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アルフは本当に洗いざらい話していった。
フェイトが母親であるプレシア・テスタロッサから虐待を受けている事から始まり、フェイトが盲目的に母親に従う事。
ジュエルシードの回収はプレシアの願いであり、彼女はその願いを叶えればプレシアが昔のように微笑んでくれると信じている事。
根回しは終わらせてあるから最低一四個、できればそれ以上を集めてくるようにプレシアに命令された事。
ジュエルシードをいくつも持って行ったにも関わらず怒られ、フェイトがお仕置と称して鞭打ちにあった事。
アルフがここにくる直前の折檻は度が過ぎたものであった事。
(尤も、いつでもプレシアの折檻は度が過ぎていたらしいが)
それに切れて殴りかかろうとしたら返り討ちに遭い、ギリギリで転移してアリサに拾われた事。
【……これで、全部だよ】
話し終えたアルフはもう嫌だと言わんばかりに一つ首を振った。
治療が終わり、アルフから手を離す。
同時に冷静なクロの声が響いた。
【なのは……聞いたか?】
【うん、全部聞いた】
【君の話と、現場の状況、そして彼女の使い魔アルフの証言と現状を見るに、この話に嘘や矛盾はないみたいだ】
【……どうなるのかな?】
なのはは廊下で立ち尽くしている。
どうやら友人達に動揺を悟られぬよう、言い訳して抜け出してきたようだ。
ま、正解だろうな。
サーチャーから情報を送られ、俺の手元端末に映るなのはは、誰が見ても心配するような表情をしていた。
【プレシア・テスタロッサを捕縛する。
アースラを攻撃した事実だけでも、逮捕の理由にはお釣りが来るからね。
だから僕達は艦長の命があり次第、任務をプレシア・テスタロッサの逮捕に変更する事になる】
【そっか。ジンゴ君も?】
【いや、ジンゴは元々アースラのスタッフじゃないからね。
それに休暇中だから今回みたいな正規の作戦には──】
【あ、それ大丈夫だぞ。明日付けで、俺現場復帰するから】
【何!?】
おお、驚いてる。
そう言や言ってなかったな。
【今朝ばあちゃんと通信した時、休暇の取り下げ申請しておいた】
【君って奴は……】
念話で呆れられてしまった。
【ジンゴは、まあ……いいとして。君はどうする? 高町なのは】
【私は……】
なのはは一瞬逡巡して、ぐっと目に力を篭めた。
【私はフェイトちゃんを助けたい。
アルフさんの想いと、それから私の意思。
フェイトちゃんの悲しい顔は……なんだか私も悲しいの。
だから助けたいの、悲しい事から。
それに友達になりたいって伝えた、その返事をまだ聞いてないしね】
いい決意だ。
なのはの想いが耳に心地よい。
【わかった。こちらとしても君の魔力を使わせてもらえるのはありがたい。
フェイト・テスタロッサについてはなのはに任せる。……それでいいか?】
最後の確認にアルフが頷いた。
【なのはだったね。頼めた義理じゃないけど……お願い、フェイトを助けて。
あの子、今ほんとに独りぼっちなんだよ】
【うん、大丈夫。任せて】
【ジンゴ、君はどうする?】
【まあ、なのはについていくさ。それが任務だしな】
【それが任務?】
廊下で首をひねるなのは。
どうでもいいが誰にも見られてなくてよかったな。
端から見るとかなり怪しい人に見えるぞ。
……俺が見てるが。
【ジンゴ。君、クローベル統幕議長からどんな任務を受けたんだ?】
【あー……】
言っちゃっていいのかなあ?
【……護衛】
【は?】
【だから、護衛だよ。民間魔導師高町なのはの】
【ぜ、前代未聞だぞ、そんな任務……】
【まあばあちゃんの職権乱用による策略だし。
期間は四年だ。途中他の任務も入るんだろうけど……】
【なんでまた?】
【……学校に通え、とさ】
妙に疲れた声になってしまった。
ああっ、クロの引き攣る顔が容易く想像できるぞ、こんちくしょう!
