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「なのは!」
ユーノが追いついてきた。
そこで一旦頭をクリアにしておく。
無言のまま怒りを目の前の敵と自分に向けているフェイトに問いかけた。
「フェイト、任せて大丈夫か?」
彼女は無言で頷く。
俺は彼女に対応を任せる事にして歩を進め、なのはの傍にしゃがみ込んだ。
背後では彼女の感情を押し殺したような声が響く。
「民間人への魔法攻撃、軽犯罪ではすまない罪だ」
「あんだてめえ。管理局の魔導師か?」
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ」
なのはの怪我をチェックした所、予想していたよりも大分軽症のようだ。
ここの所の近接訓練が少しはプラスになっていたらしい。
が、反対にレイジングハートの方はボロボロ。
もしかすると敵のアームドデバイスとガチで打ち合ったのだろうか。
「抵抗しなければ弁護の機会が君にはある。同意するなら武装を解除して」
「って、誰がするかよ!」
その少女の逆切れのような返答に、だよなあと内心嘆息する。
一応警察的組織に属する者として警告は必要なのだが、これで引き下がる位なら最初から犯罪を犯すわけがない。
少女はそのままビルの外部へと一時逃走した。
「ジンゴ」
「許可する」
「行って来る!」
それを追ってフェイトが飛び出していく。
見た目は子供だが、ありゃかなりの手練だな。
縛道を使う隙が見当たらなかった。
と、なのはが身じろぎしたので思考を終了させ、顔を向ける。
「ジンゴ君、ユーノ君……」
「あれだけの手練相手によく粘った。ユーノ、回復を」
「うん」
ユーノの淡い翠色がなのはを包み込む。
それを受け、リラックスした体勢を取りながらなのはが弱々しく笑った。
「にゃはは……ごめんね、せっかく訓練してもらったのに」
「いや、俺の方こそ伝えられなくてすまない。上層部の許可が下りなくてな」
「でも、この程度ですんでるの、ジンゴ君のおかげだから」
あくまで俺達に心配をかけまいと笑むなのはの頭をぐりぐりと撫でる。
今現在近くにいるのは俺達のみ。
強がりは必要ない。
「到着が遅くなって悪かった」
「ううん、むしろなんで私が襲われてるってこんなに早く分かったの?」
その疑問にユーノが治癒魔法をかけながら口を開いた。
「フェイトの裁判が終わって、皆でなのはに結果を連絡しようとしたんだ。
そしたら通信は繋がらないし、局の方で調べてもらったら広域結界ができてるしで、ある程度事情を把握していたジンゴがボク達を連れて来たんだよ」
「そっか……ごめんね、ありがとう」
「あれは誰? なんでなのはを……」
「わかんない。急に襲ってきたの」
「本局の方でな、魔導師が襲われ続けてるんだ。十中八九、あれはその犯人だろう」
「そっか……だからジンゴ君、急に近接訓練なんて始めたんだ」
「ああ」
立ち上がる。
外部に別の魔力を感知。
恐らく敵の増援だろう。
「そろそろ、アルフが着いたか」
「アルフさんが?」
「ああ。なのはは休んでろ。ユーノ、頼むぞ」
首肯するユーノに後を任せ、ビルの窓際に立つ。
アルフとフェイト、状況はこちらに有利。
「……手加減している?」
敵対騎士の力量なら接近戦でフェイトを圧倒する事は可能なはずだ。
それをしないと言う事は、目的は打倒じゃない。
「っ、そうか!? リンカーコア!」
以前襲われた魔導師は軒並みリンカーコアを強奪されていた。
完全に潰さないのは、そうすると強奪した時に死に至る可能性が高いからか!
アルフが赤い少女の四肢をバインドで拘束した所で嫌な予感が膨れ上がる。
まずっ!
意識を切り替えビルから飛び立った。
上空ではフェイトがバルディッシュを相手に突きつけている。
「終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」
「フェイト!」
戦いながら移動してたせいだろう。
俺の言葉は彼女に届かない。
くそっ、距離がありすぎる。
勝利を確信して緩んだ意識。
そう簡単には切り替えられないし、戻すのは至難の業だ。
「フェイト、気を抜くな!」
「なんかやばいよっ、フェイト!」
俺とアルフが叫んだ瞬間、敵増援が二人の間に割り込む。
ピンクの髪をポニーテールにまとめた女剣士と、犬の耳と尻尾を生やした筋骨隆々とした男性。
くそおっ、間に合わねえっ。
横合いから奇襲を喰らったアルフが男性に蹴り飛ばされ、剣士がその剣を構えた瞬間、涼やかな声が響く。
「レヴァンティン、カートリッジロード」
≪explosion≫
しかも炎熱変換だと!?
