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それが俺の、俺達の、本当の始まりだった。
「っ!!」
「お兄ちゃん!!」
夕食後のお茶を楽しんでいる時、それは起こった。
大きな魔力反応が22。
ただし、魔力が干渉し合っているのか位置が朧だ。
駆け出して玄関から外に出る。
「これは…………魔導師か」
覚えのない魔力。
他の21とは全く違う生命の息吹を感じる。
多分外から来た、この魔力反応を追ってきた魔導師だろう。
現場に行くのが吉と出るか、凶と出るか。
「っ、どうした!?」
「アラン、なのは!?」
「悪い。緊急事態だ。
俺達は反応の元へ行ってくるから家を頼む」
「魔法関連か」
「ああ」
問いに頷くと、父さんの顔が真剣になる。
「気をつけろよ」
「当然! なのはにゃ傷1つ付けさせねえよ」
「はにゃ!?」
「そういう意味じゃないんだけどなあ。アラン自身も怪我しないでね」
美由希が苦笑しているのを見ながら、頷く。
「了解。行ってくる!」
「わわ、ちょっと待ってよお兄ちゃん」
2人で走り出す。
まだデバイスのセットアップはしない。
外部の魔導師がいるなら、見極めるまでは使わない方が良いという判断だ。
場所は公園脇の森。
近づいた時森から飛び出してくる魔力を感じたが、魔導師の方を優先する事にした。
「あれは……」
森の中で見つけたのは黒い塊に退治する、なのは位の年の少年。
見覚えのある民族衣装だ。
管理局の魔導師の可能性がぐっと下がって、とりあえずは安心する。
感じる魔力は馬鹿みたいに多いってわけじゃないな。
見た所後方支援型だが……デバイスは持ってないのか?
首から提げている赤い宝玉はデバイスに見える。
セットアップしない所を見ると、ただのアクセサリーか扱いきれていないかのどちらかだろう。
「早く助けに入らなきゃ」
「ストップ。とりあえずあの坊主にやらせてみるぞ。
それで駄目そうならなのはが行け」
「なんで? 危ないよ」
「魔力反応は21。恐らくあの程度の力量じゃ全部の封印は不可能だ。
生真面目そうな面してるから俺達の協力には反対するだろうし、最初に自分がどの位までしか出来ないのか、その限度を知ってもらった方が協力し易い」
まあもしかすると俺が世話した事のある子かもしれないし、それなら成長度を見てみたいっていう私情も入っているが。
それでも怪我をさせるつもりはないので、一応相棒の準備をしておく。
「むー、そういう事なら」
「ま、いつでも行けるように準備はしておけよ。
俺はなのはが危なくならなきゃ間に入らないからな」
「はにゃ!? なんで?」
「1の実践は100の訓練に勝る。
なのはの初陣だからな。きっちり決めて来い。
リミッターはセカンドまで外していい」
「うん、わかった!」
「ほれ、そろそろ危なそうだ。行ってこい」
言った瞬間バリアジャケットを纏うと、なのはの雰囲気が一変する。
ふだんのぽやんとした印象は鳴りを潜め、そこにいるのは1人の戦士だ。
業は無理でも戦場の心得は御神流で学ばせた。
得物は違えど、今のなのはは御神の戦士である。
「よし!」
気合を入れるとなのはは元気よく飛び出して行く。
坊主に攻撃が入りそうになる直前、桃色の障壁がガードした。
≪protection≫
「え……」
「やるよ、ベオウルフ!」
≪yes, my master. knuckle form≫
突然の乱入に唖然とする坊主とデバイスを軽手甲に変えたなのは。
俺はと言えば、右手にデジタルビデオを装備して録画し始める。
いやな、出掛けに母さんに渡されたんだよ、記録よろしくって。
まったく準備がよろしい事で。
「お兄ちゃん!」
「おーう」
「その子お願い」
「りょーかい」
へたり込んでいる坊主の隣に立ち、無詠唱でバリアを展開する。
坊主は驚きながらもこっちに詰め寄ってきた。
「あ、あの! 貴方達はいったい何者ですかっ!?