【あ、相変わらずお茶目な方だ……】
【破天荒って言うんだよ、あれは】
【にゃ……にゃはは……】
念話でにゃはは笑いとは、これまた器用な。
【まあ、俺の事はどうでもいいんだよ。
クロ、これからのスケジュールは?】
【そ、そうだな。うん、変更はなしだ。
予定通りアースラへの期間は明日の朝。
それまでの間、なのはがフェイトと遭遇した場合は……】
【うん、大丈夫】
素早く立ち直ったなのはが力強く頷く。
そのままなのはは扉を開き、友人達の元へ戻っていた。
【ジンゴ君】
【ん? どうした、なのは?】
【よろしく、ね】
【ああ、任せとけ】
そこで念話を切って、ユーノ達に向き直る。
「ジンゴ……」
「そう言うわけで、俺は任務に戻る。正式稼動は明日からだが、一応、な。
ここの敷地内にいるから何かあったら呼んでくれ」
「わかった。ボクはなのはが来るまでここにいるよ」
「オーケー。じゃあアルフ、また明日、な」
「ああ。フェイトを頼むよ」
「おう」
人払いの結界が解除される前に樹の上に登った。
割と近場に件の執事の姿が見え、どきりとする。
セーフ、ギリギリだったみたいだな。
何か違和感を感じているらしく、辺りを見渡している執事を見ながら、俺は人知れず冷や汗を流した。
俺は少し太めの枝に目を瞑って寝転がりながら、送られてくる音声を聞き流していた。
今はどうやら茶を飲みながら話をしているようだ。
アリサ達の話から推測するに、どうやらここ最近なのはの様子がおかしかったので、ずっと彼女等は心配していたらしい。
『――心配してた、てか、あたしが怒ってたのはさ、なのはが隠し事してる事でも考え事してる事でもなくって、なのはが不安そうだったり迷ったりしてた事。
それで時々そのままもうあたし達の所へ帰って来ないんじゃないかなって思っちゃうような目をする事』
『……いかないよ、どこにも。
友達だもん、どこにも行かないよ』
涙交じりのなのはの台詞を最後に、電源を落としてブツを回収する。
……やれやれ、野暮だったな。
彼女の決意も、想いも聞いた。
なら、やる事は決まっている。
どこにも、行かせねえさ。
あと俺に出来るのは、それを後押ししてやる事だけだ。
しばらくしてバニングス邸を後にしたなのはの後ろに俺は降り立った。
「……いい友達だな」
「にゃ!? ジンゴ君、いたの?」
「二度ネタだぞ、それ。
勿論いたさ。ユーノに聞かなかったか?」
なのはが肩上のユーノを見ると、ユーノは苦笑いを返した。
「ボクはそろそろジンゴがいつ現れても驚かなくなってきたよ」
なんだ、その神出鬼没キャラは。
「帰ろっか」
「ああ」
ぽん、と軽くなのはの頭を撫でる。
不思議そうな顔をされたので、肩をすくめて誤魔化した。
「親友、か」
「ふぇ?」
漏れ出た言葉は彼女に届いてしまったらしい。
「いや、俺にはいなかったな、と思って。
クロはよくて悪友……いや、あいつは親友の部類に入るのか?」
生真面目な執務官の不機嫌そうな顔を思い出す。
「なんにせよ、いい事だ。大事にしろよ。ああ言う友達は貴重だぜ」
「うん。私、アリサちゃんもすずかちゃんも大好き」
「そうか」
その答えに心穏やかなまま歩き出した。
と、ぽつり、なのはが呟く。
「……ジンゴ君も」
「ん?」
「ジンゴ君も、大切なお友達だよ」
少しびっくりした。
彼女と出会ってからまだ一〇日とちょっと。
更に共に過ごした時間は驚く程少ない。
その俺を友と呼ぶのか。
ふっと頬を緩める。
優しい子だ。
その魂は、真っ直ぐで、美しい輝きを持っている。
この事件が終わった時、彼女のその輝きが翳ってしまわぬよう、最大限の努力をしよう……そう、思った。
高町家で夕食を終え風呂から上がると、ふと外に気配を感じた。
……この感じは、なのはか?
