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まあ向こうが俺の事を知っているというのが大きいんだが。
「そっちからの条件はあるか?」
「殆どアラン君が詰めてくれたのよね。
こちらが出す条件としては身柄を一時時空管理局の預かりとする事、それから基本的には指示を守る事位かしら。
なのはさんには後でランク認定試験を受けてもらうけど」
「試験官はクロ坊か? それは構わんがリミッターはつけたまま受けさせるぞ」
「え、でも」
「リミッターなしなんて怖くてさせられないって。
ただでさえ馬鹿でかい魔力に幼い身体、それだけで負担になってんだ。
無理して後々まで影響を残したら目も当てられん」
「確かに、先生の言う事は道理ですね」
「お兄ちゃん、いくつで受ければいいかな?」
どうするか。
高すぎると目を付けられるし、低すぎるとリン姉が戦力として組み込みにくい。
「クロ坊は今どん位だ?」
「AAA+です」
「へえ。執務官になった事といい、頑張ったな、お前」
俺が教えてた当時は魔力値B弱、総合Aにギリギリ乗るかという程度だった。
魔力も戦術もかなり鍛えたんだろう。
並みの努力じゃなかったはずだ。
若干照れた様子のクロ坊に微笑ましさを感じながらもどうするかを考える。
「ユーノもAだしサードまで、と言いたい所だが出し惜しみしすぎるのもな。
とりあえずサードを外してフォースでやってみるか」
「うん!」
「1つ辺りどの位魔力を抑えてるんですか?」
「2ランクだ。俺の特別製。フォースまで使えるとなると、AAAだな。
ま、最後の1つは俺の許可がないと外せんようにしてあるが」
「3つ外してAAA、か。それにしてもお兄ちゃんしてるわね」
「放っとけ」
にやけ顔のリン姉から目を逸らす。
ユーノも微妙に笑っていたので、こっそりお仕置きを決定した。
名目はデバイスの試運転、クロ坊となのはでフルボッコだな。
「さて、話もまとまった所で2人は先に家戻っとけ。もう大分遅いしな」
「アランさんはどうするんですか?」
「こっから先は大人の時間だ。なに、後でこの2人を連れて家に戻る。
……だからそんな恨みがましい目で見ないでくれよ、なのは」
頬を膨らましたなのはの頭を撫でる。
リン姉が局員を呼ぶと、入室してきた局員は2人を連れて退出した。
さあ、汚い大人の時間の始まりだ。
「なんだか嫌な予感がするからあまり聞きたくないのだけど」
「そう言うな。汚い仕事は大人の役割、だよ」
プシュンと音がして新たに局員が入ってくる。
年はクロ坊よりちょい上程度。
茶髪のショートに人懐っこい笑顔が特徴だ。
「艦長、呼びましたか?」
「ええ。アラン君、同席させても?」
「彼女は信頼が置ける、そういう意味か」
「もちろん。エイミィ、自己紹介を」
「時空管理局通信主任兼執務官補佐でアースラの管制官をしています、エイミィ・リミエッタです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。アラン・F・高町だ、よろしく」
軽く握手をする。
3人を見渡してから、俺は話を始めた。
「まさか、そんな事があるなんて」
「こいつが物的証拠だな。ドラッケン」
≪put out≫
例のサーチャーを渡す。
3人はそれを確認して大きく溜息をついた。
「間違いないですね」
「つまり先生は3歳から再び成長して、今の姿なんですか」
「そうだ。で、これがさっき言った不正データ集」
「エイミィ、受け取っておいて。……それにしてもハッキングしてたなんて」
「その辺りの説教は勘弁な。結果オーライっちゅう事で」
3人とも顔色は悪い。
より世界を良くしようと思って入った組織の実態がこれじゃ、仕方のない事だろう。
「それと、後でここの端末使わせてもらえるか?
