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「……ここは?」
意識が覚醒して最初に目に入ったのは無機質な天井。
上半身を起こすと、機会に囲まれたベッドに寝かされていた事が分かる。
「アースラの、医務室、か?」
ベッドから降りる。
治癒魔法をかけられたのか表面上身体は無傷だ。
だが、妙に重いし軋む。
そうか、俺はあの雷の直撃を受けて……
「!?」
状況をようやく把握し走り始める。
無理矢理動かした事で抗議の声を上げる身体を無視して、医務室を飛び出した。
「ベオウルフ! 状況は?」
≪ロストロギア九個は次元跳躍魔法により、敵黒幕の所へ。
その後気を失った主と、敵対者二名をクロノ殿がアースラへ連れ帰りました≫
なんてこった!
クライマックスにおねんねかよ!?
「俺が気絶してた時間はどれくらいだ?」
≪医務室に運び込まれてから五分程です≫
「くそっ」
悪態をつきながらともかくブリッジを目指す。
ようやく見えた扉を慌しく開いて、艦橋に駆け込んだ。
『――役立たずでちっとも使えない、私のお人形』
「あ゛?」
耳に入るのは捕縛対象の耳障りな言葉。
思わずどすの聞いた声で聞き返してしまっても仕方がないことだと思う。
ブリッジの大モニターに、大魔導師プレシア・テスタロッサと、先程まで敵対していたフェイト・テスタロッサを更に幼くしたような少女が入ったポッドが映り込んでいる。
唖然とそれを見ていると、エイミィが語り始めた。
「……ジンゴ君の情報通り、最初の事故の時彼女は実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしていたの。
彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる……使い魔を超える人造生命の生成。そして死者蘇生の秘術。
フェイトって名前は、当時彼女の研究に付けられた開発コードなの」
「プロジェクトFATE。まさかあんな下らない研究が完成してたってのか……」
「ジンゴ!?」
「ジンゴ君、目が覚めたの!?」
右手を挙げて無事だと合図すると、モニターの先を睨みつける。
『あら、少しは博識な子もいるみたいね。
そうよ、その通り。だけど駄目ね、ちっとも上手くいかなかった。
作り物の命は所詮作り物。失ったものの代わりにはならないの』
当たり前だと思う反面、頭が急激に冷やされていく。
だと言うのに感情は爆発しそうに高まり、自然、拳を握る。
体中を巡る血液が凍りつきそうだ。
ああ、そうか。
これが怒りと言う感情か。
今まで決して越える事のなかった沸点を軽く越えて、更にその上へと熱を上げていく。
『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。
アリシアは我侭も言ったけど、私の言う事をとてもよく聞いてくれた』
「やめて……」
なのは、いたのか。
俺が気付かなかっただけで、艦橋には全員が揃っていた。
クロはエイミィと一緒に一階部分にいるようだが、関係者がここに集結している。
『アリシアはいつでも私に優しかった。
……フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽者よ。
せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった』
当たり前だ、阿呆が。
口に出さずに毒づく。
同じ記憶を持った所で、その礎となる魂が異なれば別人が出来上がるのは必然。
アリシア・テスタロッサを蘇らせたいのならば、まずその子の魂を特定して連れてこなければならない。
そして、そんな事は人間には不可能だ。
なのはは必死にプレシアの暴露を止めようとしているが、それが叶うとはとても思えない。
あれは――――狂気に犯された目だ。
『アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。
だからあなたはもういらないわ。
…………どこへなりとも消えなさい!!』
「お願い、もうやめてえっ」