「紫電――一閃」
剣士は炎を纏った己が得物を振るう。
フェイトはそれをなんとか防ごうとしたが、物理的な重みによって近場のビルの方へ弾き飛ばされた。
「ふっ!」
無手のまま桃色の剣士の前に立ちはだかる。
対する彼女は俺をものともしない態度で少女に話しかけた。
それを見て頭に上りそうになる血液を深呼吸して抑える。
落ち着け……今熱くなってもなんにもならねえだろ。
「どうしたヴィータ。油断でもしたか?」
「うるせーな、こっから逆転する所だったんだ」
「そうか。それは邪魔をしたな、すまなかった」
女性が手をかざすとヴィータと呼ばれた少女のバインドが破壊される。
ヴィータに拾って来た彼女の物らしい帽子をかぶせてやってから、剣士は俺に向き直った。
射抜かれる視線に目は逸らさず、深く長い呼吸を一つ。
……大丈夫、俺はやれる。
「さて、すまないな。待ってもらって」
「いや、ここで話しかけるのは無粋かと思ってな。
それにこっちも少しばかり時間が欲しかったんだ」
少しだけ冷静になった頭で軽口を叩いてみる。
視界の端、フェイトの元にユーノが移動して行くのを確認した。
ならば後顧の憂いはなし。
意識を切り替える。
ここは……戦場だ。
「時空管理局本局執務官、ジンゴ・M・クローベルだ。
誇り高きベルカの騎士よ、引く気はないとお見受けする」
「……無論だ」
「では、自分と一曲踊っていただけますか、lady?」
右腕を掲げ、白銀を刀化して握る。
それに不満を表したのは帽子をかぶった少女、ヴィータだった。
「あたしは無視かよ」
「君にはふさわしいダンスパートナーが到着予定だ。が、必要とあらば」
なるべく気取った動作で刀を構え誘いをかける。
あくまで挑発として、だが。
言葉での時間稼ぎはもう難しいなと頭の片隅で思考した。
「君程の騎士を壁の花にするのも気が引ける。
到着までは俺が仮のパートナーを努めよう。それでいかがか、little lady?」
「はっ、あたしらをベルカの騎士と知って二対一を持ちかけるってか、おもしれー」
「あいにく我等は無粋者でな。華やかな踊りなどできはしないが」
「構わんよ、はなから期待なんぞしておらん」
その言葉に二人の目つきが変わる。
「よく言った!」
「いっけえーっ、グラーフアイゼン!!」
とりあえずフェイト達が復帰するまでの時間稼ぎと割り切って刀を振るう。
相手の剣を、槌を受け流し、足で牽制し、場をコントロールする。
刀を交え始めてすぐに、フェイトから念話が入ってきた。
【ジンゴ、ユーノとアルフで結界を抜くから】
【わかった、このまま引き付ける。ユーノ、式が違うから戸惑うかもしれんが――】
【主!】
【ベオウルフ?】
確か外部との通信は出来ないんじゃ……
徐々に苛烈になっていく攻撃を捌きながら脳内に疑問を留める。
右、左、下段と見せかけた横薙ぎに左袈裟、時々混じるフェイントが厄介だ。
虚実を悟らせない闘法は、正統派剣術のように他者から習ったと言うよりも、むしろ戦場で叩き上げられた業のように思える。
【主と私の繋がりは別物です。我等は同じ、なのですから】
【なるほど。それでなんだ?】
【召喚を。我々には距離も結界も関係ありません】
【そっちの結界抜きは?】
【主を送り込んだ後で結界を強化されました。
内部の基点を破壊しない限り、我々の技量で破る事は難しいかと。
私がここで出来る事はもうありません】
【わかった】
二人の攻撃を弾き飛ばして距離を取る。
「あんだあ? 今更怖気づいたってのか?」
「いや、こちらの事情でな。悪いがダンスパートナーの変更だ。
【三人を俺、フェイト、ベオで抑える。ユーノ、アルフはベオが着き次第結界抜きに集中!】」
【【【了解】】】
「変更、だと……どう言う事だ?」
「こう言う事だ。――――――来たれ、我が半身。勇壮の士、ベオウルフ!」
「まじい、召喚魔法か!?」
「召喚だと!? この結界内で、まさか!」
「すまんな、俺とこいつは特別製なんだ」
陣中央から現れるのは、俺に最も近しいベルカの騎士。
蒼髪のその姿を目に納めた瞬間、二人が叫んだ。
「「アストラ!?」」
「アストラ……? ベオウルフ、知り合いか?」
≪私が生前騎士であった頃の仲間です。やはりお前達か、シグナム、ヴィータ≫
冷静なベオとは対照的に、敵対騎士二名は戸惑う素振りを見せる。
「ベオ、ウルフ……だと?」
「まさか……お前も、なのか?」
≪らしいな。さて、お前達に恨みはない。
むしろこんな状況でなければ酒でも飲み交わしたい気分だが、今この時はそうも行かん≫
ベオが構える。
俺は情報を統合して、思わず素に戻って渇いた笑いをこぼした。
「はは……本気でベルカの亡霊かよ。
まったく、当たって欲しくねえ予想ばかりが当たりやがる」
「ジンゴ!」
ようやくフェイトが前線に復帰した。
これで三対三。
「ベオは無手の戦士、フェイトは赤い少女――」
「待って!」
「フェイト?」
「彼女は、私が」
先程吹っ飛ばされる直前に破損していたバルディッシュは全快している。
それでもフェイトは消耗はしているだろうし、剣士の相手はつらいと判断してこの割り振りをしたのだが。
呼び止めたにも関わらず、彼女は俺の方ではなく剣士へと熱い視線を向け続ける。
こりゃ、梃子でも動きそうにねえな。
この少女は儚げな見た目と裏腹に結構強情なのだ。
仕方ないと内心大きな溜息をついて、赤い騎士に向き直る。
「ならそちらはフェイトに任せよう。
さて、ダンスパートナーが変更になったが、準備はお済か?」
返るのは不敵な視線。
俺はにたりと口角を吊り上げる。
「shall we dance?」
その言葉を皮切りに、三対の魔力がぶつかり合った。