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妙にデジャヴを感じる。
ああそうか、初めてこの家に来た時もこんなだったな。
身体を起こそうとして、やっぱりやめた。
「……懐かしいな」
「何が懐かしいの?」
天井からベッドサイドに目を移すと、非常にむくれた顔をした妹がいた。
あれえ、怒っていらっしゃる?
「右腕は複雑骨折、全身の筋断裂に加えて内蔵はぼろぼろ。
リンカーコアの出力はCクラスまで低下。
神経系はかろうじて無事だけど、病院に運び込んだら大騒ぎだってシャマルさんが言ってたの」
「よ、よお、なのは。おはよう」
「おはようございます」
敬語!?
「また1人で無茶したの」
「いや、だってお前、あの場合はああするしか……」
「また、無茶したの」
「……ごめんなさい」
俺弱ええっ。
ってかこのやり取りにもデジャヴが……
「ああ、母さんだ」
「何が?」
「昔この家に来た時、母さんにも今みたいに押し切られたなあ、と」
「お兄ちゃん、反省してる?」
ひいっ、般若がおる!?
痛みで動かないはずの首をぶんぶん縦に振って……悶えた。
「ああっ!? お兄ちゃん無理しちゃ駄目だよっ!?
一応治癒魔法かけたけどまだ身体ぼろぼろなんだからっ」
「ぐおお……すまん」
首の位置を直して一番痛くない所を探す。
微妙に左に傾げた状態が最も安定するようだ。
……ようやく痛みが落ち着いてきたな。
目の前の怒っている妹より、こちらの方が俺にとっては死活問題だ。
しばらくこんな生活かと嘆いていたら、思わぬ所から訂正が入った。
シグナム曰く、これからシャマル嬢が専属で治療に当たってくれるらしい。
明日の午後にはベッドから起き上がってもいい位の状態には回復するとの事。
それを聞いて心底良かったと胸を撫で下ろす。
「で、俺はどの位眠ってた?」
「あれは睡眠じゃなくて気絶だよ……
えっと、お兄ちゃんが倒れてから大体半日位かな」
「どうりで腹減ってるわけだ」
ぴょこんとなのはが立ち上がった。
「なのは?」
「ご飯持ってくる。絶っ対、動いちゃ駄目だからねっ」
小走りで部屋を出て行くなのはを見送って溜息をつく。
俺が考えていたよりも随分と反動は少なかった。
人の身でアルカンシェルの代わりをしたわけだから、この程度で済んで僥倖だろう。
最も“特定空間内の物質を消し去る”事に力を入れたからこの程度で済んでいるのだ。
もし本当にアルカンシェルの真似事をしたのなら、俺自身が消滅するくらいの反動がなければ釣り合わないだろう。
≪キングはもっと反省すべきだと思いますが≫
≪master, are you all right?≫
「うわっ」
いきなり声がしてびっくりした。
少し首を動かすと枕元にドラッケンとタケミカヅチが置かれているのが見える。
ってか、タケミカヅチが喋るのも珍しいな。
≪それだけあなたが私達に心配をかけたと言う事です≫
≪sure≫
「あー、悪かったよ。あんときゃあれしか方法が思いつかなかったもんでな」
≪まさかフルドライブの上にオーバーバーストするとは思いませんでしたけど≫
「悪い。タケミカヅチも、ありがとな。
お前が居なかったら、もっと怪我酷かっただろうしさ」
≪it's my role≫
それっきりタケミカヅチは黙ってしまった。
相変わらず無口な奴だ。
「お兄ちゃん」
「兄ちゃん、大丈夫なんか!?」
「邪魔するぞ」
お盆を持ったなのはと、はやてを抱えたシグナムが入ってくる。
「リインフォースは?」
「お前の言った通り早まった事をしないよう、ヴィータ達が見ている。
すぐに消えなければと言うような事を言っていたが」
「やっぱり。しかし俺がこの状態だと施術までは無理だな。計画は一時凍結か」
当たり前だと言わんばかりの3人に苦笑する。
あれ、そう言えば、
「シグナム、もう警戒はせんでもいいのか?」
