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軽い機械音と共に艦長室の扉が開く。
実はこの部屋に入るのは俺も初めてだ。
「艦長、来てもらいました」
「あっ」
なのはが妙に反応しているので、何事かと部屋の中を覗き込み、頭を抱えた。
部屋の中にはなぜか大量の盆栽と茶道の道具、室内にもかかわらず鹿威し。
更には畳の上に赤い敷物を敷いて、リン姉が正座していた。
「お疲れ様。まあ、お二人とも楽にして、どうぞどうぞ」
にこやかに手を合わせながら席を勧めるリン姉に頭痛が酷くなる。
「ハラオウン提督……」
「あら、ジンゴ君、どうしたの? 何か間違ってたかしら?」
「ええ、大分」
部屋のあちこちを指差し、
「個々は確かに日本文化の数々ではありますが、これは違います」
「?」
俺の言葉に疑問顔のリン姉と大きく頷くなのは。
そうだよなあ、これは違うよなあ。
同意してくれる奴がいてよかった……
「これでは日本文化を大いに勘違いした外国人そのものです」
「……結構気に入ってるのだけど」
「なるほど。俄か日本ファンでしたか」
俺の言葉を受け、畳に手を突いてへこむリン姉。
それを見て汗をかくユーノとなのは。
頭痛を感じるらしく頭を抑えているクロ。
色々とカオスだなあと俺は現実逃避した。
とりあえず二人をリン姉の対面に座らせ、クロがお茶を用意する。
これ見よがしに置いてあった湯飲み四つは華麗にスルーした。
これから話を聞くのに客人が倒れるとかありえねえだろ。
あれは……ある意味爆弾と大差ねえしな。
事実、彼女が淹れておいた茶を間違って飲んだせいで、一日仕事にならなかった執務官が俺の隣にいる。
彼女の場合あの四つが好意によって用意された物だと分かってしまうので、なおさら性質が悪い。
俺とクロは視界に湯飲みを入れないように目を逸らし、それに気付かない振りをして席を整えた。
「どうぞ」
「は、はい」
「あ、ありがとうございます」
クロが新たに淹れたお茶と羊羹を二人に差し出す。
先程のやり取りで少しほぐれたようだが、それでもなのは達は緊張気味のようだ。
お茶が行渡った事を確認し、俺も座る。
「改めて、時空管理局提督巡航艦アースラ艦長リンディ・ハラオウンです」
「同じく、アースラ所属、クロノ・ハラオウン執務官だ」
「同本局統幕議長直属、ジンゴ・M・クローベル執務官」
自己紹介をすると、二人は顔を合わせ、少年の方から口を開く。
「ユーノ・スクライアです」
「ああ、やはりスクライア一族か」
「……そう言えば行方不明者の捜索願が出ていたな」
そうクロは記憶を探りながら思い出したように言った。
「で、君は?」
「あ、はい。えっと、あの……」
なんだろう。
さっきまではもう少しほぐれてたはずなのに、目が合った途端萎縮してしまった。
「ジンゴ君」
「なんでしょう、提督」
「とりあえずいつも通りに戻ったらどうかしら。
私達は慣れているから構わないけど、彼女は初めてだから」
「……ああ、なるほど」
彼女の言葉にようやく原因を悟る。
そういや執務官モードだと無意識に威圧しちゃうんだよな。
ならバリアジャケットも解除しておいた方がいいか。
執務官は局員の中でもエリートだが、幼すぎる子供がなったとなれば話は別だ。
やっかみも多く、現場ではあからさまに子供扱いして命令通りに動こうとしない奴もいる。
そういった奴を指揮下に置く為、必要に駆られて身に着けたスキルなのだが。
どうやら一年以上もそれを繰り返してきたせいで、条件反射になってしまっていたらしい。
ジャケットを解除する。
執務官服を着崩してから、足を崩した。
「ほい、そんで自己紹介をお願いできるか?」
大きく態度の変わった俺を二人がぽかんと見ている。
ま、無理もないか。
我ながら執務官モードとのギャップが酷すぎるし。
「相変わらず見事な切り替えよね。
この戻る瞬間を見るの、最近は楽しくなってきたわ」
「……艦長」
慣れるどころか楽しみだしたか。
流石はリン姉。
心の中でクロに「お疲れ様」と労わりの言葉をかける。
アイコンタクトなのに妙に疲れた声で「ありがとう」と返ってきた気がした。
「えっと、ジンゴ君、でいいんだよね?
その、さっきと大分違うみたいなんだけど……」
「ああ、こっちが素だ。アレはまあ処世術みたいなもんさ。
この年で執務官だとやっかみとかが凄くてなあ」
「ジンゴ、仕事中だぞ」
「んー、リン姉の許可も出てるし、あのまんまじゃ仕事にならんだろ」
はあとあからさまに溜息をつくクロはスルーした。
なのはがこちらをずっと見ていたので、にっと笑いかけてから促す。
「そんで、改めて君の名前は?」
「あ、はい。高町なのはです」
ん、あれ? 高町?
