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アースラに移動する前、はやて達にはしばらく管理局に協力する旨を伝え、いざと言う時用の緊急連絡用端末を渡してある。
ヴォルケンリッターが揃ったこの状況で、連絡を取らなければいけない状況がそうそうあるとは思えないが。
念の為、と言うやつである。
アースラには気のいい奴が多く、俺達がなじむのにそう時間はかからなかった。
俺は身体がまだ治ってないので、もっぱら情報官の真似事をしたり、デバイスを弄ったり、なのは達の指導をしたりと言った所。
今日はジュエルシードの反応があったという事で、なのはとユーノは出動中。
俺は前に約束していた通り、端末を弄らせてもらっていた。
「っと、これだな」
≪行けますか、キング?≫
「嘗めんな」
以前のファイルより厳重に隠され、ロックされているそれへアクセスして行く。
だけど今回は内側からの侵入だし、この程度なら片手間でも可能だ。
「アランさん、前言われてたプレシア・テスタロッサの資料、本局から届いたよ」
「ご苦労さん、エイミィ。こっちも例のファイルを拾えた所だ」
エイミィも俺という人間に慣れてきたらしく、大分気安くなってきた。
彼女は俺の隣の端末に座ると、データを展開して行く。
その様子を横目に見ながら、俺もファイルの暗号化を解いていった。
「「これは……」」
意図せず台詞が被る。
顔を見合わせて頷いた。
「リン姉、クロ坊、ちょっと来てくれ」
「アラン君? わかったわ。なのはさん達はご苦労様。クロノ、転送よろしく」
「わかりました」
リン姉が寄って来ると、まずはエイミィがデータを表示した。
「アランさんの言ってた通り裏が取れました。行方不明になっていたプレシアは、クローン技術を用いた人造魔導師計画に参加していたようです」
「プロジェクトF・A・T・E、ね……」
「フェイト嬢の名前の由来はこれか」
わかってはいたが遣る瀬なくなる。
そこへなのは達の転送をスタッフに任せたクロ坊も遅れてやってきた。
「先生、呼びましたか?」
「ああ、俺の方もビンゴだ。例のファイル、ゴミの所在地リストだった」
ずらりと表示される高官の名前。
いつ、何に関与したかまでが詳細に記されている。
尤も全てがここに記されているわけではなさそうだ。
「なんでこんなもの記録に残してるんだろ?」
「多分脅迫材料だろ。
こんだけの人数が関わってるって事は、こいつ等より上が主導の可能性が高え」
「なるほど。彼等を捕まえてもトカゲの尻尾切りに過ぎないって事ね。
だとすると主犯はかなり上になるのかしら」
「だろうな。ま、とりあえずこいつ等は清掃リスト行きだ」
解決の糸口が少しずつ見えてきたのできっと喜ぶべき事なんだろうが。
これさえも氷山の一角に過ぎないと言う事を考えると眩暈を感じる。
いったいどれだけの人間が不正に関わっていると言うのだろうか。
局員のリストを目で追いながら、ふと提督と言う文字で目を留める。
そう言えば言うの忘れてたな。
「話は変わるがちょいと気になってる事があってさ」
「なんですか、先生?」
「例の夜天の主な、両親が亡くなって天涯孤独の身なんだよ」
「あ、だからアランさんの家で世話してるって」
「おう。でさ、その子の財産管理とかしてくれてる後見人がいるんだが……」
唐突に始まった全く関係ない話に困惑する3人。
まあ、俺も話し忘れてたから思い出した時に言っておこうと思っただけだし。
「父親の親友を名乗ってるらしいんだが。
その子が『グレアムおじさん』って言ってたんだ」
「グレアムですって!?」