っていうか何やってるんですか!?」
「俺達はちょいと特殊な現地住民さ。今は妹の勇姿の撮影中だがね」
画面の向こう側ではなのはが10個ほどスフィアを出すと、相手の動きを制限し始めた。
「おいおい。やり方はいいが、ちょいと過剰戦力じゃないか?」
≪knuckle buster≫
止めはなのはの魔法の中では中級クラスの砲撃。
うわ、弱え……
黒いのが消えた後、そこには菱形の青い宝石が浮いていた。
「うわ、弱すぎるよ、これ」
あ、素に戻ってら。
弱すぎてびっくりしたってか。
「みたいだな。坊主、あの青いのは封印でいいのか?」
「あ、はい。あれはジュエルシードと言って──」
「悪いが詳しい事は後でな。早いとこ、ここを離れてえんだ。
なのは、そいつ封印しちまえ」
俺の言葉になのはは頷くと、シーリングモードへ移行。
「リリカルマジカル、ジュエルシード シリアルⅧ 封印!」
≪sealing≫
封印を終えてバリアジャケットを解除すると、ふにゃりと元の雰囲気になり、俺の所へ戻って来た。
「えへへ、終わったよー」
「おう、ご苦労さん。しかし相変わらずこっ恥ずかしい呪文だな」
「むー、そんな事ないもん」
ご褒美代わりにぐりぐり撫でてやるとへにゃと顔が崩れる。
不機嫌そうな顔を作ろうとしているのだが、上手くいかないらしい。
「あ、あの」
「おお、悪い悪い。とりあえず帰るぞ。ここにいたら人が来るからな」
「え、でも」
「お前も来い。こっちは色々と事情が知りたいし、行く当てもないだろ?」
「あ、はい。分かりました」
なんとなく納得はいってなさそうだが、俺達についてくる。
こいつは押しに弱いと見た。
要求を通すときは有無を言わさずガンガン主張するのが良さそうだ。
「ところでお兄ちゃん、その手に持ってるのは何?」
「ん、ビデオカメラだ。母さんになのはの勇姿を撮ってこいって渡された」
「にゃ、にゃあああああっ!?」
こら、近所迷惑だろうが。
まあ恨むなら抜け目ない母さんを恨むんだな。
帰り道、むくれ気味ななのはの頭を撫でる。
すぐに機嫌を直したなのはを見て、俺はそろそろ本気でなのはの将来が心配になってきた。
「ジュエルシード?」
「はい、ロストロギアの一種で、あ、ロストロギアは分かりますか?」
「大丈夫だ。全員知っている」
今は全員で坊主の説明を聞いている所だ。
ちなみに帰った時ビデオを母さんに渡したらサムズアップされたので、俺もやり返した。
そのせいでなのはの機嫌が微妙だが、まあ些細な事だろう。
「あれは僕が発掘したもので、全部で21個あるんです。
郵送中に次元艦が事故に遭い、この地にばら撒かれてしまったので僕が回収しに来ました」
「今日感じた数と合ってるね」
「だな。ああ、発掘といえば坊主、お前スクライアのもんだろ」
「え、知ってるんですか?」
飛び跳ねるように驚く。
ま、その格好見りゃ分かるさ。スクライアにゃ知り合いも多いし。
……しかし、こいつ本当に男か?
