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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 鼻腔をくすぐる潮風の香りに頬を緩ませる。
 この街から離れていたのはたったの1週間弱。
 にも関わらずこの匂いをかいで帰って来たと思うのは、それだけ俺がこの街の住人として馴染んだ証拠だろう。

「さて、と。あいつ等は……」

 臨海公園の中をぐるりと見回す。
 子供達が元気に遊びまわっているのを見て、そう言えば今日は休日だったかと思い出した。
 もしもこの中の誰かがジュエルシードを発動させていたらと思うとぞっとしない。
 目を閉じてなんとなく違和感のある方へと歩いていく。
 異常や魔力察知にはそれなりに自信があったのだが、かすかに違和感を感じる程度だったのが驚きだ。
 多分ここまで緻密な結界を張れるのはシャマルだろう。
 シグナムの話では、彼女は今はやてを家に連れて行っているらしいので、あらかじめ結界を張ってから行ったのだと思われる。

「っと、ここか」

 ようやく結界の切れ目を見つけた。
 海に程近い木々の陰。
 こんな所までどうして来たのかと思い首を傾げる。
 結界内に侵入するよりも前にやることがあったのを思い出し、立ち止まった。

【ドラッケン】
【ja. wind area search】

 相棒が詠唱するに任せると、突然強めの風が公園を駆け抜ける。
 純粋な魔力サーチでない分俺の魔力は喰うが、他者からはぱっと見魔力サーチだと判断されにくい。
 目を瞑ってサーチ結果を受け取っていた俺は、ピクリと右眉を上げた。

【キング……】
【分かっている。例の監視者だな】
【どうしますか? かなり殺気だっていますが】
【早めにシグナム達と合流しよう。あいつ等が一緒なら手は出しにくいはずだ】

 言ってさっさと結界内に踏み入れる。
 サーチを使ったのは管理局のサーチャーに見られてないかの確認だったのだが、思わぬ得物が引っかかったようだ。

「にしても信用されてんなあ、俺」

 まさか1つも監視用のサーチャーがついてないとは思わなかった。

 こりゃちょっくら気合入れて協力しねえとな。

 気合を入れ直す。
 信頼にはそれなりの結果で以て応えるのが俺の主義だ。

≪それは構いませんが、監視者の方はどうします?≫
「どうって言われてもな。
 まだ何も仕掛けられたわけじゃねえし」
≪時間の問題ですよ。
 今私達はアースラに協力していますし、1人になる事も殆どありません。
 しかしあの様子だと条件次第で……≫

 襲い掛かってくるのは間違いないだろう。
 それは分かっているのだが、理由がよく分からない。
 ここ最近、と言うよりはあの闇の書の闇をぶっ飛ばした後辺りから、妙に敵意が強くなってきている気がする。
 もし監視者の陣営が予想通りならば、監視がなくなるか弱まるかだと思っていたのだが。

 まあ、いいか。何かあったらあったでそれも……

≪……まさか、その方が交渉し易いとか考えてませんか?≫
「ギクリ。ヤダナア、まだあの人だって決まったわけじゃネエダロ?」
≪茶化さないでください!
 確かに決まったわけじゃありませんが、10中8,9間違いないでしょう。
 それともなんですか、またなのはさんを泣かすつもりですか、キングは……≫
「いやまあ、そう言うつもりじゃねえんだけど、さ」

 頬をかく。
 更に言い募ろうとしていたドラッケンの言葉を遮った。

「ただ、なのはに影響されてんのかね。少し思うんだ、話を聞いてみてえなって」
≪キング……≫
「何を思って、何をしようとしていたのか。
 大体予想はついてるんだが、あくまで予想でしかねえからな」

 それよりも今はジュエルシードだと話を打ち切り、結界の奥へと歩を進める。
 実は先程から定期的に聞こえている金属がぶつかり合うような音が気になってしかたないのだ。
 魔力反応が大きくなったり小さくなったりしている事から、ジュエルシード関連である事が分かる。
 木々の切れ間から桃色と赤の髪が見えて、俺は右手を挙げた。

