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────────interlude
「ベオウルフ……お願い!」
ユーノ君の結界発動を感じてすぐにバリアジャケットを纏った。
この先にあの子がいる。
多分発動したジュエルシードがあるのだろう。
青白い光が空に向かって伸びているのが見えた。
【なのは、発動したジュエルシードが見える?】
【うん、すぐ近くだよ】
【あの子達が近くにいるんだ。あの子達より先に封印して!】
【わかった!】
すぐにベオウルフをシーリングモードに変えて、封印!!
「っ!?」
私が放った桃色の魔力と、向かいから迫る金色の魔力が同時にジュエルシードに的中する。
「リリカルマジカル、ジュエルシード シリアル ⅩⅨ!」
っ、封印も同時!?
ジュエルシードはベオウルフに吸い込まれる事なくその場に浮いている。
どうやら同時封印は、結果としてジュエルシードを封印できたものの、中途半端に終わってしまったらしい。
それを見てふと昼間の会話がよみがえり、あの頃──私にとってはずっと昔──の事を思い出した。
アリサちゃんもすずかちゃんとも、初めて会った時は友達じゃなかった。
話を出来なかったから。
分かり合えなかったから。
それから話をしたりして、段々と仲良く──
「やった、なのは! 早く確保を!」
っそうだ。
今私がいるのは戦場の真っ只中。
ユーノ君の言葉で我に返り、一瞬でもそちらに気を取られた自分を恥じる。
ベオウルフを構えようとして、
「そうはさせるかいっ!!」
狼姿のアルフさんが飛び込んできた。
いけない!?
咄嗟の動作が間に合わなかった私の代わりに、ユーノ君がフェレット姿のままバリアを張ってくれる。
ぶつかり合う魔力が眩しくて、思わず目を瞑った。
アルフさんがバリアに弾かれ、それでも彼女のバリアブレイクは成功したようだ。
私を囲んでいた守りが破られる。
目の前には黒いバリアジャケットを身に着けた、あの子がいた。
思う。
目的がある同士だから、ぶつかり合うのは仕方ないのかもしれない。
だけど、知りたいんだ。
大丈夫、踏み出す勇気は2人から貰ったから。
「こないだは自己紹介できなかったけど、私なのは。高町なのは。
私立聖祥大附属小学校3年生」
フェイトちゃんがバルディッシュを構える。
私もベオウルフをナックルフォームに変え、構えた。
知りたい。
どうしてそんな悲しい目をしているのか。
知りたい。
どうしてそんな優しい目をしているのか。
知りたい。
どうして心を凍らせようとするのかを!
動く。
横でユーノ君がアルフさんと戦い始めたけど、ユーノ君を信じてそちらに意識は割かない。
私の相手は目の前にいる、綺麗な目をしたフェイトちゃんなのだから。
「っ!?」
前より速くなってる!?
フェイトちゃんの攻撃は以前より鋭くなっていた。
それを魔力を込めた腕で裁きながら、ナックルシューターを左手で撃つ。
フェイトちゃんがシールドではじき返すのを確認しながら、1度距離を取った。
再び構えて、口を開く。
「フェイトちゃん!」
ほんの一瞬だけど確かに、彼女の動きが止まった。
今度は届かせる!
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も伝わらないって言ってたけど、
……だけど、だけど言葉にしないと伝わらない事だっていっぱいあるよ!!」
まだ彼女は動かない。
やった、聞いてくれてる。
「ぶつかり合ったり、競い合う事になるのは、それは仕方ないのかもしれないけど……
だけど! 何も分からないままぶつかり合うのは……私、嫌だ!!」
届け……届け!!
「私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノ君の落し物で、回収を手伝う事を私とお兄ちゃんが約束したから。
最初はユーノ君の手伝いと、お兄ちゃんに言われてだったけど、今は違う!
きっとお兄ちゃんは無茶してでもこの街とここに住む人たちを護ろうとするから……
……だから、そんなお兄ちゃんを護る為に私は戦う!
────これが、私の理由!!」
「……私は────」
届いた!?
「フェイト!! 話さなくていい!!!」
なのに、アルフさんがフェイトちゃんの言葉を遮った。
ユーノ君と戦いながら、アルフさんは続ける。
「優しくしてくれる人達のとこで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてるガキンチョになんか……何も教えなくていい!!」
え……と声が漏れる。
確かに、その通りかもしれないけど、だけど、
「あたし達の最優先事項は──」
「平穏を望んで何が悪い!!」
響いたのはここにいないはずの人の声。
私が驚いた一瞬の隙にフェイトちゃんが動いた。
「なのは!!」
ユーノ君に言われるまでもない。
私は反転して、フェイトちゃんと同じくジュエルシードに向かっていった。
────────interlude out
「平穏を望んで何が悪い!!」
思わず叫んでしまった。
ったく、そんなつもりじゃないんだろうが、不幸自慢は俺のいない所でやってくれ。
悲しみは確かに世界の至る所に存在する。
人によって抱えてる問題も、不幸もそれぞれだ。
けど、いくら自分の境遇が酷くたって、酷い酷いと嘆いた所で何も変わらない。
ましてやそれを他人にまで求めるのは間違っているだろ?
