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「やかましい」
今日の試合観戦、なのは達とは試合会場で落ち合う事にしてはやてを迎えに行った俺は、はやての家の近場でジュエルシードを発見した。
さっさと封印したが、もしこいつがはやてのリンカーコアに影響を与えていたらと思うと肝が冷える。
封印したジュエルシードはシリアルⅡ。
探索を行わないと決めた途端、あちらからトラブルがやってくる自分の体質にいい加減げんなりする。
ピンポーン
「はやてー、迎えに来たぞー」
「はーい、兄ちゃん待っとったでー」
呼んだら10秒もしない内に出てきた。
……まさか、玄関で待ってたのか?
疑問が顔に出ていたのか、はやては照れたように頬を赤くした。
「あんな、生でスポーツ観戦するん初めてなんよ」
言い訳染みた言葉を漏らすのは、多分かなり浮かれていた事を自覚したからだろう。
とりあえずは深く突っ込まない事にする。
「晴れて良かったな。風も少ないし、絶好の観戦日和だ」
本日は雲1つなく快晴。
空を見上げ眩しそうに目を細めたはやての頭を、車椅子を押しながら撫でる。
「兄ちゃん、押しながら撫でるなんて器用やね」
「なら撫でるのやめるか?」
「んー、もうちょっと」
こいつはこの手のスキンシップに飢えてる節がある。
多分両親が亡くなって独りぼっちだった期間があるからだとは思うが。
スキンシップを好むのは、誰かが傍にいる実感が欲しいのだろう。
ご要望通りぐりぐりと強めに撫で回しながら歩いて行く。
こうしていると本当にただ散歩に出ただけのような気分だ。
っと、見えてきたな。
実際には目的地があるわけだから、散歩とは言えないのだけれども。
右手を頭から離し椅子の取っ手を持ち直すと、若干はやては寂しそうな顔をし、次いで納得した顔をした。
行く手になのは達が見えたのだ。
いくら撫でられるのが好きでも、友達の前じゃ恥ずかしかろうと言う配慮だと理解したらしい。
しっかし派手なカラー集団だな。
3人もいて1人も黒髪がいないってどうよ。
実際俺達が合流しても黒髪がいない事には変わりないのだが。
あれ? ここって日本だよな?
「なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃん、おはよう」
「はやてちゃん、おはよう」
「はやてちゃんもお兄ちゃんも時間ぴったりなの。おはよう」
「げっ、アランさんも来るんだったの?」
そんな事を思考の一部で考えながら、その一団に合流する。
「別に構わんが、ご挨拶だなアリサ嬢。すずかはおはようさん」
あれ、1人足りないな。
「なのは、ユー坊は?」
「ユーノ君はお父さんと一緒に行くって言ってたから先に行ってるの」
「そうか」
ふと見るとアリサ嬢、すずか、はやてがもの凄くなのはを問い詰めたそうな顔をしていた。
思わず笑いが零れる。
ま、問題なかろ。
傍観に徹する事にした。
「で、誰よユーノって。なのはのボーイフレンド?」
「へえ、なのはちゃんもうボーイフレンドいるんや。早いなあ」
「? ユーノ君は男の子のお友達だから……ボーイフレンドで合ってるのかな?」
「なのはちゃん、それ多分ニュアンスが違うよ……」
まったく、女の子ってのは何歳でも集まると途端に賑やかになるな。
俺は車椅子を押すのをすずかに任せ、先に来ていると言うユー坊を探す。
フィールド脇、アップ中の少年達を見ている父さんのすぐ横に特徴的な淡い金髪がいた。
「ユー坊」
「あ、アランさん。もう着いたんですか?」
「いや、時間ぴったりだから」
「……ほんとだ。もう結構時間経ってたんですね。気付きませんでした」
「ずっと見てて飽きないのか?」
「僕小さい頃はずっと本読んでたりしたので、こう言うスポーツみたいなのに参加したことが殆どなかったんです。なんだか珍しくって」
「なるほどなあ。しっかし、不健全なガキだな。ちったあ外に出て遊ばねえともやしみたいになるぞ」
「あー、それ、一族内の同い年によく言われました。もやしとか、本の虫とか」
「多分嫉妬もあったんだろうな。お前も年の割りにゃかなり優秀だし」
「ですかねえ……」
話している内になのは達がこっちにやってくる。
観戦用のベンチがあるらしいので、ユー坊も連れてそちらに移動する事にした。
「で、うちでホームステイしているユーノ・スクライアだ」
「ユーノ・スクライアです。よろしくお願いします」
自己紹介後アリサ嬢やはやての詰問――あれはもはや詰問だろう――にたじたじなユー坊を横目に、始まった試合を見る。
父さんが指導しているだけあって桜台JFCはレベルが高い。
おお、あのゴールキーパー、良い動きしてんなあ。
「で、どうなのよ?」
「え? だからユーノ君はお友達だよ?」
なんか我が妹がナチュラルに止めを刺したのが聞こえた気がする。
ユー坊の方はなのはに好意を抱いてるっぽい感があるのになあ。
確かこの年頃って女の子の方が早熟じゃなかったっけ?