不審に思いそちらへ向かうと、気配があるのは道場の中。
声をかけるか否かを迷っていたらいきなり肩を叩かれた。
「っ!? ……なんだ、シロさんか」
「隙だらけだぞ、刃護」
「いや、俺が気付けない隠形なんて使えるのは、知ってる限りシロさんと恭さんだけだから」
問題ないだろ、と肩をすくめてみせる。
「あー、まあいいか。なのは、だよな?」
「うん。ああしてじっとしてるんだ」
道場の中央で正座し、ただ真っ直ぐ前を見詰めるだけのなのはを指し示した。
「そうか……刃護も行くか?」
「いや、俺はいいよ。
最後の一押しはシロさんが適任だろうしね」
言って脚を魔力強化し、道場の屋根に飛び乗る。
壊すなよと言われ、そんなヘマしねえよと返すと、シロさんが道場の中に入っていく。
「……いい顔になったな」
「あ……」
「迷いは消えたのか?」
「お父さん、なのはが迷ってた事知ってたの?」
俺は静かに、二人のやり取りを聞いていた。
……最近なんだか、こう言う出歯亀みたいなパターン多いな。
「そりゃあそうだ。お父さんは、お父さんだからな。
明日は朝早くからまた出かけるんだろう?」
「うん、ご心配おかけします」
「まあ、なのはは強い子だからお父さんはそれ程心配してないよ。
もしピンチになっても刃護がいるしな」
あらら、凄い信頼感ですね、シロさん。
……そんなに信用されるような事、俺やったっけなあ?
「頑張って来い。しっかりな」
「うん!」
なのはとシロさんが連れ立って道場から出てくる。
と、シロさんがこちらを見上げて、ばっちりと目が合った。
「刃護もだぞ」
「ほえっ!?」
「りょーかい」
声を掛けられてしまったので仕方なく屋根から下りる。
なのはのびっくりした顔がなんだか面白かった。
「にゃああああっ、ジンゴ君もうちょっと心臓に優しい登場の仕方してよ!」
「うわ、へこむなあ。なのはに駄目出しくらっちまったよ」
「にゃ!? そんなつもりで言ったんじゃないのに……」
「はっはっはっ、刃護、精進しろよ」
「……俺、どんな方向に精進すりゃいいんだと思う?」
「そ、そんなの私に聞かないでよう」
困ったなのはがあわあわしているのを見ながら、俺とシロさんは笑う。
そこでようやく俺達にからかわれた事に思い至ったらしい。
むくれるなのはを宥め、改めてこの家で過ごした時間を思い出す。
それで、気付いた。
以前地球にいた頃よりもずっと“らしく”在れてる自分に。
ああ、そうか。
俺にとって理想の父親像がシロさんだったのか。
そう、だからこの家の空気は、俺にとって居心地がいい。
「……なあ、シロさん」
「うん?」
呼ばれ、シロさんが振り返る。
逆光で見え難くなった彼の目をしっかりと見詰めた。
「俺、頑張るよ」
言葉は短く、想いを全てそこに託して。
「……そうか」
俺の言葉に、シロさんは満足そうに頷く。
それに俺も頷き返した。
それだけのやり取りでシロさんは踵を返し、俺を一人にしてくれた。
俺の手の中には牙があって、きっと俺はどこまでいっても傷付ける者だ。
だけどその牙を、この人達が笑って過ごせる世界を護る為に使いたい。
────誓いを胸に、意思はこの手に、俺の想いをこの世界に遺そう。
届かない空を掴んでから、俺は二人を追って母屋に戻っていった。