映像の中のプレシアが意思表示をするかのように左腕を大きく振る。
耳障りなプレシアの嘲笑となのはの悲痛な声。
二つの異なる感情を受け止めながら、俺は爪が手の平を傷付けるのを気にせず思いきり拳を握り締める。
「いらない、だと……」
母としての狂ってしまう程の思い、それは理解は出来ないがわからないでもない。
だけど、その言葉だけは許せるものじゃない。
俺にとってのタブーだ、それは。
生まれた魂を、自分が生ませた魂を、まるで玩具を扱うかのようにほざくプレシアが……
「てめえは……てめえは自分が生み出した魂をなんだと思ってやがる!!」
『いい事を教えてあげるわ、フェイト』
「ちっ、聞いてやがらねえか」
舌打ちをしながらロブトールを再度セットアップ。
怒りを抑え込み、執務官としての自分を起動させる。
『あなたを創り出してからずっと、私はあなたが──』
リン姉の傍に控え、モニターを見る。
俺自身が怒りに飲み込まれそうになるのを、執務官としての俺という擬態で無理矢理防いだ。
『──大嫌いだったのよ!!』
「!?」
フェイトの手からバルディッシュが零れ落ち、すぐに身体が崩れ落ちた。
彼女の周りにはなのは達がいるから大丈夫と自分をなんとか納得させ、この場の最高責任者へと向き直る。
「……艦長、命令を」
「ジンゴ君……」
「命令を、ください」
驚きに満ちた目でリン姉が俺を見ると同時、庭園からの武装局員の回収が終了したとの報告と、エイミィの慌てた声が飛び込んでくる。
その後にいつもは冷静なはずのオペレーター達の焦った声も続く。
「庭園敷地内に魔力反応。いずれもAクラス!」
「総数六〇……八〇……まだ増えています!」
ギリ、と音が聞こえ、発信源ではリン姉がその歯を食いしばっていた。
俺はと言えば、すでに左上の奥歯が砕けて溢れた口内の血を何度も飲み下していて。
「プレシア・テスタロッサ……いったい何をするつもり!?」
その言葉にプレシアは答える事なく、ポッドを浮かばせると移動を始める。
『私達の旅路を邪魔されたくないのよ。
私達は旅立つの。忘れられた都アルハザードへ!』
!? まさか……
光るジュエルシードが一瞬だけモニターに映る。
「発動した、だと!?」
「次元震です。中規模以上!」
最初の報告から一気に艦内が慌しくなる。
リン姉の指示で転送可能距離を保ったまま、アースラは影響の薄い所へと移動を始めた。
命令を待ちながらふと下を見ると、クロがブリッジを飛び出していくのが見える。
今声をかけるのは憚られるが……
どの道現地に赴く事は決定事項だから変わらないかと嘆息して声をかける。
「リンディ・ハラオウン提督」
「何?」
「クロノ・ハラオウン執務官がゲートから現地に向かうようです。
作戦目標は後ほど提督から伝えていただければ充分ですので、自分の同行許可を」
「許可します! なのはさん達はフェイトさんを医務室へ!」
「「「「了解」」」」
間髪入れずに許可を出したリン姉に感謝しながらゲートに向かう。
途中、ゲートに向かうクロと合流した。
「ハラオウン執務官、艦長から許可は貰った。指示は、追って」
「そうか、ありがとうジンゴ」
「いや、自分の仕事をしたまでだ」
軽く右拳を互いに合わせた所で、
「クロノ君、ジンゴ君、あそこに行くんだよね? 私も行く!」
「ボクも!」
二人が声を上げる。
俺とクロは顔を見合わせて、それからすぐに頷いた。
「わかった」
「アルフはフェイトについててあげて」
「ああ……」
ユーノの言葉に頷いた忠狼に声をかけ、呼び止める。
「彼女は今は聞ける状況か分からないので、君から伝えておいてくれないか?」
「分かった。なんて伝えればいいんだい?」
「『己の魂を輝かせられるのは己だけ。君の魂はフェイト・テスタロッサの物だ。君はそこで、世界に唯一のものを腐らせてしまうつもりか?』と」
俺のこれはただの自己満足だ。
分かってはいるのだが、それでも伝えずにはいられなかった。
「それと、『待っている』と。それだけだ」
「……ああ、伝えとくよ」
頷くのを確認してからすぐに目を切り、クロの方を向く。
クロは俺の視線を受けて、リーダーらしく掛け声を出した。
「行くぞ!」
「「うん!」」「ああ」
