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「どうした、アラン?」
「いや、こりゃどういう方向に伸ばすべきかと」
リビングでウィンドウを睨みながら再び唸る。
表示されているのは半年前と現在のなのはのデータだ。
今日は日曜で時間もあるし、大分なのはの基礎が固まってきた事も手伝って、これからの鍛錬の方向性を決めようと思っていたのだが……
「はにゃっ、ごめんねお兄ちゃん。才能なくて」
「いや、ありすぎて困ってんだけどな」
「にゃっ!?」
いや、本当に。
あれからすぐに俺は、今までなのはのみに隠されていた魔法関連の事について話した。
最初に行ったのは講義。
議題は魔法の危険性と暴力性、訓練の必要性について。
その上で俺への弟子入りをなのは自身に打診した。
なのはは5歳児とは思えないような聡明さでそれらを理解し、弟子入りを承諾。
その後は俺なりのカリキュラムに沿って、この半年間魔導師としての基礎を磨かせてきた。
魔力の扱い方はもちろんのこと、基礎体力や簡単な体捌き、魔法理論とそれに付随する学問、ついでに語学。
で、そろそろ次のステップに移りたいところなんだが、
「儀式魔法の才能が皆無ってのは痛いな。とりあえず万能型は消えたか」
「そうなの?」
「ああ。その代わりと言っちゃなんだが、集束と空間把握には馬鹿みたいに才能がある。
まあ順当に育てるなら砲撃魔導師だが」
「にゃはは、なんか嫌な予感がするの」
たらり、となのはの額に汗が見える。
この半年で大分師としての俺を把握したらしい。
「大正解! 近接もこなせるようにして目指せオールラウンダー。
明日から俺とか父さん達の朝の鍛錬に混ざること」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁっ」
かなり取り乱しながら叫ぶなのはを、苦笑いしながら見守る俺と恭也。
ま、あの鍛錬に付いて行くのはかなりきついからな。
俺でさえ最初は地獄だったし。
とは言え、なのはの身体能力はすでにかなりの所まで来ている。
少なくとも一般的な10歳児程度を相手にするんだったら楽勝だろう。
ふむ、さすがは不破の血。
ドラッケン曰く、5年間リンカーコアを押さえ込んだままだったのが効いているらしい。
ずっと不自由な体でトレーニングをしていたようなものだから、枷が外れればこんなものなんだとか。
なのは自身も今は体が軽くて仕方ないと言っていたし。
同じような理由で魔力も伸びていったようなので、今でも体に影響が出ない程度にリミッターをかけ、常時負荷を与え続けている。
しっかし、自己封印用のリミッターをかけた上で自分に魔力負荷をかけ続けるとか、魔力に余裕ありすぎだろ。
しかもに日常生活中でも封印用と魔力負荷用に1つずつ思考を割いているらしい。
マルチタスクが得意になるわけだ。
ついでに、このリミッターにはなのは自身の体を守るという意味もある。
自己の出力ギリギリまでの魔力を放出するのは、幼い体には大きな負担になる。
特になのはは放出できる魔力の上限が高いからなおさらだ。
だから、敢えて全部のリミッターは外さない事で、なのはの体を守っていると言う事になる。
「あとは……俺が使えないから治癒魔法系も覚えてもらいたいが……微妙か?」
データが出ている部分をこつんと叩く。
治癒系にはあまり才能がない。
ま、全くない俺よりはましか。
正直学校に行かなきゃもっと集中して教導できるんだが……母さんが許さんだろうな、うん。
「可能性があるなら頑張ってみるの」
「おし、頑張れ」
乱暴に頭を撫でてやると、なのはが嬉しそうにいつものにゃはは笑いをする。
どうでもいいが、こいついつからこんな風に笑うようになったっけ?
「で、だ。兄妹のスキンシップが気に入らんなら普通に自己主張せんか、そこのシスコン」
その言葉になのはが苦笑いすると同時に、
「誰がシスコンだ誰がっ」
どの口でいうのだろうか、この馬鹿は。
じゃあさっきから俺にだけピンポイントで殺気が送られてるのはなぜだ?
当然ながら返答は、
「恭也」「恭ちゃん」
ハモった。
ニヤニヤしながら我が家の長女が登場する。
「おう、美由希か。お帰りさん」
「ただいまー。で、何やってんの?」
「にゃはは、私の訓練のこれからの方針についてね」
「俺は、シスコンじゃないっ!
