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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 何もない真っ暗な空間。
 まさに闇と呼ぶべき場所に俺は立っていた。

 光のない、黒一色の闇。
 平衡感覚がおかしくなりそうだと思っていた所へ、水面が揺らぐように波紋が広がる。
 ふと見れば、目の前には黒い目と白髪交じりの黒髪を持った女が立っていた。
 いつの間にと思わないでもないが、ここは魔導書の内部。
 何が起こっても不思議ではない。

「管制人格……ってわけじゃなさそうだな。あんた何者だ?」
「おや、私を覚えてないのかい。薄情なもんだね」

 女は飄々と切り返す。
 年の頃は50手前ってところだろう。
 一見折れてしまいそうに見える細い体。
 が、その眼が持つ強い意思と威圧感がそれを見事に裏切っている。

「さて、初見じゃないのか?
 あんたに会った事はないと思うんだが」
「なるほど……無意識に自己封印を施してるんだね。どれ」

 いきなり顔を鷲づかみにされる。
 不意を突かれた事に驚きながらも抵抗しようとし、

「ぐっあああああああああああっ」

 フラッシュバック。

 生前の幼少期の記憶、ようやく得た家族の末路、そして最期に受けた選択。
 それらが脳裏に甦る。
 急激に叩き起こされた記憶は頭痛を伴い俺自身を犯して行く。
 女の手が離れても流入は止まず、思わず膝をついた。

 唐突に記憶の奔流が、止まる。
 残るのは灼熱を伴った頭痛だけ。

「っ、はっ……はあっ……」
「目が覚めたかい? とは言っても随分と頑固な封印だ。
 全部解くにはまだ鍵が足りなそうさね」
「っああ、鍵ってのはよくわかんねえけど、おかげさまでばっちりとな。随分と手荒いな、不破刹那」
「まあいいだろう。少々不満は残るがね。ほら、しゃんとしな■■■■■」

 呼吸を整え、立ち上がる。

 思い出した。
 ああ、思い出したとも。
 なぜ俺がここにいるかを、きっちりとな。

「なんであんたがここにいる。あんた、あの時──」
「死んださ。ここにいるあたしはあんたの魂にこびりついてた残留思念。
 夜天の魔導書の力を借りて顕現したただの残りカスさね」

 そう言って彼女は哂う。
 それが他でもない彼女自身に向かってる事を察し、思わず目を逸らした。

「あたしが出てきたのは単純にあんたが危うく見えたからさ。
 無意識で龍眼を起動させるなんて、馬鹿な事やってるあんたがね」
「龍眼?」
「いつも祝詞を唱える時に言ってるだろう?
 その文言の通りあたし等は龍の血を引いてるんさ。
 偉大なる龍王の子、アルギス様のね。
 あんたの魔力許容量が馬鹿みたいにでかいんもその影響さね」
「あれ、仕様なのかよ」

 ちょっとげんなりした。

 原因究明のために散々考えたってのに、答えはこんな近場にあったのか。

「正しく起動し、正しく使いな。
 その体はそう言う風にできているんだから。
 じゃなきゃ危なっかしくておちおち寝てられもしないよ」
「正しくって、どうやって?」
「あんたの魂が知ってるさね。
 私の術式も全てそこに受け渡したんだから」

 とん、と俺の胸を叩くと不破刹那は俺に背を向けた。

 どうやらお別れらしい。

「なあ」

 呼び止める。
 1つだけ、聞いておきたい事があった。

「あんた、後悔してるか?」

 刹那が振り返る。
 さっきとは違って、笑っていた。

「馬鹿だね。
 助からない命と老い先短い命。それであんたと言う“孫”を助けられたんなら、あの子等が、あんたの両親が幸せだったなら、あたしはそれでいいんさ。
 あんたこそ、応えた事を後悔してないかい?」

 それを聞いてくっと笑う。

 あんたも呆れたお人よしだよ。
 まったく、不破の奴等ってのはどうしてこうなのか。

「馬鹿言え。あの時選択したのは俺、そして救い上げられたのも俺だ。
 ……それに、今の俺には家族がいる」
「そうかい」

 今度は互いに背を向けた。

 はやては……向こうか。

 そう確信を持って足を踏み出し、立ち止まる。

 そう言えば、俺はこの人に何も伝えてない。

「よお」

 背後で再び立ち止まる気配。
 互いに振り向く事はない。
 これは本来ありえない邂逅なのだから。

「生んでくれて、ありがとな。“ばあちゃん”」

 そうして再び歩き出す。
 短い会合だったが、俺にとってその価値は計り知れない。

 背中に感じるばあちゃんは、楽しげに笑っていたような気がした。

────────interlude

「主はやて、ですね」

 真っ暗な空間の中、兄ちゃんはおらんくて、目の前には銀髪赤眼の美人さん。

 むむ、ええ乳しとるわ。

「あの……主?」
「おお、ごめんなあ。あんまりにもええ乳が目の前にあったもんやから」
「そ、そうですか」

 なんや美人さんの頭に漫画みたいなでっかい汗が浮かんでる気いもするけど、きっと気のせいやな、うん。

「ほんで、あなたが夜天の書の管制人格、でええんか?」
「はい。今の状態ですと、私自身を外に出す事ができませんので、失礼とは思いましたが主はやてにご足労いただきました」
「ほか。ま、それはええんやけど兄ちゃんは? 一緒に来たはずなんやけど」
「あの方は今話し合っている最中です」
「話し合い?」

 なんや、ようわからんなあ。
 この子の中に兄ちゃんに関係するもんでもおったんやろうか?

