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ただし右腕は1週間は使わないようにと耳にタコが出来る程口を酸っぱくして言われたし、魔法行使も1週間はお預けだそうだ。
守護騎士の後方支援だけあって、シャマルの治癒魔法はレベルが高い。
それでも少なくとも1週間は安静と言い渡されるとはどれだけ重症だったのやら。
ちなみにリンカーコアの完全回復については1月近くかかるらしい。
一応自在に動いていいレベルに復活するまで2週間といった所だ。
しっかし便利だなあ、治癒魔法。
俺も覚えたかった。
「……暇だ」
≪キング……≫
「わかってる、わかってるよ」
ああっ、心底呆れた声を出すな相棒。
連休明けだからと普通に学校へ行こうとしたら家族の大反対をくらい、俺は今、現在進行形で文字通りベッドに縛り付けられている。
父さんは無言で威圧してくるし、母さんは目が笑ってないのに笑顔。
美由希でさえそれはないという顔をして、恭也にいたっては俺を阿呆呼ばわりだ。
はやてが泣きそうになってヴォルケンリッターには睨まれるし、踏んだりけったり。
結局なのはとはやての涙目説得により今日は休む事にした。
ジュエルシードの探索も、今日はなのはとユーノだけでするとの事。
なんか徐々にイニシアチブ取られていってないか、俺。
とりあえず早くベッドから降りたいのだが。
全員がベッドごと俺にバインドをかけていったので降りるに降りられない。
正直そろそろつらい。
「や、やっと起きれた」
12時を過ぎたところでバインドが軒並み消える。
ちなみにヴォルケンリッターとユーノのバインドは12時ぴったりに消えたが、桜色のバインドだけは全員のものが消えた後もしつこく残っていた。
大体10分程度だとは思うが、この10分があいつからの心配と考えればいいか、罰と考えればいいか悩むところである。
……悩みながらも即行トイレに駆け込んだが。
念話も出来ないから、行きたくても伝えられなくて困ってたんだよな。
「っふぃー、危なかった」
≪私を通してユーノさんに頼めばよかったのでは?≫
「あ……」
なんたる間抜け。
リビングには俺の昼飯用にサンドイッチが置いてあった。
左手でも食べられるよう、母さんが気を遣ってくれたらしい。
しかしあれだ。
右腕が固定の上、首から吊るされてるもんだからバランスが取りにくい。
人間の身体って上手くできてるんだな。
ぎこちなくも母さんの特性サンドイッチを頬張る。
うん、今日も美味い。
「さて、午後はどうするかな」
≪安静でお願いしますよ≫
「わかってるよ。そう言やユーノは?」
≪ユーノさんはフェレットモードで探索に出ています≫
「ああ、変身魔法ね。便利だよな、あれ」
ちなみにフェレットなのは、ユーノがスクライア出身だからだ。
スクライアでは魔導資質のある子供には真っ先に変身魔法が教えられる。
フェレットの姿だと、遺跡発掘の際、小さな隙間から進入して探索できるから便利なんだとか。
ユーノも年齢的には小学生だから、この時間にうろついてたら補導されるしなあ。
「しかしフェレットか……誰かに拾われたりしてないよな、あいつ」
≪……大丈夫ですよ?≫
なぜに疑問系。
野良フェレットとか珍しすぎるからな。
全く知らない人ならともかく、アリサ嬢やすずかに拾われたら言い訳が大変だ。
「安静か……ちなみに出歩くのは?」
≪アウトです≫
「じゃあはやての家はなしだな。道場にでもいるか」
≪キング≫
「別に身体動かすわけじゃない。
家の中でのんびりしてると勘が鈍りそうでな」
まだやらんといかん事は残ってるわけだし。
食い終わった皿をシンクに片付けると、道場へ移動する。
ど真ん中に座り込んで、
≪座禅ですか?≫
「うんにゃ、周天法だ」
≪周天法?≫
「ここの大陸で使われてる気功の一種だな。
外部から気を取り入れて、体内を巡らし回復させるって奴。