こいつがあった所のすぐ近くに気になるファイルがあったんだが、あの頃はそこまで調べられなかったからな」
「あんまりよくないけど……この場合は仕方ないわね」
「やり方をエイミィに教えてもいいんだが、局員がやると危険度が増すだろ。
俺はほら、いざとなったら雲隠れ出来るし」
「そういう問題じゃないんだけど……」
ちなみに早い段階でエイミィに対する敬称は外された。
なんかくすぐったい、が理由だそうな。
溜息をつきながらリン姉がお茶を啜る。
この話を始めてからすでに3杯目だ。
あれか、ストレスか。
正直すまないとは思うが、知らないよりゃ知ってた方がいいだろう。
特に大人は。
「さて、次に敵対魔導師についてだが」
「ああ、あの金色の子。
なのはちゃんはもう別格って位凄いけど、あの子も凄い才能ですね。
多分AAA付近ですよ」
「まあそんな所だろうな。彼女の名はフェイト・テスタロッサ。
使い魔の名はアルフ。素体は狼だ」
「テスタロッサ……」
ファミリーネームが引っかかったのか、リン姉は考え込む素振りを見せる。
「バックは10中8,9、プレシア・テスタロッサだ」
「プレシア・テスタロッサ!? かつての大魔導師じゃないですか!!」
さすがに有名人だけあって、こちらは知っていたようだ。
「俺は彼女の事は8年前までしか知らないし、知っててもある時期からは報道された範囲のみだ。局のデータベースに、彼女の関わった研究などの記録があれば確認したいんだが」
「エイミィ」
「今やってます」
簡易端末を操るエイミィの指裁きはかなり早い。
流石管制官。
「ありました。略歴ですが、出します」
すぐに情報を拾ってくる所は優秀さを伺わせる。
表示されたデータを追って、“それ”に目を止めた。
弄って暗号化を、解く。
「shit!」
思いきり拳を床に叩きつける。
最悪だ。
なければいいと思うものばかりが現実になりやがる。
「あ、あの、先生?」
「ん、ああ、悪い。取り乱した。リン姉、茶を貰えるか?」
「ええっ、アランさん、それは……」
「知ってるから大丈夫だ。ほんと、糞ったれな気分だよ」
不機嫌さを隠さずに迷物リンディ茶を煽る。
糞甘いな、おい。
更に気分が悪くなるが、その悪さで先ほどの胸糞悪い気分を追い出した。
「私達はこの簡易データじゃ何も分からないのだけど」
「まあ、当然だな」
深呼吸を1つして心を落ち着かせる。
説明は、しなきゃな。
「とりあえずフェイトちゃんとプレシア女史の関係は、ファミリーネームから察するに親子、でいいのかしら?」
「半分正解で半分外れ、だ。ほれ、ここ見てみろ」
それはプレシア・テスタロッサが未だ中央技術開発局にいた頃の事件。
個人で開発していた次元航行エネルギー駆動炉“ヒュードラ”の暴走事故に前後して起こる変化。
「エネルギー開発から生命科学への転換、ってあれ? こんな文章なかったような」
「ああ、暗号化されてたから解いた。とはいえ大した難さじゃなかったが」
「流石……」
唖然としたエイミィを尻目にクロ坊が口を開いた。
「これだけだと詳しい事は分からないけど、プレシアがこの時期研究の方向性を変えたのは事実ですね」
「ああ、そしてフェイト嬢の事を加味すると、答えは1つ」
「え?」
目を瞑る。
黙ってしまいたい自分を叱咤して、開いた。
「フェイト・テスタロッサは、プレシア・テスタロッサによって作られた人造魔導師だ」
「「「!?」」」
ありえない、そう言いたげな視線と共に沈黙が流れる。
正直この先はあまり話したくない。
が、きっとリン姉はそれを許してくれないだろう。
「何故、そうも断言できるのかしら?」
虚偽を許さぬと言わんばかりの目で俺を射抜く。
つらい、が言わなきゃいかんだろう。
「16年前、あの事故でシアは1人娘を亡くしている」
「シア? あなたまさか……」
「恐らくフェイト嬢のオリジナルになったのは、彼女の1人娘、アリシア・テスタロッサ。……俺の、幼馴染だ」
「先生の!? じゃあ」
「そうだ。俺の家とプレシア・テスタロッサには個人的な付き合いがあった。
お袋の親友だったそうだ、シアは」
リンディ茶の残りを啜る。
気を持ち直してから飲むと、なんとも言えなかった。
正直水が欲しくてたまらない。
目で訴えたらエイミィがすぐに水を注いでくれた。
……慣れてるんだな、エイミィ。
「これはシアを知った上でフェイト嬢と対峙した者としての感想だが」
誰も口を開かない。
まあ当然か。
ちとヘビーな話だったからな、さっきのは。
まだ続くんだけどなあ。
「恐らく彼女はシアが何をしようとしているのか、何も知らされてない。
多分、アーシャの死がシアを変えちまったんだろう。
彼女を確保しても切り捨てられるだけで、シアへの手がかりがなくなっちまうと俺は踏んだ。
だから彼女を泳がせてるんだ。シアとコンタクトを取るか、シアがコンタクトを取ってくるまでは、な」
「切捨てられるって!? フェイトちゃんは女史の娘なんでしょう?」
「さっき半分と言ったろう?