「よう、シグナム、ヴィータ」
「ああ、アラン。遅かったな」
「言うなって。それなりに急いで来たんだぜ、これでも」

 言って彼女達の姿を観察する。
 非日常の雰囲気をかもし出す服は彼女等のバリアジャケット――ベルカ式では騎士甲冑だったか――なのだろう。
 だが、前に闇の書の闇と戦った時とは趣が異なる。
 あの時着ていたのは正しく甲冑と言った様相だったのだが。
 俺の視線に気付いたのかシグナムは訝しげに眉を顰め、次いで理由に思い当たったのか首を縦に振った。

「我等ヴォルケンリッターは起動後主から騎士甲冑を賜る事になっていてな。
 あの時は時間がなかったのであらかじめ登録されていた甲冑を用いたのだ」
「へえ。って事はその服ははやてが考えたのか?」
「おう、いいだろ! はやてがあたし等に合わせて考えてくれたんだぜ」
「よかったな。2人ともよく似合ってるぞ」

 魔力光をイメージカラーとして採用しているのだろう。
 ラベンダーの騎士服に身を包んだシグナムと、赤の騎士服に身を包んだヴィータ。
 シグナムは性格に合わせてか、動き易いシンプルな服装。
 腰の辺りのガードと簡単な手甲らしきものだけ金属で作られており、軽甲冑を含んだ騎士服と言ったイメージだ。
 ヴィータの騎士服に甲冑のようなパーツがない事から、ヴォルケンリッターの将と言う点を考慮したのかもしれない。
 そのヴィータだが、はやてが思いっきり趣味に走ったのだろう。
 赤をベースとしたゴスロリドレスと赤い帽子、防止には何故か左右にピンポイントでウサギの顔らしきものがあしらわれていた。
 一瞬それはどうなのかと思考が止まるが、そう言えばヴィータはウサギが好きだったなと思い出す。
 一般的なウサギではなく、微妙に呪われそうな面をしたウサギの縫いぐるみを俺に見せ、はやてに買ってもらったのだと自慢していた。
 よくよく見ればその呪いウサギと同じ顔だ、ヴィータの帽子についているのは。

 2人とも騎士服を違和感なく着こなしており、似合っている。
 似合っているのだが、ヴィータの格好で彼女のハンマー型アームドデバイス、グラーフアイゼンを肩に担いでいるのは微妙にシュールな気がしないでもない。

「む、ヴィータ、時間だ」
「わかった。アイゼン!」
≪jawohl≫

 ヴィータの指示を受けてグラーフアイゼンが巨大化する。
 そのまま地面に向かってハンマーが振り下ろされた。

 ……もぐら叩きっぽいな。

 そんな俺の阿呆な思考とは関係なく地面に叩きつけられたアイゼンは、ギインと音を立て集まりかけていた魔力を霧散させる。

 いかん、そう言やジュエルシードの事忘れかけてた。

 ヴィータが攻撃した所を覗き込むと、青い菱形の宝石がそこに輝いていた。

「これで合っているか?」
「ああ、間違いねえ、ジュエルシードだ」
「兄貴、さっさと封印してくれよ。
 あたしはさっきからずっとこれを繰り返してんだ」
「ありがとな、ヴィータ」

 彼女に頭を下げてから親指を噛み千切り、血液をジュエルシードに垂らす。
 封印作業は程なく終了し、俺はジュエルシードを相棒に格納した。
 何事もなく封印できた事に安堵の息を1つ。

 っと、いけね。情報収集もしとかねえと。

「で、どの辺りで見つけたんだ?」
「気付いたのはさっきも言ったように主はやてでな。
 丁度そこの浅瀬にあったのだが、我々の位置からは水面が反射して見えなかった」
「で、あたしがはやての目線と同じ高さで見たら何か青いのがあって。
 あたし達が起動した時兄貴が使ってた奴に似てる気がしたから取りに行かせたんだ」
「まあ、モノがモノだから魔法を使うわけにもいかんしな。
 しかし、取りに行かせたって誰に?」
「「ザフィーラに」」

