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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 静かな執務室に機械音が響く。
 自分の端末を確認すると、司令部に待機しているエイミィからだった。

「ちょっとごめんなさい」
「あ、リン姉もか。俺の所にもだ」

 と言う事は事件絡みか。

 目の前で食事を続けているレイ姉に断ってメールを開く。
 目を通している内に表情が厳しくなっていくのが分かった。

「事件?」
「ええ、また管理外世界に現れたらしいわ。それも二ヶ所」
「最初にフェイト、アルフの嘱託組みがシグナム、ザフィーラと交戦。
 別世界に現れたヴィータに対しては民間魔導師高町なのはが出撃。
 共に捕縛は失敗、か。問題は……」
「この、報告にある謎の男とクラッキングね」
「ああ、特にクラッキングの方はどうやってセキュリティを抜いたか謎だしな。
 そう簡単に抜けるもんじゃねえはずだ。
 それにしても……ホント趣味悪いよな、あの仮面」
「えっと……私にも分かるように説明して欲しいのだけど……」
「ああ、ごめんレイ姉」

 彼女はこの事件を担当しているわけではないので事件の詳細を知らない。
 一応頭の中の情報をさらって、話せない事はないと確認する。

「事件の発端はレイ姉も知ってるだろ?」
「ええ、第一報を受けたのは私だもの。
 丁度ジンゴ君が最後に運用部へ足を運んだ時の事ね」
「ああ。その後、魔導師襲撃事件が起こっている中心は俺が今住んでる世界なんじゃないかって事で、司令部が第九七管理外世界に置かれた」
「きっかけはなのはさんが襲われた事ね。
 調べたら事件は全てあの世界から個人転送で行ける範囲に収まってたの。
 今はアースラも使えない事だし、任務を受けた私がなのはさんの保護を兼ねてあの街に司令部を設置したわ」
「あの街?」
「例の、PT事件の中心地よ。第九七管理外世界極東地区・海鳴市」
「ああ、彼女の関わった事件ね」

 彼女と言うのはフェイトの事だろう。
 レイ姉はフェイトの嘱託魔導師認定試験の時会っているし、なのはとは面識がなかったはずだ。

「なのはを襲っていた者達のデータから、対象ロストロギアを闇の書と特定。
 この辺、なんで上層部から情報が下りてこなかったのかは謎だな。
 ついでにベオウルフが敵対している守護騎士と知り合いだったよ」

 端末からウィンドウを起こし、守護騎士四名を映し出す。
 それを見てレイ姉はほうと溜息をついた。

「後方支援のシャマル、守護を司るザフィーラ、アタッカーのヴィータ、んでもって四人を纏める将、シグナム」
「面と向かって敗北したのは今回を含めると三回。
 それ以前に魔導師が襲われていた事を考えれば一〇ではきかないわね。
 尤も今回に関しては、本部が手薄になっていたと言う事もあるから仕方ない面はあるのだけど……」

 だな。
 クロも仕事で司令部にはおらず、動かせる魔導師はなのは達だけだったみたいだし。
 更にそこへ追い討ちをかけるように司令部端末へのクラッキング。
 そのせいで取れたのはなのは達のデバイスから得た戦闘データのみときた。
 ……俺、あっちにいるべきだったんじゃねえかなあ、今更だけど。

「前々回ではなのはが、今回はフェイトがリンカーコアを抜かれたらしい」
「コアを抜かれたって……それ、大丈夫なの?」

 顔見知りなのが大きいのだろう。
 レイ姉は心底心配そうに聞いてくる。
 俺とリン姉は一応と前置いて頷いた。

「なのはに引き続き命に別状はないってさ。
 魔法が数日使えない程度らしい。
 クラッキングの方もセキュリティを強化して物理接触なしには侵入できないようにエイミィが調整したって。
 …………問題は」
「前回から姿を見せている仮面の男ね」

 ウィンドウに例の不審魔導師を映し出す。
 それを見て、対面に座る彼女はその美しい眉をゆがめた。

「ジンゴ君の言う通り趣味悪いわね」
「だろ? 前回俺が相対したときはかなりの体術の錬度の持ち主だった。
 更に今回はなのはが視認ギリギリの距離から遠隔バインドをくらったらしい。
 かなりの使い手、それも騎士達と手を組んでるわけじゃねえみたいだ」
「姿を見せない主に目的が不明瞭な騎士達。更に謎の第三勢力、か」
「リンディの関わる事件ってどうしてこう厄介なのが多いのかしらね」
「いつもの事よ」

 リン姉は肩をすくめて気を落ち着かせるように紅茶を口に含む。
 けど、俺と同様落ち着ける状態ではないらしい。
 先程から俺達は早く海鳴に戻りたくてうずうずしている。
 にも関わらずリン姉が戻ろうと言い出さないのは何か話があるからなのだろう。