女と間違える位線が細いんだが。
「ま、俺はミッドチルダ出身だからな。
ちょいと訳ありでここで暮らしてるんだ。
で、坊主、名前は?」
「坊主って言われる程年が離れてない気がするんですが……。
ユーノ、ユーノ・スクライアです」
「ユーノ?」
「はい」
ちょっと記憶をさらって、該当あり。
そう言や8年前、遺跡に入る直前はこいつの世話してたな。
「ああ、あいつ等の息子のユー坊かあ。
確かに目元とかがそっくりだ。
しっかし母親に似たなあ、お前」
「って僕の両親を知ってるんですか?」
「そりゃあな。あの頃はスクライアの仕事も引き受けてたし。
アラン・ファルコナー、聞いた事ないか?」
「あ……ロストロギアの暴走事故で亡くなったって言う」
「事故、ねえ。ま、残念ながらこの通り生きてるさ。
今は、アラン・F・高町としてな」
やはり俺は死亡扱いらしい。
まあその方が局のマークが外れて動き易いから問題はない。
「あれ? でもアランさんって当時12歳だったって聞いた覚えが……そうすると今は」
「19歳だ。もうすぐ誕生日で20歳になる。さっきも言ったが訳ありでな」
「えええええっ」
と大声が上がるのは隣から。
音源は……なのは?
「あれ? なんで皆驚かないの?」
「いや、なんでも何も」
「知ったからな」
「じゃなきゃ私はともかく恭ちゃんが呼び捨て許可するはずないじゃん」
「あらあら」
「あれ? なのはに言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
ぷんぷんと音が聞こえそうな感じで怒るなのは。
頭を撫でてやるも、そんなんじゃ誤魔化されないもんと不貞腐れている。
ちょいと苦笑してユー坊を見ると、ユー坊はなのはを見ていた。
「どうした?」
「あ、あの……僕は皆さんをどう呼べばいいのかと」
「あ……」
その言葉でちゃんとした自己紹介をしていない事に気付く。
ちょっと時間をとって自己紹介を一通りする事になった。
なのはがユー坊に名前を呼び捨てる事を強要していたが、些細な事だろう。
「さて、ユー坊。お前これからどうするんだ?」
「えっと、この街に拠点を見つけて、ジュエルシードを回収しようかと」
「1人でか? 管理局に連絡してないんだろう?」
「ええ、もちろん──」
「却下」
「ええっ!?」
目を見て言わんとする事を悟り、言う前に即行切り捨てた。
ビデオ鑑賞会に入ってしまった母さんと美由希をちらりとみてから言葉を続ける。
「今回俺達は敢えてお前が怪我しそうになる直前まで手を出さなかった。何故か分かるか?」
「えっと……」
どうやら分からないらしい。
頭は良さそうに見えるんだが。
「お前さんの力量じゃ1人で全てのジュエルシードを集めるのは不可能。
まずそれを理解させるためだ」
「でも! 僕はあれを見つけてしまった責任があって──」
「別にユー坊に集めるなって言ってるわけじゃないさ。
お前なりに思う所があって、単独でやってきたんだろうからな。
だけどな、あれの回収が遅れれば遅れる程、街に被害が及びやすくなる。違うか?」
「……そう、ですね。
確かに僕だけでは時間がかかりすぎますし、デバイスも起動できない僕の力量じゃ……」
あー、へこませる為に言ったんじゃないんだが。
「だからな、俺達に手伝わせてくれ」
「え……いいんですか?」
「ま、これでも一応民間魔導師登録はしてるからな。
死亡扱いで消されてるだろうけど、見てみぬ振りは据わりが悪い。
付け加えるなら、放っといてお前さんが怪我でもしたら寝覚めも悪いしな。
それに対象がロストロギアだしよ。
下手やって次元震が起きたら管理局が動くだろ。
そん時、一応現地の魔導師である俺が動いてなかったとしたら後々めんどそうだ」
管理局の下りで血相を変えた家族を目で制す。
