[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
机に突っ伏しながらうんうんと唸っている俺の姿は、さぞかし不気味だったに違いない。
先週はほぼ丸々新入生オリエンテーションだったので、そこまでではなかったのだが、今日初めてあのクラスで体育の授業があるのだ。
くっそう、覗きに行くのもなんか違えしなあ。
なまじ行こうと思えば行ける距離にいるから余計気になるんだよなあ。
あいつ、ちゃんと力セーブしてんだろうな。
先週の始めになのはが小学校へ入学したのだが、入学直前に自分の力を正しく認識してない事が判明したので、気が気じゃない。
新学期に入ってからそわそわし過ぎだと担任にお小言をもらってしまうくらい、今の俺は落ち着きがないらしい。
否、実際にない。
自覚はある。
力のセーブ以外にも気になる事はある。
この1週間強、あいつは登下校を俺と一緒にしている。
1年生と3年生では下校時刻が異なるにも拘らず、だ。
っかしいなあ、人見知りはしないはずなんだが。
それこそ小さい時は幼児特有の人見知りはあった。
だが、それ以降はそう言う素振りを見せた事もなく、はやてと初めて会った時も物怖じしないで話しかけていたはずだ。
小学1年生ともなれば、友達を作るのは早い。
ちょっと仲良く話したら友達だね、と言ってしまうくらいのレベルだ。
そうなれば自然、一緒に登下校したりするはずなのだが。
……クラスで浮いてんじゃないだろうな?
ある意味でさっきの不安より大きいかもしれない。
なのはの知識吸収がよかったので、調子に乗って色んな事を教えすぎただろうか。
文系はともかく、理系の知識が高校レベルにそろそろ達しようとしているなのはは、小学1年生の教室において色んな意味で異物だろう。
やべ、やりすぎたっぽいか……
そこまで考えてからだらだらと冷や汗をかきはじめた。
と、とりあえず、クラスを遠くから覗いてみよう。
そうしよう。
ある意味で恭也のシスコンより質が悪いなと自省する。
明日からの鍛錬内容はもうちょっと考えようと決意した所で、携帯が鳴った。
ポケットから取り出してディスプレイを確認。
「……翠屋?」
珍しいな、学校にいる間にかかってくるなんて。
担任に了承を取って廊下に出、通話ボタンを押した。
「はい。アランだけど」
『ああ、よかった、繋がった。今授業中だろ、ごめんな』
「父さんか。まあ大丈夫だよ。そろそろ終わるし」
妙に慌てた声の父さんに受け答えをしていると、丁度チャイムが鳴る。
「な?」
『みたいだな』
「で、どうしたんだ?
父さんが学校にいる間にかけてくるなんて珍しい」
『いや、な……』
言葉を濁す父さんに先を促した。
『なのはがクラスの子と喧嘩したらしくてな。
殴っちゃったみたいなんだよ』
「な!? 相手の子は?」
『無事らしい』
「そうか……よかった」
胸を撫で下ろしながら安堵の息をつく。
よくぞ手加減した、なのは!
……なんか間違ってる気もしないでもない。
でも大事な事だよな?
小学校でスプラッタとかみたくないし、妹を犯罪者にしたくないし。
『それでな、本当なら俺達がすぐに行かなきゃいけないんだが……』
「ああ、昼時だからな。父さん達が来れるのは早くて2時頃か?」
『まあ、その位だな。そう言うわけで、俺達が行くまで保護者代理としてなのはの所にいてくれないか?』
「ん、わかった。ちょい待って」
電話を保留にして教室に戻った。
授業を終えて、丁度教室を去ろうとしていた担任を捉まえる。
事情を話した所、
「小学3年生が保護者代理なあ……まあ、お前なら問題ないか」
と渋い顔ながらも割りと簡単に早退許可を出してくれた。
