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玄関へ行くと、すでになのはとユーノは靴を履いて俺を待っていた。
「行こうか」
「うん!」
「はい!」
夜明けの住宅街を3人で走る。
ふと、こちらも覚えのある魔力が近付いて来たのに気付く。
アルフだ。
狼姿だが、傷は完治したらしい。
塀の上を走るアルフに笑いかけ、4人で疾走する。
揺らぐ事なく感じ取れる魔力は、やはりあの場所に在り続けていた。
海鳴臨海公園に到着。
公園から見える海は、夜明けを告げるように白みかけている。
なのはが一歩、前へ出た。
「ここならいいよね。出て来て、フェイトちゃん」
静かな朝の公園、ざわめく木々の音の中へ、布ずれの音が混じる。
「フェイトちゃん……」
もはや見慣れてしまった彼女が、少し形状の変わったバルディッシュを手に電灯の上へと現れた。
アルフが前のめりになり彼女に呼びかける。
「フェイト……もう止めよう。あんな女の言う事聞いちゃ駄目だよ。
でないと……このまんまじゃ不幸になるばっかじゃないか」
その言葉に、彼女は哀しげに首を振った。
「だけど……それでも私は、あの人の娘だから」
「ベオウルフ」
なのはがバリアジャケットを着込み、俺の方を向く。
もはや言葉のみで語る時間は終わりを告げた。
その事を理解した上でぶつかる事を選択した妹へ、肯定してやるかのように力強く頷き返す。
「手は出さん。
いいかなのは、拳とは己を語る鏡だ。
お前自身を貫くと言うのなら、受け止める時も、ぶつかる時も、届ける時も──」
──────どこまでも真っ直ぐ、全力でやりなさい。
それが、それこそが、俺がこの8年間見てきた“高町なのは”なのだと思うから。
「はい、師範! ありがとうございます!」
朝の鍛錬中でもないのに俺をそう呼んで、なのははナックルフォームで構える。
「2人共、何があっても手は出すんじゃないぞ」
「わかりました」
「……わかったよ」
心配を隠しきれないユーノとアルフをよそに、なのはが口を開いた。
「ただ捨てればいいってものじゃない。
ただ逃げればいいってものじゃ、もっとない!」
その言葉を、フェイト嬢はただ静かに聴く。
「きっかけはきっとジュエルシード。
だから賭けよう、全部のジュエルシードを!」
≪put out≫
ベオウルフが今まで集めたジュエルシードを浮かび上がらせる。
それに呼応してバルディッシュも浮かび上がらせた。
「……それからだよ。全部、それから」
フェイト嬢がデバイスを構え、2人の闘気が高まって行く。
「私達の全てはまだ始まってもいない。
だから、本当の自分を始める為に……」
真剣な、本当に真剣な眼差しで、なのははフェイト嬢を見据えた。
「始めよう、最初で最後の本気の勝負!」
この1件で本当になのはは成長した。
特に、その心が。
だから俺はなのはに応える為に、高らかに宣言しよう。
「不破の名において、アラン・F・高町が告げる。
全てのリミッターの解除を──────許可する!!」
「ラストリミット・リリース!」
≪release last limiter≫
なのはの声と共に、今まで抑え付けられていた魔力が自由を求め荒れ狂う。
さあ、見ろ! これが本当の高町なのはだ!!!
「す、凄い……」
「な、なんて魔力だ…………あの子、あの状態でも押さえてたのかい」
「とは言え、以前の傷は癒え切っちゃいない。
本当の全力には遠いが、それでもきっとフェイト嬢に対しては今出来る全力で当たりたいだろうからな」
笑う。
こんなことでリミッターを解除をするなんて、きっと俺は大馬鹿だ。
だけど、本当を隠して想いを裏切る位なら、俺もなのはも馬鹿でいい。
全てが始まる海の上で、今、桜色と金が交差した。
────────interlude
飛び交う桃色の誘導弾。
それを避けながらバルディッシュを振るう。
「っ、強いっ」
何度も何度も私に話しかけてくれた女の子。
その顔は戦う前とは別人のように引き締まっている。
地力はあの子の方が上。
小回りも利くし、魔力量はあちらが圧倒的に上、しかも堅い。
今のままの私じゃ絶対に敵わない。
でも、
「負けたくないっ」
母さんの為に負けられないじゃなくて、初めて負けたくないと思った。
「フォトンランサー」
≪photon lanser≫
「ファイア!」
まずは誘導弾から撃ち落す!