『クロノ、ジンゴ君、なのはさん、ユーノ君、私も現地に出ます。
あなた達はプレシア・テスタロッサの逮捕を』
「「「「了解」」」」
庭園に跳んだ瞬間、エイミィから情報が入る。
端末を弄って確認すると、
「ハラオウン執務官」
「ああ、途中で二手に別れる必要があるな」
門の前、大量に待ち構える傀儡兵に気おされている二人をよそに、頷き合う。
次元震を止めるには駆動炉に使われてるロストロギアの封印が必要不可欠、か。
やっかいな事をしてくれると心の中で吐き捨てて、門の奥を睨みつける。
「いっぱいいるね……」
「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」
ユーノの率直な感想をばっさりと切り捨てるクロ。
次いでなのはが口を開く。
「クロノ君、この子達って?」
「近くの相手を攻撃するだけのただの機械だよ」
「そっか、なら安心だ」
レイジングハートを構えるなのはを見ながら嘆息する。
まあ彼女はついこの間まで一般人だったのだ。
魔力の温存とか、戦闘のペース配分なんて所まで頭が回らなくても仕方がない。
俺がなのはを止めようとする前に、クロが右手で彼女を制した。
「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ。そうだろ、ジンゴ?」
「無論。出ませい、白銀」
突き出した右手には、見た目平々凡々な日本刀が現れる。
「はあっ」
≪stinger snipe≫
クロの魔法が発射されると同時に安全なルートを算出して飛び出す。
「出番だ、起きろ白銀」
≪はっ、呼ぶのが遅えよっ≫
「少し、黙れ」
≪なんでえ、今日はそっちのジンか。つまんねえな≫
口の悪い相棒に少々辟易しながら、クロの魔法が討ち損ねた傀儡兵を切り捨てる。
「スナイプ・ショット!」
トリガーワードと共に加速した魔法を目で追いながら、それだけでは倒せそうにない大型に目をつける。
「恨むのなら、我々の前に立ちはだかった自らを恨むといい。
尤も、貴様等機械如きに思考があるのかは知らぬがな」
≪おらおらおらぁっ、行くぜ────双牙!!≫
瞬間的に二度腕を振るい、後退。
十字に切り刻まれ、爆砕した傀儡兵だった物を尻目に納刀する。
「……すご」
「呆っとしてないで、行くよ!」
「「うん!」」「了解」
廊下を駆け抜けながら、徐々に身体の反応が鈍くなっていく事に気付く。
どうやら海上の戦闘時、雷の直撃を受けたのがここで響いてきているらしい。
「ベオウルフ」
≪はっ≫
「身体強化と感覚強化を」
≪御意≫
返答は短く、一気に体が軽くなる。
魔力を消費してしまうのは痛いが、これで三人に置いていかれる事もないだろう。
所々虚数空間に侵食されている床や壁を避けながら、ただただ走り続ける。
「その穴……黒い空間がある所は気をつけて!」
「え?」
「虚数空間。
あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ。飛行魔法もデリートされる。
もしも落ちたら、重力の底まで落下する! 二度と上がってこれないよ!!」
「き、気をつける!」
なのはの返事と共に、クロが目の前の扉を蹴り飛ばした。
おおう、豪快極まりねえな。
クロの奴、思ったよりも焦ってやがる。
開かれた扉の向こうには上下に分かれた階段、そして馬鹿みたいな数の傀儡兵。
「……面倒な」
「ここから二手に別れるよ!」
確かエイミィの話では駆動炉は上。
俺達の目指すプレシアのいる所は最下層。
「本当なら執務官が二手に別れて君達に一人ずつつくのが定石なんだけど、それだと君達がこの事件の間培ってきたコンビネーションを殺してしまう事になる」
確かに、なのはとユーノはこれで相性がいい。
防御・補助などの後方支援に特化したユーノなら、なのはが魔力をチャージするまでの時間稼ぎも可能でフォローもしやすい。
とすると、二人を離すのは愚策、か。
「だが、僕とジンゴ、なのはとユーノだと戦力バランスが悪い。
そこでジンゴになのは達の方に行ってもらおうと思う」
「待ってくれ」
「ジンゴ?」
時間が惜しいとその目が語っているが、これは譲れない。