「あ、父さん? OK出たぞ」
『そうか、悪いなアラン。俺達もなるべく急いで行くから』
「了解。んじゃ、また後で」
電源を切ると歩き出す。
目的地は……保健室だ。
「ちわー、保護者代理来ましたー」
「すみません! ……って、君か」
「あ゛? 尾賀ちゃんが担任なのか?」
入室した俺に応対したのはよく俺が絡む若い女性教員。
そっか、この人今年から担任持つって言ってたけど、なのはのクラスだったのか。
「あー、つまりあれか。アラン君が高町さんのお兄さんなわけか」
「なんだ、気付いてなかったんだ。っとと」
いけね、いつも通りに話しちまった。
姿勢を正して礼をする。
「どうも、うちの妹がご迷惑おかけしたようで申し訳ありません」
「……やめてよね。君が丁寧に喋ると馬鹿にされてる気分になるわ」
「そりゃすまんかった。
うちのが迷惑かけてすまんな、尾賀ちゃん」
軽く肩をすくめながら返すと、苦笑いが返ってきた。
「で?」
「で、とは?」
「何しに来たの?」
「だから、保護者代理だって。父さん達、今丁度店が忙しい時間だからな。
来るまでの繋ぎとついでに事情聴取もしておこうかな、と」
「……はあ。君も凄いけど、君のご両親も大物ね」
「まあ……そう、だな」
悪いけど、一般的とは言い難い。
「早退報告はしてきたのよね?」
「抜かりなく」
「まあ、それならいいけど……」
「尾賀ちゃんのそう言うてきとうな所好きだぜ」
ついでに、9歳の保護者代理を認めちゃうような柔軟さも。
って、うちの担任と言い、尾賀ちゃんと言い、ここの教員も大概変人が多いな。
あまり気付かなくても良かった事実に気付きながら、保健室の奥へ向かう。
「治療は?」
「さあ? まだ奥で受けてるんじゃない?」
「尾賀ちゃん確かめてきてよ」
「なんでまた」
「最近は小学1年生でも見られると気にするませたガキがいるんだよ」
「君が言うな」
それでも尾賀ちゃんは笑いながら奥へ様子を見に行ってくれた。
暫くして顔を出すと手招きされる。
それに習って奥へと足を踏み入れた。
治療はとっくのとうに終わっていたのだとか。
「あ……」
絆創膏だらけでベッドに腰掛けていたなのはは、俺の姿を見た瞬間萎縮した。
怒られると思ってるんだろうなあ。
まあ、流石に怒るけど……父さんが。
治療してくれた保険医に礼を言うと、周りを見渡して2人の女の子を見つける。
紫の長い髪を持った大人しそうな子と、金髪のこれまた長い髪の気の強そうな子。
左頬に湿布が貼られている所を見るに、金髪の子が喧嘩相手なのだろう。
とりあえずは自己紹介からかな。
名前知らないと話をしにくいし。
すうっと軽く息を吸って、
「さて、俺はここにいる高町なのはの保護者代理、3年のアラン・F・高町だ」
────────interlude
っ、なんなのよ、あのアランって奴。
私は苛々していた。
私と喧嘩したあの子、高町なのはの保護者が来たと聞いて身構えてみれば、現れたのは私達とたった2つしか違わないこの学校の上級生。
銀髪のその男子はどう見てもあのなのはって子と血が繋がってるようには見えなかった。
……両親も来ないし、もしかして実は複雑な家庭の子なのかしら?
「アリサ・バニングスよ」
自己紹介を求められ、私は自分でも不機嫌と分かる声で返した。
それにあいつは怒るわけでもなく、少し苦笑いしながら口を開く。
「バニングス嬢な」
なんか、むっとした。
その呼び方は気に入らない。
「アリサ、でいいわよ」
「OK、アリサ嬢な」
嬢は外せないのかしら……
少し考え込んでいる間に、あいつは今日私のターゲットになっていた子──確か月村すずかだったか──に自己紹介を求めた。
「……月村、すずか、です」
「月村?」
知ってるのかしら?