大きくあの子から距離をとった。
撃ち損ねたのは3つ。
それ位なら、
≪protection≫
受け止める。
やっぱりこのままじゃ勝てそうにない。
『きっと今のままのあなたじゃ勝つのは無理。
だから私がデバイスを改造しておいたから使いなさい』
初めて母さんが私に与えてくれた力。
なら、惜しみなく使って勝とう!
「カートリッジロード!」
≪load cartridge≫
「バルディッシュ・アサルト」
≪barrier jaket sonic form, haken form setup≫
新たな名を貰ったバルディッシュが、新しいバリアジャケットを展開して行く。
より速く、より動きやすくする為に設定したソニックフォーム。
そうしてパワーアップしたバルディッシュを担ぎ、私はあの子を見た。
「……カートリッジシステム」
唖然と呟くあの子に頷く。
「君に勝つには速さしかないと思ったから」
自然言葉が出ていた。
ちょっと口元が緩む。
もっともっと、私は強くなれる。その実感があるから。
「防御がそんなに薄いと、一発当たれば墜ちちゃうよ?」
「当たらなければ、いい事だから」
結構な距離があるけど、行けるよね、バルディッシュ。
≪yes sir. sonic move≫
最大速度であの子の後ろに回りこむ。
あの子には見えてない。
いけるっ!
────────interlude out
「残念」
漏れ出た言葉にアルフが反応する。
「なんでだいっ。あれだけ早けりゃ反応できないはず──っ!?」
上空でなのはがフェイト嬢の鎌を受け止めているのが見えた。
「なっ、なんて子だ……」
「御神の剣士は速さが身上でな。
彼女のソニックムーブは確かに速いが、神速よりは数段落ちる」
なのはがただの徒手格闘だけを習得していたなら今ので決まっただろうが。
あの子は普段から俺や恭也達と組み手をしているのだ。
目に捉えられない相手なんて慣れている。
「まあ、直感だけであれが出来るなのはもなのはなんだが」
「ちょ……直感、ですか?」
「ああ。移動するフェイト嬢の姿はなのはにゃ見えてないだろうさ。
それを抑えられてるのは、ひとえに経験ゆえ、だ」
「大概化け物だね、あんたの妹は」
正直俺もなのはにこんなに戦闘の才能があるとは思ってもみなかった。
やはり……血か。
「アランさんは……」
「ん?」
「アランさんは心配じゃないんですか?」
ユーノが平然としている俺を非難するように俺を見る。
その言葉に苦笑した。
「そりゃ心配さ。だがそれ以上に嬉しくてな」
「嬉しい?」
「見てみろ。子供は本当に成長が早い」
フェイト嬢は接近戦を捨てたようだ。
代わりに取ったのは砲撃に自分のスピードを乗せるという方法。
彼女のフォトンランサーが今までより数段速いスピードでなのはに襲い掛かる。
「なのはっ!?」
「大丈夫だ」
「アランさんっ」
「見ろよ、ユーノ。本当に楽しそうだ。
フェイト嬢はここに来てどんどん速く、強くなって行く。
なのはもそれに応えるように力強さを増して行く。
あの子達は今、戦う事で会話してるんだ」
正しく運命に導かれるように出会った2人。
そして、運命の名を持つあの子は、なのはに導かれるようにその力強さを増して行く。
「フェイトが……笑ってる」
「初めて全力でぶつかっていい相手が出来たんだ。そりゃ嬉しいだろうさ」
なのはもまた笑っていた。
きっとフェイト嬢が徐々に自分に近づいてくるのが嬉しいんだろう。
2人が再び距離を取る。
どうやらこのじゃれ合いもあと僅かで終了らしい。
フェイト嬢がバルディッシュを祈るように構え、金の魔方陣が足元に大きく描かれた。
≪phalanx shift≫
バルディッシュの声は、小さく、それでも俺達の耳に届いた。
なのはの周りに点滅するように魔方陣が浮かんでは消える。
突然、なのはの四肢を金のバインドが拘束した。
【ライトニングバインド……まずい、フェイトは本気だ!】
焦るアルフとユーノ。
それをよそに俺となのはは落ち着き払っていた。
【2人共動くな!】
びくり、と2人の体が止まる。
この勝負はなのはとフェイト嬢のものだ。
間に誰かが入るなんて無粋は俺がさせない!
