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もうすっかり顔見知りになったスタッフと挨拶してから、定位置になりつつあるデスクへ陣取る。
パーツを集め、工具をセット。
中央にはデバイスフォームにしたタケミカヅチを置く。
さあやるか、と気合を入れた瞬間ドアが開く音がして、
「アラン君、ちょっといいかしら?」
出鼻を挫かれた。
やれやれと振り返ると、気まずそうな顔をしたリン姉と目が合う。
「えっと、タイミング悪かったかしら?
なのはさん達はきちんと送り届けてきたわ。
それで、話を聞きたいのだけれど」
「作業しながらでいいか?
朝には戻ると言ったんで、下手すると徹夜コースなんだ。
一応ユーノのデバイスの最終調整を含めて4時くらいには終わる予定なんだが」
「ええ、構わないわ」
その言葉を聞いてデスクに向き直る。
リン姉は俺の手元を興味深げに覗き込みながら隣に座った。
「聞きたいのは、彼女達を護った時使った魔法についてなのよ」
「陣術の事か? 言ってなかったっけ?」
「ええ、式もまったく未知のものだし、なんだったんだろうってクロノも言ってたの」
そうか、話してなかったか。
右手で新しいフレームを取りながら、どう説明したもんかと考える。
「この世界には魔法技術がないのは知っての通りだ。
だがそれに準ずるものがあるのは知ってるか?」
「そんなの聞いたことないわよ!? 情報部は何やってるのかしら……」
エイミィ、すまん。フォローはしておく。
「まあ調べられなくても無理はない。
使える者は少ないし、その力は隠匿されてるからな」
「それはまたなぜ?」
「言ったろう、使えるものが少ない、と。力は恐怖を呼び、恐怖は排斥を呼ぶ。
更に言うなら特異は特異を呼び寄せる。平穏に生きるなら邪魔なのさ、そんな力は」
だから本当はなのはも魔法に関わって欲しくなかった。
だがきっと俺が海鳴に来なくてもジュエルシードの事件は起こっただろう。
その時ユーノが回収に失敗すれば、なのははほぼ確実に巻き込まれる。
まるで運命の糸に絡め取られているかのよう。
なのはとフェイト嬢が出会い、敵対する。
この事実は避けられない必然のように俺には感じられた。
「運命、か」
「アラン君?」
「いや、よそ事を考えていた。
とにかくそう言った力を持ち、世間から隠れて住んでいる者達を、俺達は霊能力者と呼んでる」
「霊能力……」
「その名の通り、霊力と呼ばれる力を現象に変換し、扱える者達の事だ」
「魔力とは違うのよね?」
「ああ、魔導師のリンカーコアのように分かりやすい器官なんかはない。
なんとなく体内にある力を知覚し、なんとなくで扱えるのが霊能力者だ。
独自に自分の能力を研究する者はいるが、画一的に研究できるものじゃない。
なんせ魔法と違って発現する能力は個人の資質任せだ。
一応系統のようなものは存在するが。
……そうだな、日本で有名な霊能力者には陰陽師というのがある。
その辺りはすぐに調べられるだろうからエイミィにでも頼むといい」
「そうするわ」
タケミカヅチを分解してコア部分を取り出す。
そうか、電気変換機構が盛り込まれてる関係で、電気に耐性があるからなんとか無事だったのか。
「するとアラン君の術は霊能力なの?」
「半分正解だな。
あの陣術もきちんと魔力は感知されただろ?
霊能力なら魔力は使わないが、俺の術は魔力を用いて行われてる。
そもそも俺には霊力を扱う資質がなかった」
基本設計は変えないとしても、フレーム部は強化しないとな。
俺の出力も大分高くなったし。
カートリッジシステムはどうしようか。
「あれはうちに伝わる術を魔力で使えるよう、俺が作り出したオリジナルだ。
尤も、完全に魔力用に出来なかった関係で、俺の血を媒介にしちゃいるが」
「血を?」
「霊能力者の血液には多かれ少なかれ霊力が含まれててな。
俺には力を扱う資質はなかったが、少量の霊力は体内にあるから、血中霊力を媒介にしてんだ」
組み込むとまたぶっ壊れる可能性が出てくるな。
あんまりやりたくないけど、シアへの対抗手段として必要か?