……って、名前くらいは知ってるか。
月村って言ったらここら一帯の大地主だし。
「もしかして忍嬢の妹さんか?」
「あ、はい。お姉ちゃんを知ってるんですか?」
って、本当に知り合い繋がりなのね。
次第に内心のみで突っ込むのがつらくなってくる。
が、私の中の意地っ張りな部分が、余計な事を喋ってたまるかと口を閉じた。
「うんにゃ、直接の面識はねえな。
恭也が最近知り合ったって話をしてたから」
「恭也お兄ちゃんが?」
誰よその恭也って人は。
段々1人でやきもきしているのが馬鹿らしくなってきた。
「って事はすずか嬢の保護者が来るには時間がかかるな。
風芽丘学園が終わるまで、忍嬢も身動き取れないだろうし……」
あの子の保護者、高校生なのかしら。
あそこの家も複雑っぽいわね。
……うちもパパ達は外せない会議があるって言ってたから、来るの遅くなりそうだし。
「あ、でも、ファリンが来るって言ってました……」
「ファリン?」
「私付きの、その……メイド、です」
「ああ、なるほど。アリサ嬢の保護者は?」
「っ、今日は外せない会議があるから、来るのちょっと遅くなるって」
「ふむ……」
あ、焦った……。
考え事してる所にいきなり話しかけられたので、思わず素直に答えてしまった。
あいつはそれを聞いて考え込むと、担任の尾賀先生と少しだけ話して、私達の方へ戻ってくる。
「各家ともこの時間に保護者が集まるのは難しそうだ。
そこで、今日は俺が事情を聞くという事で、後日保護者を交えた話し合いをする事になった。3人共それでいいか?」
「うん……」
「……はい」
言葉こそ疑問系ではあったが、反論を許さない強さがその目にはあった。
仕方なく、私はぶすっとしたまま頷く。
「それじゃあ改めて。いったい何があったんだ?」
────────interlude out
まあ、どこにでもある、子供の喧嘩だよな。
それがなのは達の話を聞いた俺の感想だった。
要はアリサ嬢は結構な構いたがりらしい。
休み時間は色んな子にちょっかいを出して遊ぶ、まあクラスに1人はいそうな典型的な気の強いタイプの子のようだ。
尤もこの子は、ただの強気タイプじゃなさそうだけど。
……頭も良さそうだし、本当は分かってる、だけど素直になれないって所かな。
休み時間に一足早く入ったなのは達のクラスは、クラスメート全員が中庭で遊んでいた。
今日のアリサ嬢はすずか嬢のカチューシャに目をつけたらしく、突然すずか嬢のカチューシャを奪い逃げ回ったらしい。
大人しいすずか嬢が泣いておしまいになると言う大半の予想に反して、すずか嬢は泣きそうになりながらもこれを追いかけ、それを面白く感じたアリサ嬢がますます逃げ回った、と。
まあ、そのまま放っとけばアリサ嬢もすぐに飽きて返してたんだろうが。
そこになのはが乱入した事で話が大きくなってしまったようだ。
「で、ついバニングスさんの頬っぺたを引っ叩いちゃって。
『痛い? でも大事な物を取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ』って」
大口叩いちゃったよ~、とピッグツインごと萎れるなのはに、顔に出さないように苦笑する。
まったく、この子は。
気質は父さんにそっくりだな。
「そのまま取っ組み合いの大喧嘩になっちゃって」
「そこの月村さんが、普段出さないような大声で『やめて』って叫んだもんだから、あたしも唖然として」
「で、そこでようやく事態に気付いた尾賀ちゃんが仲裁に入ったってわけか」
3人が頷くのを見て、やれやれと肩をすくめた。
さてはて、どうしたもんかな。
「まあ、すずか嬢とアリサ嬢については、保護者の方に伝えておくから、しっかり話をして、そこで色々と考えなさい。
俺から言うより効果的だろうしね」
問題は、
「なのは」
びくりとなのはの肩が跳ねる。
この子の罰をどうするか、だな。
「……朝の鍛錬、増やすかな」
「ふぇっ!? お兄ちゃん、そんな事されたら学校来れないよお」
「まあ、そうだな」
今でさえへろへろの状態で通ってるんだし。
ちなみに、暫く後、この時の会話が気になったアリサ嬢はなのはの鍛錬内容を聞き出したらしい。
『あたし、あの時死ななくて良かったって本気で思いました』
と、青ざめた顔で言っていたのが印象的だった。
閑話休題
「ふむ、先に手を出したのはいただけないが、きちんと加減はしてたようだし……情調酌量の余地はあるか」