「なのは達が最上階の駆動炉を封印、ハラオウン執務官が最下層のプレシアを逮捕と言う振り分けだな?」
「ああ、そうだが」
「恐らくプレシアに続く道の方が邪魔者は多いはず。だから俺も最下層へ向かう」
「しかし、それでは戦力比が……それに、君の任務はなのはの護衛だろう?」
「ああ、だが今は作戦をより早く遂行する事こそが彼女の安全に繋がる。
とは言えユーノは補助魔導師。
なのはの魔力を完全に温存しながらスピードを出すのは難しい。
それに、二人だけを回すのは局員として問題行為だ」
「そこまでわかってるなら!」
「だから──」
≪ひゃっはー! この姿になんの久々だなあ、おい≫
「白銀を、彼女達につける」
俺の手の中にあった刀は、今は銀色の大狼として嬉々とした表情を面々に向けている。
俺の言葉を聞いて白銀はなのはとユーノに鼻を近づけると、獰猛に笑った。
≪俺は構わねえぜ、ジン。こいつら結構いい匂いがするからよぉ≫
「口は悪いが白銀のスピードと攻撃力は一級品だ。
双方の任務を安全かつ迅速に遂行する為のキーマンになりえる」
「……わかった」
日本刀が狼に変わった事に目を白黒させているなのは達をスルーする。
今は説明している暇がないので勘弁して欲しい。
クロに至っては後できちんと説明してもらうぞとその目が言っていた。
……こうなるんならあらかじめ見せときゃよかったかなあ。
後悔と言うほどではないが、少しだけ振り返って反省。
「君達は魔力を温存していろ」
「今、道を作る」
クロと共にロブトールを構える。
トールだけで遠距離攻撃をするのは苦手なのだが、この程度の相手なら大した問題でもない。
「そしたら!」
「うん!」
白銀がユーノを背に乗せ、なのはが飛行魔法を発動する。
それを見計らって右拳に魔力を溜めた。
≪braze caon≫
≪knuckle buster≫
二種類の寒色系魔力が、目前の敵を薙ぎ払う。
同時になのは達が飛び出した。
「クロノ君、ジンゴ君、気をつけてね!」
俺達は彼女に、自信を持って笑いかける事で答える。
彼女達が階段上に消えた事を確認してから俺達は駆け出して行った。
意識が覚醒して最初に目に入ったのは無機質な天井。
上半身を起こすと、機会に囲まれたベッドに寝かされていた事が分かる。
「アースラの、医務室、か?」
ベッドから降りる。
治癒魔法をかけられたのか表面上身体は無傷だ。
だが、妙に重いし軋む。
そうか、俺はあの雷の直撃を受けて……
「!?」
状況をようやく把握し走り始める。
無理矢理動かした事で抗議の声を上げる身体を無視して、医務室を飛び出した。
「ベオウルフ! 状況は?」
≪ロストロギア九個は次元跳躍魔法により、敵黒幕の所へ。
その後気を失った主と、敵対者二名をクロノ殿がアースラへ連れ帰りました≫
なんてこった!
クライマックスにおねんねかよ!?
「俺が気絶してた時間はどれくらいだ?」
≪医務室に運び込まれてから五分程です≫
「くそっ」
悪態をつきながらともかくブリッジを目指す。
ようやく見えた扉を慌しく開いて、艦橋に駆け込んだ。
『――役立たずでちっとも使えない、私のお人形』
「あ゛?」
耳に入るのは捕縛対象の耳障りな言葉。
思わずどすの聞いた声で聞き返してしまっても仕方がないことだと思う。
ブリッジの大モニターに、大魔導師プレシア・テスタロッサと、先程まで敵対していたフェイト・テスタロッサを更に幼くしたような少女が入ったポッドが映り込んでいる。
唖然とそれを見ていると、エイミィが語り始めた。
「……ジンゴ君の情報通り、最初の事故の時彼女は実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしていたの。
彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる……使い魔を超える人造生命の生成。そして死者蘇生の秘術。
フェイトって名前は、当時彼女の研究に付けられた開発コードなの」
「プロジェクトFATE。まさかあんな下らない研究が完成してたってのか……」
「ジンゴ!?」
「ジンゴ君、目が覚めたの!?」
