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週初め、フェイトが転校してきた。
俺に続いての留学生の転入──まあ、俺の場合は実際には違うが──、しかも同じクラスと言う事もあって担任は首を捻っていたようだが、些細な事だしどうせ彼女が真実に辿り着く可能性は皆無なので放っておく事にした。
「フェイトちゃん、人気者」
「でもこれはちょっと大変かも」
「あんたの時とは大違いね」
上からすずか、なのは、アリサの発言である。
あとついでに言えばアリサは余計なお世話だと言いたい。
教室の前の方、少し離れたなのはの席に集まりながら俺達は苦笑した。
教室の後ろではフェイトが道路に置かれた角砂糖状態になっている。
つまり、アリのようにクラスメイトが集っているのだ。
ちなみに、俺の席はフェイトの隣なのだが、休み時間に入った途端フェイトにクラスメイトが群がったので避難してきた。
薄情者と言う事なかれ。
小学生とは言え人が一気に押し寄せてくる様子はある意味恐怖だった。
「まあ、俺ん時は第一印象が悪かっただろうからな」
「そう言えばジンゴ君のときはああ言う光景なかったもんね。
私も最初はジンゴ君の事ちょっと怖かったし」
クスクス笑うすずかに肩をすくめて見せる。
本当に済まないとは思うが、あの時は虫の居所が悪かったとしか言い様がない。
文句はばあちゃんに言ってくれると助かるのだが、すずか達とばあちゃんは面識もないので俺は話を余所にずらす。
「あんま人が多いの好きじゃねえから助かったっちゃあそうなんだけどな。
俺の時に出来なかったからヒートアップしてる所もあるんだろうし……フェイトには悪い事したか」
「そのジンゴが、今じゃクラスの兄貴分だもんね。
第一印象が全てじゃないって実感しちゃったわよ」
「にゃはは、ジンゴ君面倒見いいもんね」
俺のクラス内での渾名は何故か“お兄ちゃん”や“兄貴”だったりする。
いつの間に定着したのかは不明だが。
兄貴分らしき事をした覚えはないが、どこからか俺が年上だと言う事が漏れたらしい。
っと、そろそろフォローが必要か?
大勢のクラスメイトに囲まれたフェイトの目がぐるぐるしてきている。
やれやれとアリサが動き出したのが見えたので、彼女に任せようと思っていたら、
「ぐぇっ」
「あんたも来るのよ。責任の一端はあんたにもあるんだから。
はいはい、転入初日の留学生をそんなに皆でわやくちゃにしないの」
俺の襟元を掴んで教室の後ろ、フェイトを囲む一団に近付いて行くアリサ。
って、首、入ってる、入ってるって! チョーク、チョーク!!
「ギ……ギブ……」
「仕方ないわね」
「げほっ……仕方ないでお前は人を殺そうとすんのかよ」
「そんな小っさい事はどうでもいいのよ。今はフェイトの事でしょ」
「アリサ、ジンゴ……」
いや、小っさくはないだろう、小っさくは。
突っ込むと更に酷い事になりそうだから言わないけどよ。
嬉しげに表情を緩めたフェイトに、絞まってた首を擦りながら手を挙げて応える。
俺と腕を組んでさながら女王のようにその場に立ったアリサに、フェイトを囲んでいたクラスメイト全員の注目が集まった。
「質問は順番に。フェイト、困ってるでしょう」
「はい、じゃあ俺の質問から!」
「じゃ、大槻からな」
すぐに手を挙げた男子を俺が指名して質疑応答が再開される。
フェイトは話してる間中ずっとおたついていたが、表情は始終戸惑いながらも笑みの形を作っていて、俺達はそんな彼女の様子をずっと見守っていた。
放課後になって、何故かすぐそこにいるなのはからメールが入った。
「ん、転送メール?」
開いてみるとなのはから送られてきたのにクロからのメール。
どうやらなのは宛に送ったものを彼女が転送したらしい。
『捜査は順調に進んでいる。
君とフェイトはこちらから要請するまで普通に過ごしていてくれ。
なのははまだ魔力が戻っていないし、レイジングハートもバルディッシュも修理中だ。
ジンゴは本来の任務通り二人の護衛を。
非常時はジンゴの指示に従って素直に避難するように。
追伸一
二機の修理は来週には終了するようだ。
エイミィが修理の事でジンゴに聞きたい事があるそうなので、連絡するように言っておいてくれ。
追伸二
フェイトに寄り道は自由だが夕食の時間には戻ってくるようにと伝えて欲しい。
追伸三
ジンゴに直接連絡しなかったのは、連絡するとあの馬鹿はこちらに来てしまうからだ。
君もジンゴが無茶しすぎないように見張っててくれ』
「……余計なお世話だ」
クロにだけは言われたくねえと、最後の一文に内心毒づく。
俺から見ればクロの方がよっぽど働きすぎだと思う。
携帯から顔を上げるとなのはがしてやったりと言った風な表情でこちらを見ていた。
「はあ……」
お手上げ、とジェスチャーすると彼女は満足げに微笑んで。
俺は溜息を隠そうともせず、エイミィに向けてメールを打つ。
携帯アドレスは知らんからアースラでいいか。
って言うか携帯持ってんのかなあ。
「送信……っと」
放課後は全員で高町家に集合と決まったらしい。
ぞろぞろと歩いて帰り、リビングに集まった所で、
「ちょっと俺抜けるな」
「エイミィさん?」
「ああ。なんか聞きたい事があるらしいから、部屋で“電話”してくる」
「うん、わかったよ」
アリサやすずかの手前“電話”と言ったが、部屋に戻って通信するつもりだ。
だから部屋に近づけさせないでくれと言う意味で言ったのだが、なのはとフェイトは正しく理解し頷いてくれた。
「早く戻ってきなさいよー」
「そいつは相手に言ってくれ。ったく、めんどくせえ」
適当にアリサをあしらって部屋に戻り、通信端末を開く。
短縮アドレスから繋いで、
「で、デバイスの事だって?」
『い、いきなり直球だね、ジンゴ君。せめて挨拶くらいしようよ』
「よお、エイミィ」
『今更!?』
一通りエイミィをからかってから顔を引き締めた。
それを見てエイミィも仕事用の真面目な顔になる。
この辺りの切り替えは流石だろう。
「さて、仕事の話だ」
『うん、今本局の技術部に二機を預けてるんだけどね。マリー、分かるかな?』
「マリエル・アテンザ技官だろ。友達だよ。
俺のデバイスは特殊すぎて彼女に見てもらってるわけじゃないが、ちょくちょくデバイスについて話をする事がある。
彼女の話さ、専門用語とかも多いのに凄えわかりやすいんだ。
いや、頭がいいってああ言う事を言うんだな」
『そうなんだ。
それ聞いたらマリーきっと喜ぶよ。あの子私の後輩で……って、そうじゃなくて。
どうもレイジングハートとバルディッシュがね、新しいシステムを積んでくれって言ってるみたいで、コマンドを受け付けないんだって』
「コマンドを受け付けない?」
いくらAIが載ってるからってそんな事ありえるのか?
