[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
知った顔どころか、8年前まではかなりの縁があった女性だ。
「あんたか」
『ええ。時空管理局提督巡航艦アースラ艦長リンディ・ハラオウンです。
やっぱり生きてたのね。お久しぶり、アラン君』
「ああ、久しぶりだな、リン姉。さて、事情説明が必要、だよな」
『知り合いだと話が早くて助かるわ。
今からアースラに来てもらえると助かるのだけど』
「それなんだが、2つ程聞き入れてもらいたい」
『なにかしら』
ユーノとなのはは交わされる俺とリン姉の会話に目を回し始めた。
「1つ、出向くのは構わんが今からだと帰る時間が遅くなりそうだ。
家に連絡を入れさせてもらいたい」
『家に?』
「8年もこっちにいたんだ。家族くらい出来るさ、なあ、なのは」
「にゃ!?」
ぴょこんとツインテールが跳ねる。
その様子が微笑ましくてつい笑みがこぼれ、再び顔を引き締めた。
「もう1つは……その前に1つ質問させてくれ。
俺の生存に関する情報をミッドチルダに知らせたか?」
「いえ、確定するまでは報告しないと艦長が」
『これから本局にするつもりよ。
アラン君は民間協力者だったわけだし、報告は必要でしょう』
「悪いがその報告を止めてもらおう。更に俺の存在には緘口令を布いてもらう。
これが事情説明を行う上での条件だ」
その言葉に全員が絶句する。
かろうじて立ち直りが早かったリン姉が質問してきた。
『わけあり、なの?』
「──アラン・ファルコナーは死んだ。それだけだ」
『……そう、わかったわ。
エイミィ、アラン君の言った通り、彼の存在についてクルーに緘口令を』
『了解!』
「艦長!?」
『いいのよ、クロノ。
そうまでしないといけない理由がある、そうでしょう?』
「ああ」
『話してくれるわよね?』
「後でなら」
『そう。ではクロノ執務官、彼等が家へ連絡後、3人をアースラへ』
「了解しました」
ウィンドウに向かって頷いてから、クロ坊俺達の方を向いた。
「先生、連絡が終わったら呼んで下さい。ボクはあちらにいますから」
「ああ、わかった。悪いな、ちょっと待っててくれ」
携帯を取り出し、ワンタッチで翠屋につなぐ。
なのは達はクロ坊と一緒に行った様だ。
『はい、翠屋です』
「あ、父さん? アランだけどさ──」
父さんに現状報告しながら、リン姉達にどう説明したものかと俺は頭を悩ませた。
────────interlude
お兄ちゃんが翠屋に電話をかけるのを見てから、私達は黒尽くめの男の子、クロノ君の方へ歩いていった。
「あれ、君は連絡はいいのか?」
「僕はこっちの人間ではないので」
「……ああ、変身魔法か。そっちの子の使い魔かと思ってた」
ユーノ君、クロノ君が来てからずっとフェレットだったからなあ。
私が苦笑していると、慌ててユーノ君が変身魔法を解く。
最近フェレットでいる時間が長いから、私も時たまユーノ君が人間だって言う事を忘れてる気がするの。
「ユーノ・スクライアです」
「スクライア一族か。
……そういえば行方不明者の連絡が来ていたな。そっちの子は?」
「にゃ!?」
ユーノ君って行方不明扱いだったんだとか考えてたから、思わず声を出してしまった。
びくんと弾かれるようにクロノ君の顔を見る。
なんの話だっけ? あ、そうだ!
「えっと、高町なのはです」
「いや、名前もなんだが……家への連絡はいいのか?」
「? お兄ちゃんがしてるし……」
私がする必要ないよね。
すると、クロノ君がちょっと考える仕草をしてから納得したように頷いた。
「なるほど。先生は今、君の家にいるのか」
「そう、それ!」
「っ!? なんだ?」
あ、大きい声出しちゃった。失敗失敗。
「クロノ君はどうしてお兄ちゃんを先生って呼ぶの?」
「あ、それ僕も気になってたんだ。
アランさんがこっちに来たのは8年前って聞いてるし、クロノの年齢的にアランさんの事は覚えてない位じゃないの?」
「君達な……」
クロノ君がこめかみを揉むように顔を押さえた。
眉が寄った上、少し口元が引き攣ってる気がする。
「ボクは14歳だ!」
え、14歳……14歳!?
