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右手を肩の上、高い位置へと掲げる。
数秒戸惑った表情を見せると、対面に立つ彼は同じように手を挙げた。
打ち合わせ、パチンと小気味いい音のハイタッチ。
ぐっと拳を握って見せると、同じように拳を握り打ち合わせ、彼は男臭い笑みを浮かべた。
「お疲れ、クロ」
「ジンゴもな」
裁判の結果は一年間の保護観察。
思ったより長くなってしまったが、これでも一応短縮はできた。
それに、フェイトが嘱託魔導師である限り行動制限はつかない。
「クロノ、ジンゴ、ありがとう」
ぱたぱたと走り寄ってきたフェイトに笑顔を向ける。
あ、そう言えば。
「保護観察の責任者、誰になった?」
「ああ、ジンゴも聞いた事はあるだろう。
本局のギル・グレアム提督。僕の教官をしてくれていた人だ」
「へえ、あの温厚そうなじいさんか。
うるさく口出すタイプじゃないらしいし良かったな、フェイト」
「うん」
嬉しげそう頬を染めるフェイトを促がし一緒にアースラへと急ぐ。
地球にいるなのはへ結果報告をする約束なのだ。
時間は夜の七時半。
この時間なら彼女は家にいるはずだ。
「どう話そうかな……」
「無罪になったよ、でいいんじゃねえか?」
戻ってきたブリッジではすでにエイミィが通信の準備を始めていた。
が、
「あ、あれ?」
戸惑うような彼女の声に嫌な予感を覚える。
クロも同様だったのか、エイミィが取り掛かっていたコンソール前に駆け寄った。
「どうした、エイミィ?」
「なのはちゃんに通信が繋がらないの。おっかしいな……」
嫌な予感がどんどん膨れ上がる。
クロと同じく俺も駆け寄り、
「エイミィ、本局運用部レティ・ロウラン提督へ繋げ!」
「え!? ……うん、わかった!」
一瞬呆けた彼女は、表情を切り替えると端末を叩き始める。
あっという間に繋げられた画像に、いつもと変わらぬ柔和な表情を湛えた薄紫の髪の女性が移った。
「こちら巡航八番艦アースラ乗船中、ジンゴ・M・クローベル執務官」
『あら、ジンゴ君。今日はどうしたの?』
「仕事の話だ。急いで第九七管理外世界の、今から言う座標についてそっちから解析してもらえないか?」
『……本当に急ぎみたいね。いいわ、早く座標を!』
「エイミィ」
「う、うん。えっとロウラン提督、座標は……」
エイミィ達の邪魔をしないように一歩引いてから頭をかきむしる。
心配そうに俺の顔を覗き込むクロに言葉を返す余裕もない。
まずい……まずすぎる! すっげえ嫌な予感がする!!
『ジンゴ君!』
「レイ姉、結果は!?」
『先程送られた座標での大規模結界の展開を確認。今術式を送るわね。
ただし、術式はミッドチルダ式ではないわ。多分――』
「すまん、レイ姉。行って来る!」
「ちょっ、ジンゴ君!?」
「ジンゴ!」
急く身体を引き止められ、思わずクロを睨みつけてしまう。
違う、今はこんな事をしてる場合じゃない。
落ち着けと自分に言い聞かせながら、彼の言葉を待った。
「何があったって言うんだ?」
「クロ、あれだ。例の魔導師襲撃事件」
「なんだって!?」
「あれの条件にぴったり当てはまるような事件はそれしかない!
