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強大な力の奔流。
それに負けないように前を見た。
徐々に広がろうとするその闇を、フィールドが押さえ込む。
うっわ、がんがん広がろうとしてる。
この勢いで広がったら、俺の部屋なんて吹っ飛ぶぞ。
円環陣敷いといて正解だったな。
「これが……闇の書の、闇」
それは誰の呟きだったか。
圧倒的な力だけがそこにあった。
「っ、結界!」
いち早く我に返ったユーノが結界を強化、同時にヴォルケンリッターがはやてを守るように移動する。
「────解」
窓の結界を解くと、結界に穴が開く。
ユーノが穴の周辺を強化したのを確認してから、窓を開けた。
なのはは闇を挟んで窓の反対側へ。
全員が巻き込まれぬようなのは側退避する。
「ベオウルフ」
≪buster form≫
槍を構えるその姿は御伽噺の戦女神のよう。
巨大な魔方陣が出現し、魔力が集束して行く。
「──っと、もっと」
なのはが何事かを呟いた。
いつより集束にかかる時間が長い、か。
こりゃもう四の五の言ってられないな。
闇を抑えるフィールドに必死に力を注ぎながら叫ぶ。
「不破の名においてアラン・F・高町が告げる!
全てのリミッターの解除を────許可する!!!」
「ラストリミット・リリース!!」
なのはの魔力が一気に上昇する。
それでもなのはは集束をやめる気配を見せない。
「まだ、まだだよ! もっと……もっと!!」
叫ぶ。
集束して、集束して……更に圧縮をかけた!?
俯いていた顔が、上がる。
「これが私のっ、全力全開!! つ・ら・ぬ・けぇっ──」
≪raging sun braker≫
「レイジングサンブレイカーーーーーッ!!!」
発射。
瞬間、桃色の閃光が駆け抜け、闇の防衛機構を紙のように貫いて行った。
「こ、こええ。敵対しなくて良かった……」
赤髪の少女──確かヴィータ嬢だったか──に激しく同意。
≪コア表出を確認。キング!≫
「行くぞっ」
ようやく血で魔方陣を2つ描き終える。
こいつを、
≪boost flier≫
文字通り飛びかかって叩き付ける。
「はやてっ」
「うんっ」
「「白龍王が三子アルギスの名によりて我が(不破)が血族が願い」」
「不破の名においてアラン・F・高町が命ずる」「不破の名を借りて八神はやてが命ずる」
「「我が力もちて、彼の者に悠久の縛りを与えん────血界縛妖陣・無限の牢獄[infinity jail]」
あと一息!
「「術式開放[gate open]────封印!」」
≪≪sealing≫≫
右からはやて、左から俺。
ジュエルシードのバックアップがあるとは言え、ぎりぎり。
「いっけえっ」
強引に包み込み、左右の血界陣を結合させた。
「────結っ!」
≪complete≫
残りの魔力、全てを込めて封印を完成させる。
「っふう」
額に浮いた汗を拭いようやく一仕事終えたと一息ついて、金髪の女性──シャマル嬢、でいいのだろうか──の声に引き戻される。
「防衛プログラム再起動っ。自己再生を繰り返してます!」
「まじかよっ、防衛プログラムってのはゴキブリ並みだな」
≪ゴキブリ……≫
「ああっ、リインフォース、落ち込んだらあかん。単なる言葉の綾やから」
そう言やあれもリインフォースの一部だったんだよな。
忘れてた。
「おいっ、アランだったな。どうすんだよっ!?」
「ちょっと待て、今対策を考える」
マルチタスクをフルに利用しながら、情報を洗い直して行く。
……ん、と、これは。
「……そうか、アルカンシェルだ」
言った瞬間ヴォルケンリッターが心底嫌そうな顔をした。
そりゃそうか。
管理局の誇る極大魔力砲台。
記録を見る限り何度か最後にあれで吹っ飛ばされてるもんな。
「確かにあれの威力なら消し去る事も出来ようが、ここは管理外世界なのだろう?」
守護獣が反論する。
「ああ、それ自体を持ってくる事は不可能だ。
だが、ようはあれを跡形もなく吹っ飛ばしてしまえば──」
「えっと……私、なのかな?」
おずおずとなのはが口を挟んできた。
だが悪いな、そいつは却下だ。
「阿呆、お前さっき全力でRSB撃ったばっかだろうが。
傷付いたリンカーコアの出力じゃさっき程の威力は見込めん。
とりあえずこれ以上コアを傷付けんように1つでいいからリミッターかけとけ」
「……はーい」
不承不承といった感じでリミッターをかけるなのは。
「ではどうするのだ?