「「ええええええええっ」」
「まったく失礼だな、君達は」
「あ、えっと、ごめんね、クロノ君」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて謝る。
だって、お兄ちゃんより背低いし、私と同じかちょっと年上位だと思ってたの。
「ボクが彼を先生と呼ぶのは、先生がいなくなる前に3年間ほど師事してた事があるからだ」
クロノ君は機嫌悪そうに腕を組んで溜息をつき、それでも律儀に答えてくれた。
あれ? でもいなくなる3年前って、
「お兄ちゃんまだ9歳だったはずだよね?」
「それにその当時クロノってまだ3歳じゃ……」
私達の疑問にクロノ君は肩をすくめて、少し自嘲するように笑った。
その姿は酷く似合ってはいるのだけれども、こう言う笑い方、私は嫌い。
お兄ちゃんも時々こう言う風に笑う事があるけど、その度にどこか行ってしまうんじゃないかと不安になる。
そんな事を考えながらクロノ君を見ていたら、彼は気付いたように表情を元に戻した。
「正確には4歳になったばかりだった。ボクと先生は5歳差だからね。
まあ、先生はあの頃から優秀だったし、最初の1年はデバイスを作る為に依頼を受けてなかったから、結構時間を取って見てもらえたよ。
あの当時は……ボクは、とにかく強くなりたかったから、ね」
「それって……」
「終わったぞ。行こうか」
クロノ君の自嘲の意味を聞こうとした所で、丁度お兄ちゃんが戻ってきた。
────────interlude out
管理局と話してくると報告した所かなり渋られたが、知り合いだと説明したらなんとか納得してくれた。
それにしてもやって来た艦の責任者がハラオウン家って言うのはついてるな。
そう考えながらクロ坊達の所に戻ると、クロ坊が変な顔をしていた。
どうしたのかも気になるが、あまりリン姉を待たせるのもあれだ。
「終わったぞ。行こうか」
弾ける様に俺を見る3人、たじろぐ俺。
「な、なんだ?」
「いえ、なんでもありません。じゃあ行きましょうか。エイミィ、頼む」
『はーい、転送魔法展開するよ』
出現した巨大な魔方陣に全員が乗る。
クロ坊の合図と共に俺達を光が包み、一気にアースラへと転送された。
「さて、話を聞かせてもらおうかしら」
「その前に1ついいか?」
「ええ、どうぞアラン君」
「誰だ、この間違った日本文化をリン姉に教えたのはっ」
「にゃ、にゃはは……」
そこっ、勇者を見るような目で俺を見るな!
百歩譲って畳はいいとしても、なぜ室内に鹿威しがある。
最近はインテリアとして人気が高いらしいから、意味がないとまでは言わんが室内には置かんだろう。
それに加えてなんだあの盆栽は。
盆栽嘗めてんのか?
恭也に叩っ切られるぞ!
………………あかん、取り乱した。
驚くべき事に、ここはアースラの艦長室らしい。
趣味一色に染められた室内、畳の上に緋毛氈[ひもうせん]を敷き、リン姉が正座して待っていた。
勧められるがままに席に着くと、対面にクロ坊とリン姉が座った。
こちら側は俺の左隣になのは、もう片隣にユーノと言った席順だ。
「……それにしても変わらないな、リン姉」
「そう?」
ああ、全く。
初めて会ったのは11年前だが、当時から見た目が全く変わらないってどゆこと?