 寸分違わず揃った2人の返事に、心の中でザフィーラへ手を合わせる。
 女所帯の八神家では男のザフィーラは発言権が低いらしい。
 シグナム達が指し示した浅瀬は、浅瀬と言ってもそれなりの深さがある。
 恐らく腰の辺りまでは海水に浸かってしまったはずだ。
 はやてを家に送り届けるだけならシャマル1人でも大丈夫なのに、ザフィーラも一緒に帰ったのはそう言う事なのだろうか。

「しかし海か……」
「アラン、その、探索の方は……」
「最近は殆ど見つかっていない。
 そろそろ捜索範囲を海に広げるよう進言しようと思っていた所だ」
「そうか。……大丈夫か?」
「ああ。傷も癒えたし、俺は大丈夫だ」

 俺は、な。

 気になるのはなのはとフェイト嬢の事。
 なのははアースラに移ってからフェイト嬢と会えていない事を気にしているし、フェイト嬢は以前素手でジュエルシードの暴走を止めて怪我を負ったばかりだ。
 なのはが治したと言っても完全ではないし、背中の傷も気にかかる。
 それに、

 顔色が悪かった気がすんだよな……

 月村邸で会った頃に比べ、先日会った時はかなり顔色が悪くなっていた気がする。
 元々華奢な印象ではあったが、それに輪をかけて細くなった。
 もしかしたらあまり休息や食事を取っていないのかもしれない。
 管理局に隠れて行動するしかない今、その傾向は強まっている可能性が高い。

「シグナム、ジュエルシードを狙ってきた魔導師達と交戦したと言ってたな?」
「ああ、あれは良い太刀筋だった」
「シグナム、兄貴が聞きたい事はそう言うことじゃねえと思うぞ。
 あたしはそのジュエルシードってのに魔力が集まんないようにしてたからあんま見てねえけど、守護獣の方はザフィーラが、魔導師の方はシグナムが相手した」
「今の戦力で我等を倒すのは無理と判断したらしい。
 途中で守護獣が魔導師を引っ張って帰って行ったな」
「あれ? って事はザフィーラは一戦交えてからはやての所に行ったのか?」
「ああ、あれだけの魔導師がいるのだ。
 主はやてが襲われたらまずいので、ザフィーラが守護しに戻った。
 シャマルが主の傍にいたが、あいつは基本参謀と後方支援。少し心もとないからな」
「なるほど、な」

 今の話からアルフの方はジュエルシード集めにあまり積極的ではない印象を受ける。
 恐らくフェイト嬢だけなら戦力差がある事が分かっていても無理を通しただろう。
 クロノが現れた時もそうだった。
 俺にはその心情がよく分からない。
 あの背中を見る限り虐待されている可能性は高いのに、なぜそんなにも盲目的にジュエルシードを集めようとするのだろうか。

「魔導師達は何か言ってたか?」
「いや、他にも魔導師がいるのかと驚いていたが、特には。
 そう言えば見事な太刀筋の割りに動きが鈍かったな」
「つかさ、顔色悪かったぜあいつ。
 今にも倒れそうなのにシグナムと打ち合えてたのはすげえけどよ」
「……そうか」

 やはり、誰が見ても分かる位顔色が悪いのか。
 早めに決着をつけんと彼女の身も危ないな。

 思ってから自分の思考に驚く。
 俺はなのは程彼女に思い入れはないはずだが、なぜ仮にも敵である少女を心配しているのか、と。
 見た目の問題だろうか。
 混同しそうになるほどに、彼女とアーシャはよく似ている。
 違う、と首を振った。
 この思考はフェイト嬢にもアーシャにも失礼だ。

「さて、そうすると……今からやる事はなのはに黙っててくれるか?」
「……また無理をする気か、アラン」
「そんなんじゃねえさ。ただ、最近なのはが本当に心配性でな」
「危険がねえならあたし等は別に何も言わねえけど……」

 サンキュと言ってから水辺に近づき海水に手を浸す。
 軽く魔力を通してみて、やはり伝導率が悪いなと嘆息した。
 空気の量が少ない海中は、風を扱う俺にとって相性が悪い。