主はやては覚醒したばかり。なのは程の出力は望めんぞ」
「だろうな。だから……俺がやろう」
っておい、そんなに驚いた顔すんなや。
そりゃ今の俺は殆ど魔力空な上になのは程の大出力は望めないけどよ。
縛妖陣を確認する。
内側からかなり押し上げられているが、あと5分程度は持ちそうだ。
「『欲せし時に眠りは醒めん。古き血の制約に飲まるれば、また与ふことなかし』」
「あれ? どっかで聞いた事がある気がするの」
「まあ5年前に1度言ったきりだしな。口伝だよ、うちの一族の」
「んー、思い出せないの」
「まあそれが普通だ。そんでさっき夜天の中でばあちゃんに会ってな」
わけが分からないといった顔をした面々を前に、にっと笑う。
「重要なのは俺がなんとか出来るって事だ。
都合のいい事に俺の魔力変換資質は風。
物理的に一定空間から物を消し去る事も理論上は可能だしな。
でかいのならともかく、あれのコア位の大きさなら行けるだろうよ。
ま、とりあえず時間もないし作戦を発表するぞ」
全員が頷いたのを確認してユーノに向かい直る。
「ユーノ、お前ならあれに加えて何人まで転送できる?」
「え!? えっと、2人までなら、なんとか」
「じゃあ守護騎士の誰かにも手伝ってもらおうか。転送先は郊外の山頂」
「海の方が遮蔽物は少ないと思うよ、お兄ちゃん」
「まあそうなんだけどな。
あそこは探索してないからジュエルシードが存在する可能性がある。
なるべく不確定要素を排除したいんだ。
郊外の山なら一度探してるから大丈夫だろうしな」
俺の言葉に海鳴在住者が納得した顔をする。
残り時間が短くなってきたので、早口になってしまっているが、まあ仕方がない。
「んでもって、山に転送するのは俺、ユーノ、なのは、はやてとあれだ」
「えっと、シャマル、できる?」
「ええ、大丈夫よはやてちゃん」
「我々はどうするのだ?」
「はやての管理者権限で召喚する。可能だな?」
≪可能です≫
見渡す。
どいつもこいつも覚悟の決まったいい顔だ。
「作戦は単純だ。全員が郊外に移動後、ユーノが結界を張る。
俺以外の全員であれに波状攻撃をかけながら時間を稼ぎつつコアを再表出。
最後に俺がぶっ放して終わりだ」
「兄ちゃんの魔力は大丈夫なん?」
「とりあえずは、これで」
さっきまで使っていたファーストシードとセカンドシードから残りカス程度の魔力を自分のものにする。
そのまま場にセットしていたサードシードを再封印し、ドラッケンに収めた。
「あれ? あのジュエルシードは使わないんですか?」
「ありゃリインフォースを直すのに必要だからな。さて、準備はいいか?」
「1つ聞かせろ」
口を開いたのはヴォルケンリッターの将シグナム嬢。
いや、将に嬢とつけるのは失礼か。
シグナム、だな。
「なんだ?」
「なぜお前は……お前達は我等のためにそうまでする?」
参ったな、またこの質問か。
苦笑しながら頭をかく。
いい加減何度も同じ説明をするのは、ごめんこうむりたいんだが……
「兄貴が妹分を助けるのに理由が必要か?」
「しかしそれでは──」
「なあ、シグナム」
言葉を遮る。
残り時間は短いが、これはきっと必要な対話なのだろう。
「お前等が心配している事は分かる。今も俺を警戒し続けている理由も」
彼女の目に浮かぶのは僅かな動揺。
「正直な、それはどうでもいいんだ。
俺はなのは達みたいに純粋じゃないし、それなりに社会の闇ってやつも見てきた。
だからと言うわけじゃないが、信用はしないでいい」
反論しようとしたなのは達を目で制す。
まだ言いたい事は終わってないのだから。
「俺はな、なのはの笑ってる顔が好きだ、はやての笑ってる顔も好きだ。
ユーノがからかわれているのを見ると平穏を感じる」
突然話題が変わった事に困惑するシグナムを見ながら続ける。
「俺はただ、俺の好きな一時を護りたいだけなんだよ」
いつの間にか全員が真剣な顔で俺の話を聞いていた。
「なあシグナム、信用も信頼もしなくていい。
だけど……だけど、護りたいものが同じなら、俺達は戦友になれると思わないか?」
そうしていつもと同じように笑う。
心の底から、曇りなく。
シグナムは俺を暫く見つめ、
「戦友、か。……そうだな」
そしてその厳しい表情を緩めた。
「シャマル」
短く指示が飛ぶ。
ユーノとシャマル嬢はすでに転送用魔方陣を展開していた。
残り時間、2分。
「行くぞっ」
掛け声と共に、俺達は山頂に転送された。
「っと」
空中に出たので咄嗟に飛行魔法を唱える。
「ユーノ、結界。はやては召喚」
「はいっ!」
「おいで私の騎士達」
はやての使用に光が集まると、4人の守護騎士が姿を現す。
「さて、後は頼むぜ。俺はあの馬鹿をぶっ飛ばす準備を始めるからな」
その言葉に全員が力強く頷いてくれたのを見てから、俺は自己へ埋没した。
────────interlude
お兄ちゃんが目を瞑ってぴくりともしなくなる。
どうせまた無茶するんだろうなあと溜息をつくと、同じように溜息をついたはやてちゃんと目が合った。
「にゃははっ」
「ははっ」
なんとなく、笑う。
きっと考えていた事は同じなんだろう。
「チェーンバインド!」
「縛れ! 鋼の軛[くびき]ぃ!!」
ユーノ君とザフィーラさんが先手を打って、あれの拘束を始める。
お兄ちゃんとはやてちゃんの封印は未だ顕在だけど、今にも破られそう。
ふと横を見るとヴィータちゃんがハンマーみたいなデバイスを構えていた。
「ちゃんと合わせろよ、高町なにょ……なにゅ……ああもうっ、高町なんとか!」
「なのはだよ、高町なのは! 後でちゃんと呼んでもらうんだから!!