そんな事を考えながら思わず溜息をつくと、くすくす笑っているすずかと目が合う。
「……なのはちゃん、天然ですから」
心中を察してくれたすずかは、俺が口を開く前にフォローを入れた。
「でもなあ、あんだけ鈍感だと俺はあいつの将来が心配だよ。
尤も、父さんや恭也の壁を抜けてくる猛者としか付き合えんだろうから、あいつが彼氏を連れてくるのはいつになる事やら」
「あれ? アランさんはその壁に入らないんですね」
「俺も大概シスコンだって自覚はあるがな、“あの”シスコンや親馬鹿と一緒にしないでくれ」
疲れた風に言うとすずかが苦笑する。
普段は尊敬できる親なのに、なのはが絡んだ途端父さんは妙に馬鹿になるし。
尤も、恭也はともかく父さんは少し冗談が入っている気がする。
心から納得する相手なら何も言わないかもしれない。
まあ、最終的には2人とも「なのはが選んだ男だから」って理由で納得しそうだが。
「なのはの事は大事だけどな。
あいつが自分で決めて、それで幸せなら俺に言う事はない」
「はあ…………なのはちゃんがブラコンになるはずだよね」
「?」
そんなに深く溜息をつかんでもよかろ。
なにやら他にも言ってたようだが小さな呟きだったので聞こえなかったし。
どうでもいいがお前等サッカーの試合観戦しに来たんだよな?
応援しろよ。せめて観戦してやれよ。
結局試合は2-1で桜台JFCの勝利で終了。
父さんもかなり嬉しそうで、翠屋で祝勝会をするとのこと。
ただでさえ今日は父さんが抜けてるから大変なのに、こんなに大勢が来たら店が回らないだろって事で、俺は店の手伝いに入った。
「アラン、これ3番に」
「了解。シューと紅茶3つずつ、8番入ったぜ」
「はーい」
おかげでばたばたと店内を走り回るはめになった。
合間にテラスで話している5人を盗み見ると、随分仲良くなったようで頬が緩む。
ユー坊は男1人だから微妙に居心地悪そうだな。
少しだけ同情する。
俺でさえ彼女等には時たま押しきられそうになるのだ。
同い年のユー坊の扱いはと言えば推してしかるべし。
「アラン、レジお願い」
「はいよー」
クラブの連中が解散してようやく店内が落ち着いてくる。
エプロンを外して端の方の席に座ると、コトンと目の前にアイスコーヒーが置かれた。
「ご苦労様、アラン。ごめんね、手伝ってもらっちゃって」
「別に構わないって。こうやって報酬も出てるしさ」
ウィンクして母さんと目を合わせ、笑う。
飲み終わると丁度アリサ嬢とすずかが席を立ったのが見えたので、ドアを開けて外に出る。
「帰るのか?」
「あ、はい。この後習い事があるので」
「そうか、気をつけて帰れよ」
「大丈夫よ、もうすぐ鮫島が迎えに来るし」
「ん」
2人の頭を軽く撫でると手を振って別れ、なのは達の方へ向かった。
後ろから多分に照れを含んだ怒鳴り声が聞こえた気がするが気にしない。
なぜならアリサ嬢は由緒正しいツンデレだからだ。
……なんか電波入ったか?
ふと気付くとなのはが妙に呆けた顔をしていた。
「なのは、どうした?」
「え、ううん、なんでもないの。気のせいみたいだし」
「そうか、ならいいが。これからなのは達はどうすんだ?」
「はやてちゃんを送ってから家でゆっくりしようかなって」
「あ、別に1人でも帰れるから平気やで」
「阿呆。子供が遠慮すんな」
「兄ちゃんも年大して変わらないやないか……」
俺は呆れたまま、ぼやくはやてにでこピンをすると車椅子の後ろに回る。
どうせだから俺も一緒に行っちまうか。
ゆっくりとはやての家までの道のりを歩く。
はやてとなのはは相変わらず楽しそうに話しており、時折ユー坊も巻き込まれてはしゃぐような声を3人は上げていた。
その様子を見ながら、つい癖ではやてを撫でてしまうと、はやては目を細めて喜んでいるように見える。
この小動物め!