「ん?」

 ふと、エイミィから送られてきたレポートを見ながらひっかかりを覚える。
 ウィンドウを新しく起動させて同時に表示。
 見比べて気付くのは違和感。
 そして優秀な管制官も同じ事を考えたらしく、レポートの最後にひっそりとそれが記入されていた。

「九分、だって?」
「どうしたのジンゴ君」
「あ、いや、最初例の男はなのはの方に現れたらしいんだ。
 とりあえずヴィータを気絶させて捕縛しようとしてたらしくて、遠距離から砲撃。
 それを助けるように仮面が現れたってあって……」
「あら? これは……」
「けどその九分後、今度はフェイトのリンカーコアを抜いてる。
 二つの世界は結構な距離があるし、エイミィの計算じゃどんなに頑張っても二〇分はかかるって」
「それは……おかしいわね」

 三人で机を囲んだまま腕組みして考え込む。
 もしこのスピードを実現しようとするなら、管理局で使われている転送ポートを使うくらいしか思いつかない。
 だけど、この二つは管理外世界。
 ゲートなど存在しない。

「っと、いけない。本題を忘れる所だったわ」

 リン姉の言葉に引き戻される。
 それに、表情を改めた。

「それが、さっさと帰りたいのに帰ろうとしない理由?」
「ええ。きっとあっちにいたんじゃ話してくれないと思ったから」
「……それで、ここまでして何が聞きたいの?」
「ジンゴ君、闇の書の主に関して何か考えついてるんじゃないかと思って」

 どきりと心臓が跳ねる。
 対するリン姉は俺を真剣な目で見つめていて、釣られるようにレイ姉も俺を見ていた。
 二つの視線に射抜かれ、ばつが悪くなるような気分を味わう。

 本当ならリン姉にもいいたくなかったんだけどなあ……

 彼女は、優しすぎる。
 提督と言う職業が向かないほどに。
 俺が今から言う言葉は、確実に彼女の苦悩を上乗せするに違いない。

 だけど……

 ちらりとリン姉に目を合わせる。
 揺るがない真っ直ぐな光。
 それにガリガリと頭をかいた。

 やれやれ、こりゃ誤魔化せそうにないな。

「あー、あの時はまだ仮説だらけだったし刺激もしたくなかったからさ。
 けど、今回エイミィのレポートで信憑性が出てきたっつうか……」
「「?」」
「このザフィーラの発言だ。主は蒐集について感知してないってとこ」

 トントンとモニターを叩くと二人が確認するように覗き込む。
 実際には主はこの事を知らないと言っただけだし、更に言えば敵対魔導師の言葉だ。
 どこまで信じていいのかは分からないが、この言葉を背景に置けば俺の仮説に筋が通ってくるのも確か。

「ええ、確かにアルフさんが聞いたみたいね」
「主に忠誠を誓っているはずの騎士が、主に秘密で動いている事が一点。
 今まで感情を見せなかった騎士達が、今回は感情豊かに自分で動いている事が一点。
 闇の書の転生要件が“書を扱える資質”である事が一点。
 これを繋げて考えてみた」
「……って、まさか!?」
「今回の主、もしかしたら魔導師じゃないかもしれない」

 息を呑む二人。
 その瞳は信じがたいと言う彼女達の感情を俺に語る。
 しばし無言の時が流れて。
 さてどう説明したものかと虚空を睨みつけた。

「……感情を凍らすって事はさ、役目に徹さないと今までやってこれなかったって事だろ。
 今までかなりの数の主の下を渡り歩いて来たんだと思う。
 そしてその主が善良な者である保証もなく、表向き善良でも力をいきなり与えられればそれに目が眩む者もいるだろう。
 そんな経験をしてきた騎士達がそう簡単に主に忠誠を誓うもんかな。
 それで思ったんだ、今回の主は今までとは大分毛色が違うんじゃねえかって」
「けど、忠誠を誓ってるとは……」
「誓ってるよ、多分ね。直接対峙しないと分からない事も多い。
 少なくともシグナムは確かに、主と仲間の為と謳って動いてた」
「……けどそれだけでは魔導師じゃないとは言えないわよ?」
「うん、確かにレイ姉の言う通りだ。そこで気になるのが──」

 再びトントンとウィンドウを指先で叩く。

「──主に秘密で集めてるってとこ。深読みすれば主は蒐集を望んでないって事だ」
「それは極論じゃないかしら?」
「まあ最後まで聞いてくれよ。意外に辻褄が合っちゃうんだ、これが」

 端末にロブトールを繋ぐ。
 コンソールを操作して映し出されたのはこれまでの事に関する考察。
 この考察、きっかけはなのはの言葉だった。

「まずは印象。俺はさ、この主、かなり純粋な人間なんじゃないかと思うんだよ」
「純粋?」
「闇の書ってのは完全にランダムで転生するわけだろ。
 もし地球に主がいるなら、主は地球人である可能性が高い。
 あそこは魔法文化がある事にはあるけど……管理世界のそれとは随分毛色が違う。
 突然わけのわからない力を渡されて、はいそうですかと受け入れられるもんかな?」
「……普通はないわね」
「ん。現れた正体不明の人物を受け入れ、闇の書の蒐集、つまり力を手に入れようとする事を拒否できる。
 導き出される人物像はあまり魔導師っぽくないよね」
「いないとは言えないけど……」
「難しい、かしら」

