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「ありがとうございました」
扉が開いて、医務室からなのはが頭を下げながら出てきた。
それを見ながら俺は寄りかかっていた壁から身体を起こす。
「あ……」
「よっ」
俺が右手を挙げると同時、
「なのはっ」
「検査結果、どうだった?」
俺以外の三人、フェイト、ユーノ、アルフがなのはの元へと走っていった。
おいおい凄い勢いだなと感心している俺の事は全スルーらしい。
ユーノの質問になのはは笑顔で右拳を握って見せ、
「無事完治!」
「こっちも完治だって」
フェイトの喜びを隠さぬ声に俺の頬が緩むのを自覚。
ユーノの手からレイジングハートがなのはに手渡され、彼女はその赤い宝玉をまじまじと観察、最終的に首を捻った。
どうしたのかと彼女を見ていると、なのははレイジングハートを俺の方に差し出してきて。
「ジンゴ君、レイジングハートが帰ってきてからのお楽しみって言ってたけど、どこが変わったの?」
「あー、そりゃそのままじゃ分からんだろうさ。
注意事項なんかもマリーから聞いてあるから、司令部に戻ったら話そう」
「うん、じゃあ早く戻ろ」
司令部兼ハラオウン宅へ向かおうと、皆揃ってぞろぞろとゲートへ移動して。
丁度中継ポートを降りた所で、
「えっ!?」
「アラート!?」
思い出してトールを指にはめ直した瞬間、突然聞こえ始めたのは警告音。
発信源は司令部にいるエイミィと連絡を取り合っていたユーノの通信機だ。
俺はユーノに走り寄ると、通信機に叫ぶように呼びかける。
「エイミィ、どうした!」
『ジンゴ君? 近距離にて緊急事態だよ!』
「リン姉の指示は?」
『都市部上空だから武装局員の大半で結界を布いて……今、クロノ君が現地に向かったよ!』
「対象は?」
『鉄槌の騎士ヴィータと盾の守護獣ザフィーラの二名。
まずいよジンゴ君、いくら武装局員がいても彼等とクロノ君だけじゃ……』
「落ち着け……くそっ、ここからだと転送に最低でも一〇分はかかる。
急いで戻るから、クロに無理はせずに時間を稼げって言っといてくれ!」
『わかった。なるべく早くね!』
「了解!」
通信を終えて中継ゲート内を全員で走り出す。
今回は皆まで言わずに察してくれるのでありがたい。
地球へのポートは……あれか!
ポートに駆け込むと俺はすぐに脇に待機していた若い局員に呼びかけた。
まあ、若いとは言え俺よりは年上なのだが。
「緊急事態だ! 第九七管理外世界地球・極東地区海鳴市都市部上空へ至急転送を!!」
「はっ、了解しました!」
素早くコンソールを彼が操作し、ポートに転送陣が展開される。
足元から溢れ出る魔力光でさえじれったく感じられた。
早く……早くしろ!!
焦っても転送の時間が早くなるわけではない。
それでもその転送が完了するまでの時間がもどかしい。
視界がクリアになると、そこはビルの屋上。
上空ではクロと睨み合う騎士が二名。
右手を前に、構える。
俺の指できらりと光るロブトールがどうにも頼もしかった。
「レイジングハート」
「バルディッシュ」
「ロブトール」
「「「セーットアーップ!!」」」
≪order of the setup was accepted≫
≪operating check of the new system has started≫
≪standby ready, set up...good morning my lord≫
「っし」
通常起動のロブトールと違って、なのは達のデバイスは新システムの初期起動。
尤もマリーが何か弄ったのか、ロブトールもいつもよりは饒舌だったが。
いつもとは異なる起動を行う相棒達に二人は戸惑っていて。
しかし、彼女等の愛杖はそんな主人の様子には関係なく、己が仕事を全うしようとコマンドを入力し続ける。
≪exchange parts are in good condition, completely cleared from the neuro-dyna-ident alpha zero one to beta eight six five≫
≪the deformation mechanism confirmation is in good condition≫
「えっ、こ……これって……」
「今までと……違う……」
「落ち着け。今は新システムの立ち上げをしている所だ。今は相棒達に任せておけ!」
くそっ、ぶっつけ本番になるなんてな。
先に少しでもいいから説明しときゃよかった。
なんか最近いつもこんな事ばっか言ってる気がするぜ。
≪main system, start up≫
≪haken form deformation preparation: the battle with the maximum performance is always possible≫
『レイジングハートも、バルディッシュも、ロブトールに協力してもらって新しいシステムを積んだの』
「新しい……システム?」
≪an accel and a buster: the modes switching became possible.