あと、その味覚も変わらないのな。
出来れば変わって欲しかったのに……
緑茶に大量の砂糖とミルクを入れているのを見て、相変わらずだとげんなりした。
隣で冷や汗をかいているなのはに、気にすると負けだと念話を送る。
あれだけ砂糖を大量摂取していると言うのに、糖尿病になる気配もないのだから大したものだ。
「私の事は置いといて、同じ事があなたにも言えるんだけど」
「まあその辺りの話は後でまとめてしよう。今は先にやる事があるし。
まずはジュエルシードがここに来た経緯からだな」
ユーノを促すと、ユーノがジュエルシード発掘から俺達に会うまでの事、会ってからの事、フェイト嬢との遭遇までを話して行く。
無論、俺にジュエルシードを譲渡した事は誤魔化して、だが。
一通りの説明が終わると、対面に座る2人が口を開いた。
「立派だわ」
「だけど同時に無謀でもある」
「もっと言ってやれ」
ちゅうかユーノ、お前抱え込みすぎ。
発掘したから責任は自分にあるって、そこまでやろうとしたらその内人間止めなきゃいけなくなるんじゃなかろうか。
改めて聞くといかに無謀な行動だったかがよく分かる。
ユーノが今元気でここにいるのは、偶然に過ぎないのだ。
「あ……アランさん、そっちに付くんですか」
「ユーノの行動自体は立派だと思うんだけどな、それでも単独で来たのは危険だったろう。
運良く俺達に会えたから無事だったが、ともすれば致命傷を負っていた可能性もあった。
その時対処できるのが自分1人だったとしても、せめて局に一報入れるくらいの事はしてもよかったと思うぞ」
「そう……ですね。はい」
あっちゃー、言い過ぎか?
でも言っとかないと際限なく抱え込みそうだしなあ、こいつ。
とりあえずへこんだユーノを慰めるように右手でぽんぽんと頭を叩き、言葉を選ぶ。
「あー、つまりだな、もうちょい周りに頼れって事だ。
就業年齢の低いミッドの弊害かな、これは。
子供は子供らしく、もっと大人に頼るべきだと思うんだが……
責任を取るなんてのはな、大人の仕事だと俺は思うんだよ」
「耳が痛い話ね」
「まあ、連絡を受けても中々動けない我々にも問題がありますからね。
実際次元震が起こるまでは僕等もこちらに来る予定はなかったわけですし。
これでもしも彼がここに来てなかったらロストロギアを放置してしまっていた可能性は高いです。
そう考えると頭が痛いですね」
はあ、と返事するユーノの前で、クロ坊は険しい顔のままこめかみを揉んだ。
海──広い次元世界を担当する部署。本局を中心として、中心管理世界以外の犯罪を取り締まるため次元世界中を飛び回っている──所属の執務官として管理局の腰の重さには思う所が多いのだろう。
実際、かなり歯がゆい思いはしてきたはずだ。
俺が管理局と完全に縁を切ってからすでに8年が経つが、そうそう簡単に組織の性格と言うのは変わるものではないはずだ。
仕方ないのかもなあと溜息を1つ。
「クロ坊、あんまり気負いすぎるなよ。
実際海所属の局員数に比べて次元世界は広すぎる。
全部に手を伸ばすのなんて、それこそ神でもない限り不可能だ」
まあ、俺は神なんて信じてないけど。
俺の内心の呟きなどは知らず、クロ坊は苦しそうに分かってはいるんですけどね、と頷いた。
重い沈黙が流れる。
こちらが現在開示できる情報は全て開示した。
問題は、それを踏まえて責任者である彼女がどうした対応を取るかなのだが。
俺達が注目する中、リン姉はゆっくりと口を開く。
「今、この瞬間をもって、ロストロギア“ジュエルシード”の件は、我ら時空管理局に全権が委任されます」
それを受けてクロ坊も執務官の顔に戻り、続いた。
「君達は全てを忘れて、このままそれぞれの生活に戻るんだ。
後の事はボク達に全部任せればいい」
「そんなっ」
定型通りの対応に溜息が漏れる。
確かにロストロギアの回収や封印は管理局の領分だ。
しかし、ここにはそれでは納得できない人間が少なくとも2人いるだろう。
がりがりと頭をかいてから腕を組む。
リン姉が口を開こうとしているのを見て、わざと遮った。
「却下だ」
「「な!?」」
一気に注目が集まる。
意識を切り替えた。
さあ、こっから先は俺の1人舞台だ。邪魔はさせん。
まずはちまちまと責めさせてもらいますかね。
「前提として俺達はすでに向こう側に面が割れている。
民間人の保護が局則にある以上、あの程度軽くあしらえるとは言え俺達に護衛をつけなくてはならなくなるはずだが、さて、割ける人員はあるのか?」
「それは……」
提督が言葉に詰まる。
俺は畳み掛けるように言葉を続けた。
「まず1つ目、アースラにいるそちらより現地の俺達の方が機動性が高い。
早期解決の為人海戦術を使うのもありだが、残りのジュエルシードは9個。
アースラから探すより俺達が現地で探している方がよほど早いな」
「しかしっ」
「クロノ・ハラオウン執務官」
「っ!?」
「常に冷静に、現状把握は全ての基本。
それが例え認めたくない事であっても、だ。そう教えたはずだが?」
「……はい、申し訳ありません」
刷り込みにも似た師弟関係。
クロ坊は俺の師匠モードには基本的に逆らえないよう仕込んである。
今の立場はクロ坊の方が上なのに、なぜか謝ってしまっているのがその証拠だ。
提督が苦い顔をしているのは、それが分かっているからだろう。
なのはとユーノも緊張しているのは……まあ仕方ないか。
こいつ等も師匠モードの俺は苦手だもんな。
「次に、アースラの保有戦力。
ハラオウン提督は基本的に出られないとすると、トップはハラオウン執務官だな。
さて、その下は?」
「武装隊が──」
「話にならんな。武装隊の連中はAクラスがせいぜいだろう?