子供は知らなくていい話題だし、恐らく大丈夫だからだ。
「確かにありがたいですけど、訳ありなんですよね?」
「ま、そう言うのは別に気にしなくていい。
詰まる所、自分が何とかできる力を持ってるのに放っとくって選択肢は、うちの家族にゃねえんだわ」
これは父さんの教えだ。
少しだけ父さんの方を見て片目を瞑って見せると、照れたように顔を逸らされた。
「ユー坊、お前はまだ子供なんだからもう少し周りを頼る事を覚えた方がいい。
1人より2人の方が、2人より3人の方が色んな事が出来るだろ?」
「そう……ですね」
俺の言い分を咀嚼して、ユー坊は納得したように頷いた。
ん、結構柔軟な結論で何より。
「まあ、こっちの申し出も100%善意ってわけじゃねえ。
ついでになのはの実践訓練もしておきたいんだ」
「はにゃ!?」
「なのはの、ですか?」
ぴょこんと蚊帳の外に置かれていたツインテールが跳ねた。
「まあな。もう4年程魔法を教えちゃいるんだが、さっきのが初の実践でな。
後方支援型のユー坊と相性も良さそうだから、結構いいコンビになるだろ」
「わ、私とユーノ君が組むの? お兄ちゃんは?」
「数が多いなら2手に分かれた方が効率はいいだろ。
俺は元々色んな依頼こなしてきたから1人でも平気だし、経験とかを含めた能力を考慮すりゃユー坊とコンビ組むのはお前になるのは自明の理だと思うが」
「にゃはは……そっか、そうだよね」
「え、でもスピードを考えれば3手に分かれた方がいいんじゃ……」
「せめてそのデバイスが使えればもうちょっと考えるんだけどな。
お前さん1人にしといたら、怪我して帰ってきそうだし。
ま、実戦経験の少ない者同士、短期間だけどコンビ組んどけ」
「ふふふ……そうだよね、僕レイジングハートの起動しかできないし。
使えないデバイスなんて持ってたって、役立たずだよね……」
いや、なんでそこで思いっきりネガティヴ入るかなあ。
あのデバイス、かなり持ち主を選ぶらしい。
手持ちのパーツに余裕があるようなら、ユー坊用に1機組んでも良かったのだが、どうにもパーツが足りない。
後方支援専用型は未だ組んだ事がないので、パーツを入手できるようになったら1機組んでやろうと考えた。
まあ、ぬか喜びさせる事にもなりかねないので、口には出さないが。
とりあえず、異様に沈んでいるユー坊のフォローはしておく事にしよう。
「阿呆。役に立つ立たないの問題じゃないだろ。
そいつ、レイジングハートって言ったか?
そいつが使えたとしてもよっぽど余裕がなけりゃ、子供に単独で危険な仕事なんてさせないっての」
「にゃはは、お兄ちゃんらしいね」
「……そう、なんだ」
なのはの言葉で俺がそう言う人物なのだと大体理解したらしい。
上げられた顔は一応さっきよりもましなものになっていた。
「さて、この事件の間、なのははサードまで、場合によってはフォースまで許可する。
ただし、不用意にぶっ飛ばすなよ?」
「うん!」
「アランさん。サードとかフォースって言うのは?」
ああ、そう言やまだ説明してなかったか。
「こいつは魔力量が多すぎてな。
身体が完成するまでは負担がでかすぎるからリミッターかけてるんだ」
「にゃはは、でも外すと身体が軽いから楽だし嬉しいんだよ」
「え……さっきのでリミッター付いてたんですか?」
重々しく頷く。
ほんと馬鹿みたいに魔力があるからな。
あれで素だと思っても仕方ないか。
「ああ、1つに付き該当2ランク前後抑える俺特性リミッターだ。
さっきはセカンドを外したからランクはAA相当だな」
「全部でいくつ付けてるんですか?」
「5つだ。魔的刺激を与えちゃいかん子がいてな。
その子と会う時はフルリミッターになる」
「サードを外してたって事はまだ2つ付いてるから、元は…………S+!?