呟きながら思う。
これはもしかしてなのはが学校で友人を作るチャンスなんじゃないだろうか。
「そうだなあ……」
勿体つけるように腕を組み、なのは以外の2人を見た。
アリサ嬢はぷいっと横を向いてしまい、すずか嬢はびくりと肩を揺らす。
そんな風に怯えられると、俺もちょい悲しいんだが。
気を取り直し、あまり怯えさせないように目元を緩めた。
「すずか嬢は登下校、どうしてるんだ?」
「えっと……帰りはファリンが迎えに来てくれますけど、行きはまちまちです。
送ってもらう事もあるけど、スクールバスの事もあるし……」
すずか嬢はOKと。
「アリサ嬢は?」
「……基本的には鮫島の送迎よ。時たまバスだけど」
「鮫島?」
「うちの執事」
「そうか」
あちゃー、こっちは一筋縄じゃいかなそうだな。
だがまあ、いいか。
「よし! なのは」
「は、はい!」
いや、そんなに緊張しなくてもいいぞ。
「登下校はなるべくこの2人を誘え」
「はい! ……って、それだけなの?」
「なんだあ? 気に入らないなら朝の鍛──」
「にゃああああああっ、それだけは止めて欲しいのっ」
慌てるなのはにくつくつと笑う。
ふと悪役っぽいなと気付いて笑いを引っ込めた。
「あとは俺の下校時間になるまで待ってるのも厳禁。
まあ、一筋縄でいかなそうな子もいるが……」
ちらりと見ると目を逸らされる。
「その辺りはなのはの努力に期待って事で」
にっと笑って見せると呆気に取られた3対の視線が突き刺さった。
ま、罰と言えないような罰だしな。
でもまあ、
「それと、今晩の勉強の時間に、父さんと俺でみっちり絞る予定だから」
「にゃ!? やっぱりお説教はあるんだ……」
「当然!」
ちらっと、2人の方を見る。
こっちを見ている事を確認してから言葉を続けた。
「ま、誰かさんはやらにゃならん事は分かってるみたいだから。
わざわざ俺に言われるまでもないだろ。
だから、俺が口を出すのはうちの妹だけって寸法だ」
誰かさんが再びふいっと顔を背けてしまうのを視界の隅に収めて少しだけ微笑む。
ん、不器用だけど悪い子じゃなさそうだ。
ちょいちょいと手招きして、なのはを呼び寄せた。
「?」
「あの2人は落としておけ。きっといい友達になるぞ」
「落と!? ……お兄ちゃん!」
ありゃ、言い方が悪かったか?
「月村さんはともかく、バニングスさんも?
面白そうな子だとは思うけど……」
「あー、いじめっ子のイメージが強すぎるか?
ああ言う子はな、身内を凄え大事にするタイプだ。
ま、付き合ってけばわかるさ。強制はしないけど、きっと楽しいぞ」
「うーん、どうするかは分かんないけど、もっと話してみたいなあとは思うよ?」
「それで充分さ」
友達の作り方にまで口を出すつもりはないしな。
……きっかけになればいいなあ、程度には考えてるけど。
くるりとなのはの頭を撫でると、中腰にしていた腰を伸ばす。
ぐっと腰を伸ばした瞬間、こちらを微妙な表情で見ていた2人と目が合った。
にたりと笑うと怯えた目で見られる。
「保護者同士の話し合いは俺がセッティングするから、2人とも迎えが来たら今日は帰りな」
凄い勢いで頷かれてびびった。
そんなにさっきの顔は怖かっただろうか?
っと、そうそう。
宣言と忠告はしておかないとな。
「ああそれと」
俺がわざとらしく言葉を切ると、彼女等は身構える。
「うちのなのはは大分しつこいからな。覚悟しておいた方がいいぞ」
「にゃ!? そんな事ないよ!?」
「ふむ。じゃあ粘り強いって事で」
「あんまり変わんないよおっ」
────────interlude
じゃれあい始めた2人を見ながら、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
と言うより、高町さんって私の中ではなんでもできる凄い人って言うイメージでしかなかったんだけど、あんな顔もするんだ。
お兄さんのアランさんも保健室に入ってきた時はちょっと怖そうな感じだったのに、今は普通にいいお兄さんって感じの顔だし。
そんな事を考えていると、
「ふうん、あの子もあんな顔するのね」
隣に座っていたバニングスさんの呟きが聞こえてしまった。
思わずそっちを見ると、ばっちり目が合って逸らされる。
あう……ちょっとショック。
「……わよ」
「え?」
なんて言ったんだろう?