右手を挙げて無事だと合図すると、モニターの先を睨みつける。
『あら、少しは博識な子もいるみたいね。
そうよ、その通り。だけど駄目ね、ちっとも上手くいかなかった。
作り物の命は所詮作り物。失ったものの代わりにはならないの』
当たり前だと思う反面、頭が急激に冷やされていく。
だと言うのに感情は爆発しそうに高まり、自然、拳を握る。
体中を巡る血液が凍りつきそうだ。
ああ、そうか。
これが怒りと言う感情か。
今まで決して越える事のなかった沸点を軽く越えて、更にその上へと熱を上げていく。
『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。
アリシアは我侭も言ったけど、私の言う事をとてもよく聞いてくれた』
「やめて……」
なのは、いたのか。
俺が気付かなかっただけで、艦橋には全員が揃っていた。
クロはエイミィと一緒に一階部分にいるようだが、関係者がここに集結している。
『アリシアはいつでも私に優しかった。
……フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽者よ。
せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった』
当たり前だ、阿呆が。
口に出さずに毒づく。
同じ記憶を持った所で、その礎となる魂が異なれば別人が出来上がるのは必然。
アリシア・テスタロッサを蘇らせたいのならば、まずその子の魂を特定して連れてこなければならない。
そして、そんな事は人間には不可能だ。
なのはは必死にプレシアの暴露を止めようとしているが、それが叶うとはとても思えない。
あれは――――狂気に犯された目だ。
『アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。
だからあなたはもういらないわ。
…………どこへなりとも消えなさい!!』
「お願い、もうやめてえっ」
映像の中のプレシアが意思表示をするかのように左腕を大きく振る。
耳障りなプレシアの嘲笑となのはの悲痛な声。
二つの異なる感情を受け止めながら、俺は爪が手の平を傷付けるのを気にせず思いきり拳を握り締める。
「いらない、だと……」
母としての狂ってしまう程の思い、それは理解は出来ないがわからないでもない。
だけど、その言葉だけは許せるものじゃない。
俺にとってのタブーだ、それは。
生まれた魂を、自分が生ませた魂を、まるで玩具を扱うかのようにほざくプレシアが……
「てめえは……てめえは自分が生み出した魂をなんだと思ってやがる!!」
『いい事を教えてあげるわ、フェイト』
「ちっ、聞いてやがらねえか」
舌打ちをしながらロブトールを再度セットアップ。
怒りを抑え込み、執務官としての自分を起動させる。
『あなたを創り出してからずっと、私はあなたが──』
リン姉の傍に控え、モニターを見る。
俺自身が怒りに飲み込まれそうになるのを、執務官としての俺という擬態で無理矢理防いだ。
『──大嫌いだったのよ!!』
「!?」
フェイトの手からバルディッシュが零れ落ち、すぐに身体が崩れ落ちた。
彼女の周りにはなのは達がいるから大丈夫と自分をなんとか納得させ、この場の最高責任者へと向き直る。
「……艦長、命令を」
「ジンゴ君……」
「命令を、ください」
驚きに満ちた目でリン姉が俺を見ると同時、庭園からの武装局員の回収が終了したとの報告と、エイミィの慌てた声が飛び込んでくる。
その後にいつもは冷静なはずのオペレーター達の焦った声も続く。
「庭園敷地内に魔力反応。いずれもAクラス!」
「総数六〇……八〇……まだ増えています!」
ギリ、と音が聞こえ、発信源ではリン姉がその歯を食いしばっていた。
俺はと言えば、すでに左上の奥歯が砕けて溢れた口内の血を何度も飲み下していて。
「プレシア・テスタロッサ……いったい何をするつもり!?」
その言葉にプレシアは答える事なく、ポッドを浮かばせると移動を始める。
『私達の旅路を邪魔されたくないのよ。
私達は旅立つの。忘れられた都アルハザードへ!』
!? まさか……
光るジュエルシードが一瞬だけモニターに映る。
