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────────interlude
転送ポートから放り出されたのは海の上空。
私は仰向けに落ちるに身を任せ、目を瞑った。
聞こえる、ベオウルフの唄が。
「我、自らの意思で立つ者也」
作戦を決めたのはお兄ちゃん。
だけど、私は私自身の意思で、あの子を助けたいからここにいる。
「強き願いの下、その力解き放て」
今なら分かる。
言霊が大事だと言ったお兄ちゃんが、この言葉をベオウルフに託した訳が。
「天に祈り、地に誓い、――――そして、貴き想いはこの胸に」
だから行こう、私の想いを届けに!
「ベオウルフ、セーットアーップ!!」
≪stand by ready, set up≫
バリアジャケットを纏うと同時に、ユーノ君から念話が飛び込んだ。
フライヤーフィンを出して、空中に待機。
【アランさん、指示を!】
【ユーノはアルフを説得後、一緒にあの竜巻が暴れんよう押さえつけろ】
【了解】
【なのははフェイト嬢と一緒に封印。ついでに話もしてこい】
きっとお兄ちゃんはいつものように笑っているのだろう。
この状況でも私の我侭をなるべく通そうとしてくれてる。
その想いを無駄にしないよう、元気良く頷いた。
【うん、お兄ちゃんは?】
【俺は余剰戦力だからな。いざと言う時の為に待機だ。
だから思いっきりやっていいぞ】
【ありがとう!】
念話をしながらお兄ちゃんを遠目に見て、気付く。
目を逸らす事なく空を睨み続けているお兄ちゃん。
その表情はいつになく不敵に歪んでいる気がする。
そっか、お兄ちゃん、誰かは分からないけど来るのを待ってるんだ。
それが誰なのかは気になるけど、今はその思考も頭から追い出す。
今私がやるべきなのは、あの子を助けながらの封印と、私の想いを届ける事。
それ以外は後で考えよう。
そうして私は黒の魔導師と5度目の邂逅を果たす。
「フェイトちゃん!」
やっぱり魔力切れを起こしてる。
肩で息をするフェイトちゃんを見て、かなりの無茶をしていた事を確信した。
近づいた私に対し身構えるフェイトちゃんが少し悲しかったけど、今まで結果的に敵対してきた事を考えると仕方がない事なのかもしれない。
見方である事を示すように、私はそっとバルディッシュに触れて魔力をフェイトちゃんへ送る。
フェイトちゃんは驚いたように私を見て、ただ『何故』とその瞳で私に問うた。
「手伝って、一緒にジュエルシードを止めよう!」
それが一番正しいと思えるから。
言葉を、想いを届かせるには、まず私が近づかなきゃいけないから。
≪power charge≫
≪supply complete≫
バルディッシュに光が戻る。
フェイトちゃんは目を丸くして私を見ていた。
ああ、きっと私は今、笑っている。
「ジュエルシードの分け方については後でもいいよ。
今は、協力して暴走を止めよう。
このままだと結界を破って街に被害がでちゃう!」
本当はあまり勝手な事を言っちゃいけないんだけど。
そんな風に考えながらも目の前にいるフェイトちゃんに力強く頷いてみせた。
実際時間が経つにつれて、暴れまわっている竜巻の様子は酷くなって行っている。
このまま時間が経てば、事態がどう転ぶか分からない。
眼下ではユーノ君がアルフさんの説得に成功したようで、淡い緑とオレンジのバインドが竜巻を拘束し始めている。
「ユーノ君とアルフさんが止めてくれてる。今の内!」
フェイトちゃんを見つめたまま、
「2人でせーので、一気に封印!」
ベオウルフをシーリングモードにしながら飛び出す。
大丈夫、フェイトちゃんは絶対来てくれる!
