[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「カートリッジシステムは、扱いが難しいの」
結局彼等を逃がしてしまった俺達は、作戦司令部であるハラオウン家へ帰ってきた。
今は作戦前に伝えられなかったデバイスの注意事項をエイミィが改めてなのはとフェイトに話している所だ。
「本来ならその子達みたいに、繊細なインテリジェントデバイスに組み込むようなものじゃないんだけどね。
本体破損の危険も大きいし危ないって言ったんだけど、その子達がどうしてもって。
よっぽど悔しかったんだね、自分がご主人様を守ってあげられなかった事とか、ご主人様の信頼に応えきれなかった事が」
その言葉に二人は自分の愛機を見詰めた。
「ありがとう、レイジングハート」
≪all right≫
「バルディッシュ……」
≪yes, sir≫
いいコンビだな。
俺はそんな二組の主従をソファで眺めながら内心ごちる。
エイミィが言葉を続けた。
「モードはそれぞれ三つずつ。
レイジングハートは中距離射撃のアクセルと砲撃のバスター、フルドライブのエクセリオンモード。
バルディッシュは汎用のアサルト、鎌のハーケン、フルドライブはザンバーフォーム。
破損の危険があるから、フルドライブはなるべく使わないように。特になのはちゃん」
「あ……はい」
「フレーム強化をするまで、エクセリオンモードは起動させないでね」
「はい……」
聞いてなのはは真剣な顔で赤い宝玉を見詰める。
その様子をぼんやりと見ていたら、エイミィがこちらに話を振ってきた。
「私からはこんな所かな。ジンゴ君からは何かある?」
「えっと、なんでジンゴ?」
「そいつらは俺のロブトールを参考に強化されてるからな。
トールはロストロギアであるベオの仮宿だけどな、元々は純粋なベルカ式アームドデバイス。
カートリッジシステムはデフォルトで搭載されてんだ」
「あ……それでこの前エイミィに渡してくれって」
フェイトの言葉に頷き、姿勢を正すよう座りなおした。
「大体の注意事項はエイミィが言ってくれた。
俺から言いたいのは出撃の時と同じ、あまりカートリッジを多用しすぎないようにって事くらいだな」
「なんで? ジンゴ」
「そもそもトールにシステムが積まれてるのに、なんで俺が使ってないと思う?」
「えっと……あ、そう言えば身体に負担が大きいって言ってたよね」
「ああ、自分の魔力放出量以上になるように魔力を上乗せするんだ。
大人でさえ負担が大きいのに、俺達みたいな幼年期の……身体が出来上がる前の者にとっちゃ大きすぎる。
使いすぎるとデバイスより先に俺達が壊れる可能性もあるんだ」
二人が息を呑む。
これは脅しではない。
この事を理解してもらえなければ、俺はどんなにデバイス達が反発したとしても、システムの凍結を進言しただろう。
「だから、本当は使って欲しくない。けど今はそうも言ってられないから……」
「うん、気をつけるよ」
「私も」
話が一段落した所で、俺と同じくソファに座っていたリン姉がクロと話を始めた。
「問題は彼等の目的ね」
「ええ、どうも腑に落ちません。
彼等はまるで、自分の意思で闇の書の完成を目指しているようにも感じますし……」
「六六六頁。それだけの数を集めるなら、最後まで搾り取った方が効率がいい。
にも関わらず奴等は、なるべく殺さずにすむように手加減を加えていたな」
深く座りなおし溜息をつく。
そこにアルフが疑問の声を上げた。
「ん、それってなんかおかしいの?
人を殺したくないってのは人間として普通の考えだろうし、闇の書ってのもようはジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ?
だったらその力が欲しい人の為にあの子達が頑張るってのもおかしくないと思うんだけど」
俺達三人は顔を見合わせ、クロがまずは俺からと視線で促した。
頷き、アルフ達へ向き直る。
「人を殺したくないってのは人間の心理の動きとして普通だ。
だけどあいつ等は闇の書の守護騎士、主の命は絶対とする騎士だ。
普通なら蒐集に命をかける騎士達が手心を加えているってのがどうもな。
これは直接対峙した時に思ったんだが、主に命ぜられたから殺さないではなく、どちらかと言うと殺してはならないって強迫観念みたいなもんを感じるんだよ。
今まで襲われた魔導師は数多いが、死人が出てないのはそのおかげだろう」
「それともう一つの疑問に対する答えだが、第一に闇の書はジュエルシードみたいに自由な制御のきくもんじゃないんだ」
「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない。
少なくともそれ以外に使われたと言う記録は一度もないわ」
「……あー、そうか」
アルフが納得するように頷く傍ら、俺は首を傾げる。
んっと、今の話なんか変だよな?