俺の内心の独白とは関係なく、なのはとフェイト嬢がジュエルシードに向かって行く。
って、やべえっ!?
「馬鹿っ!」
思わず口から零れ出た罵声は、それでも2人に届くはずがなく。
ジュエルシードを中心に2人がぶつかり合った。
結果は、閃光を伴った爆発。
「なのは!!」
ユーノがなのはに駆け寄るのを横目に、俺はジュエルシードへ走る。
あのままではまずいっ。
フェイト嬢も同じ事を考えたのかジュエルシードに向かっており、タッチの差でフェイト嬢がジュエルシードを掴んだ。
「止まれ……止まれ!」
フェイト嬢が魔方陣を展開。
両手で包むようにジュエルシードを抑えつける。
まさか、そのまま素手で抑えるつもりか!?
追いついてすぐに左手を重ねる。
フェイト嬢が驚いた顔で俺を見るが、ただ笑い返すに留めた。
固く禁止されちゃいるが、この場じゃそんな事は言ってらんねえ!
「ドラッケン!」
≪……まったく、仕方ないですね。
...stand by ready, setup...access...≫
ジャケットを纏い、フェイト嬢の術式に介入。
あまり残量の多くない魔力を全て注ぎ込む。
っく、やっぱきついな、これ。
1度経験済みで助かった。
「止まれ……止まれ……止まれ!」
「止まれ……止まれ……止まりやがれ!」
「「止まれ!!」」
声を揃え、怒鳴る。
気合で何が変わるわけではないが、抑制術式に魔力を思いっきり注いだ。
ようやく、光が収まる。
「ったはー」
微妙な声と共に気が抜けて、俺はその場にへたり込む。
同様にフェイト嬢もへたり込んだ。
だが彼女の方が内側にいたせいか、疲労も傷もあちらの方が酷い。
俺はふらつく彼女の上半身を受け止めた。
しかし、俺が手伝ったからまだこの程度で済んでるが、この子1人でやったら気絶かもしくはそれ以上の事になったんじゃないか。
独りごちてから、手の平の傷を診る。
結構な傷の深さだ。
ふと気まぐれに目線をずらして……顔を顰めた。
「フェイト!」
「お兄ちゃん!」
≪protection≫
アルフが飛び掛ってくるのを、ようやくダメージから回復したなのはが防いでくれる。
俺はそのまま彼女の背中を診察するのに集中し、
「痛っ」
「あ、すまん」
「フェイトに何をする気だい!?」
あ、なんか苛っと来た。
「そこな駄犬、ちと黙れ」
「っ誰が駄犬だ、誰がっ。あたしは狼だよっ」
「だ・ま・れ」
「ひっ」
威圧感を込めて睨みつける。
おお、大人しくなった。
異様なほど怯えてる気もしないでもないが……
その状態でも向かってこようってんだから、かなり忠誠心が高いな。
いい使い魔だ。
「お兄ちゃん、眼、ちょっと変わってるよ」
「ありゃ、マジか。
まいったな、感情が高まると箍が外れるのか?
ちゃんと制御訓練しないといかんなあ」
どうやら開眼しかけていたらしい。
失敗、失敗。
「魔法を使った事に関しては後でお説教するとして。
ずっとフェイトちゃんを抱えたままじろじろ視てるお兄ちゃんは、アルフさんを威嚇してまで何がしたいのかなあ、と私は思うわけです」
いやな、妹よ。
やましい心はなくてだな。
っていうか俺を威圧するのはやめなさい。
敬語を使うのもやめなさい。
そろそろ本気で怖いから。
……まあ、こちらに寄ってきてくれるのは都合がいいっちゃいいんだが。
おまけにユーノもこっちに来たしな。
「さて、そろそろ威圧するのはやめろ、なのは。ちょっぴり真面目タイムな」
「むー、後できちんと追及するの」
「あー、わかったわかった。ユーノはアルフ見とけ。
まあ余計な事したら俺が潰すから、間違っても変な動きはせんように」
「お兄ちゃん!」
「はいはい。もう無理はしないって。
なのは、フェイト嬢の手の平治してやれ」
「うん!」
即答だな。
あ、フェイト嬢、驚いてら。
ふむ、こういう顔を見るとあれだ、フェイト嬢は子犬だな。
俺の周りは動物天国か。
「フェイトちゃん、手治すから開いて?」
中々手を開かない彼女を見て気付く。
先程からずっと、彼女が何を握っているのかを。
そうか、ジュエルシードか。
「そんなに警戒せんでも大丈夫だ。
俺達がジュエルシードを巡って対立しているのは事実だがな、俺もなのはも君がそこまでして封印したジュエルシードをこんな無粋な形で奪うなんて野暮な事はしねえよ」
「あ……」
右手を添え、そっと優しくフェイト嬢の手を開いた。
ちょっと戸惑いながらも渡してくれたそれを俺が受け取ると、なのはが治療を始める。
なのはがきちんと治療に集中している事を確認してから、俺は密かにフェイト嬢へ秘匿回線を開く。
【フェイト嬢】
【え、な、なに!?】
【きょどるな、なのはに気付かれる。
ゆっくりでいいから俺に寄りかかれ】
【え、えっと……】
【何を考えたかは知らんが、多分違えぞ?