The percentage of synchronicity, ninety, are maintained≫
『その子達が望んだの。自分の意思で、自分の想いで!』
「名付けろ。そいつ等の想いに応える為に、相棒のの新しい名を!」
≪condition, all green. Get set≫
≪standby, ready≫
さあ、準備が出来たぞと言わんばかりの力強い声。
己が愛杖に応える為に、二人は新たな名を高らかに告げた。
「レイジングハート・エクセリオン!」
「バルディッシュ・アサルト!」
≪≪drive ignition≫≫
バリアジャケットと各々の杖が展開される。
俺達を見て赤の騎士が驚きをその顔に乗せた。
そりゃそうか。
普通、こんな無茶な真似をする奴いねえよな。
内心でごちながらベオウルフを武装局員の下に向かわせる。
目的は封鎖結界の強化だ。
同時、俺は気合を入れる為、拳を打ち付けあう。
「今日は……逃がさん!」
飛んでいくベオを見送って、俺は上空を睨みつけた。
その俺の隣になのはとフェイトが降り立ち、同じように上空、ヴィータとザフィーラを見詰める。
「私達はあなた達と戦いに来たわけじゃない。まずは話を聞かせて」
「闇の書の完成を目指してる理由を!」
「……あのさあ」
二人の言葉に対し、彼等は腕を組みながら白けた眼を俺たちに向けた。
特にヴィータの視線はザフィーラよりずっと冷たい。
「ベルカの諺にこう言うのがあんだよ。……和平の使者なら槍は持たない」
「「……?」」
あれ? と言う目を二人は発言した、ヴィータに向ける。
どう言う意味と顔を見合わせ首を捻る二人に溜息。
戻ったら国語の勉強をさせよう。
今のは知らなくても文章上で読み取れる範囲だし。
固く決意する俺の上でヴィータは槌を振り、俺達を愛杖で指すように構えた。
その姿が妙に似合っていて、俺はハンマーでも杖って言うのかなとついついよそ事に気を回したりして。
そんな俺の内心には関係なくやり取りは続いていく。
「話し合いをしようってのに武器を持ってやってくる奴がいるか馬鹿って意味だよ! バーカ!!」
「なっ、い、いきなり有無を言わさず襲い掛かってきた子がそれを言う!?」
ちなみに彼女は言わせるつもり、なかったんだろうけどな。
とりあえずはなのはに同意。
更に言えば、俺の記憶が確かなら……
「「それにそれは諺ではなく、小話のオチだろ(だ)」」
あ、ザフィーラと被った。
「うっせー、いいんだよ、細かい事は」
「誤魔化したな……」
「誤魔化したね」
どうして俺の周りってシリアスが続かない奴が多いんだろう。
そんな詮無い事を考えた瞬間、新たな魔力光が結界を抜けて現れた。
このタイミングで来る薄紫の魔力と言ったら彼女しかいないだろう。
「ベオ、結界強化はどうした!?」
【申し訳ありません。内部強化を終え、外部強化をしようとした所で抜かれました】
「ちっ、仕方ねえか……」
現れた魔力が落ちたビルを目を細くして観察。
煙の晴れたその先に、彼等の将が姿を現した。
「っ、シグナム」
緊張したフェイトの声。
彼女の声が聞こえたかのように、シグナムは着地姿勢から立ち上がると俺達をただ見詰めてくる。
なのははと言えば真っ直ぐにヴィータを見詰め、
「ジンゴ君、ユーノ君、クロノ君、手え出さないでね。私、あの子と一対一だから!」
【アルフ……】
同時にフェイトの念話が響く。
彼女の目もなのはと似たような感情を湛えており、シグナムから剥がされる事がない。
【私も、彼女と……】
【ああ、あたしも野郎にちょいと話がある】
アルフはザフィーラと、か。
まったくさあ……
そんな三人の様子を見ながら、俺はやれやれと首を振った。
正直な所、処置なしである。
「なんで誰も指示を聞こうともしねえんだろなあ……」
んでもって、どうして俺の周りにはこうも負けず嫌いが多いかね。
隣のビルの屋上で待機しているクロとユーノに、お手上げとジェスチャー。
なんとなくあちらからも呆れが伝わってきて、同時に三人で溜息をついた。
【なんつうか、あいつら猪突猛進だから今からやめろっつっても無理だよな】
【まあ……僕等の言葉程度で止まるとは思えないな】
【指示系統って言葉、知ってんのかなあ?】
【……クロノ、ジンゴ、頑張って】
いかん、戦場なのに思わず愚痴が入っちまった。
【でもまあ、丁度いいかもしんねえな】
【そうだな。ユーノ、僕達で手分けして闇の書を探すぞ】
【闇の書の?】
【連中は持っていない。恐らく、もう一人の仲間か、主かがどこかにいる。
僕は結界の外を探す、君たちは中を。中の指揮はジンゴに一任する】
【分かった】
【了解。ベオ、聞こえたな?】
【はっ】
【ハラオウン執務官の出入り許可を結界に。後は局員と協力して行動してくれ】
【御意】
指示を出してから女性陣へ向き直る。
彼女等の中ではもうやる事は決まっているのだが、お約束として指示を出しておく必要はあるだろう。
「なのは、フェイト、アルフはそれぞれに戦いながら彼等の事情を聞き出し、可能であれば捕縛。ただし……」
≪master, please call me “cartridge load”≫
「カートリッジの多用は避けろ。
そいつはまだ研究が進んでいないから身体への負担も大きい。
更に改造したアテンザ技官の話じゃフレーム強化が追いつかなかったとの事だ。
カートリッジを含めた全力だとデバイスが自壊する可能性もある事を、二人とも忘れるな」
「うん、わかった」
「わかったよ」
「レイジングハート、カートリッジロード!」
≪load cartridge≫
≪sir≫
「ん……私もだね。バルディッシュ、カートリッジロード!」
≪load cartridge≫
二人の愛機がカートリッジシステムを起動し魔力を上乗せしていく。
一瞬彼女達の魔力光が濃くなったような錯覚に陥り、再び目を細めた。
ちゃんと加減すんだろうな……
二人の様子を見て内心不安になりながらも、俺は拳を握りなおし結界内を見回して飛び立つ。
同時、静かに発した言葉が結界内に響き渡る。
「ジンゴ・M・クローベル執務官、これより任務を遂行する。各員、行動開始」
「「「「了解!」」」」
海鳴都市部上空、結界内を八つの魔力が飛び交い始めた。