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「指示や命令を守るのは、個人のみならず集団を守る為のルールです。
勝手な判断や行動が、貴方達だけでなく周囲の人達を危険に巻き込んだかもしれないと言う事、それは分かりますね?」
「「はい……」」
うわははい、耳が痛え。
なのはとユーノが怒られている脇で、俺は少しだけ顔を引き攣らせた。
クロに聞いた所、なのはとユーノの二人が独断先行したらしい。
割と同じ事をやる俺には耳に痛い話だ。
一応結果を出している事と、上司がばあちゃんなので今の所大きな問題にはなっていないのだが。
「本来なら厳罰に処す所ですが、ジンゴ君のフォローも入りましたし、結果としていくつか得る所がありました。
よって今回の事は不問とします」
「「あ……」」
二人が顔を見合わせ、少し安心した顔をした所でリン姉が釘を刺す。
「ただし、二度目はありませんよ。いいですね?」
「はい……」
「すみませんでした」
ま、二人共素直だから同じ事は繰り返さないだろう。
俺は納得いかなきゃ何度でも繰り返すし、こいつらより質悪いよな。
心底反省している様子の二人を見て、彼女は頭を切り替えたようだ。
「さて、問題はこれからね。
クロノ、事件の大元について、何か心当たりは?」
「はい。エイミィ、モニターに」
『はいはーい』
この雰囲気の中通信とは言えいつも通りを崩さないエイミィは大物だと思う。
エイミィの手で、会議室の机中央に一人の女性が映し出された。
腰まであるウェーブのかかった黒髪、胸元やへそが大きく開いた色気を前面に押し出すような黒のドレス。
年の頃は分からない。
随分と若く見えるけど魔導師の場合魔力によって若さが保たれる事が往々にあるので見た目では判断つかないのだ。
少なくともお袋と似た雰囲気があるので、同年代くらいかと当たりをつける。
どっかで見た事あるな。……事件資料か?
「あら!」
リン姉も似たような反応だが、こちらは心当たりがありそうだ。
「そう、僕等と同じミッドチルダ出身の魔導師、プレシア・テスタロッサ。
専門は次元航行エネルギーの開発。
偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって放逐された人物です」
「ああ!」
思い出した。
「確か……彼女の裁判は本当に正当なものだったのか、再調査するようにばあちゃんに言われてた人物だ」
「それは本当、ジンゴ君?」
「ああ。元々中央の技術開発局長をしていたはずだ。
事件が起こったのは二六年前。
彼女が個人で開発していたエネルギー駆動炉、えっと、ヒュ、ヒュー……ヒュードラ? の実験中に失敗して次元震が起きたってのが概要だったか。
この実験に使われた材料の違法性が問われたんだったと思う」
「ジンゴ、詳しく覚えてないのか?」
「んー、手を付け始める前の事件だったからなあ。
それに妙に色んな噂が飛び交ってたみたいなんだよ、事件当時。
実験の失敗は彼女のせいじゃなかったって言うのだと、当時局長だった彼女を妬んだ奴が、工作員を紛れ込ませて違法性のある材料を実験炉に放り込んだせいで失敗したとか。
安全基準を作っていたのは彼女だけど、それがきちんと守られてなかったとか。
逆に彼女が勝手に色々いじくったせいで失敗したんだとか。
確定情報としては……娘が一人いたはずだ」
「娘?」
記憶を掘り起こしながら話すと、リン姉が娘と言う単語に大きく反応する。
「あのフェイトって子じゃないぞ。計算が合わん。
どう見てもあの子は俺等と同年代だろ。
……それに、確か彼女の娘は実験に巻き込まれて亡くなってるはずだ。
覚えてるのはこんなもんだな」
「……そう」
「登録データとさっきの攻撃の魔力波動が一致したので、下手人は彼女に間違いないかと。
ジンゴの記憶が確かなら、あの少女が娘って線は外れますが……」
「でも、フェイトちゃんあの時母さんって……」
クロの言葉を暗い顔でなのはが否定した。
確かにそれは俺も聞いた気がする。
むう、なんだか謎めいてきたな。
女史が新たに生んだ子って線もなくはないが……薄そうだ。
「親子……ね……」
リン姉が難しい顔をした。
多分俺と似たような事を考えているのだろう。
「そ、その……驚いてたと言うより、なんだか怖がってるみたいでした」
なのはの証言も無視する事はできない。
疲労でいっぱいいっぱいだった俺とは違って、なのはは彼女を間近で見ていたのだから。
「エイミィ!」
リン姉が通信機器に呼びかける。
「ジンゴ君の情報を元に、プレシア女史についてもう少し詳しいデータを出せる?