「お前を見ていると警戒しているのが馬鹿馬鹿しくなってきてな。
尤も主はやてに危害を加えるなら容赦はせんが──」
「俺がはやてに? ありえねえな」
「だろうな。まったく、いったい何者なんだ、お前は」
心底呆れたようにシグナムが言う。
守護騎士ってもっとお堅いのを想像してたんだが、意外と接しやすいなこいつ。
「アラン・F・高町。それ以上でもそれ以下でもないさ、今の俺は。
ま、ちょっぴり人外要素も混ざってるが、ただの魔法使いだ」
「魔法使い、か」
何か変な事を言っただろうか。
シグナムの微妙な含み笑いが気になるんだが。
「はやて」
「なんや、兄ちゃん」
「悪いな、計画は一時凍結だ。
本当ならすぐにリインフォースを直す予定だったんだが、出来そうにない。
一度あいつには眠ってもらう事になるが、いいか?」
「もちろんや。
というか今からやるって言ったら本気で怒るところやったわ」
皆に見えない所で冷や汗をかく。
この辺り無駄に器用になったなと思考の片隅で考えた。
高町家の一員として必要な能力だったのだ、この冷や汗をかく場所を限定すると言う能力は。
特に、母さんと対峙する時には。
冗談でも言わなくて良かった……
心底安堵の息をつく。
もちろん、内心で、だが。
「で、なのは」
「なにかな?」
とても綺麗な笑顔なのだが、これを笑顔と呼んだらダウトだろう。
目、笑ってないし。
「できれば機嫌直して欲しいかなあ、と」
「別にいつも通りだよ?」
「いやだって──」
「いつも通りだよ?」
はやてとシグナムを見る。
ぶんぶん首振られたし。
うあ、どうやったらこの状態を打開できるんだろう……
とりあえず、
「……腹減った」
「逃げた」
「逃げたな」
≪逃げましたね≫
うっせ。
ならお前等あのプレッシャー浴びてみろよ。
仕方ないなあとなのはが盆を置いて身体を起こしてくれる。
抱き起こす時近づいたなのはは、俺にのみ聞こえる程度の声でぽつりと呟いた。
「…………死んじゃうかと思った」
「悪かった」
心底反省した。
そうか、そうだよな。
よく考えたらなのはの前で本格的に無茶したのは今回が初めてだった。
長い間一緒に居たもんだから、なのはなら大丈夫だと思い込んでたけど。
分かってくれなんてのは俺の甘えか。
左腕を動かす。
ちと痛いが許容範囲内だ。
それよりもこいつにこんな顔をされている方が堪える。
「あ……」
「ごめんな、心配かけて」
ぎこちなく、ゆっくり撫でる。
今にも泣きだしそうな表情に、胸が締め付けられるように痛んだ。
「ううん、困らせてごめんなさい」
だからなんでそこで謝る。
悪いのは俺だろ?
「だって、ああなればお兄ちゃんが無茶する事は私分かってたのに」
「それでも、これは俺の我侭だったから」
「お兄ちゃんの、我侭……」
「そうだ。俺がやりたいからやった。だから俺の我侭だ」
頷く。
俺はきっと酷いエゴの塊なんだろう。
だからいつも我侭を言っては周りを傷付けてしまう。
分かってるのにやめられないのは、多分俺自身にやめる気がないからだ。
そう考えると、本当に酷い奴だと思う。
自嘲に口元を歪める。
だが、なのはの次の言葉は、俺の思考の斜め上をぶっ飛んでいった。
「……そっか、お兄ちゃんの我侭なんだ。なら私はそれを許すよ」
「は?」
「だってお兄ちゃんはいつも私の我侭聞いてくれるもん。
だから私もお兄ちゃんの我侭を聞けばお相子でしょ?」
いや、だって、それは……どうなんだ?
妹に我侭言う兄貴って駄目駄目だろ、と反論しようとする。
けれど周りを見れば、なぜかなのはもはやても、更にはシグナムまで笑っているし。
なんとなくお相子って言葉の響きがいいから、それでいいかと納得した。
「そうか、お相子、か」
「お相子なの」
そうして皆の笑顔が溢れる。
ちと身体は痛いが、なんだか幸せな気もするから、めでたしめでたし、でいいのかな?