「……極東地区・日本。リン姉、捜索区域は?」
「海鳴市と呼ばれる街を中心に、探しきれなければ範囲を広げる予定よ」
「んー……なのは、悪いんだけどリボン解いてくんない?」
「え、別にいいですけど」
そう言ってなのはが髪を解く。
この顔立ちに栗毛のロング、海鳴と言う土地に高町と言う苗字。
「……桃ちゃん」
そうだ。
この子は彼女に似すぎてる。
「まさか……桃ちゃんとシロさんの娘、とか?」
「え!?」
ありゃ、この反応は大当たりか?
「じゃあ実家は翠屋だったりして」
「そうですけど、なんで知ってるんですか!?」
「うっわ、こりゃどんな確立だよ。世間狭いにもほどがあんだろ。
って事はあの時の子がなのはって事で……やべ、この事件中なのはに何かあったらシロさんと恭さんによるフルボッコの可能性大かよ」
頭を抱えぶつくさ言い始めた俺に周りから視線が突き刺さる。
正直それ所じゃないっての言うのが俺の心情なのだが。
あ、説明責任ありますか?
ありますね、そうですね。
あからさまに話せやゴルァ、とでも言いたげなクロに嘆息した。
「いやさ、なのはの家って昔から実家と交流あるんだわ」
「あれ? クローベルさんなんて外人さん、知り合いにいたかなあ……」
「あ? ああ、そうか。俺養子入りしてるしな。
実家は生みの親の方。俺、生粋の日本人だし」
「え……えええええええええええっ!?」
そんなに驚かなくても……いや、驚くか。
銀髪赤眼の日本人なんて、普通はいないよなあ。
「まあ見た目はしょうがねえじゃん。そう言う血筋なんだし。
尤も俺は諸事情あって、ミッドに移る頃までは黒髪だったけど」
「銀髪赤眼、極東地区・日本の血筋……?」
何か引っかかる所があったのかリン姉がしきりに首をひねりめる。
出来れば最後まで思い出さないでいてくれると俺としてはありがたい。
「名前が外人ぽいのは向こうで養子入りしたからだ。
漢字だと刃で護ると書いてジンゴって読むんだ」
「ふええ、そうなんだ」
「ねえ、ジンゴ君」
「ん?」
あ、まずいかなあ。
酷く真剣な顔をしたリン姉に嫌な予感がする。
「ミドルネームのMって以前の苗字の頭文字よね?」
「ああ、そうだけど」
「……そうすると違うって事かしら。
Mから始まるファミリーネームで銀髪赤眼……」
質問に答えると再び思考の海に潜って行ってしまった彼女を見て胸を撫で下ろした。
実は実家関係の事はあまり話したくない。
ずばり核心を質問されなくて助かったのだが、結局最終的にはばれそうな気もするなと冷や汗をたらした。
っと、今のうちに話題逸らしとくか。
「とりあえずシロさんの娘ってんなら、後でシロさんとこにも寄っとかないとな」
「あ、はい。知り合いならお父さんも喜ぶと思うし、寄って行って下さい」
「ん、サンクス。
ああ、あと俺に敬語はいらねえぞ。多分そんなに年は離れてないし」
「え、ジンゴって今いくつなの?」
未だぶつくさ言ってるリン姉を、大量に汗をかきながら観察していたユーノが質問してくる。
「ん、この前一〇歳になった」
「じゅ、一〇歳で執務官……」
「ジンゴ君って普通にそっち側の人だと思ってたんだけど、日本人って事は地球の人で……」
「そうだぞ」
「いつからそっち側にいたの?」
「五歳の時から……だな。
里帰りの為に休暇取って、この辺りを巡回ルートにしてるアースラに同乗させてもらったんだ。
あっち行ってから今回初めて戻って来れたわけだから……大体五年ぶりの里帰りになる」
「ご……五年ぶり……」
なのはの額にでっかいマンガ汗が見えた気もするがスルー。
まあこの話題も色々と話していいのか微妙な話題が入ってるしなあ。
っと、もうこんな時間か。
早めに終わらせないとなのは達が帰る時間が遅くなりそうだ。
脱線させた俺が言う事じゃないが、リン姉が思考に嵌ってるし仕方ねえか。
注目を集める為にパンパンと手を叩くと、リン姉もようやく思考の海から抜け出してきた。
「ま、俺への質問なんざいつでも出来るし。
とりあえず話進めたほうがよくないか?」
「あ、そうね。じゃあ簡単に今までの経緯を説明してもらえるかしら」
気を取り直してリン姉が場を纏める。
「はい、それじゃあ僕の方から」
そうして俺達はユーノの話しに耳を傾けた。
この事件の原因と、関わった過程、そして現状。
俺は目を瞑り、彼の話を整理しながら聞いていった。