「仕方ねえ。使うぞ、ドラッケン」
≪言うと思いました。あまりやりすぎないで下さいね≫
「ファーストギアで十分だろ。
 ――――――今ここに奏でん、永遠なる光の唄」

 唱え、体内で魔力を回す。
 ガチリと歯車がかみ合い回り始めるのを感じた。

「我が魂を以て紡ぎ、命ず――――真血開眼[circuit open]」
≪get set ready≫
「ギアチェンジ・ファースト、解放」
≪gear 1st, release magic≫

 ぐんと空気が澄んで、呼吸が楽になる。
 大気が喜び唄っているように感じて、口元を緩ませた。

「いつもありがとな……ウェンテ!」
≪wave area search≫

 ソナーのように海中へ俺の魔力が広がっていく。
 とは言え完全に水中を探索できているわけではない。
 ただ、水に僅かに含まれている空気に呼応しているだけだ。
 通常状態なら不可能だろうが、大気を味方につけられる今の状態ならギリギリできない事もない。

 ……きっつう。

 それでも紅く明滅する視界に唇をかむ。
 素面でこれを扱うのは俺の精神にも相当な負担だ。
 何しろ、


――コロセ


 うるせえ。


――コロセ、コロシツクセ


 うっせえ!


 衝動がなくなったわけじゃない。
 それでも、俺の傍にいる2人ははやての家族で、俺にとっても大切な家族になりうる奴等だ。
 傷付けたら俺は俺が許せなくなる。

 1つ、2つ、3つ――

 広い。
 こんな広範囲に渡って散らばってるなんて思ってなかった。
 ぶつりと肉を食い千切る感触と鉄の味に顔を歪ませる。

 ……4つ………………あった、5つ目!

「真血閉眼[circuit close]!」

 回路を閉じた瞬間ガクンと体中の力が抜け、その場に尻餅をつく。
 ぜーはーと肩で息をしていると、慌てたようにヴィータが駆け寄ってきた。

「おっ、おい、兄貴、大丈夫か!?」

 声を出すのも億劫なので右手を挙げて大丈夫だと応える。

 いかん、やっぱこの力危険だ。

 開眼する事で得られる能力は魅力的だが、いかんせん反動が強すぎる。
 反動が破壊衝動と言う所に先祖の気性の荒さが窺え、龍の血と言う事実がずしりと重く圧し掛かる。

 いったいあのばあちゃんはどうやってこんな物を抑え込んでたんだか。

 ようやく落ち着いてきた呼吸に安堵し、立ち上がって尻についた土を落とす。
 ちょっとばかり無茶をしたが、それ相応のものは得られたと思う。

「シグナム、ヴィータ」
「大丈夫なのか、アラン?」
「ああ。ったく俺の力は使い勝手が悪くて参る。
 でもまあ、それなりに収穫はあった。事件はもうすぐ終わると思うぞ」
「そうなのか?」
「見つかってなかったジュエルシード、全部海に落ちてたっぽいな。
 ここのを回収してあちらさんと決着をつけりゃ終わりだ」
「海中、か……」

 3人で並んで海を見る。
 本日は快晴、風も弱く、凪いで美しい海だけがそこにあった。
 この穏やかな海に、あの危険物が5つも眠っているなんて信じられない。

「まあ、あれだ。
 全てが終わるまではやてには海に近づかないように言っといてくれるか?」
「それは構わないが……本当に我々が手を貸さなくて平気なのか?
 お前の頼みなら手を貸すのも――」
「それは駄目だ。まだお前等の立場が確立してない。
 クロノ達なら大丈夫だとは思うが、どこから情報が漏れるか分かったもんじゃねえからな。
 万が一お前等の存在が本局にばれて強制捕縛なんて事になった日にゃ、後悔してもしたりねえよ」

 心配そうに俺を見る2人にありがとなと言いながら不敵に笑んで見せる。
 本当にあと少しなのだ。
 事件が終わったらミッド側に掛け合って夜天の書の立場を明確化する。
 そうすれば今年から始まったこのごたごたも全て終結するだろう。

