。
 僕は彼女の言葉を遮り、首を振る。
 彼女の瞳が何故と揺れていた。

「僕は一緒に行けない。なのはが突っ切った穴から追いかけられたら、困るからね」
「でも……」
「信じてよ、なのは。僕等はパートナーでしょ? なのはの背中は、僕がちゃんと守るから」
≪ユーノ、私の存在をパーフェクトに忘れていませんか?≫
「あはは、ごめんごめん。僕達が……だねっ」
≪wire bind ... slash≫

 腕を振る度に敵が爆散する。
 信じて欲しいならそれなりの実力を見せなければならない。
 それは僕がこの世界に来てからの短い期間で、アランさんから教わった事の1つだ。
 だから示す。
 僕が彼女を守りきれると信じるに足る力を。
 ワイヤーバインドが揺れ、木偶の坊を切り裂いて行く。
 その様子になのははようやく頷いてくれて、

「わかった。押し付けちゃってごめんね、ユーノ君!」
≪knuckle buster≫

 床を貫き下層へ落ちて行った。
 僕は床に大きく開いた穴へ奴等が入ってしまわぬよう、細心の注意を払いながら手を振り続けて。

「……あはは、できれば『ありがとう』の方がよかったなあ」
≪少しばかり減点ですね。……ユーノ、右です≫
「うんっ!」

 短いミネルヴァの返事が、今はありがたい。
 だからその優しさに甘えてしまう事にした。

「ねえ、ミネルヴァ。僕、結構活躍したよね?」
≪ええ、ユーノは頑張りました。
 ……泣いてもいいのですよ? 今は誰も見ていませんから≫
「泣かないよ。今はミネルヴァがいるし……僕のこれは多分憧れだったから」

 そうだ。
 空で輝く星に憧れただけ。
 決して手の届かない星に、仄かな想いを抱いただけだったのだから。

≪パーフェクトです、ユーノ。貴方、いい男になりますよ≫
「ははっ、ありがとう。むしろミネルヴァに泣かされそうな気がしてきたよ。
 ねえ……なのははいつ気付くかな?」
≪さあ? もうしばらく先である事は確かですね。今の2人の距離は近すぎますから。
 特にドクターはパーフェクトに妹としか見ていないでしょうし≫
「そうかもね……だけどきっと、いつか気付く」

 彼女の抱いている情が、決して家族愛ではない事に。
 もっと深い情である事に。
 今はまだ小さな想いなのかもしれないけど、いつか、必ず。
 これは多分、少しだけ離れた位置にいた僕だからこそ気付けた事実なんだろう。

 地下への通路周辺の傀儡兵を粗方片付け終わった頃には、僕は肩で大きく息をしていた。
 普段やっている遺跡の発掘でもここまでは動かない。
 だから、体力はそろそろ底を尽き始めているのだけど。

「さて、もう少し僕の八つ当たりに付き合ってもらうよ」
≪ではストレス解消と参りましょうか。ユーノ、殴りましょう≫
「……できるの?」
≪私とユーノに不可能はありません。私達は、パーフェクトですから≫
「最っ高だよ、ミネルヴァ。ちょっと惚れちゃいそうかも」
≪私に惚れると火傷しますよ……私が≫
「君がなんだっ!?」
≪冗談です。... pin point protection≫

 拳に宿る翠の光。
 僕はそれを握り締め、ただ前を向く。
 目の前にはなのはとフェイトが2人で倒した奴と同じ大型種。
 だけど、負ける気はまったくしない。

≪あの時『2人でなら』と思いっきりハブられた事を忘れていませんよ! ……ユーノが!!≫
「あ、なんか今ミネルヴァがドラッケンの兄妹機だって事、凄く納得できたかも」
≪お兄様もドクターの秘密を暴露するのが大好きですから≫
「君達性格悪いよね」
≪お褒めいただき光栄です≫
「全っ然! 褒めてないからっ!!」

 だから僕は、僕達は、笑いながら目の前の敵に吶喊した。




≪さて……帰りましょうか、ユーノ≫
「そうだね。エイミィさんの話じゃもう時間がないみたいだし」

 揺れの止まらない庭園の最上階。
 物言わぬ傀儡兵達の残骸の上に僕達は立っていた。
 周囲に動く物はもはや何もない。
 全部、僕の八つ当たりの対象となって散っていった。
 走り出しながら僕はこの一月余りを思い出す。
 短い期間で色々な事があった。
 ジュエルシードを輸送する船が事故を起こした事を知って、僕はこの世界にやってきた。
 出会いはもしかしたら必然だったのかもしれない。
 強くて優しい白と銀の魔導師、そして悲しい目をした金の魔導師。
 そして、僕の相棒になってくれた、性格はちょっとアレだけどやっぱり優しいデバイス。
 この事件を通して、僕は少しだけ大人になったんだと思う。

≪なのはさん達は大丈夫でしょうか?≫
「大丈夫だよ。あっちにはアランさんもクロノもいるし、多分僕達より脱出は早いんじゃないかな」
≪そうですね。むしろのんびりしていたユーノの方が危なそうです≫
「……ミネルヴァも反対しなかったじゃないか」
≪ストレスは溜めると身体に悪いんですよ?≫

 崩れ行く庭園には目もくれず、僕達は走り続ける。
 もう少し行けば、アースラへの転送ポイントへつける。
 多分、この事件が終わったら僕が前線に出る事はなくなるだろう。
 元々傷つけたりするのは性に合わないし、僕はこう言う荒事よりものんびり遺跡発掘している方が楽しい。
 気になるのは1つだけ。

「ねえミネルヴァ」
≪なんでしょう、ユーノ≫
「ごめんね。戻ったら多分ミネルヴァが力を振るう機会は殆どないと思うんだ。
 僕、さ……やっぱりこう言うの、似合わないから。
 だからミネルヴァはもっと力を生かせる人の所に──」
≪似合う似合わないはともかく、私はユーノと一緒に行きますよ。
 それとも私との事は遊びでしたか?≫
「茶化さないでよ。君達は……自分の能力を限界まで生かすのが喜びなんでしょ?」
≪……はあ。ユーノ、実は貴方頭悪かったんですか?≫
「なんでそうなるのっ!?」
≪私はドクターに作られました≫

 それは、知っている。
 彼女が何やら大事な事を話そうとしているのを察し、僕は黙り込んだ。

≪ドクターが私を完成させた時、なんと声を掛けたか知っていますか?≫
「……ううん、なんて?」
≪『俺達はユーノに借りがある。だから俺はお前を作った。お前は、ユーノの力を最大限に生かす為に生まれてきた。ユーノと共に生きる為に生まれてきた。それだけは、忘れるな』と。
 貴方、私から存在意義を奪う気ですか?≫

 知らなかった。
 アランさん、ただ単に完全後方支援用デバイスを作った事なかったからお試しで作ってみるかとか言ってたのに。
 借りとは多分ジュエルシードの事だと思う。
 気にしている素振りなんて微塵も見せなかったから、今の今まで僕も忘れていたのだけど。

≪だから、連れて行ってください、ユーノ。
 貴方の見る世界を、私も一緒に見てみたい≫
「ミネルヴァ」
≪なんでしょう?≫
「…………ありがとう」
≪どういたしまして≫

 額で輝く彼女に感謝を。
 いくつもの巡り会いに感謝を。
 さっきまでピクリとも動かなかった涙腺が揺れて、頬に何かが伝う。
 僕は、ぼやけた視界はそのままに、ただ出口へと駆けて行った。
 

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プロフィール
HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
目次はこちら

魂の唄ショートショート
目次はこちら

遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
目次はこちら

異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
目次はこちら

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