3人の様子は子供が子供らしくいる事が出来ているという証明で、俺はこの平穏を崩すものを許すつもりはない。
例えばばら撒かれた馬鹿みたいなロストロギアとか、最近増えてきた纏わりつくような視線とか。
世の中の理不尽というのは、ある日突然自分の頭の上に振ってくるものだ。
なら俺はこいつ等の上に振ってきたものを殴り飛ばしてでもこいつ等を護ってやりたい。
そのための力はすでに持っているのだから。
「お兄ちゃん?」
「ん? おお、なんだ?」
突然話しかけられてびっくりするも、そのまま返事をする。
考え事をしている間に随分なのはが近くに来ていて驚いた。
「なんか難しい顔してたよ」
知らず、顔に出ていたらしい。
誤魔化そうと口を開き、
「っ!?」
「これはっ」
「え、何? どしたん?」
舌打ち。
よりによってこんな時に街中で発動か!?
発動した方向を見て、
「っ、まずいっ。封時結界!」
≪ja! my king≫
バリアジャケットを瞬時に纏い、一気に結界を広げる。
途端周りにいた通行人が軒並み消え去った。
見上げる先にはそびえ立つ大樹。
被害は最小に抑えられたと思うが……くそ、範囲が広すぎるっ。
「なに? なんなん、これ……なあ、兄ちゃん!」
しまった!?
そう言やはやてもコア持ちだったか。
まあいい、反省は後回しだ。
「はやて、詳しい事は後で説明するから今は勘弁してくれ。
現状俺は広範囲に結界を敷いた関係上、維持で手一杯だ。
そう言うわけでなのはが封印を……なのは?」
なのはの様子がおかしい。
何か呟いているようだが……なんだ?
「……やっぱり……あの時の……私が……」
「なのは、おいなのは!!」
「あ……お兄、ちゃん」
なに泣きそうになってるんだよ、お前は。
「私っ、私気付いてたのにっ。
あの時一瞬だけど感じたのに、止められなかった!!」
あー、この馬鹿は。
なに全部を1人で背負い込もうとしてるんだか。
それを言ったら俺なんて気付きもしなかったぞ。
なのはの正面に回って膝を折る。
目線を合わせて、
────パンッ
「にゃ!?」
両手で顔を挟んだ。
「いいか、発動してすぐ俺が結界を張ったから被害は最小限だ」
「うん、でも……」
「でもじゃない。なのは、なんのために俺がいる、ユー坊がいる。
お前は1人じゃないだろう?」
「……」
「頭、冷えたか?」
「……うん」
「よし、今やるべき事は?」
「……ジュエルシードの、封印」
「そうだ」
よし、完全じゃねえがちったあましな面構えになったか。
目に力が戻った事を確認し、手を放す。
「ユー坊、状況は?」
「多分人間が発動させたんだと思います。
願いが明確だからこれだけ大きな力が発現する事になったんだと」
「まずはエリアサーチで中心を探す必要があるか。
この根っこは動けるみたいだから遠距離からの砲撃で仕留めるのが最適だな。
出来るな、なのは」
「うん! ベオウルフ、セットアップ!」
バリアジャケットを纏ったなのはが、飛行魔法で見晴らしのいいビルに移動して行く。
「あの、僕はどうすれば?」
「俺は今結界の維持に手一杯で、他に魔法が使えない状況だ。
だからユー坊は俺とはやてのガード。防御は得意だろ?」
「はい!」
実はこうして話している間にも大樹の成長に合わせて結界を広げていってるせいで、どんどん魔力を持っていかれている。
特に俺は一般的な結界魔法とは相性が良くない為に効率も悪い。
じわり、背中に汗が浮かんだ。
くそっ、あの樹どんだけでかくなりゃ気が済むんだ。
「兄ちゃん、大丈夫なん?」
「ま、なんとかな」
「なあ……あれ、なんなん?