「あれの主の後見人がその名前ってのが引っかかってな。
悪いがそっちからも調べてみてもらえないか?」
正直、後見人が彼だとすれば動機が不明瞭すぎるのだ。
局に報告も行ってない様だし、余りにも不透明。
しかも監視まで付いていた。
「だけど、あの人がそんな事をするわけが……」
「俺もそれが引っかかっててな。
まあ、あの人じゃないならなんの問題もないわけだし。
お前があの人に世話になってたのは知ってるが、そこを押してお願いできないか?」
「……わかりました。ちょっとやってみます」
少し考えてから頷くクロ坊。
ここからなら俺でも調べる事は可能だが、なんとなくクロ坊がやった方が良いような気がしたのだ。
「さて、そろそろあいつ等が帰ってくるからこの話はここでお終いだ」
「そうだね。あの子達は知らない方がいいだろうし」
「汚いのは大人の仕事、でしょ。アラン君」
そうして笑い合う。
丁度なのは達が帰って来、笑っている俺達を見てきょとんとしていたが、それを見て皆で更に笑った。
笑い合える内は世界はそう捨てたもんじゃない。
そう、思いたい。
医療ベッドから起きて、右手を握る。
開く。
3度繰り返して、
「よっしゃ! 完治!!」
≪おめでとうございます、キング≫
走ったりはしていたが、この5日間魔法行使はゼロ。
そろそろ勘が鈍るんじゃないかと冷や冷やしていた所だ。
医療スタッフに礼を述べて外に出ると、なのはが壁に寄りかかり佇んでいた。
ドアの開く音で気付いたのか、俺の方を向く。
「完治!」
ありがちにぐっと力こぶしを作って見せると、ぱあっと笑顔になる。
「よかった! 魔法の方は?」
「そっちも許可が下りた」
≪ただしAAクラスまでですが。間違っても龍眼は使わないで下さいね≫
「わかってるよ」
苦笑しながらも相棒に答える。
龍眼についてはクロ坊達にも話していない。
流石に簡単に話せる事ではないし、実際見てみないと信じられないだろう。
未だに俺でさえ半信半疑なのだ、俺の中に竜の血が流れていると言う事は。
そう言えば俺は魔導師ランク認定試験を受けてないのにAAで登録されていた。
大方、リン姉辺りがねじ込んだんだろう。
相変わらず無茶してるけど大丈夫なんだろうかと少し心配しながらポケットに手を突っ込む。
なのはと雑談を交わしながらブリッジに行くと、ドアを開けた瞬間全員から注目を受けた。
「どうだった?」
「お蔭様で無事完治。
フルドライブやリミットブレイクはアウトだが、通常戦闘には問題ないとさ」
「そう、よかったわ」
肩の力を抜くリン姉を見て、随分心配を掛けてしまったなと思う。
「しっかし、しばらく魔法を使ってなかったから勘が鈍ってないか心配だ」
「模擬戦でもしておく? 今ならクロノが空いてるわよ」
「クロ坊か。久々に揉んどくかな」
「逆に揉まれたりして。クロノ君もこの5日で随分強くなったし」
この5日間、クロ坊を始めとする3人は出動外時間を殆ど模擬戦で過ごしてきた。
なのはの戦術も広がり、ユーノも専用機を作る為のデータを取りの為に管理局のデバイスを借りて、初めて使うデバイスに四苦八苦しながらもなんとかレベルアップを果たしている。
クロ坊もまた然り。
だが、
「まだまだ弟子にゃ負けられんよ」
「あはは、訓練室空けておくね」
「サンキュ、エイミィ」
食堂にいたクロ坊を拾って訓練室へ。
さて、久々にやりますか。
「ドラッケン、セットアップ」
≪ja. stand by ready, set up≫
バリアジャケットも久しぶりだ。
軽く体を動かして調子を見、クロ坊に向き合う。
「指導はしてもらってましたが、先生との模擬戦も随分と久しぶりですね」