恐らく敵対魔導師のランクはAAA程度、余程技術があっても2ランクを埋められる人間はそう多くない。
平均的なミッドチルダ式魔導師だと仮定すると、あちらの使い魔を抑えるので精一杯、むしろ向こうが取る戦術次第では敗れるぞ」
「それでも人数がいればなんとか」
「話にならん、と言ったはずだが? リンディ・ハラオウン提督。
人数が増えればそれだけ初動は遅れる。
その時の被害予想は? 現地被害なんぞロストロギア被害に比べれば小さいかもしれんがな、それでも住んでる人間にとっては死活問題だ。
管理局は市民の安全を守るためにある、違ったか?」
「……違わないわ。相変わらず、手厳しいわね」
苦笑するリン姉を鼻で笑い飛ばす。
今更ながらに思ったが、このモードの俺ってかなり俺様な性格だよな。
「最後に情報だ。
先程ハラオウン執務官が敵対魔導師を攻撃しようとしたのを俺が止めたな。
その事にも関わってくるのだが……」
「そう言えばあれは疑問に思ったわ。何故犯罪者を庇うような真似を?」
ほれ、尻尾が丸見えだ。
「失言だったな、ハラオウン提督。やはり最初から見ていたか」
「あ……」
「まあ今は脇に置いておこう。
先の質問に答えるなら、今あの子を捕まえられて彼女に繋がる線を消されるのは都合が悪いからだ」
「「!?」」
「ついでに言えばな、例えこの件から外されたとしても俺となのはは独自に動くぞ。
俺達はジュエルシードだけじゃなくて、あの敵対魔導師の陣営にも用がある」
リン姉の鋭い視線が突き刺さる。
それに負けじと睨み返しながら、熱くなりすぎたなと反省。
一度目を瞑ってクールダウンの為深呼吸をした。
「以上の点を踏まえてそちらの回答を待とう。
ああ、参考までに言うならば、妹のなのはは俺の弟子になって4年目。
今でこそリミッターを掛けているが、現在の魔力値は簡易測定でS+だ」
「はにゃ!?」
「え、S+……」
それを最後に師匠モードを解除した。
俺の目つきが戻ると一気に部屋の空気が緩む。
最後の言葉で局員組みに冷や汗が見えた気がするが、まあ見なかった事にしておいてやろう。
なのはがいるから大分暈かした所もあるが、きちんと伝わっているようだ。
できればなのはやユーノは事の全容を知らないままに終わって欲しい。
「1つ聞いていいかしら?」
「なんだ?」
「以前この世界で観測された大規模砲撃、あれは……」
「俺だ。必要だったからな……まあそのせいでしばらくは全力を出せないが。
その辺りは後々さしで話す時にでも話そう。
ああ、気になるようならクロ坊もいて構わないぞ」
リン姉が目を閉じて考え始めたのを確認すると俺も目を閉じる。
3人が戸惑う気配があるが、今は気にしない。
たっぷりと沈黙を置いてから、リン姉が溜息をついた。
目を開く。
「現時点をもって“ジュエルシード”の回収については、我々時空管理局が責を負います。
アラン・ファルコナー、高町なのは、ユーノ・スクライア、以上3名には民間魔導師としての協力を要請します」
「艦長!?」
「二言は?」
「ありません」
「先生!!」
「クロ坊、喚くな見苦しい。常に冷静たれ、だ。
まあとりあえずは妥当な所か。こちらからいくつか条件を出させてもらっても?」
「可能な範囲であれば受け入れましょう」
ふむ。この反応だと酷く無理を言わなければ通りそうだな。
好都合だと、彼女が考え始めた辺りからピックアップしていた条件を頭の中に並べる。
「1つ目、現場における臨時裁量権を貰いたい」
「それはあなたに?」
「無論だ。流石にこの2人に与えると感情で動く可能性が高まるからな。
完璧とは言い難いが、合理的判断が出来るのはこの中では俺だろう」
「……作戦に対する拒否権も含むのよね?」
無言で首肯するに留める。
彼女は少し考え込み、仕方ないなあと言った感じで口を開いた。
「ふう、まあアラン君なら大丈夫でしょう。わかりました、受け入れます」
内心安堵の溜息をつく。
とりあえずこれが通れば後は大したものがないので大丈夫だろう。
「2つ目、なのはの民間魔導師としての登録をお願いしたい。
流石に妹が違法魔導師として捕まるのは避けたいからな」
「それは喜んでさせてもらうわ」
「管理局の者として登録するなよ? あくまで民間魔導師だからな」
「う……分かってるわよ」
なぜにそこで言い淀む……
本当に大丈夫かなあ?