背中に回復促進をかけるだけだ。
多分君はなのはに知られたくないんだろ?】
少し逡巡するような気配があってから、周りにばれないようゆっくりとフェイト嬢が寄りかかってくる。
俺はなのはに気付かれないように、フェイト嬢に魔力を流し込んだ。
ギリギリ、俺が普通に活動できる程度まで。
【キング】
ドラッケンからストップがかかると同時に、なのはの顔が上がる。
どうやら手の平の治療も終わったらしい。
ギリギリセーフ。
「あ……」
離れて行く温もりを惜しむかのように、彼女は声をあげ、押し黙った。
立ち上がった彼女に近づき、少しはましになったその手にジュエルシードを握らせてから離れる。
結局治療以外何もしなかった俺達に訝しげな視線を向けながら、アルフはフェイト嬢の傍に立った。
「なんのつもりだい?」
はてさて、どう答えたものやら。
率直に言うなら、なんとなく放っておけなかったからなんだが、そう言ったらこいつは怒りそうな気がする。
そうだな、
「強いて言うなら俺の我侭、だな。
俺はな、物語はハッピーエンドが好きなんだ」
「うにゃあ……お兄ちゃん、それじゃ伝わんないよ」
「目の前で年下の女の子が怪我をした。
放っておいたら俺の精神衛生上悪い。そういう事だ」
片目を瞑って肩をすくめて見せる。
ま、父さん程様にゃならんだろうが。
「はっ、変な奴だねえ、あんた」
「アルフ、帰るよ」
フェイト嬢はバルディッシュにジュエルシードを収納すると、俺達に背を向けた。
「フェイトちゃん!」
なのはの呼びかけにフェイト嬢は、全開とは異なり振り向く。
なのはの言葉が少しだけ彼女を変えた、か。
我が妹ながらその影響力の大きさには脱帽だ。
「私っ、絶対に諦めないからっ。
何度でも、何度だって、会いに行くよ!」
それは正しく宣言だろう。
ようやく吹っ切れたらしい。
「……手、ありがとう」
短い謝礼の言葉。
それだけで今回出張った甲斐があったってものだ。
俺は一歩、前へと踏み出す。
アルフは構えたがフェイト嬢は構える事なく、不思議そうに俺を見ていた。
おおう、嬉しいね。
とりあえず今は信用されてるって事か。
「アラン・F・高町、だ」
まずは彼女等に自己紹介を。
なんだかんだでしないまま今まで来ちまってたし。
「あの人に伝えておいてくれ。
アラン・ファルコナーはどんな手を使ってでもあんたに会いに行く、と」
「え……」
驚愕、読み取れるのはそれだけ。
やっぱバックがいるんだな。
まあ十中八九あの人だろうけど。
苦虫を噛み潰したような気分になりながらも、なのはとユーノを促し背を向けた。
こちらを見ているであろうフェイト嬢にひらりと右手を振り、
「願わくば、次の邂逅が戦場以外であらん事を」
ただのアランとしての願いを呟く。
きっとそんな事はありえないと思うけど、願うだけなら自由だろ?
そう残して、その場を去る。
なのはの願いを叶える為にも、この場でこれ以上の争いはしない。
ま、近いうちにフェイト嬢は陥落するだろう。
伊達に8年間兄貴をやってない。
こうなった時のなのはは色んな意味で無敵なのだ。
最終的には力ずくでも話をする態勢に持って行くに違いない。
……あ、なんかフェイト嬢に同情したくなってきた。
「なのは」
「なに、お兄ちゃん?」
「サードリミットまでな、サードまで。それ以上は外すんじゃないぞ?
……あの子がかわいそうだから」
「? うん」
最後のは聞こえなかったらしい。
なんで俺がそう言ったのか理解しないまま、それでもなのはは頷く。
一応魔法=暴力って教えてあるけど、大丈夫かなあ。
最近自分の教育に自信持てなくなってきたよ、俺。
溜息と共に肩を落とし、俺は重たい身体を引きずって帰路に着いた。
ちなみに、帰ってからドラッケンを含む家族全員に大目玉を食らったのは言うまでもない。