「多分あと1週間もしない内に解決できるはずだ。
 その間に海で魔力反応が出るかもしれんが……来んなよ?」
「でもよ、兄貴……」
「ヴィータ。俺もなのはも頑張るからさ、信じてくれ」

 全員無事に帰ってくるから。
 そう続けるとヴィータは不承不承ながらも頷いてくれた。
 ただし、約束を破ったらアイゼンの落ちないシミにされてしまうらしいが。

 こりゃ意地でも無事に戻らねえとな。

 内心で苦笑してから、長居をするのもあまりよくないのでアースラにそろそろ戻らなければと思い出す。
 シャマルとザフィーラ、そしてはやてによろしく言っといてくれと伝言し、再度2人に礼を言うと俺は踵を返した。
 その間も俺の思考はフル回転中だ。

 回収して終わり、ではないのだこの事件は。
 俺はなんとしても彼女に、シアに会わなければならない。
 何を考えてこの事件を起こしたのかを、聞かねばならないのだ。
 昔からの彼女を知る、1人の友人として。

 決意新たに、俺は海鳴の街から姿を消した。




 所変わってアースラ会議室、これからの方針を巡って会議は紛糾していた。

 今の所こちらが回収できたのは以前の出動で得たシリアルⅨと、今回俺が回収したシリアルⅥ。
 逆にあちらの陣営はシリアルⅤとⅩⅡの2つをこの1週間で手に入れている。
 原因はこちらの初動が遅れた事による。

 そんな状況だからこそ、海のジュエルシードに対する意見は真っ二つに割れていた。
 すなわち、大々的に封印作業を行ってフェイト嬢達をおびき寄せようとする俺と、フェイト嬢達が気付く前に速やかに封印すべきだと主張するクロノだ。

 確かに、ジュエルシードと言う危険物の事のみを考えた場合クロノの意見の方が現実的だ。
 危険物は早く封印してしまうに限る。
 余計な要因をその中に迎えるべきではない。
 だが、

「クロノだって分かってるんだろう。
 この事件はジュエルシードを全て封印して終わるような単純なものじゃないって」
「……それは、まあ」
「だったら――」

 更に言葉を重ねようとした瞬間、空中にウィンドウが出現し部屋が赤に染まる。

「アラート!?」

 舌打ちして立ち上がる。
 会議室にいたら情報が集まらない。
 どこに行くか一瞬迷って、

「先生、艦橋です!」
「わかった!」

 すでに走り始めていたリン姉を追って、アースラの廊下を駆け抜ける。
 大人しく俺達の話を聞いていたなのはとユーノも慌てて俺達の後を追い始めた。
 移動時間をもどかしく感じながらも、目の前のドアに飛び込んだ。

「状況は!」
「エマージェンシー、捜索区域の海上にて大型の魔力反応を感知!」

 言った瞬間、通信士の1人が館内放送を行い俄かに館内が騒がしくなる。
 リン姉はと言えば、モニターに映った姿に愕然としていた。

「な、なんて事してるのあの子達!?」
「しくった。この状況も考えておくべきだった!」

 俺達があれで海にジュエルシードが落ちている事に気付いたのなら、フェイト嬢達が同じように考え付いてもおかしくない。
 むしろ、この事を予測していなかったのは俺の落ち度だろう。

 大型の画面に映し出されるのはフェイト嬢が海上で儀式魔法を行っている姿。
 詠唱が終了し、彼女の1振りと共に稲妻が海へ打ち込まれる。
 それに反応して立ち上ってくる水流の竜巻、数は……5つ。

「なんとも呆れた無茶をする子だわ」
「無謀ですね。間違いなく自滅します。
 あれは、個人の出せる魔力の限界を超えている」
「フェイトちゃん! あの、私急いで現場に──」
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する」