フェイトとアルフ、ユーノを借りるぞ。
フェイト、裁判が終わったばかりで悪いが初仕事だ!」
「うん!」
彼女達を引き連れてゲートに移動しようとした所に、エイミィの焦った声が飛ぶ。
「でもどうやって結界を抜けばいいの? こっちにとっちゃ未知の術式なんだよ!?」
「っ……そうだな、ベオをここに残す。
そいつは古代ベルカ式だ。ベオの扱う術式と同じ。抜けるな、ベオウルフ?」
≪無論です。五分で抜いてみせましょう≫
「遅い! 三分だ!!」
≪御意!≫
力強く帰ってきた言葉に、今度こそゲートを目指す。
フェイト達は息も切らさずに俺の後をついて来ている。
「ジンゴ……」
「あ?」
気ばかりが焦って仕方がない。
走っている最中にフェイトに声をかけられ、つい苛ついた声を返してしまった。
「何が起こってるの?」
そうだった、クロはともかく皆は前情報を持ってない。
あれだけのやり取りで走り始めたんじゃ、状況なんか分かるはずがない。
けど……詳しく説明してる時間はねえな。
内心舌打ちをしながら少しだけ冷静になり、一番伝わり易い言葉を選択する。
「時間がねえからまるっとまとめて簡潔に言うとだな」
「うん」
「なのはのピンチだ!」
「!? わかった!」
フェイトが走りながらバルディッシュをセットアップする。
それを見て俺もロブトールをセットアップした。
そんな基礎的な事を忘れてしまう程、俺は焦っていたらしい。
ゲートが……見えた!
「エイミィ!」
『転送分の確保は完了。ただ通信はまだ通せてない。バックアップはないものと思って!』
「上等!」
全員が転送陣に乗ったと同時、光が溢れ始める。
なのは……無事でいろよ。
はやる心を抑えながら、目の前の光が消えるのをもどかしく思いながら待った。
「くそっ、現場とずれたか!?」
遠くでぶつかり合う魔力光が見える。
結界が広すぎてピンポイントの転送は出来なかったらしい。
「フェイト!」
「はい!」
戦場の貌になったフェイトは今にも飛び出しそうだ。
今ここにいるメンバーでは俺が最高責任者。
状況を把握してきちんとした指示を出す必要がある。
が、
そんなん知った事かよ!
「行け! お前が一番速い!!」
「うん、ありがとう!」
体勢を整える前にフェイトが飛び立つ。
現場はいつだって、臨機応変ってな。
「ユーノとアルフは最大速度で追いかけて来い。悪いが俺も先に行く!」
「うん!」「わかったよ!」
言い捨てて飛び立つ。
正直俺はフェイト程のスピードは望めない。
出せない事はないかもしれないが、出したが最後あいつを助ける為の力まで使い切ってしまう。
余力を残したまま速度を出すのはかなり厳しい。
が、
「元瞬神の片腕をなめんなっ。白銀ぇ!!」
≪おうよ、呼んだかあっ!≫
「go ahead!」
それは俺が一人だった場合の話。
俺と白銀、二人で力を合わせることにより、ほんの少しだけ世界を縮める。
なのはの魔力は……あのビルの中か!?
ビル内部を目視できる程の場所に近づいた時、その言葉は確かに俺達に届いた。
「これ以上粘るのは難しい、かな。でも、こんなので終わりなのは嫌だよ。
ジンゴ君、ユーノ君、クロノ君……フェイトちゃん!!」
「よく言った!!」
振り下ろされる敵の鉄槌を、金の閃光が受け止める。
俺はなのはとフェイトの間に降り立つと、フェイトの背中から敵の様子を窺った。
鉄槌に向き合う彼女の背中から読み取れるのはたった一つの感情。
そう、怒りだ。
「どうにか最悪一歩手前にゃ間に合った、か。だからそう自分を責めるな、フェイト」
「っ……」
≪scyth form≫
返すフェイトは無言。
対する敵は赤い髪を三つ編に結わえたまだ小さな少女。
年の頃は俺達と同じか、それよりも低いように見える。
赤いゴスロリ服に身を包み、その身の丈に似合わぬハンマーを構えた少女は剣呑な視線を向けてきた。
間違いねえ、アームドデバイスだ。
つまり彼女は……ベルカの騎士!
「仲間か?」
ならば俺達は、誇りを以てその質問に答えよう。
「「友達だ!!」」