やった事ないから試してみようと思って。どうせ駄目で元々だしな。
そういうわけだからしばらくく黙ってろよ」
≪分かりました≫
足を組み、目を瞑る。
一度肩を上げてから息を吐き出すのと共に下げ、身体全体をリラックスさせる。
ま、やってみるのは初めてだが大丈夫だろう。
この前1度世界を感じ取ってるから、似たような要領でやってみるか。
自己の裡に埋没しながら、世界を感じ取る。
呼吸により大気を取り込んで体内を巡らし、
「驚いたな」
思わず口から出てしまった。
こんなに簡単に出来るものだとは思わなかった。
やっぱ1度開眼した事が大きいのかね。
軽く納得してから俺は、雑念を排して自分と世界の調和に勤しんだ。
目を開く。
日はすでに傾き始めていた。
「っと」
立ち上がると幾分か身体の調子がいい。
特に、ぎこちなかった体幹の動きが段違いだ。
こりゃ使えるな。
≪驚きました≫
「ん、どした?」
≪いえ、リンカーコアの回復が促進されています。
これが東洋の神秘という奴ですか≫
「ま、東洋の神秘かどうかは微妙なラインだが。
とりあえず気の使い方は魔導師にも応用できるって事が分かったな」
この分なら回復も早そうだし、試してみてよかった。
そうだ、なのはが帰ってきたらあいつにもやらせるか。
あいつも今はリンカーコアが傷付いてる事だしな。
────────interlude
「あんた今日はなんか元気ないわね」
「あ、ほら、アリサちゃん。今日アランさんお休みだから」
昼休、お兄ちゃんにかけていたバインドを解いたところで、アリサちゃん達に突っ込まれた。
やっぱり……わかっちゃう、よね。
「あ、うん。お兄ちゃんちょっと怪我しちゃってね。今日はお休みなの」
「怪我!? あの人怪我なんかするの!?」
「ちょ、ちょっとアリサちゃん」
なんか1度お兄ちゃんに対するイメージを聞いてみたいの。
「にゃはは、お兄ちゃんいっつも私の見てない所で無茶するからね、ちょっと心配かなって」
「ふーん、あの人も人間だったのねえ」
しみじみと言うアリサちゃんを見て冷や汗を垂らす。
本当にお兄ちゃんどう思われてるんだろ。
「だってあのアラン・F・高町よ。
上級生10人に囲まれても『阿呆か、お前等』の一言でのしたり、2階から飛び降りても着地音がしない上にぴんぴんしてるのよ!?」
「あ、私も聞いた事あるかも。アランさん面倒見いいから基本的に好かれてるけど、歯向かう人には容赦ないらしいよ」
「中高生の中にものされた人がいるって話ね。
一部の人間には『銀髪鬼』って恐れられてるとか」
「うにゃあああっ、お兄ちゃんいったい何してるの……」
多分その人たちがお兄ちゃんの逆鱗に触れるような事をしたんだろうけど。
話し合いが大事って言う割には手が早いよ、お兄ちゃん。
「で、本当にそれだけ?
それにしては旅行辺りから元気ないように思うんだけど」
「あ……」
お弁当を持って屋上に移動していたところ、アリサちゃんの鋭い突込みが入った。
どうしようかな、魔法の事は話せないし。
なんて言えばいいのか、分からない。
「なのはちゃん?」
すずかちゃんが心配そうにこっちを見ている。
魔法の事は秘密にしなきゃ、だけど、
『友達は大事にしとけ』
ふと、お兄ちゃんの言葉が脳裏をよぎる。
そうだよね、ちょっと相談、してみようかな。
巻き込まない程度にぼかせば、平気……だと思うの。
そう考えて私は口を開いた。
「うーん、なんて言ったらいいのかな
……ちょっと喧嘩しちゃってる子がいる、のかな」
「えっ、誰と?」
「この前初めて会った子。
話をしてみたいんだけど、中々話を聞いてくれないの」
「喧嘩の原因は……その様子じゃ喋りそうもないわね」
「うん、ごめんね」
本当に申し訳ないとは思うんだけど。
ユーノ君の落し物の事を知ったら2人は手伝うって言い出しちゃうだろうし、これが限界。
あれ? よく考えたら何も話してないのと同じなのかなあ?