放逐後の足取り、家族関係、その他なんでも」
『はいはい、すぐ探します』
返事をして十数分、エイミィが端末を片手に会議室へやってきた。
「概要はほぼジンゴ君の情報通りですが、全て聞きますか?」
「お願い」
その言葉を受けてエイミィが語りだす。
「プレシア・テスタロッサ。
ミッドの歴史で二六年前は中央技術開発局の第三局長でしたが、当時彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉“ヒュードラ”使用の際、違法な材料を以て実験を行い、失敗。
結果的に中規模次元震を起こした事が元で中央を追われて、地方に移動となりました」
一息入れたエイミィはちらりと俺の方を見た。
「ジンゴ君が今になって再調査を始めようとした事からも分かるとおり、随分揉めたみたいです。
失敗は結果に過ぎず、実験材料には違法性はなかったと。
辺境に移動後も数年間は技術開発に携わっていました。
しばらくくの内に行方不明になって……それっきりですね」
「家族、特に亡くなった娘さんの事や、行方不明になるまでの経緯は?」
「その辺のデータはここにあるものからは綺麗さっぱり抹消されちゃってます。
今、本局に問い合わせて調べてもらっていますので」
「ジンゴ君」
「ん?」
頭の中でデータをさらい直していると名前を呼ばれ、そちらを向く。
「娘さんのデータはどこで見かけたのかしら?」
「えーっと……本局のデータベース、だったかな。
一度結論が出てるし当事者も殆ど残ってない。
割と後回しにしても大丈夫な案件だから、軽くしか調べなかったし」
「そう。エイミィ、調査にかかる時間はどれ位?」
「一両日中には、と」
それを聞いてリン姉が少しだけ考え込む素振りを見せた。
「ふむ……プレシア女史もフェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出した直後ではそうそう動きは取れないでしょう。
その間にアースラのシールド強化もしないといけないし……」
「あれ? 何かあったのか?」
「ああ、ジンゴは知らなかったか。
君の防いだ次元跳躍魔法、あれと同じものが同時刻アースラに向かって放たれてたんだ」
「なるほど、ね。
敵さん中々強引な手を使いやがる。こりゃ終局も近いな」
「そうね。だったらその前に貴方達は一休みしておいた方がよさそうね」
「あ……でも……」
少し気まずそうななのはにリン姉が言葉を重ねる。
「特になのはさんはあまり長く学校を休みっぱなしでもよくないでしょう。
一時帰宅を許可します。
ご家族と学校に、少し顔を見せておいた方がいいわ」
「……はい」
「ジンゴ君はどうする?」
「俺?」
いきなり話を振られたのでちょっとびびった。
「あなたもまだ休暇中でしょう。
地球の方が過ごしやすいならそちらにいても構わないわよ」
「んー、とりあえずまずはばあちゃんに連絡しようと思ってるけど。
……そうだな、この前は恭さんにあんま付き合ってないし、護衛も兼ねて地球に下りようか」
「そう。クローベル統幕議長なら本局への通信ね。
ブリッジの機器を使ってちょうだい」
「了解。サンキュ、リン姉」
俺の返事に頷いてから、リン姉が部屋を退出する。
俺は未だ暗い顔をしているなのはの頭をぽんぽんと叩いた。
「ふぇ?」
「そう言うわけだからシロさん達に言っといてくれるか?
厚かましいけどまたお世話になりますって」
「あ、うん……」
歯切れの悪いなのはの顔を覗き込む。
「にゃ!?」
「フェイトの事が気になるか?」
「……そんなにわかりやすいかなあ?」
「まあな。
大方、伝えたい事は沢山あるのに、どう伝えていいかわからないってとこか」
「ジンゴ君、エスパーみたいなの……」
まあ、少しの間しか関わってないが、なのはの気質とフェイトの態度を見てれば、なんとなくそんな感じかなあ、と。
つまり勘なわけだが。
「前にね、フェイトちゃんに『言葉だけじゃ何も伝わらない』って言われた事があるの」
「ふむ、一理あるな。全てとは言わねえけどさ」
「?」
「逆に言葉にしないと伝わらない事もある。
言葉をきっかけに、行動なんかを通して伝わる事もある」
「……」
「それでも上手く伝わらないなら、これだ」
ぐっと握った右拳をなのはの目の前に突き出す。
「そ……それはちょっと……」
「いや、お前今盛大に勘違いしなかったか。
殴って言う事聞かせるとかじゃないからな」
「にゃ、にゃはは……」
こいつの中で俺のイメージがどうなっているのかちょっと知りたい。
「……はあ、まあいい。言うなれば、『拳で語る』ってやつだ」
「拳で、語る……」
「全力でぶつかり合う事で、ようやく分かり合える場合もある。
俺や恭さん達みたいな剣士は、剣を突き合せる事で相手を理解する事もある。
要はな、言葉も行動もこの拳も、コミュニケーションツールの一つでしかないのさ」
「うー……なんか難しくなってきたよ」
ぐるぐると目を回しそうになるなのはに苦笑した。
「なのはも業は引き継がなかったが、御神の血を引いてるからな。
恭さん達を見てればなんとなく分かるかもしれん。
こう言うのは言葉にするよりも、身体で感じた方が早い」
「そっかぁ」
少しずつ前向きな顔になってきたので、発破かけはこの辺で止めておこう。
「よし、いい顔になってきたな。
じゃあ俺はばあちゃんへ報告に行くから、また後で、だ」
「あ、うん。また後で」
挨拶を交わし会議室を出ようとした所で、
「ジンゴ君」
呼び止められ、振り向く。
「ありがとう」
満面のとまではいかないが、笑顔でなのはが俺を見ていた。
その眩いばかりの笑みにとくんと心臓が跳ねた。
ちょっ、何やってる俺の心臓。
内心で突っ込むも誤魔化せそうにない。
顔に出さないようにしながら彼女に背を向ける。
気にすんなと伝えるよう、ひらりと手を振り会議室を退出した。
あー……やば、ちと顔赤いかもしれん。
満面じゃないのにこの威力とはあなどれんなどと馬鹿な事を考える。
頭を振って余計な思考を追い出すと、俺は少し足早にブリッジへ向かった。