「発動した、だと!?」
「次元震です。中規模以上!」
最初の報告から一気に艦内が慌しくなる。
リン姉の指示で転送可能距離を保ったまま、アースラは影響の薄い所へと移動を始めた。
命令を待ちながらふと下を見ると、クロがブリッジを飛び出していくのが見える。
今声をかけるのは憚られるが……
どの道現地に赴く事は決定事項だから変わらないかと嘆息して声をかける。
「リンディ・ハラオウン提督」
「何?」
「クロノ・ハラオウン執務官がゲートから現地に向かうようです。
作戦目標は後ほど提督から伝えていただければ充分ですので、自分の同行許可を」
「許可します! なのはさん達はフェイトさんを医務室へ!」
「「「「了解」」」」
間髪入れずに許可を出したリン姉に感謝しながらゲートに向かう。
途中、ゲートに向かうクロと合流した。
「ハラオウン執務官、艦長から許可は貰った。指示は、追って」
「そうか、ありがとうジンゴ」
「いや、自分の仕事をしたまでだ」
軽く右拳を互いに合わせた所で、
「クロノ君、ジンゴ君、あそこに行くんだよね? 私も行く!」
「ボクも!」
二人が声を上げる。
俺とクロは顔を見合わせて、それからすぐに頷いた。
「わかった」
「アルフはフェイトについててあげて」
「ああ……」
ユーノの言葉に頷いた忠狼に声をかけ、呼び止める。
「彼女は今は聞ける状況か分からないので、君から伝えておいてくれないか?」
「分かった。なんて伝えればいいんだい?」
「『己の魂を輝かせられるのは己だけ。君の魂はフェイト・テスタロッサの物だ。君はそこで、世界に唯一のものを腐らせてしまうつもりか?』と」
俺のこれはただの自己満足だ。
分かってはいるのだが、それでも伝えずにはいられなかった。
「それと、『待っている』と。それだけだ」
「……ああ、伝えとくよ」
頷くのを確認してからすぐに目を切り、クロの方を向く。
クロは俺の視線を受けて、リーダーらしく掛け声を出した。
「行くぞ!」
「「うん!」」「ああ」
『クロノ、ジンゴ君、なのはさん、ユーノ君、私も現地に出ます。
あなた達はプレシア・テスタロッサの逮捕を』
「「「「了解」」」」
庭園に跳んだ瞬間、エイミィから情報が入る。
端末を弄って確認すると、
「ハラオウン執務官」
「ああ、途中で二手に別れる必要があるな」
門の前、大量に待ち構える傀儡兵に気おされている二人をよそに、頷き合う。
次元震を止めるには駆動炉に使われてるロストロギアの封印が必要不可欠、か。
やっかいな事をしてくれると心の中で吐き捨てて、門の奥を睨みつける。
「いっぱいいるね……」
「まだ入り口だ。中にはもっといるよ」
ユーノの率直な感想をばっさりと切り捨てるクロ。
次いでなのはが口を開く。
「クロノ君、この子達って?」
「近くの相手を攻撃するだけのただの機械だよ」
「そっか、なら安心だ」
レイジングハートを構えるなのはを見ながら嘆息する。
まあ彼女はついこの間まで一般人だったのだ。
魔力の温存とか、戦闘のペース配分なんて所まで頭が回らなくても仕方がない。
俺がなのはを止めようとする前に、クロが右手で彼女を制した。
「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ。そうだろ、ジンゴ?」
「無論。出ませい、白銀」
突き出した右手には、見た目平々凡々な日本刀が現れる。
「はあっ」
≪stinger snipe≫
クロの魔法が発射されると同時に安全なルートを算出して飛び出す。
「出番だ、起きろ白銀」
≪はっ、呼ぶのが遅えよっ≫
「少し、黙れ」
≪なんでえ、今日はそっちのジンか。つまんねえな≫
口の悪い相棒に少々辟易しながら、クロの魔法が討ち損ねた傀儡兵を切り捨てる。
「スナイプ・ショット!」
トリガーワードと共に加速した魔法を目で追いながら、それだけでは倒せそうにない大型に目をつける。
「恨むのなら、我々の前に立ちはだかった自らを恨むといい。
尤も、貴様等機械如きに思考があるのかは知らぬがな」
≪おらおらおらぁっ、行くぜ────双牙!!≫
瞬間的に二度腕を振るい、後退。
十字に切り刻まれ、爆砕した傀儡兵だった物を尻目に納刀する。