「ばあちゃん、ああ、お袋の方のな。ばあちゃんは元々日本の出身だ。
あの人は次元漂流の末ミッドに流れ着いたみたいだが、元々日本にいた頃は力のある巫女として霊脈を鎮める神社に務めていたらしい」
「霊脈とか巫女っていうのは?」
「その辺りは一般的資料にもあるはずだから、自分で調べてくれ。説明が面倒だ」
「面倒って……」
呆れた声をよそに手は淀みなく動く。
シーリングモードはドラッケンがいるから必要ないとして、アーマーとブレードだけにすれば処理能力は大丈夫そうだな。
カートリッジ、入れとこ。
「うちの一族は女系でな。
どう言う訳か霊能力ってのは女性の方が強いらしい。
お袋はミッドの血の影響でそこそこの魔力も持っていたようだが、膨大な霊力と魔力、それに耐え生きれずに体を壊していったって話だ。
一般には病死って事になっちゃいるがな」
そもそもその膨大な霊力はばあちゃんの言ってたアルギスの血の影響だろう。
いくら先天的に大きい容量を持って生まれるとはいえ、人の身に龍の力は強すぎる。
ギリギリで保たれていた均衡。
そこに魔力が入ればバランスが崩れるのは必然だった。
「そんな一族に生まれた久々の男児──記録の上では数百年ぶりだそうだ──その俺には殆ど霊力がなかった。
だが代々培ってきた術を消滅させてしまうのは惜しい。
だから魔力で術が扱えないかと研究し、至ったのがあの血界陣だ。
俺の血を媒介に発動する、言ってみれば日本式魔法だな」
気付けばメンテナンスルーム内のスタッフ全員が俺の話を聞いていた。
なんか、片手間で喋っていたから余計な事まで話した気もしないでもない。
一応釘刺しとくか。
「言っておくが、霊能力者を研究しようなんて馬鹿な真似はしない方がいい。
恐らく手酷くしっぺ返しを食らうぜ」
「私達はそんな事は……」
「アースラスタッフはそうでも、局の上はやろうとするだろうさ。
返り討ちが関の山だろうがな」
「そんなに強いんですか、霊能力者って?」
俺の前のデスクで作業していた男性スタッフが興味有り気に聞いてくる。
作業の手を止めた。
「戦闘能力はピンキリだな。
俺みたいに戦闘に特化した者もいれば、癒しや封印に特化した者もいる。
だが霊能力者の恐ろしさはその力の強さ自体じゃない、在り方さ」
「在り方……」
「単純に何をやってくるかわからない、という事だ。
魔法と違って大雑把な系統分けはあっても統一されてるわけじゃない。
隠し玉の1つや2つを持ってるのが当たり前だ」
これじゃ分かりづらいか。
もうちょっと補足しておこう。
「例えば陰陽師だ。陰陽術の中で最も恐れられているものに“呪殺”がある」
「聞くからに嫌な響きね」
「文字通り“呪う”事により相手を殺す術だ。
必要なのは術を行うに充分な場と相手の真名、そして体の一部。
条件が揃えば各種呪いを相手に届ける事が出来る。
これの恐い所は距離が関係ない事と、霊的守りがない人間には防ぎようがない事だ。
一流の腕なら条件の2つでも揃えば確実に相手を呪殺出来る。
尤も呪殺は呪いの中でも一番強いから扱うのは難しいし、病気や災厄を届けるのが一般的だな」
「殺すって……」
若い男性スタッフが絶句した。
非殺傷設定なんてものがあるから、殺し殺されるなんて言う殺伐とした世界には縁がなかったのだろう。
何せ管理世界は質量兵器アレルギーのせいで非殺傷設定の使用が厳重に取り締まられている。
犯罪者でさえ非殺傷設定を使う位筋金が入っているのだ。
殺傷設定を使ってくるのは本当に凶悪犯と称される極僅かな犯罪者のみらしいと陸の局員に聞いた事がある。
かく言う俺もそうした世界は知識の上でしか知らないが。
けどそう言う力を元にしている分、霊能者の世界には少しだけ知識がある。
「陰陽師の歴史を紐解くとな、そりゃあもう血生臭えぞ。
正直俺が一番敵にしたくないのは高レベル魔導師よりも霊能力者だ。
あいつ等は自分の身を脅かすものにゃ容赦ないからな」
「ちなみにアラン君は呪いは……」
「使えん。資料もなかったし、資質も多分ないだろうな。
俺はどちらかと言や具象化や集束・圧縮の方面に資質が偏ってるらしい」
俺の言葉に全員が安堵した顔を見せた。
おいおい、資質があったとしても俺はここにその力を向けるつもりはないぞ。