「なのはちゃんはその子とお話してみたいんだ」
「うん。きっと凄く優しい子だと思うの。
だけど何も話してくれなくて……」
あ、思い出したらちょっと沈んできちゃった。
静かで優しいフェイトちゃんの目を思い出す。
やっぱり、お話、してみたいな。
「あー、もう! そんなの簡単じゃない!」
「ふえっ!?」
アリサちゃんが大きな声を出して立ち上がる。
あっ、お弁当ひっくり返っちゃうよ。
「届かないなら届かせればいいのよ。
聞いてくれないなら、聞いてくれるまで話し続ければいい。
話してくれないなら、話してくれるまでぶつかればいいのよ!
そんなのあんたの得意分野じゃない!!」
そんなアリサちゃんの言葉に、初めてアリサちゃんと喧嘩した時の事を思い出した。
「そうだね、私達が仲良くなっていった時みたいに」
すずかちゃんも同じだったようで、くすくすと笑っている。
「あ、あれは……私もちょっとやりすぎだったかなあって……」
「いいのよ。あれは私が悪かったんだから……痛かったけど」
「ふふっ、アリサちゃんってそう言う所、格好良いよね」
ふいっと横を向いたアリサちゃんの顔はちょっと赤い。
すずかちゃんはそんなアリサちゃんを、微笑ましげに見つめていた。
どちらも、私にとっては自慢の親友。
でも、初めての時は当たり前だけどこんな関係じゃなくて。
「そっか、そうだよね。うん、何度でもぶつかってみるよ。
ありがとう、アリサちゃん、すずかちゃん!」
残りのお弁当を少し急いで食べる。
もうすぐお昼休みも終わりだ。
2人から元気も貰ったし、私は私らしくフェイトちゃんにぶつかってみよう。
────────interlude out
「ただいまっ!」
「ああ、お帰り」
妙に元気よくなのはが帰ってきた。
なんだあ?
今朝学校に行った時とはえらい違いだな。
なのははばたばたと部屋に行き、あっという間に着替えてリビングへ戻ってくる。
「行ってき……あ、お兄ちゃん!」
「お、おお。なんだ?」
「私、頑張るからね! 行ってきますっ!」
「……行ってらっしゃい」
何があったんだろ?
凄い勢いでなのはは家を出て行った。
多分ユーノと合流するんだろう。
「ま、元気ならいっか」
≪元気なのは良い事です≫
「だよな」
なんだか置いていかれた気分になりながら、ドラッケンと頷きあう。
いや、ドラッケンは頷く事は出来ないが。
左手一本で出来る家事は限られているが、出来るだけ済ませておく事にする。
先程帰ってきた恭也に手伝ってもらいながら、なんとか夕食の準備を終えた。
美由希?
恭也に鍛錬を言い渡されて道場にいる。
あいつは台所に入れたらいかん。
「っ!?」
突如、覚えのある強力な魔力が広がった。
それの呼び水になっているのは、フェイト嬢の魔力。
馬鹿なっ、まさか強制発動させたのか!?
「恭也っ」
「アラン!? お前今日は安静に──」
「戦闘には参加しない。だから行かせてくれ。
あの子に伝えておかなきゃいけない事があるんだっ」
俺の行く手を遮るように立つ恭也を睨みつける。
10秒も睨み合うと恭也は溜息をつき、道を開けた。
「恭也……」
「その様子だと魔法を使ってでも飛び出していきそうだからな。
そうなるよりは大人しく行かせてやった方がましだ。
ただし、あちらでも魔法は使うなよ。なのは達が泣く」
「努力する。ありがとな、恭也」
その言葉を最後に玄関から飛び出した。
方向は……最悪だ、街の中心部じゃねえかっ。
内心悪態をついた瞬間、空気が変化する。
結界!? この魔力は……
「でかした、ユーノ!」
走る。
治したばかりの筋が痛むが、四の五の言ってる暇はねえっ!
「まだ帰るなよ、フェイト嬢!」