ちなみに、この後腕が上手く動かない俺へ飯を食べさせる為に、なのはとはやてに交互にあーんをさせられたのは黒歴史として封印してしまおう、そうしよう。
「私を呼んだとの事だったが」
飯を食い終えて直ぐにしたのは計画凍結の準備だ。
俺は動けないので全員に部屋まで来てもらった。
「おう、リインフォースというより夜天の魔導書だな。
実は再構築計画まで立ててたんだが俺がこの通りでな」
「ああ。だから再び再生プログラムにて闇が復活する前に私は──」
「はやて」
「了解!」
スパーンと小気味いい音がしてはやてのスリッパがリインフォースの頭に決まる。
いい仕事したって顔で汗拭くジェスチャーをしたはやてはスルーの方向で。
「しかし今の状態ではお前が再構築するのは無理だろう?」
「そこで、だ」
リインフォースを見る。
本当はすぐにでも直してやりたいが、それをやると成功率が下がるので仕方ない。
「しばらく眠っててもらえないか? 多分そう長くはならんと思う」
「眠る?」
「まあ、ぶっちゃけてしまえば封印だな。
今俺は上手く魔法が使えないからはやてにやってもらう事になるが」
それを聞いてリインフォースがはやてと見詰め合う。
念話している雰囲気はない。
ただ目だけで伝え合っているのだろう。
しばらしてようやくリインフォースが頷いた。
「お願いしよう」
「そうか」
少しだけ体内に残っている魔力を左腕に回し強化する。
そのまま腕の力だけで上半身を起こした。
「お兄ちゃん!?」
「悪いな、なのは。これが終わったらちゃんと休むから勘弁な」
「……何か手伝える事、ある?」
「指先、血が出るように軽く切ってくれ。あと身体を支えてくれると助かる」
すぐさま頷いて果物ナイフで指先を切ると、右脇から支えてくれた。
「サンキュ。はやて、準備はいいか?」
「いつでもオッケーやで」
左手で陣を描く。
利き腕じゃないからいつもより少し時間がかかったが、最後の円を繋ぐと空中に紅の魔方陣が出現した。
作業が終わるとなのはが素早く止血してくれる。
「ん、ありがとな、なのは。じゃあ、はやて」
「はい」
応じるはやての顔はいつもより若干固い。
「リインフォース」
「主はやて」
あの時のようにはやてがリインフォースの頬に手を当て、そっと微笑んだ。
「ごめんなあ。少し、眠っとってな」
「はい。次に目覚める日を楽しみに待っています」
「ほな、やろか」
1つ頷くとはやてが剣十字を装備する。
そうして目を閉じたまま口を開いた。
「白龍王が三子アルギスの名によりて不破の血族が願い、不破の名を借りて八神はやてが命ずる」
「リインフォース」
彼女が俺の方を見る。
その瞳は不安に揺れていた。
安心させるよう、俺は微笑む。
「すぐ起こすからよ、今はおやすみだ。良い夢を、リイン」
愛称で呼んでやるとリインは一瞬目を見開き、表情を緩めた。
その間もはやての詠唱は止む事はない。
「ああ。……またな、皆」
「我が力以て、彼の者に一時の安息を────血界封環陣・風の揺り籠[wind cradle]」
血界陣が青に染まり、リインを包み込む。
そのまま徐々に小さくなって、ピンポン玉大の白銀の珠になった。
その珠をはやてが両手で受け取る。
「……おやすみ」
ようやく、この件も一段落と肩の力を抜く。
その瞬間、頭の隅を金色がよぎった。
頭痛え。
そういやあの子の事があったか。
「夜天の書はとりあえずこれで一段落だ。それでこれからの事なんだが」
「そうだな。我々の身の振り方を考えねばなるまい」
「まあヴォルケンリッターははやての傍にいるので決定だろ」
「あ、そか。私に家族が出来たんやね。後で買い物行かな」
「あ、主はやて。我々は守護騎士でして」
「んー、ほな夜天の主として最初の命令を下すわ。皆私の家族になってくれへん?」
暴君がおる。
口調こそお願い口調だったが、命令っつったな、あの子狸。
あ、でもヴォルケンリッターが戸惑いながらも了承したし、はやても嬉しそうだからまあいいか。
「でだ、しばらくはこの街で何度か魔力反応が出るだろうが、八神一家は来ない事」
「っておい、そんな危険な事できるかよっ」
「ヴィータ、落ち着け。
説明が足りんぞアラン、何か理由があるのだろう?」
ザフィーラは冷静で助かる。
俺は頷き先を続けた。
「1つ、リインフォースを封印した今、はやての装備はその剣十字のみ。
魔導師としての訓練もしてないし、現状じゃ戦闘は不可能。
単純に出て来られると危険すぎる」
「せやね、足も動かへんし」
「ああそうだ。明日は病院行ってこいよ?