そう考えてから違うな、と首を振った。
彼等のそれは人間として当たり前のもの。
そう、未知のものへの恐怖だ。
「脅しすぎたな、すまん。
まあ、海鳴に現存する奴等は基本的に平和主義者らしいから手え出さなきゃ大丈夫だ。
さてリン姉、大分余分な事も話したが、聞きたかった事への答えになったか?」
「ええ、充分すぎる程に。
まったく、あなたの家の人達といい、その霊能力者の事といい、海鳴は魔窟ね」
「まあ、かなり力のある霊脈が通ってっからな。
特異な者達が引き寄せられるんだろう。
案外、俺がここに流れ着いたのも、ジュエルシードが落ちたのもそのせいかもな」
肩をすくめ作業を再開する。
カートリッジは柄に収納する事にして、6発式リボルバータイプを組み込む。
フレーム強度が少し下がるが、以前よりは上がってるし、まあいいだろう。
展開していたアウトフレームを戻し、待機状態に変える。
「ほれ、起きろタケミカヅチ。
雷鳴が轟き、其は岩の根から目覚めん。
降臨せよ、タケミカヅチ・弐式」
≪good morning, my master. I'm glad to see you again. thanks for reactivation≫
「ん、またよろしくな」
≪my best regards for you≫
いつもより少し饒舌なタケミカヅチを耳に付け直すと、椅子を回して時計を確認した。
「さて、時間は……ありゃ、もう3時か。最終調整の時間殆ど取れねえな」
「仮眠を取るならいつもの部屋を使って良いわよ」
「んー、多分もうすぐ決戦だからさ、こいつを完成させとくよ。
ここの調整が終わればぶっつけ本番でも使えない事はないだろうしさ」
指差した先にあるのは、翠色のコアを持つデバイス。
約束していたユーノ用だ。
今渡してもユーノは困るかもしれないが、できる事は全てやっておくべきだろう。
「そう。じゃあ私は一度仮眠を取っておこうかしら」
欠伸を噛み殺し、リン姉が立ち上がる。
それを見送って再び作業に集中した。
「じゃあ皆も少しは寝ろよ。
回らない頭で作業しても、いいデバイスはできないからな」
「ああ、また今度デバイスの話も聞かせてくれよ、さすらいマイスター」
「だからその渾名はやめろっての」
結局作業が終了したのは、リン姉が退出してから2時間弱後だった。
軽口を叩きながら退室する。
ぐっと背筋を伸ばして、転送ポートに向かいながらこの後どうするかを考える。
時刻は朝の5時、そろそろ恭也達は起きだして朝の鍛錬を始める頃だ。
今帰ると巻き込まれそうな気がするな……
流石に完徹は厳しい。
この身体は未だ小学生のものなのだ。
睡眠時間を多く取る事は大事なのである。
予定よりも大分伸びちまったな。
話しこんでた時間がなけりゃもう1時間は早く終わったはずだけど……
これのせいで身長伸びなかったら恨むぜ、リン姉。
思い切り自分の事を棚に上げ、思考の中で八つ当たりする。
なお、後々に知ったのだが成長ホルモンが分泌されるのは夜の10時から2時の間。
その間に睡眠を取らなければあまり意味がないらしい。
単純に成長は睡眠時間に左右されると思い込んでいた俺は、それでがっつりと凹んだのだが、ここでは関係ない事である。
閑話休題。
早々に帰るはずだった予定を変更。
帰宅は7時過ぎにする事にして、仮眠室へと向かう。
ま、完徹よりゃ仮眠取っといた方がマシだろ。
────────interlude
結局あたし達が確保できたジュエルシードは全部で7つ。
あちらは優秀な魔導師2人に加え、管理局と言う組織がバックについている。
多分あたし達と同じか、それ以上を確保しているに違いない。
当初必要と言われた最低ライン、14個を確保するには連中を倒さなきゃならない。
そんなのあたしとフェイトの2人だけじゃ無理に決まってる。
精神リンクから流れてくるフェイトの悲しみに耐えながら、あたしはただ庭園に響く鞭の音とフェイトの叫びを聞いているしかなかった。
ようやく、音が止む。
慌てて部屋に入っていくと、中にいるのは気を失ったフェイトだけだった。
「フェイト……フェイトォ……」
なんで……なんであの鬼婆はフェイトにっ!