だから……ヴィータちゃんもきっちり、ね」
「誰に言ってやがる!」
私の言葉にヴィータちゃんはふっと笑い、そして凛とした表情に変わる。
それに合わせて私も気を引き締める。
「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
ヴィータちゃんの名乗りと共にデバイスが動いていくつも薬莢が飛び出てくる。
あ、あれお兄ちゃんのデバイスと同じやつだ。
確か……カートリッジシステム、だったかな。
≪giant, form≫
「轟天、爆砕! ギガントシュラァァァァクッ!!!」
その瞬間血界陣が割れて、中から変なモンスターっぽいものが出てくる。
バインドが縛ったままだけど、大きさもぐんと大きくなった。
そこに丁度ヴィータちゃんの振り下ろしが決まる。
再生しかけてたプログラムのバリアを1枚壊してヴィータちゃんの攻撃は止まった。
って、私の番だ。
「永全不動八門一派、御神流戦士高町なのは。パートナーはベオウルフ!」
≪compression≫
1m大の魔力弾をスイカ大へ一気に圧縮。
後ろから聞こえてくるお兄ちゃんの声が、私に力を与えてくれる。
だから!
「ディバインバスターー!!」
発射と同時に私は道を開け、自分の成した結果を見る。
バリアは2枚抜けて残り1枚。
「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン」
シグナムさんが凄い目でプログラムを睨みつけている。
そのまま左手に持った鞘とレヴァンティンを合体させ、カートリッジロード。
≪bogen form≫
うわ、すごい。
私のナックルフォーム程じゃないけどかなりの変形なの。
光が弾けた後には大弓を持ったシグナムさんがいた。
そのまま彼女は弓を引き絞る。
「翔けよ、隼! シュツルムファルケン!!」
高まった魔力は矢に集束され放たれる。
それと同時にはやてちゃんの詠唱が始まった。
「彼方より来たれ、宿木の枝、銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
白銀の魔方陣が展開され、同色の魔力弾が形成されて行く。
ふと気付く。
そういえばはやてちゃんは今お兄ちゃんからしか蒐集してないから、お兄ちゃんの使う魔法しか使えないはずなんだよね。
って事は、使える魔法の幅、かなり狭いんじゃないかな。
「石化の槍ミストルティン!!」
6つ魔力弾が一斉に槍のように放たれ、命中。
命中箇所から闇の化け物が石化して行くのを見て私は冷や汗をかく。
なんでこんな物騒な魔法身につけてるの、お兄ちゃん……
そういえばお兄ちゃんはベルカ・ミッド両式を修めてるって言ってたの。
……なんか、下手な魔導師から蒐集するよりはやてちゃん強くない?
そんな考えを振り払うように首を振る。
闇のプログラムは未だ再生を繰り返しているけど、全員での攻撃が聞いているのか大分ダメージを負ってる気がする。
「はやてちゃん!」
声をかけるとはやてちゃんは私の方を見て頷いてくれた。
今度はさっきみたいにリミッターは外せない。
だけど周りには皆が放った魔力が溢れてる、なら。
ベオウルフを、構える。
「行くよベオウルフ、ディバインバスターのバリエーション!」
≪starlight breaker≫
周りを巻き込んで集束して行く魔力。
一番大きいのはやっぱり私のだけど、ユーノ君の翠、ザフィーラさんの銀、ヴィータちゃんの赤、シグナムさんの淡い紫、そしてはやてちゃんの白銀。
皆の力が合わさって行く。
隣でははやてちゃんが少し悲しそうな顔で暴走するプログラムを見ていた。
そっか、あの子も夜天の書の一部だったんだもんね。
「ごめんな」
それは呟くような小さな声で、
「ごめんな、お休みなあ」
優しく、それでいて決別の響きを持っていた。
その顔を引き締め、はやてちゃんが詠唱を始める。
「響け、終焉の笛────ラグナロク!」
はやてちゃんの剣十字の杖に魔力が集まる。
私の集束もそろそろ終わるから、タイミングを合わせようとアイコンタクトを取った。
「スターライトォォォォ……」
ベオウルフを振りかぶる。
被害は出さないように上空に向けて、撃つ!
「「ブレイカアアアアアァァァァァァッ!!」」
直撃──そして、轟音。
完全に露出したコアは、今までの攻撃を受けて傷付き、崩れかけていて、
「全員退避!」
そして、私達が待ち侘びていた声が響いた。
────────interlude out