兄ちゃんもなのはちゃんも一瞬で着替えよったし、それにあの大木……」
ここまで見られりゃ誤魔化しはきかん、か。
もろだったしなあ。
どう説明するか迷った挙句、俺はなるべく不敵に見えるよう意識して、笑った。
「実はな、…………俺は魔法使いなんだ」
────────interlude
ビルの上に立って大樹を睨み付ける。
咄嗟にお兄ちゃんが結界を張ってくれたけど、かなりの広範囲に渡って張る事になったから、お兄ちゃんの負担も大きいはず。
なら、なるべく早く終わらせないといけないの。
「ベオウルフ、行ける?」
≪yes, of course. area search≫
桃色の帯が広がって、この騒動の中心を探して行く。
すぐさま反応があった。
「見つけた」
中心にいたのは見覚えのある男の子と女の子。
予想通り桜台JFCの子だ。
女の子の方は確かマネージャーの。
広がり続ける大樹と増え続ける根っこ。
お兄ちゃん達は大丈夫かが心配になり、そちらをちらりと見遣る。
遠目でお兄ちゃん達のいた所を確認すると、淡い緑のバリアが見えた。
そっか、ユーノ君が頑張ってくれてるんだ。
お兄ちゃんが伝えたかったのはきっとこの事なんだろう。
私は1人じゃない。
今も、お兄ちゃんやユーノ君が支えてくれている。
でも、これは私の責任だから、
「一気に決めるよ、ベオウルフ。バスターフォーム」
≪yes my master, buster form setup≫
どこまで封時結界が有効なのか分からないから、ピンポイントで狙い打つ!
構えた槍の先に魔力を溜めて行く。
────さあ、自らの責任を果たしに行こう。
「ディバイン──」
≪buster≫
────────interlude out
そうして、桃色の閃光が災厄の元凶を貫いた。
あの大きさは、なのはの砲撃の中でも1番の正確性を誇るディバインバスターあたりだろう。
なのはが封印作業を終えたらしく、大樹が徐々に消えて行く。
それを確認して深く嘆息する。
あの子に魔法を教える時、最初にその危険性と扱う責任について叩き込んだ。
その後御神流に触れる事で戦う心構えは出来ていたんだろうが、
「……あの子は責任感が強すぎるな」
それはもはや無駄にと形容できる領域にまで達している。
だから、本当ならこちら側に関わらせたくなかった。
……巻き込んだ俺が言えた台詞じゃない、か。
幸い俺の呟きは2人には届かなかったらしく、大人しくなのはが戻ってくるのを待っている。
はやてへの説明は俺達の家で晩飯を食いながらすると言ったので、今の所追及はない。
やれやれ、問題ばかり積み重なって行く気がするな。
「ただいま」
フライヤーフィンでなのはが戻ってくる。
結界はもう大分小さくしてあるが、解かない。
なのはがバリアジャケットのままだから、というのもある。
「お帰りなのは」
なのはがバリアジャケットを解いた。
それでも結界はまだ解かない。
明らかに沈んだ顔をしたなのはを抱きしめた。
「ふえ、お兄ちゃん?」
疑問ありげに俺の顔を見ているようだが、気にせず腕に力を入れる。
「────よく、頑張った」
「あ……」
震えているのが伝わってくる。
なあ、なのは、知ってるか?
兄貴の胸板ってのはな、妹の顔を隠すくらい楽勝なんだぜ。
「……う……ぁ……うあああああぁぁぁぁぁぁぁっ」
それは、溢れんばかりの才能があり、結構な期間を俺に鍛えられていたからこその涙。
こんなのは誰もが経験する、当たり前の出来事だ。
どんなに力を持っていても、手の届かない所は存在する。
なまじかなりの力を持っていたせいで、なのはは今までこういった経験をしてこなかった。
魔法だけに限った事ではなく、日常生活の中でも。
俺に言わせりゃこうなったからと言ってなのはが責任を感じる必要は全くない。
俺達は確かに力を持っているが、神様じゃないからだ。
けれど、なのはが気に病むのならば、その荷物を軽くしてやる事こそが兄貴の仕事だろう。
なのはが泣き止むのを見計らって手を離し、ようやく結界を解く。
今度は突然人が現れた事にはやてはまたも驚いていたが、気を取り直したようにこちらを向く。
その視線を受けて、なのはは目元を拭ってから少し赤くなった目で照れくさそうに笑った。
「にゃはは、恥ずかしい所見られちゃったの」
「ううん、恥ずかしくなんかない。そういう時は誰にでもあるはずやし」
「……」
「帰るか」
なのはが今回の件に責任を感じている事を理解したのだろう。
この事件の発端に関わったユー坊が暗い顔で黙り込む。
俺はその頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。
やれやれ、どうして俺の周りにいるお子ちゃま共は、いらん所で背負い込む奴が多いのか。
これから先の事を思って、ちょっと頭が痛くなった。