飛び交う雷撃を避けながら、私は災厄の中心へ向かう。
ふと振り返るとバルディッシュがフェイトちゃんの指示を待たずに形態を変えていた。
「バルディッシュ……」
自分の相棒を驚いた目で見てから、フェイトちゃんが戸惑うように私の方を見た。
それに答えるよう、ウィンクしてみせる。
お兄ちゃん達みたいに格好良くはないけど、でもきっと、伝わるよね。
「やるよ、ベオウルフ。
サード・リリースでディバインバスターのフルパワー……いけるね?」
≪of course, my master≫
魔方陣を展開しながらベオウルフを構える。
今出来る全力で魔力を注ぐと、フェイトちゃんの方でも魔力が高まっていくのを感じた。
「せーの!」
『護りたいものが同じなら、俺達は戦友にはなれると思わないか?』
あの時とは違って、私とフェイトちゃん、護りたいものは違うかもしれないけど。
目的が同じなら、きっと──
「サンダー!!」
「ディバイン!!」
見なくても、言葉がなくても、伝わる。
今、この瞬間だけは、心重ねて。
「レイジ!!」
「バスター!!」
金色と桜色が荒れ狂う世界を一蹴した。
竜巻から解放されたジュエルシードが青い光の柱を立ち上らせる。
位置は丁度私とフェイトちゃんの中間。
ジュエルシード越しに私とフェイトちゃんは見つめ合う。
すとん、と胸に落ちた気がした。
そうか、私この子と楽しい事もつらい事も、全部を分け合いたいんだ。
「友達に……なりたいんだ……」
ずっと届けたかった想いをようやく理解した。
私の言葉にフェイトちゃんの目が見開かれ、瞳が揺れる。
瞬間、
「来たか、シアアアァァァッ!!」
飛び込んできたのはいつもの蒼と、そして紅。
「お兄ちゃん!?」
────────interlude out
2人が封印をした瞬間、現れた俺達以外の魔力に舌なめずりをする。
やっと出番か。
「風斬、瞬動!」
≪wind blade, max flash≫
なのは達の上空へと移動し、陣を描く。
「来たか、シアアアァァァッ!!」
血界防御陣、発動。
遥か空の上から2人に放たれた紫の雷を受け止めた。
「理を以てアラン・F・高町が命ずる、出でよ血界防御陣・絶対なる楯[aegis]!」
「お兄ちゃん!?」
「か……母さん?」
「っ、ぐうっ」
重い。
流石に2アクションでSランクオーバーを抑えるのは無理か?
≪load cartridge≫
相棒が魔力を上乗せしてくれるがちっとも楽にならない。
排出され行く薬莢を見ながら、俺は覚悟を決めた。
確かシアの魔力変換資質は雷。
ならばっ、
「タケミカヅチ!!」
≪yes, my master≫
アーマーモードを解除し、元の刀型へ。
左手で血をつけてから、ユーノ達から離れた地面に投げつける。
地に突き刺さったのを確認して、そっと呟いた。
「……ごめんな」
【it's my role. don't mind my master】
どこまでも忠実だった俺のデバイスに感謝を。
目を閉じて別れを告げ、右手で印を切る。
本来あるべき理を捻じ曲げ祝詞によって新たな理を作り出す。
目印になるタケミカヅチへ座標を固定。
そうして俺は力ある言葉を放つ。
「理を以てアラン・F・高町が雷精に請う──────避雷!!」
ありがとな、俺に従ってくれて。
そう内心で呟いて、タケミカヅチに直撃する雷を見た。
一瞬目を閉じ彼の冥福を祈ってから、空を睨みつける。
唖然とするフェイト嬢、それを心配するなのは。
一番最初に動いたのは使い魔のアルフだった。
「フェイト、逃げるよっ」
弾かれるように動き出す俺達。
ジュエルシードへ飛ぶアルフに反応できたのは、俺達ではなく先程まではこの場にいなかったクロノ。
S2Uを構え、アルフを牽制しながらジュエルシードを確保しようとしたのを、他でもないそのアルフに阻まれた。
「邪魔……するなーー!!!」
目を見開いたクロノにアルフの魔力が殺到する。