確かになのはは大事だが、シスコンと言うならそれこそアランの方がっ」
「はいはい、恭也はうるさいから黙ってような。
なのはのこれからの話が進まないし」
「ぐっ」
一発で恭也を黙れせるにはなのはネタが1番だな、うん。
新規ウィンドウを開き、手持ちのデバイスパーツ在庫を確認する。
「とりあえず中距離を基本として近・遠距離に決め球が欲しいところだな。
遠距離は集束系砲撃でいいと思うが、近距離がなあ」
「うちの流派とそこまで相性良さそうに見えないもんね。
どっちかって言うとアランのやつの方が合うんじゃない?」
「俺のだと無手になっちまうだろ。
砲撃中心にすると手持ち系デバイスが基本だからなあ」
「そう言えば、デバイスはどうするつもりなんだ?」
「ああ、これを使おうと思って」
恭也立ち直り早えなあ、と思いながらもリストから選択、表示。
「刀型? でも武器の形してるのって確かベルカ式とかいうのじゃなかったっけ?」
「にゃ!? 私ミッド式しか習ってないよ?」
≪これはれっきとしたミッド用のインテリジェントデバイスですよ≫
表示されているのは日本刀のような形をしたデバイス。
まあこいつのフレームを流用するだけだから刀型になるとは限らないんだが。
「しかしよくこれだけパーツを持ってたな。
事故が起きた時は仕事中だったんだろう?」
とは恭也の素朴な疑問。
「まあ普通は自分の相棒以外は持ち歩かないけどな。
俺の場合職が職だから修理キットとかパーツ、あとは注文受けて届ける前のデバイスを持っている事はざらだったぞ」
「ああ、デバイスマイスターとか言う」
「そ。来る時持ち歩いてたデバイスもいくつかあるが、まあこいつは特別なんだ。
お袋の愛用品だったらしいし、基本的にいつも身につけるようにしてる」
「そ、そんなのもらえないよ!?」
「お母さんの形見なんでしょ!?」
まあ普通の感覚ではそうなんだろうけど。
「ま、俺が持っててもこいつは使わないだろうし。
それなら使ってくれる奴に渡した方がいいだろ?
お守り代わりと思ってくれりゃいいさ」
「……そうか」
やっぱ恭也は兄貴って言うより親友か悪友だな。
話さずとも俺の意図を汲んでくれる所なんて父さんそっくりだ。
ウィンドウを見ていたなのはが珍しいことに俺の方を向かないまま口を開いた。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「この子の名前、なんていうの?」
「“ベオウルフ”イギリスの御伽噺に出てくる英雄の名前だ」
「ふうん、ベオウルフ、か」
「コアなんかは白紙に戻すから、自分で名付けてもいいんだぞ?」
「ううん、そのままでいいの」
そう言いながら熱心にウィンドウを見つめるなのはの横顔を暫く見て、本人がいいって言うならそれでいいかと自分を納得させる。
「まあフレームとコアにゃそいつを使うが、形状については近接の様子を見てから決めようと思ってる。
それで近接についてなんだが」
「何を教えるの?」
「一応御神流の適正を見て、駄目なら俺の居合いを教えてみるさ。
それもだめなら徒手で“絶砲”でも仕込んでみるつもりだ」
「あ……はは。手加減してあげてね」
「それなりに、な」
居合いや絶砲を思い出したのか頬が引き攣る美由希。
恭也は速くて中々当たらないから、いつも実験の被害にあってるのこいつだしなあ。
「ま、魔法とか鍛錬関係はそんなもんか。
明日からまた1段上のステップに上がるからな」
「うん!」
「うし、そんじゃ最近サボりがちな楽しい語学の時間、行ってみようか」
「うにゃぁぁぁぁぁっ」
叫ぶなのはの首根っこを押さえ連行する。
理数系はもう中学レベルを終えそうなのに、文系が中々頭に入らない模様。
とりあえず小学校入学前にある程度英語は仕込む予定だ。
余裕があればドイツ語もだが……こっちはまず俺が勉強しなおしだな。
なにせ俺自身、ドイツ語が苦手なせいで詠唱が咄嗟に出てこず、ベルカ術式のトリガーワードを英語準拠にしていると言う状態だ。
一応術式なんかは組めるし、読めないわけじゃないんだが……
「ねえ恭ちゃん」
「どうした?」
「最近下手すると私よりなのはの方が高度な勉強してるんだよ」
とりあえず滝のように涙を流す美由希は見なかった事にした。
────────interlude
お兄ちゃんと魔導師の訓練を始めてもう半年以上が過ぎた。
お兄ちゃんが魔法使いだと知ったときには驚きすぎて猫みたいな声が出たの。
なんかあれ以来癖になっちゃったみたい。
私が猫の鳴き声みたいに叫ぶのを見て、お兄ちゃんは大笑いしてた。
……今考えても酷いよ、お兄ちゃん。
あれからおにいちゃんは学校から早く帰ってきて私に色んな事を教えてくれるようになった。
うん、これは凄く嬉しい、かな。
昔はずっと一緒だったのに、お兄ちゃんが学校に行き始めてから一緒の時間減っちゃったし。
今はお兄ちゃんが学校に行ってても、念話でお話できるから楽しいし。
ただ、朝の鍛錬はちょっと地獄なの。
お兄ちゃん達はなんであんなに動けるのかがわからない。
今はお姉ちゃんに小太刀二刀術(?)を習っているけど中々上手くいかないし。
これが合わないならお兄ちゃんの居合いか徒手格闘っていってたけど、あんなの出来るわけない。
居合いは抜いた瞬間が見えないし、この前は裏山の大木を絶砲で軽くへし折ってたの。
正直、お兄ちゃんのアレは人間業じゃないと思う。
魔法を覚えるのは楽しい。
儀式魔法に才能はないけど、後は1通り覚えられるってお兄ちゃんが言ってた。
特に砲撃に才能があるって聞いて、撃ってみたいなあと思ってたら、
「魔法ってのは暴力だ」
って最初の頃に言ってた講義をもう一度してから、今度は実演してくれた。
裏山にある大木──しかも大人が2人でようやく周囲を腕で囲める位の太さのもの──を標的に、指先から出した小さな魔力弾を撃ったら、その後ろの木を巻き込みながら根こそぎ消し去られてしまった。
それを見て、お兄ちゃんが言っていた言葉がちょっと実感できた気がする。
その後自然破壊はだめなのってお兄ちゃんに言ったら呆れられた。なんでだろ?