「そう言えば、アラン君自身はいいの?」
「俺? ……そうか、そうだな」
俺も今はモグリの魔導師か。
まあ、この場合は仕方ないな。
「じゃあ俺のも頼む。ただし以前の登録とは別人として、な」
「わかったわ」
「3つ目、探索中は俺達はどちらに滞在する?」
「一応アースラを考えているわ。その方が連携が取りやすいでしょうし」
「ふむ、それだと1つ目のメリットがなくなるが、まあ些細な事か。
先に言った通り俺の体調は万全じゃなくてな。
こちらに滞在する間、治療を受けさせてもらいたいのと、メンテナンスルームを使わせてもらいたい」
「治療は当然ね。と言うよりあれだけの砲撃をしておいて2日後にピンシャンしてるなんて、どういう身体の構造してるのよ」
「ピンシャンはしてないぞ。なんせ……どん位だったか忘れたな」
だああっと全員がこける。
いやだって、忘れちったんだから仕方ないじゃんか。
「右腕は複雑骨折、全身の筋断裂に加えて内蔵はぼろぼろ。
リンカーコアの出力はCクラスまで低下。神経系はかろうじて無事、なの」
突如隣から湧き上がる黒いオーラ。
なんかあの日と一言一句違ってなかった気がするなあ、なんて現実逃避してみる。
「しかも魔法行使は禁止って言われたのに、その次の日にはフェイトちゃんを助ける為にジュエルシードの暴走を止めに魔法を使うし」
「いやあれは必要で──」
「今日もクロノ君を止める時魔法使って」
「一応簡単な魔法使用許可は取って──」
「お兄ちゃんはどこまで私を心配させれば気が済むの?」
「っ、だあっ、この程度で泣くなあっ」
『そこっ、微笑ましげに見てないで助けろ!』とアイコンタクトをしたら、『い・や♪』とウィンクつきで返された。
ぐしぐしと目を擦るなのはの頭を抱きしめて宥める。
なんか最近こいつを泣かしてばっかりな気がするなあ。
「それにしても、よくそんなにぴんぴんしてるわねえ」
「ぴんぴんはしてないが……
まあこっちに治癒が得意な魔導師がいてな。この関連の話もまた後で、だ」
なのはの頭を抱えながらリン姉と話を続ける。
どうでもいいが、締まらんなあ。
「わかったわ。あとメンテナンスルームはデバイスのメンテナンス?」
「それもあるがユーノがな」
「えっ、僕!?」
最初の話以降、すっかり蚊帳の外だったユーノが驚くも、スルー。
「後方支援型としてはかなり優秀なのに、使えるデバイス持ってないんだとよ。
支援オンリーって作った事ないし、1つ組んでやろうかと思って」
「ええっ!? いいんですか?」
「いいも何も、デバイスがないと不便だろう?」
なくでも魔法は使えない事もないが、その処理をデバイスに預けられない分複雑な魔法は使えない。
支援系魔法は単純な物が多いが、それでも一瞬で結界や転移魔法をあれだけの精度で組み上げられるユーノの能力を考えれば、デバイスを持てばもっと上の段階に上がれるはずなのだ。
だから俺としては当然の事を言ったつもりだったのだが、
何に驚いてるんだ、こいつは。
リン姉はそんなユーノを見てからちょっと考え込み、それから頷いた。
「むしろ大歓迎ね。スタッフの勉強にもなるし。
ついでにクロノのS2Uも見てあげてくれない?」
「別に構わんが、スタッフの勉強?」
≪だからキングは自分の事に無頓着すぎると言ってるではないですか≫
「どわっ!?」
胸元の相棒が突然話し始めて驚く。
