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額の汗を拭い、工具を置くと思っていたより大きな音が響く。
窓を開くと、この季節にしては若干暖かめの夜風が部屋に入り込み、火照った体を冷ましてくれた。
部屋に散らばる工具等の中心には小さな台座と銀細工。
「うわ、もう殆ど寝れないな」
朝の鍛錬まであと1時間半。
今日位サボりたいと考えた所で、恭也の顔を思い出して断念した。
まず休むのは無理だろう。
あの無口そうな外見とは裏腹に、意外と饒舌な兄弟は、朝の俺との組み手を妙に楽しみにしている節がある。
工具を箱に突っ込み、ベッドに倒れこんだ瞬間、試合中に恭也が見せる獰猛な笑いが脳裏に浮かんだ。
「バトルマニアめ」
毒づいたところで限界が訪れ、意識がフェードアウトした。
「「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」」
クラッカーと共に声を揃えて言うと、照れくさげに少し笑い、それから満面の笑みになった。
「にゃはは、皆ありがとう」
今日はなのはの6歳の誕生日である。
「さあさ、今日はなのはの好物だらけよ。
はやてちゃんもお腹いっぱい食べていってね」
「あ、はい。今日は呼んで下さってほんまにありがとうございます」
「あはは。
私はもう1人妹が出来たみたいで嬉しいからもっと来て欲しいんだけどなー」
「その方が恭也から渡されるノルマも減るしな」
「そうそう…………ってアラン!? ソンナコトオモッテナイヨ?」
「美由希、明日の鍛錬は2倍な」
「うええ、アランの馬鹿ーっ」
「にゃはは、今のはお姉ちゃんの自業自得のような気がするの」
賑やかな雰囲気のままなのはにプレゼントが渡されて行く。
しかしなのはよ。
嬉しいからって一々首根っこに抱きつくのはどうかと思うぞ。
ああほら、父さんと恭也の顔がよそ様にはお見せできませんレベルまで緩んでるし。
はやてからなのはに日記帳が贈られ、最後に俺の番。
って、俺がトリかよ!?
「なんか全員に注目されると妙な気分だな」
苦笑しながらなのはの前へ行くと、なのはも似たような表情だった。
まあ、その目に浮かぶ期待感は全く誤魔化せてないが。
ポケットから箱を取り出す。
手のひらに収まるような小さな箱だ。
「それって……」
「ああ、なのはが欲しがってたもんだ。ハッピーバースデイ、なのは」
意識しないと思っていたのに、少しだけ手が震える。
当たり前か。
殆ど思い出がない上に改造済みとはいえ、一応お袋の形見なのだ、こいつは。
なのはが両手で受け取って恐る恐る箱に手をかける。
なのはの手も若干震えているのは気のせいか。
隣でははやてが興味深げに覗き込んでおり、気付けば全員が箱に注目していた。
箱を開く。
全員が息を呑んだ。
それは片翼を模ったシンプルなペンダントトップ。
翼の付け根には赤い宝玉。
シルバーの翼部分には余計な刻みは殆ど入れず、銀細工としては完成されているものの、綺麗と言うより可愛らしい外見に仕上げられている。
「あ……」
漏れ出た声に気付いてなのはを見る。
っておい! なんで泣く!?
焦りながらもとりあえず頬を伝う涙を拭ってやる。
軽く頭を撫でながら、
「気に入ったか?」
「うんっ、ありがとう、お兄ちゃん!」
返答は満面の笑み。
それだけで作った甲斐があったってもんだ。
「あー、なんか安心したら眠くなってきた」
「情けないぞアラン」
「仕方ないだろ。下手すると徹夜だったんだぞ。
あー、間に合って良かったあ」
目をこすりながら恭也に反論すると、はやてが目を丸くして質問した。
「これ、兄ちゃんが作ったん?」
「おう。めちゃめちゃ時間かかったけどな」
「アラン器用だもんね」
「まあ美由希よりゃあな」
俺達の軽口をよそに、はやてはなのはの首にかかったそれをまじまじと見ている。
「なんだ、欲しいのか?」
「あ……でも大変なんやろ?」
「そいつは元の形があったからな。
なのは用に作り直すのが大変だっただけで、1から作るんならそんなに時間かからないさ」
「そうなん?」
まあ、なのはのはデバイスだしなあ。
はやて用ならただの銀細工でいいから、出来上がるのはかなり早い。
「はやての誕生日は確か6月だったか。じゃあそん時に1つプレゼントしよう」
「ほんまっ!? あー、そうなると今から誕生日が楽しみやわぁ」
笑顔のはやてをペンダントをいじっているなのはが満面の笑みで見ている。
うん、やっぱり頑張って作った甲斐があった。
「なのは、ちょっといらっしゃい。皆は少し待っててね」
はやての帰宅後、父さんが母さんに何か囁くと、母さんがなのはをつれて部屋から出て行った。
10分ほどして母さんだけが帰ってくる。
「かーさん、なのはは?」
美由希の当然の疑問に母さんは悪戯っ子のように笑うと、廊下へ続くドアを視線で指し示す。