 慌てるなのはに冷静に返すクロノ。
 どうやら会議中同様、基本スタンスを崩すつもりはなさそうだ。
 絶句しているなのは達をよそに、俺は1人思考を回す。

 なら、俺達は俺達でやらせてもらうか。

「裁量権を行使する。なのは、ユーノ、行け」
「先生!?」
「さっき俺が喋った作戦の、強制発動をフェイト嬢がやっただけの状況だ。
 なら作戦通りに実行し、封印するまでの事。
 それに言ったろ、彼女に繋がる鍵であるフェイト嬢に退場されたら困るんだよ」
「けどアラン君。彼女が駄目になればバックが直接出てくる可能性も──」
「それはない。そしたら使い魔でも出してくるだろうさ。もっと切り捨てやすい、な。
 彼女が倒れてからジュエルシードを確保するのは確かに確実性が高い。
 だが、バックまでは恐らく辿り着けん」

 リン姉が溜息をつく。
 言いたい事は伝わっているはずだ。

「いいわ、作戦を聞きましょう」

 デメリットが多ければ切る、そう意思を籠めた視線で射抜かれる。
 それに臆する事なく頷き、説明を始めた。

「ジュエルシード封印時にバックが干渉しやすい状況を態と作る。
 具体的に言えばフェイト嬢達に対し攻撃を仕掛けるつもりはない。
 封印を手伝う形で、彼女達には健在でいてもらうつもりだ。
 海鳴に散ったシードはこれで全部。確保する為手を出してくる可能性が極めて高え。
 俺達が確実に全部を確保出来る状態より、あの子達も動ける状況の方がより介入しやすいだろう。
 介入してくればそこからバックの居場所を割り出す。エイミィ、可能だな?」
「もちろん!」
「でも次元を超えて干渉なんてして来ますか?」
「自分でこちらに出てくるならそれに越した事はねえ。
 それに、彼女レベルならそれ位の干渉は出来るさ」
「え、えっと、どうなったの、お兄ちゃん?」

 気が急いているのか、俺達が明らかにフェイト嬢ではなくそのバックの話をしている事に気付かないなのは。
 それを尻目に俺は艦長席を見る。

「介入がなくともあの2人位のレベルなら、俺となのはで正面からぶつかれば打倒する事は可能。
 どの道ジュエルシードの確保はできるはずだ。
 ――さあ決断を、リンディ・ハラオウン提督!」

 リン姉は1度モニターを睨みつけると目を伏せ、数秒考え込んでから頷いた。

「許可します!
 アラン君、なのはさん、ユーノ君は現場に急行。
 アラン君指揮の下彼女の封印の手伝いを。
 クロノ執務官はいざと言う時の為待機。
 エイミィ、3人の転送後、座標割り出しの準備を」
「艦長!?」
「「「「了解!」」」」

 まったく、クロノは頭が固すぎる。

 転送ポートに入りながら独りごちた。

「お兄ちゃん」
「ん?」
「ありがとうなの」
「いいさ。全部が善意からってわけじゃない」
「それってどういう──」

 転送が始まる。
 光に包まれ、俺達は海上へと跳んだ。




「って、デジャヴを感じるな、これ」
≪いつぞやと同じですね≫

 出現したのは海上……の空中。
 あの時と違うのは今は冷静って事くらいだ。

「セットアップ」
≪stand by ready, set up≫

 いくら急いで結界を抜いたからってこりゃないだろエイミィ、と内心愚痴る。
 急いで飛行魔法を展開した。

≪boost flier≫

【アランさん、指示を!】
【ユーノはアルフを説得後、一緒にあの竜巻が暴れんよう押さえつけろ】
【了解】
【なのははフェイト嬢と一緒に封印。ついでに話もしてこい】
【うん、お兄ちゃんは?】
【俺は余剰戦力だからな。いざと言う時の為に待機だ。
 だから思いっきりやっていいぞ】
【ありがとう!】

 指示を出し終えるとタケミカヅチを装着した。
 以前使ったのと同じアーマーモード。
 呼吸を整え、空を睨みつける。

 さあ、来いシア。
 極上の歓迎をしてやるよ。




 荒れ狂う嵐の中、決戦は海の上。
 桃色と金、淡翠と橙が飛び交うその戦場で、俺はただ最後の役者の登場を待ち侘びる。
 

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プロフィール
HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
目次はこちら

魂の唄ショートショート
目次はこちら

遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
目次はこちら

異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
目次はこちら

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