「この5日間、俺はお前の動きを見てきたからな。
ハンデとして居合い、肉体強化、二重詠唱はなしにしてやる。
勝てたら“坊”はやめてやるよ」
「!? その言葉、忘れないで下さいよ!!」
あらら、結構気にしてたんか。
酷く気合を入れたクロ坊に苦笑しながら軽く構える。
先制はクロ坊。
宙にトラップバインドをばら撒いてからお得意のスティンガースナイプ。
俺は軽く腰を落とした体勢で、
≪air walker≫
エアウォーカーで飛びながら、後方に一歩避ける。
もちろんこれだけじゃ誘導式のスナイプは避けられないが、
「ウェンテ!」
≪pin point shield≫
蒼を纏い、足に展開したシールドで蹴り飛ばす。
ぶつかった瞬間、
≪close≫
「ブレイク」
包み込んで爆砕。
視界には撃ったと同時に詰めてくるクロ坊の姿。
俺は右足を上げているので動けない、
「わけないだろっ」
「ですよねっ」
空中に手を突いて体を回転させる。
左手を向かって来るクロ坊に定めた。
「Go ahead!」
≪knuckle buster≫
撃ち出された砲撃を最小の動きで避けられる。
見切りがかなり良くなってるな。
「なのはのお陰で無手相手も大分慣れましたよっ」
「みたいだな、だが甘い!」
≪break≫
クロ坊が避けたはずの砲撃が弾け、真空の刃がいくつも飛び出す。
S2Uで俺を打ち据えようとしていたクロ坊は反応できない。
俺は床に付かんばかりに体を下げると呟いた。
「エアバインド」
≪air bind≫
クロ坊のトラップと攻撃を避けながらいくつも設置して行く。
っと、あそこのトラップバインドが邪魔か。
「ドラッケン!」
≪break knuckle≫
シャドウを行う様に両手を振るい、空中のトラップ術式へ介入して破壊して行く。
見学中のなのは達は何をやっているかわからないようだが、クロ坊は理解できているようで苦々しい顔をしていた。
「そこまで隠しても見破りますか」
「魔力がちょい漏れてるからな。まだまだ構成が甘い」
「そんなのわかるの先生だけです、よっ」
愚痴りながらもクロ坊は魔力を集束し、ブレイズキャノンを放つ。
「っ!?」
と、右足がいきなり捕らわれた。
なるほど、考えたな。
複数タイプのトラップがあるのか。
目の前に迫る砲撃は俺には避けられない。
だが、
「圧縮」
≪pin point shield≫
刀を持つように右手を構え、抜刀。
刀はないが、俺の右腕は正確に魔力弾を弾く。
「って、そんなのありですか!?」
「速度と角度によっちゃあ少ない魔力でも弾ける。
その辺りの講義は昔した事があるな」
言いながらも相棒がバインドブレイクを行使、フリーになった右足を振り上げる。
その場に配置してあった空気塊を蹴ってバク転。
クロ坊との距離が、開いた。
「さて、行こうか」
≪it's show time!≫
「舞い踊れ──ブラストダンス!」
≪1st dance start!≫
ばら撒いたエアバインドが動き出す。
避けるクロ坊。
だが悪いな、そこは、
「舞踏場内だ。セカンド」
≪2nd dance go ahead≫
時間差で次々起動するエアバインド。
その動きに翻弄されるクロ坊。
それでも避けながら魔力弾を浮かべ反撃してくる所は流石執務官か。
「よろしく、シルフィード」
簡単に風を固めていくつも分身を作り出す。
囮はこれで充分。
≪flash move≫
囮で逃げ道を防ぎ、体に捻りを加えながら吶喊。
待ち構えるクロ坊。
ま、普通なら正しい判断だな。
これは真っ直ぐしか動かないから。
だが甘い!