「入ってらっしゃい」
「はーい」
「お」「わあ、似合ってるじゃん」「うん、可愛いな」「でしょ」「へえ、なかなか似合うな」
小走りでなのはが戻ってくると、俺を含め全員から感嘆の声が上がる。
白を基調としたワンピース。
聖祥大附属小学校の制服だ。
「えへへ、似合うかな?」
はにかむなのはに頷く。
うちの妹は可愛いなあと考えていたら、父さんと恭也も似たような顔をしていた。
高町家はもう駄目かもしれん。
母さんは俺達をにこにこ眺めるだけだし、美由希は呆れたようにこっちを見ている。
客観的に見て気が付いた。
な、なんだこのカオス空間は。
「そ、そうだ。まだベオウルフのマスター認証してなかっただろ。
バリアジャケットも設定しないとな」
「うん!」
慌てて話題をそらすと大事そうにベオウルフを首にかけ、元気のいい返事が来た。
とりあえずさっさと説明する事にしよう。
「ベオウルフは祈祷型だからな。
ある程度は感覚で術式を組み立てられるんだが……その辺りは使っている内に理解できるだろ」
「それでそれで、どうやったら起動できるの、お兄ちゃん!」
待ちきれないといった様相で俺を急かすなのは。
ああ、本当に楽しみにしてたんだなあ。
「まずは起動パスワードの入力からだ。俺の後に続いて繰り返すんだぞ」
「うん」
あ、ちょっと緊張してきた。
一応動作実験はしているが、その後全フォーマットしてあるからなあ。
大丈夫だろうけど少しどきどきする。
「我、自らの意思で立つ者也」
「我、自らの意思で立つ者也」
起動パスワードを紡ぐ。
相変わらず長くなってしまったが、なのはには合ってると思う。
「強き願いの下、その力解き放て」
「強き願いの下、その力解き放て」
ここまでくれば、後はベオウルフも教えてくれるはず。
「「天に祈り、地に誓い────そして、貴き想いはこの胸に」」
そうして俺は笑う。
さあ、記念すべきなのはの初セットアップだ。
「ベオウルフ! セットアップ!!」
≪stand by ready ... set up≫
赤い宝玉がいっそう輝く。
赤いコアを囲むようにパーツが出現、柄となり刀型のデバイスが形作られた。
白地に青いライン、そして中心には真っ赤なコア。
日本刀と言うにはやや幅広な刃は、この状態でも砲撃を飛ばす事を前提に作ってある。
「ほえええ」
なのはがそれを呆けてみていると、コアが点滅した。
「なのは、バリアジャケットの設定をするぞ。
自分の体を包む強い衣服をイメージしてデバイスに流し込め」
「え!? あっと、えっと…………とりあえず、こんな感じで!」
なのはが光に包まれ、バリアジャケットが構築される。
白いワンピースタイプの服に白の上着と腰巻。
こりゃ、思いっきり制服に影響されたか?
違うのは袖口なんかに青いアクセントが入っているのと、胸元の赤いリボン。
あの腰巻は微妙に俺のバリアジャケットの影響を受けている気がする。
「あ……さっきまで制服着てたからそのイメージが強くなっちゃった。
せっかくお兄ちゃんと似たような感じにしようと思ってたのに」
「やめれ。女の子が着るにゃあ俺のジャケットは薄すぎる。
それにしても…………」
上から下までしっかり眺める。
「ね、ねえ。似合ってるかな?」
「ああ、似合ってるぞ。
似合ってるんだが……なんかアニメとかに出てくる魔法少女っぽいな」
「ふにゃ!?」
「ああ、確かに」
かなり意外な人物から同意が来たな、おい。
恭也よ、アニメに出てくる魔法少女が分かるのか、お前は。
ちなみに俺はなのはに付き合ってテレビ見てたから分かるぞ。
……って、なんだか全員鑑賞モードに入っちまったみたいだな。
ウィンドウを取り出して、チェック。
よし、問題ない。
「システムオールグリーン。
おめでとう、今日からベオウルフはなのはのパートナーだ」
「うん、よろしくなのベオウルフ」
≪yes, my master≫
「わわっ、英語だよ、お兄ちゃん」
「別に日本語にも出来るがな。
なんとなくベオは英語が似合いそうなんでそうした。
設定変更してもいいぞ」
≪change language?≫
「ううん、このままで良いの。
お兄ちゃん、この子は今何ができるの?」
「なのはならぶっつけ本番でもある程度術式を組み上げられると思うから、基本魔法以外は入れてない。
あと入れてあるのはフォルム変更位だし、起動テスト後AIもリセットしてるからまっさら。
100%なのは色に染まるように調整してある」
「わ……私色……」
なぜそこで赤くなる。
「魔法の方は確実に使うであろう、プロテクションと砲撃・射撃系の基礎、封時結界と飛行系の基礎位しか入れてない。
だから、プロテクション以外の魔法は、基礎を元に自分の魔力に合わせて術式を構成して登録するんだ。
明日からの魔法座学はこの登録がメインになるかな。