「それからもう一つ──」
「なあ、それっておかしいよな?」
あ、話の腰を折ったか?
すまないと目で謝ると、続けてくれとクロが言う。
悪いなと断ってから口を開いた。
「ベオの話でもこちらの話でも、書の持つ特性は同じだったはずだ。
書は蒐集したリンカーコアからそいつが持ってた魔法を記録、主が利用できるようにする」
「簡単にまとめるとそうなるな」
「なら、蒐集された治癒や補助に関する魔法はどこにいったんだ?」
「……確かに、変だな。まだ隠された情報があるのか?」
「まあ、今ここで話して分かる事じゃないけどさ。こいつは一旦保留だな。
すまん、話を続けてくれ」
「ああ、もう一つはあの騎士達、闇の書の守護者の性質だ。
彼等は人間でも使い魔でもない」
「「「っ!?」」」
「闇の書に合わせて魔法技術で作られた擬似人格。
ベオウルフの話では元になった騎士はいたらしいが……」
「ベオウルフさんが?」
なのはが俺を見てきたので頷く。
この辺りは俺が説明した方がいいだろう。
「ベオはあいつらと同じ技術で作られた騎士の一人だ。
元となるアストラって騎士の人格データを乗せて生み出されたプログラム体だな。
まああいつが自分の意思を持っている以上、俺は人間として扱うが」
どんな形であれ、ベオが俺の魂の半身であると言う事実は変わらない。
「「「!?」」」
「ベオウルフのように自由意思が認められている例はともかく、闇の書の守護騎士達は主の命令を受けて行動する、ただそれだけの為のプログラムに過ぎないはずなんだ」
「あの……使い魔でも人間でもない擬似生命って言うと……私みたいな?」
「っ、違うわっ!!」
「「あ……」」
その言葉に過剰な反応を示したリン姉。
なのはとフェイトは大声に驚いたのかびくりと肩を揺らし、彼女を見た。
「フェイトさんは生まれ方が少し違っていただけで、ちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ」
「検査の結果でもちゃんとそう出てただろう? 変な事言うものじゃない」
「フェイトはちゃんと独自の魂を持って生まれた人間だ。
それ以上はお前の魂に対する侮辱だぞ?」
「はい……ごめんなさい」
一瞬にして暗く沈む空気。
どうしようか考えあぐねていた所で、
「あー、モニターで説明しよっか」
エイミィが少々わざとらしく明るい声で空気を払拭した。
端末を操作して部屋の中央にモニターを表示させる。
モニターの中心には件の魔導書と、そして四方に書の騎士達が表示される。
データを見ながらクロとエイミィ、リン姉が解説していく。
「守護騎士達は闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取ったもの。
闇の書は転生と再生を繰り返すけど、この四人はずっと闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」
「意思疎通の為の対話能力は過去の事件でも確認されてるんだけどね。
感情を見せたって例は今までにないの」
「闇の書の蒐集と主の護衛、彼等の役目はそれだけですものね」
「でもあの帽子の子、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし……」
「シグナムからもはっきり人格を感じました……
なすべき事があるって、仲間と主の為だって……」
「主の為……か」
酷く複雑な表情で呟くクロを眺めながら、腕を組んで情報を纏める。
ふと思いついた事をそのまま口にした。
「感情の発露ってのは……」
「「「「「?」」」」」
「余裕のある生物にしか見られない独特のものだそうだ。
もしかすると過去の事件とは状況が違うのかもしれないな」
「状況が……」
「違う?」
「元々守護騎士達は実在の人物の人格を移植された上で生まれている。
なら、ベオと同じように感情を持ち合わせていたはずだ。
ベオの奴も鉄面皮だが感情自体は結構豊かだしな」
「そうなのか?」
「ああ、ついでに言やあれで結構頑固者だぞ。
もし、守護騎士達が長い旅路の中で感情を凍らせていったのなら……
もし、今の主がそれをとかしたとしたら……
仮定に仮定を重ねてはいるが、筋は通ると思わないか?」
俺の言葉に皆が思考に沈んだ。
ふと俺の中にちょっとした考えがよぎる。
ただ力を欲するような輩に研鑽を旨とする騎士が心を開くとは考えにくい。
今の主は騎士達を駒じゃなくて人間扱いしてるんじゃないだろうか?