【動いたら俺が相手だ。遠慮なく潰してやる。今は2人の邪魔をすんじゃねえ】
【お兄ちゃん、ありがとう】
一瞬非難の目を俺に向けた2人がなのはの方を向く。
なのはは両手を広げたまま、フェイト嬢をただ見つめていた。
「アルカス・クルタス・エイギアス、
疾風なりし天神、今導きの下撃ちかかれ、
バルエル・ザルエル・ブラウゼル」
現れた大量の光球をその場に残し、フェイト嬢は更に距離を取る。
「なんて子だ。あれだけの詠唱の魔法に更に速度を乗せるってのか」
その様子に俺も思わず目を剥く。
有り余らんばかりの才能に、その真っ直ぐな瞳。
どちらも今の俺には眩しすぎた。
「カートリッジロード!
フォトンランサー・ファランクスシフト・バースト」
≪load cartridge! photon lancer phalanx shift burst≫
フェイト嬢の持つ最速の移動法、ソニックムーブが発動。
魔方陣まで一気に詰めて、バルディッシュを振りぬく。
「撃ち砕け! ファイア!!」
勢い良く飛び出して行く光弾達。
それを見てなのはは、やっぱり笑った。
【それがフェイトちゃんの全力なら……全部受け止める!】
決意のこもった念話と共に、全光球がなのはに着弾する。
「さて、と」
そろそろ出番だろう。
ドラッケンとタケミカヅチを装備する。
「アランさん、何を?」
「そろそろこの戦いも決着だ。お客さんのお迎え準備さ」
上空から目を逸らさずに答えた。
爆煙の中心になのはを感じる。
あいつは想いを貫いた。
なら俺も俺の仕事をしなくちゃな。
再び高まって行く魔力。
桃色のバインドがフェイト嬢を拘束した。
「バインド!?」
「いった~。でも受け取ったよ、フェイトちゃんの全力」
煙の晴れた先には不敵に笑うなのは。
手にはバスターフォームのベオウルフ。
「まずっ!? ユーノ、アルフ、結界の強化を!
あの馬鹿、全力ったって限度があるだろうが!? 本気であれを撃つ気だ!!」
「え、ええ!? いったいなんなんだい?」
「あれって、まさかあれですか!?」
一度見ている分ユーノの動きは素早い。
結界の強化が終わった所でなのはの声が辺り一面に響く。
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション!!」
現れた馬鹿でかい魔法陣。
その中心で構えられたベオウルフの先端へ、周囲に漂ってる魔力素ごと魔力が集中して行く。
その中には金色の魔力も含まれており、
「ええっ、そんなのずるい!」
激しく同感。
≪starlight breaker≫
ベオも止めてくれりゃいいのに。
俺は公園に被害が出ないよう、更に結界の基点設置を始める。
間に合うかどうかは微妙な所だが、最悪基点が足らなくとも無理矢理発動させるつもりだ。
フェイト嬢も身の危険を感じたのか、バインドから逃れようともがく。
リミッターを外すの許可したのは俺だが、流石にフェイト嬢がかわいそうに思えてきた。
「これが私の全力全開!」
「風力解放80%! 風陣結界発動!!」
≪wind formation 80%≫
間に合った!
