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「あれ? なのは」
「ジンゴ君」
今日は休日なので翠屋のヘルプに入ろうと玄関に出た所で、なのはと鉢合わせた。
余所行きの格好をしている所を見るに、どこかへ出かけるのだろう。
と、そこまで考えてからフェイトがそろそろ海鳴入りしているはずだと思い出す。
「ジンゴ君はこれからお店?」
「ああ。なのはは……フェイトの所か?」
「うん! フェイトちゃん達、本当にすっごく近いマンションに住むんだよ!」
「そうか。後で翠屋に顔出すんだろ?」
「多分、そうかな。お仕事入っても私達はまだ出られないし」
しゅんと沈んでしまった俯きがちのなのはの頭に手を置き、優しく髪を梳く。
大丈夫だと笑いかけた。
「本来なら俺達正規局員が前線に立つべきなんだから、今が正しい形なんだよ。
もちろん、なのは達に手伝ってもらえるのは凄く助かるし、何度も助けられてる俺が言えた事じゃねえかもしれねえけどさ。
アレだな、なのははちょっと責任感が強すぎる」
「そうかなあ?」
「もうちょっと気楽に構えててもいいぞ。
皆頑張れー、くらいにな。
頼りないかもしれないけど俺達もいるからさ」
「頼りないなんて事ないよっ!!」
だろ? と不敵に口元を歪めなのはを見る。
それで今のは冗談だと理解したのか、なのはは少し深呼吸をして。
「ジンゴ君」
「ん?」
「ありがとう、ね」
「おうよ」
最後に一撫でしてから手を離す。
年相応の笑みを見せるなのはを見て、昨日届いたメールにあった追加任務について思いを馳せた。
「……フェイト・テスタロッサの護衛、か」
「ふぇ?」
「いや、なんでもない。また後でな」
「うん、後でね、ジンゴ君」
手を振るなのはに振り返し、尊い労働にでも勤しみますかと気合を入れ直しながら翠屋に向かった。
エプロンをつけ、翠屋の手伝いをしている所でリン姉に連れられたフェイト達が来店。
と、ついでにおまけが二名ほど。
いるとは思っていなかったので思わず本音が口からポロリ。
「あれ? なんだ、お前等も行ってたのか?」
「なによ、ご挨拶ね」
「フェイトちゃんが引っ越してきたって聞いて、アリサちゃんと行ってたんだよ。
あ、おはよう、ジンゴ君」
「おはよう、ジンゴ」
「ああ、おはよう、すずか、フェイト。ついでにアリサも」
「ついでって何よ!」
「お前、挨拶してこなかったじゃんか」
突っかかってくるアリサを軽くあしらい、珍しく普段着を着ているリン姉を見る。
いや、P・T事件中は何度か見たし、艦長服で地球を歩けるはずもないから私服なのは当たり前なのだが。
それでも違和感が拭えないのは、それだけ俺があの服装に慣れてしまっていると言う事なのだろう。
「どうよ。上手くやってけそう?」
「ええ。いい街ね、ここは」
「だろ。そう言やクロ達は?」
「……家で情報の整理をしているわ」
「そうか……」
できればクロ達にも翠屋の味を知ってもらいたかったのだが、仕事ならば仕方ない。
後でリン姉にシュークリームをいくつか持たせる事にしよう。
「なのはさんのご両親は?」
「店内にいるよ。挨拶?」
「ええ、引っ越してきた事だし。これからもお世話になるでしょうから」
「今は空いてるから今の内の方がいいと思うぞ」
「うん、ありがとう、ジンゴ君。じゃあフェイトさん達はゆっくりしててね」
ウィンクして入店していくリン姉を見送ってから、フェイト達四人をテラスの席に案内した。
軽く椅子を引いてやるとすずかとアリサは当然のように座りなのはは照れながらも席に着く。
フェイトが恐縮しまくってるのを見て、性格が現れてるなあと独りごちた。
すずかとアリサは単純にこうした扱いに慣れているのだろう。
流石は上流階級のお嬢様。
「それで、注文は? お嬢さん方」
「なによ、気持ち悪いわね」
「きもっ……酷いな、アリサ。
まあいい、フェイトはどうする? とりあえずシュークリームは鉄板だと思うぞ」
「えっと……鉄板ってどう言う意味?」
そうか、これって地球でしか通じない言い回しなのか。
「ああ、お勧めって事。翠屋のシュークリームは群を抜いて美味いからな。
何せシロさんが一食い惚れして、その流れで桃ちゃんにプロポーズしたくらいだ」
「そうなんだ」
「って言うかなんであんたがそんな事知ってんのよ」
「晩酌の時にシロさんに惚気られたんだよ。
ああ、フェイト、慌てなくていいぞ。ゆっくり選べ」
「あ、うん。ありがとう、ジンゴ」
「ねえ、ジンゴ君。フェイトちゃんとはもう知り合いなの?」
ここに来て今更な質問。
皆が皆スルーしていたのに、蒸し返すとはやるな、すずか。
すずかの質問にアリサが続いた。