 よしよし、ここまでは順調っと。
 こっからがトンでも説になるわけだけど。

「じゃあ、それを受け入れられるだけの素養が主にあったらどうだろう?
 あとはそうだな、守護騎士達の動機が不明瞭な事。
 これの理由付けができる条件に当てはめて、思ったんだ。闇の書の主は……」

 ごくりと喉が鳴る。
 緊張でからからになった喉をほんの少しだけ潤すと、そのまま口を開いた。

「もしかしたら子供なんじゃないかって」
「子供!?」
「そんな!? まさかよ」
「でもそうすると筋が通っちまうんだよ。
 守護騎士が人間性を取り戻したのは人間扱いされたから、とかかな。
 これは主が子供なら、対象が人間の形をしていれば人間扱いするに決まってる。
 蒐集を拒否できるのも余程意思の強い人間か、真っ直ぐに正しい事を信じられる者。
 ほら、どこにも違和感がない」
「でもっ」
「極めつけは彼等の動機だ。ロストロギア闇の書は主を資質によって選び出す。
 そこにさ、落とし穴があるんだよ。
 この資質に潜在能力が含まれていたとするのなら」
「未成熟なコアと魔導書が繋がった? ありえない事じゃないわね……」
「主が今も書に魔力を搾取され続けているとすれば、彼等の動きにも筋が通る。
 主に逆らってまで動く理由は他ならぬ主の為に」
「でも、書が完成すれば主は破壊者になるのよ!?」
「そこが問題なんだ。それと主の命を天秤にかけたか、もしくは……」
「もしくは?」
「騎士達がそれを知らないって事はないか?」
「し……知らないって、そんな。今までだって……」

 リン姉の声を聞きながら端末を操作する。
 モニターに浮かび上がったのは局に残されていた限りの事件資料。
 尤も大半のデータは消され、閲覧する事が出来なかったが。

「主が完全に覚醒した際、守護騎士達が存在したって言うデータは皆無。
 闇の書の完成と共に姿を消している」
「まさか……書を守る騎士達がそんな基本的な事も知らないなんてありえるの?」
「ベオの存命中の開発コンセプトと変化してるって話があったし。
 騎士達が知ってるのは元の書の形で、今の書が完成した後の結果を知らないとか……駄目だ、穴があるな。
 まあ、ちょっと突拍子もない話だとは俺も思うけど」

 右手を伸ばしてティーカップを手に取る。
 流石に話しっぱなしで喉が渇いた。

 む……冷めても美味いな、これ。

「俺の主に関する考察はこんな所だな。
 もちろんちょい異端の魔導師が主である可能性もあるし、仮説に仮説を積み重ねた穴だらけの話だけど」
「そうね。だけど主の捜索を魔導師以外にも広げる必要がある事が分かっただけでも収穫よ」
「悪いなリン姉。仕事増やして」
「いいえ、見逃した可能性を潰せるだけ御の字よ。
 ごめんねジンゴ君、こんな詰問するような形になっちゃって」

 その言葉にレイ姉もすまなさそうな顔を見せる。
 どうやら彼女もリン姉が俺から聞きだそうとしていた事を知っていたらしい。
 やれやれと溜息をついてから当然だと納得する。
 普通なら少しでも何か思いついたら担当責任者に話すべきなのだ。
 それを怠ったのは俺。
 ある意味で俺は命令違反を犯していたようなものだ。

「構わないさ。きっとどこかでリン姉には話さないといけない時が来たと思うし。
 それよりこの話は──」
「ええ、なのはさん達には話せないわね。あの子達はまだ幼いし、優しすぎるもの」
「ん、あんがと」

 ロブトールや端末をしまっていくとレイ姉がごめんなさいと頭を下げた。
 俺はそれに気にしてないからと手を振って腰を上げた。
 リン姉も同時に席を立つ。

「じゃあ、ジンゴ君」
「うん、急いで戻ろう。ごめんなレイ姉、色々と話したい事はあったんだけど」
「構わないわよ。リンディもジンゴ君も現場が気になって仕方ないみたいだし」
「また、時間を取ってこっちへ会いに来るから」
「ええ、楽しみに待っているわ」

 頷き返し、俺とリン姉は早足でレイ姉の執務室を辞す。
 夕食をほぼ食べ損ねたが、そんな事は気にならなかった。
 命に別状はないと聞いてはいても、フェイト達の様子が気になる。

「ジンゴ君、急ぐわよ」
「うん!」

 俺とリン姉は本局の廊下を走り始める。
 走りながら、ふと、あの騎士達はどんな風に日常を過ごしているのだろうか、そんな事を頭の隅で考えていた。
 

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自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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