さっきの話では僕と同い年って」
「そうだよー。小学校3年生。今年9歳になるの」
うわ、引いてる引いてる。どん引きだよ。
まあ最近は成長率も落ち着いてきたし、SS位で止まると思われる。
俺の謎の容量も今はSSまで来てるが、そろそろ残りの伸び代が少なそうだ。
「それはともかく。
あのジュエルシードっての、ロストロギア認定されてるからには何か特性があるんだろ?」
「あ、はい。
でも認定が出たのは、その魔力保有量によるもので、特性については遺跡内の記述しか資料がありません。
しかもそれには願いを叶えるとしか書かれてなかったんです」
「願望器、ねえ」
胡散臭さ爆発だな。
次元艦の事故によってばら撒かれたってのもなんかキナ臭いし。
思ってたより面倒な事になりそうだ。
出来れば局が出張ってくる前になんとかしたいが……多分無理だな。
かつてトラブルマスターと呼ばれた俺の勘が言っている。
これは確実に面倒事だ。
「ま、なんにせよ明日からだな。
今日はもう遅いから2人共風呂に入って寝ろ。
ユー坊の寝床は俺の部屋に用意してやる。
着替えは……とりあえず俺の昔の奴で良いか」
「はーい」
「分かりました。お世話になります」
それで今日の話は打ち切り。
後は大人の時間だ。
ユー坊となのはがリビングを出て行くと、心配そうな顔をした恭也が寄ってくる。
「大丈夫なのか、お前は」
ふと見ると家族全員が俺に注目していた。
相変わらずだな皆は、と苦笑する。
「ま、次元震が起きたとしても来るのは現場レベル。
それならいくらでも誤魔化しがきくし、上手くいきゃ協力してくれる可能性もある」
アラン・ファルコナーと言う名前は局ではそれなりに有名なのだ。
ふらりとやって来ては、ふらりと仕事をして行く変人として。
「それにそろそろ潮時なんじゃないかって思うんだ。
今の俺の容姿は俺が消えた時のものそのもの、見る人が見れば正体はすぐに割れる。
今回の事はいい機会かもしれない。
はやての家を監視してる奴等、最近動きが活発になってきたんだ。
もしかすると、行動に移してくる可能性もある。だからその前に──」
「むしろ管理局が来て欲しいとでも言いたげだな」
「その通りだよ。
ちょっとした賭けにはなるけど、俺に共感してくれるような奴が来てくれれば局へのパイプが作れる。
そうすりゃ俺に下手な手は出せなくなるはずだ」
父さんと恭也は厳しい目に、母さんと美由希は心配そうになるが、それらの視線を受けて俺は不敵に見えるよう口角を吊り上げる。
「俺を誰だと思っている? アラン・F・高町、高町家の次男坊だぜ。
この程度、鼻歌交じりで乗り越えてやるよ」
キャラじゃないけどな、と付け足しながら片目を瞑ってみせた。
言いながらもじわりじわりとせり上がって来るものがある。
確かに感じられる戦いの予兆に身体が疼いた。
このバトルマニア気質って不破の血の影響じゃないだろうな。
祖母さんの血は特にその気質が強そうな気がするぞ。
そんな事を考えていると父さんが大きく溜息をついた。
「ふう、子供達に頼るしかないこの身が不甲斐ないな」
「どうして私達に魔力がないのかしら」
「まったくだ。そうすればアランと肩を並べて戦えるのにな」
「あはは。私は多分自分のみで精一杯かなー。ごめんねアラン」
「大丈夫、こっちの事は任しとけって。
年少組みも危なくなりすぎないようにきちんと見とくからさ」
≪私もおりますし。キングのフォローはばっちりです≫
家族も、俺の半身も言葉で背中を押してくれる。
それが、途方もない力となって俺の手に宿ってくれる気がする。
だから俺は、もう1度心からの笑みを、家族に向けた。
護りたい目の前の光景を焼きつけ、目を瞑る。
────誓いはここに。俺は再び剣を執る。
そう心の中で呟いて、暖かいリビングを後にした。
「まるで恋だな」
未だ鎮まらない自身の衝動に驚きながら呟く。
これで明日からの探索で肩透かしを食らったら、欲求不満で爆発しそうだ。
「笑えねえ」
そう言いながらも口角は上がり、歪んだ笑みを作る。
初めてここに来た晩と同じように月を見上げる。
今宵の月も美しいが、何故だかあの時より紅いような気がした。