侵食が止まったからもう足は動くはずだ。これからリハビリだな」
俺の言葉に呆けた顔をしたはやてを見て呆れる。
足が動かない原因忘れてたのかよ、おい。
「いや、なんや途中からリインの事がメインやったから、私の足の事忘れとったわ」
「まあそこがお前のいい所か。
2つ目、俺があんなもんぶっ放したからな、近々管理局の介入があるはずだ」
「つまり、私達が管理局に見つかるのはまずいから、と言う事ですね」
「今はまだ、な。これは事の推移次第だ。
この状態で管理局に捕捉されちまうと流石にフォローしきれないしな。
けどまあ、上手く行けば俺がミッドチルダにとんで教会に渡りを付けられるかもしれん」
「なるほど。古代ベルカの夜天の魔導書として、教会に保護を頼むのか」
「ああ。もし教会に渡りをつけられなかったとしても、夜天を局に回収はさせないさ。
闇の書なんていうロストロギアはもう存在しないからな。
上層部が出てくるならともかく、現場の奴等だったら交渉でなんとかなるだろ。
その間に手を出せない状況まで持って行けば問題ない」
いざとなったら裏側から手を回すし、と呟くと守護騎士の顔が引き攣る。
『裏側から手を回す』の意味を正しく理解しているからだろう。
『裏側から手を回す』とは、口には出せない邪道な方法を用いてなんとかする、と言う意味である。
いまいち意味が分からなかったのか、年少組みは首を捻っている。
って、なんではやては微妙に思いついたって顔してんだ!?
そう言えばはやては図書館通いのせいで無駄に知識が多かったなと思い出す。
今からこんなのだと将来が少しばかり不安だ。
「あ、あー、3つ目。この街に散らばったロストロギア、ジュエルシードって言うんだが、そいつをめぐって敵対している魔導師がいるんだ。
その子には俺となのはで当たりたい。
特になのははあの子とちゃんと話がしたいだろうし」
「うん!」
「俺もあの子の陣営になにかと因縁があるんでな」
「あ、でも……ジュエルシードは早めに確保しないと」
むう、ユーノの言う事も尤もだな。
ドラッケンから封印状態のジュエルシードを1つ取り出す。
「この青い宝石を見つけたら封印するか俺達に連絡をくれ。
ああ、わざわざ探さなくていいぞ。
しばらくははやてもリハビリやなんやらで大変だろうから、そっちに専念してもらいたい」
全員がジュエルシードを確認して頷いたのを見て、ドラッケンに収納する。
最後になのはの方を見た。
「あの子の事はお前に任す」
「うん、お兄ちゃんはどうするの?」
「戦闘には参加しないが現場には行くさ。
恐らく彼女の後ろにいるだろう人物に用があるからな」
自主的に集めているようには見えなかったし。
あの子がアーシャの関係者なら、多分あの人の関係者でもあるだろう。
なのはは俺の目をまじまじと覗き込み、大きく溜息をついた。
「あんまり無理しないでね」
「ん、わかってる。今回で大いに反省したからな」
とりあえずトップギアは封印しよう。
ありゃ危険すぎる。
しばらくはフルドライブも控えるか。
リミットブレイクしなかったのが、せめてもの救いだな。
いや、よく考えねえでも龍眼の負担ってリミットブレイクより上だよな?
今後の方針が決まり、そんな事をつらつらと考えていると急激に眠気が襲ってきた。
どうやら体力もかなり削られているらしい。
「あ、お兄ちゃん眠い?」
「ああ。本調子には程遠いからな」
「にゃはは、じゃあ眠ってて。後の事はやっておくから」
「おう。たの、んだ……」
そのまま目を瞑る。
そう言や起きてから初めてにゃはは笑いを聞いたなと思いながら、俺の意識は黒に塗りつぶされた。