弾き飛ばされたクロノは、海面を水切りする石の様に跳ねていった。
「み……3つしかない!?」
見れば立ち直ったクロノの手には2つのジュエルシード。
それでももっと数を確保するつもりだったのだろう。
クロノは勝ち誇るでもなく、酷く苦々しげに顔を歪める。
それにアルフは舌打ちをすると、地面に降り立ち唖然としたままだったフェイト嬢を回収し去っていった。
「ちっ」
なにもかもが予定外だった。
一番の誤算は彼女の雷撃がジュエルシードではなく、フェイト嬢を狙ったものだった事だ。
まさかこの場であの子を切り捨ててしまうつもりだったとは。
……フェイト嬢が心配だ。
逃げ延びたあの子が、彼女にどんな扱いを受けるかなんて考えたくもない。
「糞ったれがっ!」
地表へ降り立ち、心のまま悪態をつく。
目の前には俺達を護る為その身を殉じた愛機があった。
地面から抜き取り、待機状態に戻す。
「おやすみ」
本当に、遣る瀬ない事ばかりだ。
そう思った時、ようやくアースラからの連絡が入った。
『こちらアースラ、これより全員を回収します』
「すまない、俺の立案ミスだ」
『反省は後にしましょう。今はその場からの撤収を優先します』
「了解」
特大の転送魔方陣が展開される。
全員が陣内に入った事を確認し、俺達はアースラへ舞い戻った。
「戻るか」
俺の言葉に全員無言で頷く。
廊下を歩きながらふと気になった事を聞いてみた。
「クロノ、アースラが連絡を取って来るまでに結構なタイムラグがあったな。
何かあったのか?」
「それも含め艦長が説明します。今は早く戻りましょう」
「わかった」
クロノの表情に苦いものを感じ取り黙り込む。
これはどうやら作戦の抜本的立て直しが必要なようだ。
会議室には厳しい表情のリン姉とエイミィがいた。
それぞれが無言のまま席に着く。
「まずは報告から行きましょう。
次元干渉魔法はアラン君の言う通りありました。
本来ならそこから黒幕のいる座標を割り出す予定だったのですが……」
「本来なら、と言う事は出来なかったのか」
「ええ、あの雷は海鳴だけでなく、アースラにも同時に放たれていたの。
その直撃を受けアースラは25秒間の機能停止、結果として解析は出来なかったわ」
「ジュエルシードの回収じゃなくて攻撃に絞った結果だな。
あちらさん、どうやらまだ位置を知られたくねえみてえだ」
「フェイト・テスタロッサとその使い魔アルフについては転送を繰り返し、こちらの追跡を振り切りました。
力不足でごめんなさい」
「いや、そもそも彼女が回収じゃなく攻撃に転じた時点で俺の作戦は破綻している。スタッフのせいじゃない」
「逆に先の魔力解析から彼女が黒幕と言う事が確定しました」
「あ、あのー」
恐る恐る右手を上げたなのはに視線が集中する。
今ここでの発言は……あ、そうか。
「フェイトちゃんのバックとか黒幕とかってなんの話ですか?」
「あ……」
リン姉達も今思い出したようだ。
自分達がこの手の情報開示をなのは達に全くしていなかったと言う事を。
リン姉と見合ってから、頷き合う。
どうやら俺が説明すべき所らしい。
「俺達は結構な時間、フェイト嬢達とジュエルシードを巡り争ってきたが、あの子は1度もその目的を俺達に話した事はない。
かと言って彼女自身はロストロギアについて、そう詳しいわけでもない」
「はにゃ? なんで?」
「そもそも、1つジュエルシードを封印した時点で莫大な魔力を保有してるって事は分かってたはずだ。
にも関わらず彼女は不用意に次元震を発生させちまうような動きをした。
わかるか、なのは?」
「ジュエルシードがどういうものか、何に使えるのかを知らなかった……」
「正解。
特性なんかは接している内に分かるが、それじゃ順序が逆だ。
なぜジュエルシードを欲するのか、一番最初の動機があの子にはない」
「それじゃあ……」
「エイミィ」
中空に画像が表示される。
映し出されるのは、黒髪の艶やかな女性。
「その答えが彼女だ。
先の魔力も彼女のものと解析されて確定した。