そうそう、後でドラッケンを見て欲しい術式があればやるよ」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん」
「とりあえず先に各種フォルムの説明をしておこう。
今の状態がデバイスフォーム、つまりデフォルトだな。
刀としても使えるし、もちろん砲撃も出来るようにしてある。
で、ベオウルフ、バスターフォームを」
≪yes doctor, buster form≫
柄が変形すると同時に伸びる。
2つ又の槍の先にコアが挟まってる形に変化した。
「ほえー、こんなに変わるんだ」
「こんなの序の口だぞ。ベオは特に変形には力を入れたからな。
そいつは名前の通り砲撃用フォルムだな。
集束率を上げるように魔力の通り道なんかを計算して作ってあるから効率よく砲撃が使える。
次がシーリングフォーム」
≪sealing form≫
「あれ? 今度は殆ど変わらない?」
変化はバスターモードをベースに、コアがフレームに囲まれる形になっただけ。
「ま、封印なんざ殆ど必要ない機能だからな。
封印とは名ばかりの収納モードだ。
小さな物なら入れておけるから、意外と便利だぞ。
いらんようなら消すが?」
「ううん、とりあえず消さないでやってみる。まだメモリも余ってるし」
「そうか。次が最後だな。驚け、近接仕様のナックルフォーム」
≪knuckle form≫
これを組み込むのが一番苦労した。
パーツごとに一度ばらばらになってから、軽手甲に形状変化。
コアは右手の甲へ組み込まれ、余ったパーツで左胸部の装甲になるよう設定してある。
「はにゃ、これは変わりすぎだと思うの」
「結局御神流も居合いも適正がないみたいだったからな。
かと言って近接は外せないし、無手用を作ったらこういう形になった。
まあ、通常近接ができるようにして、徒手格闘中心だな」
「うう…………才能なくてごめんなさい」
特徴であるピッグツインテールが萎れる。
だが、それは違うぞ。
「なに言ってんだ、才能はあるぞ、ちゃんと。
ただあの2種目に必要とされる才能が異常なだけだ。
通常の徒手格闘なら十分すぎる位に才能があるんだぞ、なのはは」
「ふえ? そうなの?」
「あー、まあうちは環境が特殊だから気付かなくてもしょうがないか。
むう、なんか急に来月からの学校生活が不安になってきた。
なのは、ちゃんと手加減できるか?」
「もー、大丈夫だもん。……でもそっかあ、才能ないわけじゃないんだ」
「つうか、才能ない奴はまず俺達の鍛錬に付いて来れん」
ぴょこんとツインが跳ねた。
ほんと、分かり易いな。
「ついでにな、このフォルムは拳からも砲撃を出す事が出来る。
つまり砲撃魔導師のまま近接戦闘ができるっちゅう事だ。
『私に苦手な距離はない』とか言ってみたくないか?」
「言ってみたい!」
「うんうん、基本だよな」
恭也と美由希からの視線が痛い。
や、だってなのはと見ていたアニメにそう言うキャラが居てさあ。
悪かった、悪かったよ、ネタに走って。
でも便利なんだぞ、このモード。
正直、使い勝手は全モードの中で一番いいし。
「よし、こんなとこだな。じゃあ解除しようか」
「うん。ベオウルフ、お願い」
≪yes, my master≫
なのはのバリアジャケットが解ける。
けど下に着ていたのは制服だから見た目が殆ど変わらなかった。
「にゃはは。あんまり変わんないね」
「ベースが制服だったからな。
そうそう、さっきも言ったがAIは一度リセットしてあるから、そいつは今赤ん坊と同じだ。
きちんと会話して育ててやるんだぞ」
「わかったの。ありがとう、お兄ちゃん!」
「はは、今日だけで何回礼言われたかな。
まああれだ、なのはが嬉しいなら俺も嬉しい」
にっと笑うとなのはの顔が赤くなった。
おかしい、ここは照れるところか?
話が一段落したところで、パンパンと母さんが手を叩いた。
「さ、なのはの魔法少女っぷりもきっちり堪能したし、もう夜も遅いから順次お風呂に入って寝ましょ」
「そうだな。恭也達は大丈夫だろうが、そろそろなのはは朝が辛いぞ」
「にゃああっ、もうこんな時間!?」
「じゃあ俺も、体は小さいわけだしさっさと寝るか」
「あー、不便だよね。精神年齢と肉体年齢が合ってないと」
「まあな。小回りが利く以外に利点ないし」
軽口を叩きながらリビングを後にする。
ポケットに手を突っ込んで、触った瞬間に思い出した。
「あ……」
≪お披露目し損ねましたね≫
「お前な、気付いてたんなら言えよ」
≪わざと言わないのかと思ってましたので≫
取り出したのは青いラインの入ったイヤーカフス。
俺の居合い用に作り出した、日本刀型アームドデバイス“タケミカヅチ”だ。
「ま、明日以降でもいいだろ」
≪それもそうですね≫
翌日に披露したところ、なのはになんで昨日見せてくれなかったのかとむくれられたのは余談も余談である。