そっぽ向いてるからよく聞こえないよ……
「だから! その……悪かった、わよ」
そう言ったバニングスさんの耳は凄く真っ赤で、照れてるんだと分かったらなんだかかわいく見えてきた。
「ううん、私こそ。はっきり嫌って言えなくてごめんなさい」
だから私の口からもすんなりと言葉が出てきて、出てきた事にびっくりする。
こんな風にこの子と話せるとは思っても見なかった。
ふと目を向けると、高町さん達がこちらを見て嬉しそうに笑っていて。
それに気付いた瞬間顔が熱くなった気がした。
それでも悪くない気分だったのは、きっと胸の中が温かかったからだろう。
……お姉ちゃん、私、友達出来たかもしれない。
────────interlude out
この日はそのすぐ後に、2人の迎えが来たので解散となった。
俺は翠屋に電話して、父さん達に来なくてもよくなったと伝えると、尾賀ちゃんにもう一度謝罪をしてからなのはを連れて帰宅した。
帰り道、なのはが沈んでいたので、
「すずか嬢を助けようとしたんだろう? よくやった」
とフォローを入れてやった所、少し元気になったので、まあよかったのだろう。
もちろん、その夜は父さんと2人がかりで、暴力を振るってしまった事に関しての説教をちゃんと行ったが。
あの後、あの2人とはよく話すようになったらしい。
アリサ嬢とはしばし意見がぶつかる事もあるようだが、急速に仲良くなっていってるようでなによりだ。
最近は俺と登校する事も減り、バスで待ち合わせなんかもしているらしい。
この前の休日なんか、はやてを交えて遊びに行ったんだとか。
はやてはその足のハンデのせいで、友達を作りにくい環境にいるし、彼女等はそう言う所の気遣いはできそうなので、いい組み合わせなのではないかと思っている。
特に、すずか嬢はよく本を読むそうなので、はやてと気が合いそうだ。
はやてと言えば、治療法が手詰まりになってきた。
あいつの足が動かない原因もはっきりしているし、魔導書のバグの位置や量なんかも概ね把握する事は出来ているのだが、
【……絶対的魔力量が足らないんだよなあ】
【キング、そちらも重要な件ではありますが。
今現実逃避するのはいかがなものかと思います】
【うっせ】
現実逃避でもせんとやってられんのじゃ!
っとと、口調がおかしくなっちまった。
現実逃避もしたくなる。
なにせ今目の前で行われているのは、
「アランー、楽しんでるかー?」
「アラン君、こっちに来なさい」
「あー、これ仕上げたらそっちに行きます」
宴会だからだ。
なお、俺は現在フライパンを振りながら、酒のつまみを作っている所である。
「ったく、各家の話し合いがなんで飲み会になってるんだか」
出来上がったつまみをテーブルに置いた瞬間愚痴が零れ出た。
「仕方ないだろ?
俺達が集まるよりも前に、子供達が仲良くなってしまったんだから。
今更何を話せと言うんだ」
「まあ、そうだけど。って、父さん飲みすぎ! 明日も店開くんだぞ!?」
父さんの抱えていたビール瓶を回収しようとすると、いっそう父さんが俺に絡んでくる。
ちくしょう、この人微妙に絡み酒入ってんぞ!
絡んできた父さんを全力で引き剥がすと、俺は大きく溜息をつく。
そう、本来ならようやく都合のついた各家保護者による話し合いが行われるはずだったのだ、今日は。
しかしながら、3人があの後すぐに仲良くなり、話し合いの必要性がなくなってしまった。
尤も、家ごとに保護者が子供達と話はしたようなので、元々今更な感はあったのだが。
だが、これの為に一生懸命都合を合わせたと言うのに──特に会社が忙しいミスタ・バニングスの予定を空けるのが大変だった──ただの空き時間に早変わりしてしまったのだ。
結局、その空き時間を放置するのも勿体ないので、どうするか相談した俺達は、
『どうします?』
『んじゃ、宴会で』
というノリで、親睦会と言う名の飲み会を開催する運びになってしまったのだ。
しかも飲み会が始まって早々、うちの父さんとミスタ・バニングスが意気投合。
娘自慢大会を始めてしまう始末だ。
「……はあ、俺、何やってんだろ」
【ファイトです、トラブルマスター】
ありが……って、その名前で呼ぶなとあれ程言ったろう!
【無理です。キングはそう言う星の下に生まれてますから】
「ああもう、どちくしょう! やってられっかあっ!!!」
「おおっ、アラン。一発芸でもやってくれるのか?」
いきなり立ち上がった俺に全員が注目する。
俺はやけになって、先程父さんから奪ったビール瓶を再び掴みなおした。
「1番、アラン! 一気飲み、行きます!!」
「いいぞー」
「豪快だなあ、士郎君の所の息子さんは」
これだけ大人がいて誰も止めようともしないってどうよ?
内心で突っ込みを入れながら、ビールを一気にあおる。
やいのやいの囃し立てる大人達に恨みがましい目を向けた。
「……も、やだ……」
結局、深夜まで飲み会は続けられたらしい……
母さん、助けに来てくれて本当にありがとう。
贅沢を言わせてもらえれば、もっと早くに助けて欲しかったぜ。
「ふふふ、アランなら大丈夫よ」
なぜか、微笑む母さんの幻が見えた気がした。