魔導師の訓練ではないけど、一緒に勉強も教えてもらってる。
ちょっと英語と国語が苦手だけど、その分お兄ちゃんと一緒にいる時間も増えるから、そこまで苦にならない……かな。
来年からは一緒に学校に通えるし、そろそろ私専用のデバイスも作ってくれるって言ってたから良い事尽くめ。
お兄ちゃんのお母さんが使っていたデバイスを改造するって聞いて驚いたけど、お兄ちゃんの大事にしているものを私にくれるって言うのは嬉しい。
使ってくれってお兄ちゃんが言ってくれたので、貰ったら大事に使おう。
「なのはー、行くぞー」
「はーいっ」
これから魔法の訓練でお兄ちゃんと外出。
今日も良い天気だし頑張るぞ!
────────interlude out
隣を歩くなのはは、さっきから鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌だ。
今は魔法の訓練をしているいつもの広場に移動中。
さすがに砲撃魔法などを室内で撃つのはまずいので、外のちょっとした広場で結界を張ってやるようにしている。
なのはの魔法訓練は、最初は精密魔力コントロールから始め、復習も兼ねて今までに習った魔法の制御練習、それから新しい魔法を教えて、最後に大容量魔力を扱う練習をする。
結構な時間をかけてやっているが、なのはは全然苦にした様子もなく、むしろ楽しそうにトレーニングを重ねているようだ。
勉強や朝の鍛錬なんかは嫌そうな顔をする事もあるんだがなあ。
最近はなのはに教えなきゃいけないから俺も色々と勉強をしなくてはならなくなってきた。
こういうときは肉体が若くてよかったと思う。
脳が若いからすぐ覚えられるし。
生前の俺なら絶対無理って胸を張って言えるね。
新しい魔法の構築なんかもしてるし、この体って基本スペック高いよなあと、ミッドの学校以来久々に思った。
「お兄ちゃーん、これでいいのー?」
「あー、ちょい待て。今見に行くから」
今やっているのは誘導弾の練習。
どうせ砲撃・射撃系に才能がある事は分かりきっていたので後に回していたのだ。
「それじゃ、こいつに向かって撃ってもらおうか。
俺が動かして避けるようにするから」
手の平に1つ、蒼い魔力スフィアを生み出すと空に投げる。
────ゲームスタート!
「シュート!」
掛け声でなのはの周りに浮いてた8個の誘導弾が発射され、俺はそれに当たらないようスフィアを操作する。
というか妹よ、初めての魔法で誘導弾を8個も出して、しかもその全てをばらばらに操れるってどんだけ才能あるんだよ!?
結局7分程経ったところで撃墜された。
いや、俺頑張ったよな?
5分すぎからばりばりに戦術使い始めたなのはから良く逃げたよな?
そのなのははというと肩で息をしながらへたり込んでいる。
さすがに集中しっぱなしは疲れたようだ。
軽く頭をなでてやると、ふにゃりと顔が崩れた。
むう、癒されるな。
「お疲れさん。
まあ慣れてくればそこまで意識を集中しなくても大丈夫になるからな」
「はにゃー。うん、頑張るの」
よしっと気合を入れるなのは。
うんうん、うちの妹は可愛いなあ。
ついついその微笑ましさに頬が緩む。
「じゃあ最後はいつも通り、空に1発撃って終了」
「はーい!」
さっきまで疲れた顔をしていたのに、突然活き活きし始めるなのは。
なんでも細かい事を気にせず思いっきり砲撃をぶっ放すとすっきりするんだとか。
「なのはが将来トリガーハッピーにならないかが心配だ」
「ん、お兄ちゃんなにか?」
「いんや、なんにも。ほれ、早くやっちまえ」
あ、危ねえ。
聞かれても大丈夫とは思うがなるべく聞かれたくないしな。
30秒もしない内になのはは魔力集束を完了させ、結界内を桃色の光が切り裂いた。
俺の精神衛生のためにも、なのはの嬉々とした顔は見なかった事にしておこう。