名を、プレシア・テスタロッサ」
「テスタロッサ……」
「フェイトちゃん、あの時お母さんって……」
少し考えてから、なのはの言葉に頷く。
ある意味では間違っていないはずなのだから。
リン姉達が何か言いたげなのを目で制した所でなのはが続けた。
「そ……その、驚いてたって言うより、なんだか怖がってるみたいだったの」
「……それも道理か」
ぽつりと漏れた言葉はなのはには届かなかったようだ。
全てのジュエルシードが回収された今、あちらがその事に気付けば、今度はこちらのジュエルシードを狙い再び俺達と合間見える事だろう。
恐らく次で決着。
そうでなくとも、終局は近い。
なら余分な知識をなのはに入れないほうがいい。
その程度で揺らぐとは思えないが、思わぬ影響があるかもしれないのだから。
「プレシア・テスタロッサ。
ミッドの歴史で16年前は中央技術開発局の第3局長でしたが、彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉“ヒュードラ”使用の際、違法な材料によって実験を行い、失敗。
結果的に中規模次元震を起こした事が元で中央を追われて地方に転任となりました。
でも、随分揉めたみたいです。
失敗は結果に過ぎず、実験材料には違法性はなかったと……辺境に移動後も数年間、技術開発に携わっていましたが、しばらくの内に行方不明になって……それっきりですね」
なのはへの説明も兼ねて上がってきた情報を読み上げるエイミィ。
しかし、違法性のある材料で揉めたという所にキナ臭さを感じる。
「そしてアーシャ、アリシア・テスタロッサの母親でもある」
「アリシアさんの? じゃあフェイトちゃんはアリシアさんの妹なの?」
「……ああ、そう、なんのかな」
そうか、そうなるんだな。
フェイト嬢はアーシャの妹か。
ふと2人が並んで笑い合ってる姿を幻視した。
それが現実ならどれ程幸せな事かと思う。
きっと性格は反対ながらも、仲のいい姉妹になったに違いない。
だが、現実にはアーシャは亡くなり、フェイト嬢が生まれた。
皆が皆幸せなんて事はありえないけど、不幸と言うものは本当に予期せぬ所で降ってくるのだ。
「さて、これからの動きなのだけれど」
「とりあえずこれであちらに7個、こちらに11個、虚数空間に落ちたのが3個。
全てのジュエルシードが出揃ったと言う事になります」
「ふーむ、プレシア女史もフェイトちゃんもあれだけ魔力を放出した直後には、そうそう動きは取れないでしょう。その間にアースラのシールド強化もしないといけないし……」
よし、とリン姉は立ち上がり、俺達へ言った。
「あなた達は一休みしておいた方が良いわね」
「え……でも……」
「特になのはさんやアラン君はあまり長く学校を休んでいるのもよくないでしょう。
一時帰宅を許可します。ご家族と学校に、少し顔を見せておいた方が良いわ」
「はい」
「ああ、なのは達はそれでいいが、俺はもうちょい残らせてくれ」
「アラン君?」
「ここに来るまでに軽く弄ってみたら、どうもタケミカヅチのAIがかろうじて生き残ってるらしい事が判明してな。直してやりたいんだ」
「お兄ちゃん……」
「そんな顔すんなって。ちゃっちゃと直して朝にはそっちに行く。
学校には顔出すし、朝には戻るって父さん達にも言っといてくれ」
「ん、わかったの」
「つうわけでリン姉、メンテナンスルーム借りるぜ。
あといらないパーツとかあったら貰いたいんだが」
「そっちは技術スタッフに言っておくわ。
パーツも酷く高価なもの以外は好きに使って良いわよ」
「おっしゃ、サンキュ」
リン姉は苦笑すると会議室を出て行った。
なのはの顔はここに戻ってきた時より若干明るい。
久しぶりに俺以外の家族や友人と会えるのだから当たり前か。
くしゃりと頭を撫で、
「それじゃ、父さん達に連絡よろしくな」
「うん!」
なのはとリン姉達を転送ポートまで送ると、俺は早足でメンテナンスルームへ向かった。