小規模次元震が起きた時、フェイト嬢が素手でジュエルシードを抑え込んでな。
彼女が手を酷く怪我したんで、なのはに治してもらった。
その時気付いたんだが……」
「何にかしら?」
「背中に大量の痣があった。
なのはに気付かれないように治療したからあんま詳しくは診れなかったが……多分、鞭の痕だ」
「虐待……」
エイミィの呟きに頷く。
「早めに助けてやりたいが、シアに繋がる貴重なラインだから助けられない。
その癖、傷は治す。まったく、自分の偽善者っぷりには反吐が出る」
吐き出すように言うと3人共目を伏せた。
長く局に勤めてきたんだ、皆それなりに汚いものを見て来たんだろう。
「前から思ってた事なんだがな、大人になるにつれて世界は薄汚れて行く。
今の俺にゃ、なのは達は眩しすぎるよ」
「そうね、それでも」
「それでもボク達はその薄汚れた世界で生きて行くしかないんです、先生」
「ああ、分かってるよ」
ただ遣る瀬ないと思う時があるだけさ。
今度の溜息は4つだった。
「さて、今度は少し明るい話題に行こうか」
「あら、まだあるのかしら?」
「とはいえかなりのトップシークレットだ。この場だけの秘密にしてもらいたい」
気分を変えて、話題を切り替える。
もう大分遅い時間になったので、これが今日最後の密談になるだろう。
「なんの話ですか?」
「第1級捜索指定ロストロギア“闇の書”だ」
びしりと2人の空気が固まった。
その中でエイミィだけが首を捻っている。
という事は話してないのか。
目で確認するとクロ坊が頷いた。
「そもそもなんで俺がクロ坊達と知り合ったかと言うと、同じ事件の遺族同士だからだ」
「アラン君!」
「ま、落ち着けリン姉。悪いようにはしないからよ。
11年前、俺達は闇の書事件の遺族同士として出会った。
その縁で、俺はクロ坊に色々教えてたんだ」
「え……」
エイミィが絶句する。
ま、こんな軽い感じでヘビーな話題出されたらそうなるわな。
「ちょいと話は変わるが、ジュエルシードの内3つは虚数空間に落ちたって言ってたろ」
「それとなんの関係が……」
「あれ、嘘。3つとも俺が貰って使っちった」
「「「はあああっ!?」」」
おお! クロ坊やエイミィはともかく、リン姉の崩れた顔は貴重だな。
≪キング、場を混乱させて楽しんでませんか?≫
「気のせいだ。
ちょいと真面目に話すと、今代の闇の書の主がうちで面倒見てる子でな」
「主はもう分かってるんですか!? 早く確保しないと!?」
「ちょ、落ち着け。そもそも闇の書って名前が正確じゃない。
本来の銘は“夜天の魔導書”だ」
そうしてドラッケンを通し、今まで調べてきたデータを見せながら説明し行く。
「で、直そうとしたんだが、どうしても蒐集がネックでな」
「まあ先生の言う通り、管理局側からすれば蒐集許可は出せませんね」
「だろ? で、だ──」
そこから先はジュエルシードを用いた作戦の説明と、実際に行われた事の報告。
「じゃああの大規模砲撃は」
「暴走するプログラムのコアをぶっ飛ばした時のだな。
いや、まいった。おかげで掛け値なしの全力はこれから封印する事に決めたぜ」
「管制人格が暴走機構を再生してしまう可能性は?」
「今はリインが抑え込んだ上に、俺の封印がかけてあるからな。
少なくとも俺が完治するまではもつと思うぞ」
「ロストロギアの書き換えって可能なのかしら?」
「そこはほら、ジュエルシードを使って力技で。
大体ロストロギアっつっても、結局は人が作り出した物だし。
なら俺が書き換えても問題なかろ」
「そ、それはどうなんだろ、アランさん」
「それに厳密に言や、ありゃもうロストロギアじゃないぞ」
「え、どう言う事ですか、先生!?」
「暴走機構はさておき、融合[ユニゾン]デバイスだからこそのロストロギア指定だろ?
解析は終わってるから、あんなの金と時間がありゃいくらでも作れる」
「駄目だこの人……色んな意味で規格外だ」
なんて会話があった。
最後にクロ坊が、
「仕方ない事ではありますが、叶うならコアを破壊するのに参加したかったですね。
ボク等もあれのせいで人生を狂わされた人間の1人である事は確かですから」
と言っていたが、寂しげな言葉とは裏腹に顔は妙に晴れ晴れとしていたので、まあ良かったのだろう。
リン姉なんかは大分複雑そうだったが。
「それで、その夜天の書の主はどうするのかしら?」
「うん、出来るなら聖王教会に保護してもらいたいと思ってる。
リインが覚えてると思われるベルカの歴史なんかを交渉材料にするつもりだ」
「だしにって……管理局じゃ駄目なんですか?」
「エイミィ、情報官なら貰ったデータはきちんとチェックしようぜ。ほれ、ここだ」
「うわ。こりゃ確かに局には預けられませんね。
あー、ちょっと辞めたくなってきたかも」
「エイミィ、頑張りましょう!
上が腐ってても私達の働きで助かる人はいるわ!」
意外と熱血だったんだな、リン姉。
熱弁をふるうリン姉を冷静に眺めていたらクロ坊がどんよりしていた。
まあ、こいつは昔っから妙に生真面目だったからなあ。
「アクセス記録を漁れば全部じゃないがゴミは発見できるだろうし、ま、少しはましになるだろ」
ぽん、とクロ坊の頭を軽く叩く。
「先生、ボクももう14ですよ。子供扱いしないで下さい」
「んな事言ってる内は、まだまだ子供だ」
ふてくされるクロ坊に反応してリン姉やエイミィが笑う。
そんな風にクロ坊をからかうのに熱中しすぎたせいで時間を忘れ、慌てて高町家に向かったものの夕食はとっくのとうに終わっていた。
母さん達は笑って許してくれたが、ずっと心配していたらしいなのはに、またも地獄を見せられたのは言うまでもない。
……ちなみに、1時間コースだった。
そういやグレアム氏の事を聞き損ねてたな。
まあ、これからいくらでも時間はあるから、また今度でいっか。