困惑しているとエイミィから送られてきたデータが新しいウィンドウで立ち上がる。
これは……
「CVK-792……ベルカ式、カートリッジシステム」
『うん。それでね、私達の周りにベルカ式を使ってるのってジンゴ君しかいないから、意見を聞いてみたいって』
「まあ、俺の術式も大概特殊だからなあ。
古代ベルカのミッドエミュレートだからどちらかと言えばミッドの色が濃いんだよ。
とは言え、俺を除いたら後は陸士部隊とか教会の連中になっちまうしな。
海所属のエイミィ達からは聞きづらいか」
『まあね。聞けない事もないけど、そっちに聞くと時間がかかりそうだし』
「しっかし、カートリッジシステムなあ……」
『もしかしてよく分かんないかな?
ジンゴ君が使ってる所見たことないし、確かに君の魔法もかなり特殊だから……』
「いや」
ちらりと右手人差し指の剣環を見遣る。
知らないわけではないのだ。
「ベオにはカートリッジは関係ないが、ロブトールの方には搭載されてるよ。
右手側の肘の部分にだけだけどな」
『なら──』
「が、使った事はない。つうか使うなって止められてんだよ」
『え? 誰に?』
「ベオ。ほら俺ってまだ成長期前だろ。
カートリッジシステム自体、かなり身体に負担が掛かる代物だから、せめてもう少し身体が出来てからにしてくれって言われてんだ」
『そうなんだ……』
「まあ必要に迫られたら使うけど、実際俺に必要かって言われたら微妙な所だしな。
魔力ブーストは白銀がいりゃ使えるしさ」
『……なんかそれも凄く負担のかかりそうな響きなんだけど』
「ソンナコトナイゾ?」
実際エイミィが想像しているほどではないだろう。
元々俺の魂の影響で、力の受け皿自体はかなり大きい。
それでも負担がゼロにはできない所がこのシステムの恐ろしい点だ。
「問題は繊細なインテリジェントにカートリッジを組み込むなんていう無茶を要求してきている所だな。
ロブトールみたいなアームドは頑丈だからカートリッジのせいで自壊するなんて事はないけど、インテリジェントはそう言う使い方を想定してないからフレーム強化をきっちりしないとぶっ壊れるぞ」
『そうなんだよね。マリーもそこで悩んでるみたいで』
あ、でももしかしてデータさえあればその辺り解決するんだろうか。
ちらりとトールを見て考える。
トールがいなくなってもベオと白銀がいるなら、簡単な戦闘くらいなら影響はない。
まずそうな点としては、バリアジャケットなどはトールに任せているので、防御がかなり薄くなる事くらいだ。
それもなのは達を撤退させる間の時間稼ぎと割り切ってしまえば、避けまくるかプロテクションで代用できなくもない。
『ジンゴ君?』
「いや、ちょっと自分の戦力分析をな。
エイミィ、よかったらロブトール貸し出そうか?」
『え、ほんと!? そりゃこっちは助かるけど、ジンゴ君は大丈夫なの?』
「まあ、少しの間ならベオと白銀がいるから大丈夫だろ。
今日フェイトが帰る時にでも持たせるよ」
『ありがとう! これで修理の時間が短縮できるよー』
「マリーならその短縮できた時間を強化に回しそうな気がするけど。あの人ちょっとマッド気味だし」
『あはは、それは言わないお約束だって」
「ついでにマリーにカートリッジシステムを研究するように言っといてくれないか。
時間がある時でいいんだけど、もっと改良すりゃ術者への負担を少なくする事も出来ると思うし」
『うんうん、言っとくね。
じゃあ私はフェイトちゃんの帰りを待ちながら仕事してるよ』
「ああ、倒れない程度に頑張ってくれ。それじゃまたな」
『うん、またね。ジンゴ君』
通信ウィンドウを落として一息つく。
首を捻るとゴキリと音がしたので、立ち上がって伸びをした。
「うぁ、ゴキゴキ言ってるし」
≪運動不足じゃねえのか?≫
勝手に具象化し、俺を皮肉った白銀を睨みつけた所で、
「ジンゴ君、アリサちゃん達帰るってー!」
「あいよ! 今行く!!」
間に合わなかったか。
またアリサにぶちぶち言われそうだな。
やれやれと溜息をついて、俺は階下のリビングへと向かった。