妙に静かだと思えば、タイミングでも計ってたのか、こいつ。
≪クロノさんはお久しぶりですね。
あれから更に精進されたようで何よりです≫
「ああ、久しぶりだな、ドラッケン」
「へえ、この子があの“さすらいマイスター”の最高傑作ね。確かに凄いわ」
リン姉までもがじろじろとドラッケンを眺めている。
そう言えば彼女は昔から仕事が忙しかったので、ドラッケンに会った事はなかったか。
しかしなんだ、この羞恥プレイは。
ってあれ?今気になる単語があったような。
「その変な渾名、何?」
「え? ああ、さすらいマイスター? かなり有名よ。
アラン君の作品どれも評価高くて、市場に流れると凄い値段で取引されてるの。
だけど本人が一所に留まらないじゃない。
依頼するのも一苦労って言う事で付いたのがそれなのよ」
「……うあ、嫌過ぎる、その渾名」
「とにかくそうね、スタッフの前で1つ組んで貰えるならパーツ代はこちらが持つわ」
「本気か!? そりゃ助かるけど」
「ええ、スタッフの勉強代と考えればそう高くはないし。ついでに先行投資かしら」
と、ユーノに向かってウィンク。
後方支援型は望んでなる奴が少ないので、目を付けられたらしい。
俺の弟子と言うわけではないから口出しは出来んし。
すまんな、ユーノ。
「ごほん、あー、4つめは寧ろリン姉達の為だな」
「私達の?」
「協力を要請した旨をうちの両親にリン姉が直接伝える事。
うちの連中は全員こちら側の事を知ってるから問題はない」
「? それがなんで私達の為になるのかしら?」
こりゃ地球の情報を碌に入れずに来たな。
「まずここの世界は就業年齢が高い。
日本は基本的に早くても15歳からだし、20歳以上が一般的だ。
俺はともかくなのはは親の許可が必要だろ」
「なるほど。ミッドとは違うものね」
「で、次が重要なんだが、その、なんと言うか、末っ子のなのはは溺愛されててな。
行かなかった場合のリン姉の末路とか……想像したくもない」
「にゃ、にゃはは……」
「末路ってそんな大げさな」
「寧ろ控えめだと思うが?
相性の問題もあるとは思うが、今日の戦闘を見る限り美由希でもクロ坊クラスは瞬殺するぞ」
「強さとしてはその上に恭也お兄ちゃん、アランお兄ちゃん、お父さん、なの」
「ちなみに魔法を使った上で、だ」
「い、一般人、なのよね?」
「まことに遺憾ながら」
深く頷く。
大概うちの連中も人外クラスだな、と考えてから一瞬震えた。
「ちなみに恭也相手に強化魔法だけだと俺が負けるんじゃないか?
奥義使われたらその状態で居合い使っても勝率はとんとんだな」
「先生の居合い相手に互角って……」
「必ずご挨拶に行くわ」
「そうしてくれ」
青くなるクロ坊とリン姉。
正直御神の剣は護る為のものだからそうそう抜かないはずだが。
……なのは関連だと途端に鯉口軽くなるからなあ、あの2人。
「で、最後。これはまあ条件とはちと違うけど」
「何かしら?」
アラン・ファルコナーも■■■■■も、もういない。
いなくなって、しまった。
「アラン・ファルコナーは死んだって言ったろ?
自己紹介してなかったと思ってな。
改めて、アラン・F・高町だ。よろしくな」
だから、旧知の友人に今の俺を紹介して、にっと口角を上げてみせた。
「高町……ああ、だからお兄ちゃん、なのね。
それじゃ改めてよろしく、アラン君」
そうして俺はリン姉とがっちり握手を交わした。