「クイックターン、フレット・ウネ・ウェンテ」
≪air walker≫
空気を掴み、急制動を掛けて回り込む。
みしりと肘が嫌な音を立てるが、この程度なら問題ない。
「なっ!?」
「馬鹿もんっ、戦闘中に思考を止めんじゃねえっ! 我流・旋[つむじ]」
放たれるのはただの回し蹴り。
ただし、真空刃付きの。
慌てて避けるクロ坊に左肘を打ち込み、
「チェック、サード」
≪3rd dance...check mate≫
三重のエアバインドで拘束した。
ふうっ、いい汗かいた。
「いや、凄いね。クロノ君のお師匠様って聞いてたけど、これ程とは」
「まあ俺も技を出して避けられるとは思ってなかったが。保険が利いたな」
「先生のエアバインドは正直反則だと思うんですけど」
「まあ、あれはほぼ見えないしなあ」
講評しながら戻ってきた俺達を、ユーノとなのはがぽかーんと見ていた。
「どした?」
「いえ、アランさんって強かったんですね」
「私はお兄ちゃんの技を避けたクロノ君が凄いと思うの」
「まあ、結局負けたんだけどね」
クロ坊が肩を落とす。
だがまあ、ひやりとする場面もあった。
俺の相棒がドラッケンではなかったら、下手すると負けていた可能性もある。
「いや、正直あのトラップにゃあ驚いた。強くなったな、“クロノ”」
「あ……」
ぽん、と頭に手を置くと、呆けた後顔を赤くする。
「っ先生! 子供扱いしないで下さいとあれ程っ」
「俺にとっちゃお前はまだまだ子供だよ」
「アランさんと話すときはクロノ君も年相応だよねえ」
からかうエイミィに反論するクロノ。
その様子を微笑ましく思いながら、わいわいと訓練室を後にした。
────────interlude
アースラの廊下を上機嫌のクロノ君と歩きながら、私はさっきまで行われた模擬戦を思い出していた。
アランさんがクロノ君の師匠と言うのは聞いていたが、それでも幼少期の話。
それだけ時間があればどうやっても記憶は美化されて行くので、正直アランさんの強さについて私は懐疑的だった。
なのはちゃんを見ていれば指導者としての資質は疑いようがないんだけど、アランさん自身があそこまで強いなんて。
模擬戦データを解析した手元の端末に目を落とす。
「最大時は確かにAAだけど、殆どはAクラス以下の魔法……」
「『魔力量は絶対的強さを意味しない』って言うのが先生の信条だからね」
AAの威力があったのは旋という技を使った時だけ。
アランさん特有の風の変換資質を除いても、近い動きは可能だろう。
つまり先程の戦闘はAクラスの魔力があれば殆どの人間が可能という事だ。
Aクラスの人間がAAA+の執務官に勝利するのも絵空事ではない事になる。
もし、武装隊全員があんな戦い方が出来るようになればと考え、ぶるりと震えた。
「エイミィ、どうした?」
「や、なんでもないよ。それより凄い上機嫌だね、クロノ君」
「そりゃあね。ようやく名前で呼んでもらえたし」
「そんなもの?」
正直なんでクロノ君がここまで喜ぶのかが私にはわからない。
確かに『クロ坊』って呼び方は子供相手って感じだけど。
「ああ、エイミィは知らないのか。
あの人意外とフェミニストだから、相手が女性なら言われればすぐに呼び方を変えてくれる。
でも、男相手だとどんなに凄いと言われる人でも認めない限り名前じゃ呼んでくれないんだ」
「へえ」
フェミニスト、かあ。
あんまりそういう感じしないんだけど、クロノ君がそう言うならそうなんだろう。
「なるほど。11年かかってようやく認められたからそんなに嬉しそうなんだ」
「ああ。それに年下のユーノが名前で呼ばれてるのに、ボクだけ坊のままなんて悔しいじゃないか」
ちょっとした男の子の意地のようなものを見せられて、思わず笑ってしまう。
クロノ君は普段はしっかりしているのに、アランさんの事になると途端に年相応に戻る。
それはなんだかとてもいい事のように私には思えた。
────────interlude out
クロノと別れ、休憩がてら食堂でお茶をしてから再び艦橋へ。
満面の笑みを浮かべている女性にひらりと手を振る。
「お疲れ様、アラン君。どうだったかしら、うちのエースは」
「いや、実際に立ち会ってみないと分からない事って多いよな。
見てたからある程度は知ってたんだが、あれ程とは思わなかった。
強くなったよ、あいつ」