「……すご」
「呆っとしてないで、行くよ!」
「「うん!」」「了解」
廊下を駆け抜けながら、徐々に身体の反応が鈍くなっていく事に気付く。
どうやら海上の戦闘時、雷の直撃を受けたのがここで響いてきているらしい。
「ベオウルフ」
≪はっ≫
「身体強化と感覚強化を」
≪御意≫
返答は短く、一気に体が軽くなる。
魔力を消費してしまうのは痛いが、これで三人に置いていかれる事もないだろう。
所々虚数空間に侵食されている床や壁を避けながら、ただただ走り続ける。
「その穴……黒い空間がある所は気をつけて!」
「え?」
「虚数空間。
あらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ。飛行魔法もデリートされる。
もしも落ちたら、重力の底まで落下する! 二度と上がってこれないよ!!」
「き、気をつける!」
なのはの返事と共に、クロが目の前の扉を蹴り飛ばした。
おおう、豪快極まりねえな。
クロの奴、思ったよりも焦ってやがる。
開かれた扉の向こうには上下に分かれた階段、そして馬鹿みたいな数の傀儡兵。
「……面倒な」
「ここから二手に別れるよ!」
確かエイミィの話では駆動炉は上。
俺達の目指すプレシアのいる所は最下層。
「本当なら執務官が二手に別れて君達に一人ずつつくのが定石なんだけど、それだと君達がこの事件の間培ってきたコンビネーションを殺してしまう事になる」
確かに、なのはとユーノはこれで相性がいい。
防御・補助などの後方支援に特化したユーノなら、なのはが魔力をチャージするまでの時間稼ぎも可能でフォローもしやすい。
とすると、二人を離すのは愚策、か。
「だが、僕とジンゴ、なのはとユーノだと戦力バランスが悪い。
そこでジンゴになのは達の方に行ってもらおうと思う」
「待ってくれ」
「ジンゴ?」
時間が惜しいとその目が語っているが、これは譲れない。
「なのは達が最上階の駆動炉を封印、ハラオウン執務官が最下層のプレシアを逮捕と言う振り分けだな?」
「ああ、そうだが」
「恐らくプレシアに続く道の方が邪魔者は多いはず。だから俺も最下層へ向かう」
「しかし、それでは戦力比が……それに、君の任務はなのはの護衛だろう?」
「ああ、だが今は作戦をより早く遂行する事こそが彼女の安全に繋がる。
とは言えユーノは補助魔導師。
なのはの魔力を完全に温存しながらスピードを出すのは難しい。
それに、二人だけを回すのは局員として問題行為だ」
「そこまでわかってるなら!」
「だから──」
≪ひゃっはー! この姿になんの久々だなあ、おい≫
「白銀を、彼女達につける」
俺の手の中にあった刀は、今は銀色の大狼として嬉々とした表情を面々に向けている。
俺の言葉を聞いて白銀はなのはとユーノに鼻を近づけると、獰猛に笑った。
≪俺は構わねえぜ、ジン。こいつら結構いい匂いがするからよぉ≫
「口は悪いが白銀のスピードと攻撃力は一級品だ。
双方の任務を安全かつ迅速に遂行する為のキーマンになりえる」
「……わかった」
日本刀が狼に変わった事に目を白黒させているなのは達をスルーする。
今は説明している暇がないので勘弁して欲しい。
クロに至っては後できちんと説明してもらうぞとその目が言っていた。
……こうなるんならあらかじめ見せときゃよかったかなあ。
後悔と言うほどではないが、少しだけ振り返って反省。
「君達は魔力を温存していろ」
「今、道を作る」
クロと共にロブトールを構える。
トールだけで遠距離攻撃をするのは苦手なのだが、この程度の相手なら大した問題でもない。
「そしたら!」
「うん!」
白銀がユーノを背に乗せ、なのはが飛行魔法を発動する。
それを見計らって右拳に魔力を溜めた。
≪braze caon≫
≪knuckle buster≫
二種類の寒色系魔力が、目前の敵を薙ぎ払う。
同時になのは達が飛び出した。
「クロノ君、ジンゴ君、気をつけてね!」
俺達は彼女に、自信を持って笑いかける事で答える。
彼女達が階段上に消えた事を確認してから俺達は駆け出して行った。
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