なのはが魔方陣に集束した特大魔力弾へベオウルフを振り抜く。
「スターライトブレイカーーーーー!!!」
桃色の魔力砲撃がフェイト嬢を襲い、そのまま海へ叩きつけられた。
「やっべぇ、フェイト嬢生きてっかな……」
「フェイトーーーーッ!!?」
非殺傷設定でも死にそうな勢いだったぞ、今の。
教育やり直したほうがいいかなあ?
現実逃避気味にそんな事を考えていたら、ようやく魔力の奔流が収まった。
なのはの方も今ので殆ど魔力を使い切ったらしい。
フライヤーフィンが点滅しており、今にも消えてしまいそうだ。
「まずいっ、気を失ってる!」
ふらりと仰向けにフェイト嬢が落下して行く。
「フェイトちゃん!」
海に落ちた彼女を追ってなのはが海へ飛び込み、しばらくしてフェイト嬢とバルディッシュを抱えながら出てきた。
朝日が昇りきり、2人を照らす。
それはまるで1枚の絵画のようだった。
「っ」
「あっ、気付いた? フェイトちゃん。ごめんね、大丈夫?」
なのはが腕の中のフェイト嬢を見ながら問いかける。
あれだけやっといてお前が聞くか……
まあRSBじゃなくてSLBだったので一応加減はしたとも言えるが、とりあえずあの2種類は人に向けて撃たないように後で注意しておこう。
……と言うか普通、集束砲は人間に向かって撃たねえだろ。
フェイト嬢が微かに頷くとなのはが微笑んだ。
「届いた、かな? 私の……勝ちだよね?」
「そう……みたいだね……」
≪put out≫
フェイト嬢が認めるとバルディッシュがジュエルシードを排出する。
全部で7個。
驚いたな、シアの奴まさかフェイト嬢に全部持たせていたとは。
「飛べる?」
聞いてからなのはが彼女を放すと、フェイト嬢は自力で飛び始めた。
そろそろ、か。
「風斬」
≪wind blade≫
あらかじめ血は出しておき、飛ぼうとした所、
「来たっ、瞬動!」
≪max flash≫
移動しながら陣を描く。
着雷位置にいたフェイト嬢を突き飛ばした。
「えっ!?」
「理を以てアラン・F・高町が命ず──────出でよ、血界雷方陣!」
両手にぐんと重い感触。
蒼と紫が拮抗するが、前回のように押し負ける事はない。
対シア用に構築したこいつで、今度こそ、防ぐ!
狙われたのはフェイト嬢とジュエルシード。
フェイト嬢の方が失敗した今、
【エイミィ!】
【任せて! アランさん】
彼女の魔力に包まれ移動して行く7つのジュエルシードは、そのまま雲の切れ間に消えていった。
【どうだ?】
【尻尾掴んだよ!】
【これから武装局員を送り込むわ】
【先生はフェイト・テスタロッサとアルフを連れて戻ってきてください】
【了解】
今の所事態は作戦通りに推移している。
少しだけ肩の力を抜き溜息をつく。
そこで今まで呆然としていたなのはとフェイト嬢が俺に寄ってきた。
「あ……あの……」
「すまんが、君の身柄も一応こちらで確保させてもらうぞ」
「お兄ちゃん!?」
「なに、彼女の場合被疑者ではあるが本質的には保護だ。悪いようにはしねえさ」
「…………うん」
なんとなく納得いかなそうではあるが、なのはも一応頷いてくれた。
「ユーノ、転送陣を。アルフも手伝ってくれ」
「はい」
「……わかったよ」
今度は5人で、俺達はアースラへと舞い戻った。