実際バインドに足を取られた時はひやりとした。
ドラッケンの演算力がなければ負けていたのは俺の方だったかもしれない。
いや、そんな事になったらなりふり構わずに卑怯な手を使っただろうけど。
「なら本人に言ってあげればいいのに。喜ぶわよ、あの子。
口にはしないけど、あの子あなたに憧れてるんだから」
「なんでまた俺かね。
もっと凄い魔導師なんていくらでもいるだろうに」
何やらにやにやと笑っているリン姉に肩をすくめて見せる。
まあ、クロノに対する評価を面と向かって言うのが恥ずかしいので、彼女に話した面もあるのだが。
その辺りが見抜かれているようでどうにもばつが悪い。
そんな俺に彼女はにっこり微笑み、湯飲みを差し出してきた。
「どう、アラン君。飲まな――」
「いらん」
即答。
いくら俺でもあれを素の状態で飲んで平気でいられる自信はない。
リン姉は少し傷ついた顔をしてから、酷く残念そうに湯飲みを引っ込めた。
もう嗜好については突っ込まないから、布教するのはやめてくんねえかなあ。
もしかしたらシャマル辺りと気が合うかもしれない。
主に食物関連での虐げられっぷりにおいて。
最近シャマルが一生懸命料理の練習をしているらしいが、それは彼女が1人で作った料理の味が微妙すぎたせいらしい。
はやてに1人で台所に入るのを禁止されたんだとか。
まあ、手伝いはさせてもらえるらしいから、リン姉よりはましかもしれない。
彼女はお茶の準備の時は完全に蚊帳の外に置かれるのだし。
閑話休題
くだらない事をつらつら考えていると、微妙にアラームっぽいものが鳴った。
緊急時アラートとは異なるようなので何が起きたのかと1階部を見ると、すぐに薄い茶髪のオペレーター――アレックス通信士――が口を開く。
「艦長、探索地より未知の周波数で通信が入っています」
「未知の周波数? 海鳴から?」
「あ!」
もしかして、と思いつく。
艦長席の前、2階部の縁に手をかけて飛び降りた。
「アラン君!?」
「繋いでくれ。多分俺が海鳴に残してきた家族に渡した緊急連絡用端末からの通信だ」
「え、アラン君の? 艦長、どうしますか?」
指示を仰がれた彼女は一瞬考え込む素振りを見せて、何かに納得するよう頷いた。
「アラン君、ここの通信機器を使うと記録が残ってしまうけど大丈夫かしら?」
「大丈夫。残っても問題ないようにあらかじめ対策はしてきた」
「そう。なら繋いであげて」
「はっ」
アレックスがコンソールを操作し始め、俺はモニターの前に立つ。
対策と言っても大した事はしていない。
パーツを手に入れる事ができない管理外世界にいた俺が、管理局の機器を誤魔化せるような通信用端末を組み上げられるはずがないのだ。
だから、俺がやった事は本当に単純な事。
「繋がります」
『ザザッ…………えるか、聞……るか?』
「ちっ、電波が悪すぎるか。端末右脇につまみがあるはずだから、そこで調整してもらえるか?」
『む……こ……か? ガッ……聞こえるか? その声はアランだな?』
「ああ、俺だ」
「……サウンドオンリー?」
「緊急連絡用だからな。最低限の機能しかつけてないんだ」
『sound only』と書かれた砂嵐を表示するモニターから目を離さずに、疑問の声を上げたアレックスに返す。
つまりはそう言う事だ。
一般に管理世界で使われている通信端末に地球産のパーツを用い、態と性能を劣化させる。
それにより、なんとか通信は可能になるものの映像は出せないし音質も酷く悪いと言う使い勝手の悪い通信端末が出来上がった。
声だけでも解析出来ない事はないが、ノイズが多いので作業は大変だろう。
この通信にそこまでの時間をかける価値があるかと聞けば、通信相手を知らない大半の局員は首を振るはずだ。
俺がこんな状態の悪い機器を用いるのが怪しい、と気付く奴はいるかもしれないが。
「それでどうした。わざわざ連絡してくるなんて、何があったんだ?」
聞こえてくるのは凛とした低めの女声。
通信相手であるシグナムが慌ててない所を見ると緊急事態という訳ではないらしい。
それでも彼女にこの端末を使う危険性については話してあるので、余程の何かが起こったと言う事だ。
っと、名前を出さないように気をつけないとな。
『む、それなんだがな……ザザッ』
「ん?」
彼女の声に混ざる小さなノイズ。
その中に聞き覚えのある音を捉え、眉を顰める。
鳥の声?