怒りが抑えられない。
玉座の向こうを睨みつけ、あたしは走り出した。
あいつの魔力を辿り、ひたすら走る。
この壁の向こうかっ。
あたしは躊躇なく拳を振るい、壁を粉砕した。
…………いた。
7つ全てのジュエルシードがあいつの周りに浮かんでいる。
どうやらジュエルシードを見ていたらしい。
音に反応してこちらを見たあいつは興味なさげにあたしを一瞥すると、再びジュエルシードへ顔を向けた。
怒りが限界を、超える。
ごめん、フェイト。
もうあたし駄目みたいだよ。
体が熱を持つ程の感情。
なのに頭は熱いのを通り越して冷え切っていた。
歩き、階段を下りて行く。
もう、限界だ。
そこから飛び掛り、
「っ!?」
見えない壁に阻まれた。
こんなものっ!
「う、あああぁぁっ」
右手でバリアブレイクを実行。
腐ってもオーバーSランク、流石に堅い。
でも!
バリンという音と共に壁が破れた。
その勢いのままあいつの襟首を掴む。
「あんたは母親でっ、あの子はあんたの娘だろっ。
あんなに頑張ってる子に……あんなに一生懸命な子にっ」
嗚呼、あたしは全く冷静じゃなかったらしい。
ただ感情のまま言葉をぶつけて行く。
「なんであんな酷い事が出来るんだよっ!!」
叫びながらあいつの顔を睨みつける。
ほんの一瞬、今まで見た事のなかった色があいつの瞳に浮かんだ気がした。
それも次の瞬間には消え去り、あいつはあたしをまるでつまらない物を見るかのように見下す。
それに言葉を続けようとして、突然吹き飛ばされた。
迂闊、気付かなかった。
「あの子は使い魔の作り方が下手ね。余分な感情が多すぎるわ」
前に出された右腕。
どうやらあれで攻撃されたらしい。
内臓が逝った感触があった。
だけど……これだけは譲れない。
言いたい事全部言わなきゃ、なんでここに来たのか分からなくなっちゃうじゃないか!
「フェイトは……あんたの娘は、あんたに笑って欲しくて、あんたに戻って欲しくて、あんなに、っぐ」
叫ぼうとして痛みに思わず俯く。
そんなあたしをあいつは鼻で笑い、杖を手にした。
まずいっ!
「邪魔よ……消えなさいっ!!!」
「ひっ」
あいつの手の中で高まる魔力。
あれを喰らったら終わる。
急ぎ魔力弾を展開して……間に合わないっ!?
発射された魔力は、寸分のずれもなくあたしを打ち抜いて。
攻撃を喰らったあたしは、庭園の壁を抜いて次元空間へ落ちて行く。
朦朧とし始めた意識の中、あたしは助かる為の最善を打った。
どこでもいい……転移しなきゃ。
……ごめん、フェイト。少しだけ待ってて……
無理矢理に魔力をかき集めて、あたしは座標指定もてきとうなまま転移した。
────────interlude out