「そう言えば、さっきのリンディさんとも気安い雰囲気だったわね」
「ん、まあな」
さて、どう誤魔化したものか。
「俺ちょくちょく学校休むだろ。それリン姉の関係のものが多くてな。
フェイトともその繋がりで知り合ったんだ。
リン姉は俺の親友……いや、悪友? の母親だし」
「あんた、私達以外に友達いたのね」
「失敬な。俺は割りと顔が広い方なんだぞ。なあ、なのは」
「にゃはは……ジンゴ君、学校外の方が友達多いもんね」
なんとも微妙なコメントをありがとう。
オーダーを取って運んだ所で、ふと、人混みの中に見覚えのある茶髪見つける。
視線をそこで留めると相手は右手を挙げて振ってきた。
軽く振り替えしてやると彼の顔が安堵で緩む。
足早に寄ってきた友人に俺は先んじて声を掛けた。
「アレク、どうしたんだ?」
「ジンゴ君がいるって事はここが翠屋であってるんだよね。
ハラオウンさんから頼まれてたものを持ってきたんだけど」
「リン姉から?」
「ああ、フェイトさんに」
フェイトに手渡されるのは白く平たい箱。
その外装を見てピンと来た。
「もしかして……アレ?」
「そうだよ。はい、フェイトさん」
「あ、ありがとうございます。アレックスさん」
アレクの事はリン姉の同僚だと簡単に紹介する。
彼は仕事がまだ残っているからとあっさり去っていった。
いつもご苦労さん。
「えと……なんだろう、これ」
「開けてみ」
にやにやしていると、気持ち悪い笑いしてんじゃないわよとアリサに突っ込まれた。
失敬な。
憮然とした顔を向けると、フェイトが恐る恐る箱を開ける。
中身を確認して彼女は目を見開いた。
「これって……」
フェイトの驚いた顔を思う存分堪能する。
そう言うと変態臭いが彼女はこうした顔の方が可愛いと俺は思う。
これだから悪戯とかサプライズはやめらんないよな。
こう言う時ばかりはばあちゃんに同意したい。
対象が俺じゃなければ、基本的にこう言うイベントは好物だ。
「えと……リンディさんに聞いてみたらどうかな?」
なのはの提案にフェイトは頷き席を立つ。
どうぞと扉を開いてやると、全員が店内に入って行った。
後から続いて静かに扉を閉める。
「リンディ提と……リンディさん」
あ、危ねえ。迂闊すぎるぞフェイト。
冷や汗をかく俺とは裏腹に、シロさん達と話していたリン姉はにこやかにこちらへ振り向いた。
この辺りのポーカーフェイスは勝てそうにない。
「はい、なあに?」
「あの……これ。これって……」
フェイトが差し出した箱の中には、特徴的な白い制服。
俺達が毎日の様に見ている、聖祥大附属小学校の物だ。
「転校手続き取っといたから。
週明けから、なのはさん達のクラスメイトね」
「あら、素敵!」
「聖祥小学校ですか。あそこはいい学校ですよ。な、なのは、刃護」
「うん!」「まあ、ね」
すっと桃ちゃんがフェイトに顔を寄せ、満面の笑みを見せる。
それに照れたように頬を染めたフェイトに、
「よかったわね、フェイトちゃん」
「あの……えと、はい。ありがとう、ございます」
彼女は顔を赤くしたまま、ぎゅっと箱を抱きしめる。
その可愛さに一瞬見惚れ、慌てて目を逸らす。
世間一般の男共が、萌やら何やら言ってる気持ちが少しだけ理解してしまった気がする。
今の表情は反則だろう。
まあ、実際の所すぐに我に返って凹んだのだが。
友人の表情で萌を理解するってどう言う事なんだろうか。
ま、嬉しそうだからいっか。女の子はやっぱ笑ってないとな。
暖かい雰囲気の中、ふいにポケットが震える。
嫌な予感を感じながらも携帯電話を右ポケットから取り出すと、メール着信。
携帯パカリと開いて画面に内容を表示させる。
「ん?」
確認してクロからのそれに少しだけ顔を引き締める。
どうやら俺の休日はとりあえず一旦終了らしい。
「シロさん」
「どうした、刃護?」
「抜けていいかな? 別に急ぎの用事ってわけじゃないんだけど」
「……メールか。いいぞ、今日はそんなに忙しくない」
「サンキュ」
【クロノからかしら?】
突如入ったリン姉の念話に頷くと、なのはとフェイトの顔が僅かに固くなった。
それにこいつらは……と内心嘆息しながらも、アリサ達から見えないように手を振る。
【大丈夫。事件じゃなくて情報が欲しいだけみたいだから】
【ああ、出掛けにクロノが言ってたわ。ベオウルフさんの事ね】
【そうみたいだ。なのはとフェイトはゆっくりしててくれ】
エプロンを外してからカウンター裏に置いていた上着を羽織り、
「じゃ、お前等はもうちょいゆっくりしてけよ」
「あんたに言われなくても」
「あはは。また学校でね、ジンゴ君」
「おう!」
皆に軽く手を振ると、俺は送られた住所を元に司令部を目指した。