その場にいるメンバーを見て今の考えを胸の内にしまい込む。
なんだかんだ言ってここにいるメンバーは皆情が深い。
リン姉でさえ、仕事として割り切る事は出来ているが事件後苦悩している所を見た事がある。
こんな事を考えれば戦いの手が鈍るかもしれない。
その時撃墜されるのは現場に出ているなのはやフェイト、クロで。
エゴだと分かっていてもそんな場面だけは見たくないと思ってしまう。
固まってしまった俺達をリン姉が取り成した。
「まあ……それについては捜査に当たっている局員の情報を待ちましょっか」
「転移頻度から見ても、主がこの付近にいるのは確実ですし……案外、主が先に捕まるかもしれません」
「あー、そりゃ分かりやすくていいねえ」
「だねえ。闇の書の完成前なら持ち主も普通の魔導師だろうし」
普通の魔導師、か。
それなら単純でいいんだけどな。
守護騎士を人間扱いする。
その言葉からは通常のミッドによくいるタイプの魔導師像は浮かんでこない。
それこそ俺のような異端か、もしくはもっと純粋な……
「それにしても、闇の書についてもう少し詳しいデータが欲しいな」
「クロの言う通りだな。ベオも詳しい事は知らなかったし……」
ふと正面にいるなのはの肩に、俺とクロの視線が集まる。
俺達は顔を見合わせると頷きあった。
丁度いい奴がいるじゃないか。
クロは少し前に歩くと、なのはの肩に顔を寄せる。
そこには何故か、またしてもフェレットになって肩に乗ってる彼がいた。
「ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」
「? いいけど」
帰り道、帰宅するサラリーマンの流れに逆らいながら俺となのはは歩いていた。
ユーノは相変わらず何故か彼女の肩に乗ったままだ。
【ねえ、ユーノ君、ジンゴ君、闇の書の主ってどんな人かなあ?】
【闇の書は自分を扱う資質を持つ人をランダムで転生先に選ぶみたいだから……】
【その辺りはベオと同じだな。
まああいつは自分が転生するわけじゃなくて、自分の元に呼び寄せるんだが】
【そっかあ。ふふっ、案外私達と同い年位の子だったりしてね】
【うーん、さすがにそれは……】
……いや、そうか。
ありえないわけじゃないな。
そうすれば仮説に筋が通る。
ようは資質の問題なわけだし。
あのクラスのロストロギアの持ち主になるって事は、かなりの魔力を要する。
だが、もし書が潜在能力も含めて主を選出しているとすれば……
前回の事件は確か一一年前。
その後子供の所に転生したとすれば未成熟なコアから魔力を搾り取る事になるぞ。
それが招く結果を思い浮かべぞくりと背筋に悪寒が走る。
丁度そこで機械的な音に現世に連れ戻された。
鳴っているのはなのはの携帯電話だ。
信号待ちをしながら、なのはが携帯を操作している。
画面からユーノが目を逸らした所を見るに、どうやらユーノなりに気は遣っているらしい。
「ふふっ、すずかちゃん今日は友達がお泊りに来てるんだって」
【そうなの?】
「へえ、誰が? そんな風に言うって事はアリサじゃないんだろ?」
「うん、ほら」
差し出された画面に映っているのはすずかと茶髪の女の子。
セミショートくらいの髪の、愛嬌がありそうな子だ。
「八神はやてちゃん。今度紹介してくれるって」
【へえ】
「そうか、楽しみだな」
「うん!」
いい加減男の友人が欲しいと思わなくもないが……
周りに女の子ばかり増えていく現状に溜息をつきそうになる。
ふとすぐ隣、彼女の肩の上にいるフェレットが目に入った。
それに、少しだけ口元が緩んだのを自覚する。
悪友は足りてる、か。
信号が青に変わる。
俺達は笑い合うと、足取り軽く一歩を踏み出した。