もしかして外にいるのか。
「ちょっと待て。今どこにいるんだ?」
『海鳴臨海公園だ。病院の帰り道に寄ってな』
海という言葉でピンと来る。
丁度俺も探索の方も進展がないのでそろそろ進言しようかと思っていた所だ。
「まさか……見つけたのか。ジュエルシードを」
『察しが良くて助かる。ちょうど車椅子の高さから見ると光って見えたらしくてな。
言われて探してみたらお前の持っていた青い宝石と同じ物を見つけた』
「発動は……してないよな?」
していたらアースラの方でも捉えられているはずだ。
『ああ、少し発動しそうな気配はあったが、今は一定時間ごとに妹が叩いて発動を阻止している』
「叩くってお前な……」
いや、ヴィータの名前を出さなかったのは満点なんだけどな。
妹……そうとしか表現のしようがないのか。
頭の中でヴィータがジュエルシードを叩いている所を想像する。
敵がもっと大きければ様になったかもしれないが、小さな宝石をあのハンマーで叩いているシーンはシュールに過ぎる。
誰かに見られていたら警察にでも通報されそうだ。
まあ、きちんと結界を張っているから問題ないのだろうが。
『後、これを狙ってきたらしい魔導師と守護獣がいたぞ』
「!? 遭遇したのか?」
『少し危険になったので、もう1人の妹には姉をつけて家に帰ってもらった。
魔導師達の方は私と弟で対応して追い払ったが、問題あったか?』
「……いや、その場合はそれが最善だろう。気を遣わせて悪いな」
『そうか、ならよかった』
話を纏めるとこうか。
はやての足のリハビリの帰り、なんらかの理由で臨海公園に寄り道した。
そこではやてがジュエルシードを発見。
八神家が俺の話にあったものだと気付いた辺りでジュエルシード発動の予兆を感じ取り、ヴィータが魔力攻撃でそれを阻止。
そこにジュエルシードを狙ったフェイト嬢とアルフが登場。
これを脅威と判断したシグナムははやてにシャマルをつけて家に帰した。
その後フェイト嬢達はシグナムとザフィーラで追っ払った、と。
中々言い太刀筋だったと嬉しそうに言うシグナムに少しだけ肩を落とす。
どうやらフェイト嬢はバトルジャンキーに目をつけられてしまったらしい。
南無。
『アラン? それで、私達はこれをどうしたらいいのだ?』
「っ、ああ、悪い。そうだな、封印はお前等じゃできなかったか?」
『私は無理だな。できるとすれば恐らく私達の中では姉だけだろう。
先程言った通り今は家に帰ってしまっている』
「じゃあ、封印ついでに受け取りに行くか。
どの道受け渡しに戻らないといけないわけだし」
どうでもいい事だが、シグナムが八神家の面々を姉だの妹だのと言っているのは酷く違和感がある。
早い内に自由の身にしてやらないとなと思いながら艦長席を振り返った。
「そう言う事で海鳴に降りてもいいかな?
下手に局員が行くとあいつ等警戒しちまうだろうし、この場合俺が行った方がいいと思うんだ」
「……できれば局員も同行させたいんだけど、その様子じゃ断固拒否しそうね」
「はは、悪い。でもさ、あいつ等も俺の家族みたいなもんだからさ。
できれば穏便に済ませたいんだよ」
俺の目を射抜くように見つめてから、彼女は呆れた溜息をついた。
少しだけ苦笑しながら目線で謝ると、仕方ないわねと返ってくる。
「まあ、いいでしょう。私達の最優先任務はロストロギアの回収なわけだし。
ゲートの使用を許可しますから行ってらっしゃい」
「ありがと。じゃあ、行ってきます」
言ってすぐに転送ポートに向かって駆け出す。
しっかし、シグナムがフェイト嬢に遭遇か。
なのはがずるいってむくれそうだな。
割と起こりうる未来を想像して、俺は密かに苦笑を漏らした。