「あの方は少々特殊な生い立ちのようで、その魂へ住んでいた方と今頃会っているはずです」

 むむ、魂に人が住んどるんか。
 流石は兄ちゃん、色々とぶっ飛んどるなあ。

「主はやて、申し訳ありません」
「なんで謝るん?」
「主の足の事です。
 私にはどうやってもリンカーコアへの侵食を止める事ができませんでした。
 そして、これからも……」
「これから?」
「今は書が完成前な事と外部からの協力により、私は私の意思を保てています。
 ですが、近いうち私は闇に飲まれ、主はやての体を奪い取り、破壊という災厄を撒き散らすただの物になりましょう」

 私はそれが悲しい、と彼女は泣いた。

「今、時間があるうちにヴォルケンリッターを切り離します。
 私ごと闇の書を消し去ってください」
「あかん、そんなのはあかん!
 それに闇の書やない。あなたは夜天の魔導書やろ!」
「その名で呼ばれるのはいつ以来の事でしょうか……」

 私の言葉に首を振り、遠くを見る。
 まるで、過去を懐かしみ、後悔をなくしてしまうかのように。

「さあ主、私が私を保っていられるうちに──」

 あかん。
 兄ちゃん、私だけじゃ止められへんよ。

「だから、そうさせない為に俺達がここに来たんだろうが」

 声が響く。
 一番聞きたかった声が。

 振り返ると、いつも通り不敵な笑みを浮かべた兄ちゃんがいた。

────────interlude out

 思わず声かけちまったが、もしかして俺空気読めてない?
 なんか2人して固まってるし。

「兄ちゃん!」
「よお、はやて。遅れて悪かったな」

 素早く再起動を果たし期待に満ちた目で見てくるはやてに笑いかけ、銀髪の女性に向き合う。

 彼女が夜天の管制人格か。

「初めまして、だな。夜天の書の管制人格。
 俺の名はアラン、アラン・F・高町だ」
「話はもういいのか?」
「ああ、ありがとな。おかげで大事な事を思い出した」

 意義のある一時だった。
 この忙しい時間を割いてまで取る程度には。

「時間もないし、今はお前の話をしようか。
 お前の協力があれば暴走するプログラムの切り離し、そして封印は可能だ。
 その為の準備は終わってるしな」
「しかし、プログラムは私の内部まで入り込んでいます。
 プログラム自体を一度消滅させたとしても、私が存在すれば無限修復機能が働き暴走プログラムが再生。
 再度暴走するのは時間の問題です。
 それ故私の消滅は確定事項で──」
「だ・か・ら! それをさせない為に俺達がいるっつってんだ、このポンコツ」
「ポ……ポンコツ……」

 何気にダメージがでかかったのか、管制人格は肩を落とした。
 それを放ってはやてに目配せをすると、心得たと言わんばかりにはやてが頷く。

「私が書に触れて管理者になった時な、色んな事が流れ込んで来たんよ。
 今まで皆が感じてきた苦しみや悲しみ、望むように生きられへん悲しさ。
 完全にではないし、理解できるとは言わへんけど、私にも少しは分かる。
 兄ちゃん達に会うまで、ずっと悲しい、寂しい思いしてきた。
 ────せやけど」

 はやてが車椅子を漕いで管制人格に近寄る。
 目に映るのは力強い意思。

 本当にこの子は、9歳手前の子供なのだろうか。

「忘れたらあかん。あなたのマスターは、今は私や。
 マスターの言う事は聞かなあかん!」

 一瞬だけ光が満ちる。
 暗闇に注ぎ込んだ光は広がり、形を成す。
 純白に輝く三角形の──ベルカ式の魔方陣がはやてを中心に具現した。

「っ、しかし主、確実性を取るなら──」

 首を振るり、真っ直ぐに見つめるはやて。
 その姿に彼女は何も言えなくなり、

「名前をあげる。
 もう闇の書とか、呪われた魔導書とか言わせへん。私が、呼ばせへん」

 真っ直ぐなその意思に、何を感じたのだろうか。
 彼女はただ、その両目から涙を流すだけで。

「私は管理者や。私にはそれができる!」

 はやてが力強く宣言した。
 なら俺はそれをただ見届けよう。

「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る」

 静かに、はやての声が響く。
 はやてはそっと、彼女の頬に手を伸ばし、沿えた。

「強く支えるもの……幸運の追い風……祝福のエール」

 言霊を、紡ぐ。
 紡いで彼女に新たな意味を与えて行く。

「祝福の風────リインフォース」

 瞬間、眩いばかりの光が溢れた。

「新名称『リインフォース』を認識。
 管理者権限の使用が可能になります」

 はやてが権限を持ったからか、ドラッケンとのリンクを感じる。
 それに同調して暴走するプログラムの切り離し処理を助け始めた。

「ほな行こか、リインフォース。
 こっからが正念場やで。なあ、兄ちゃん」
「ああ」

 その言葉を最後に、俺はリインフォースの中から弾き出された。

────────interlude

 お兄ちゃんが消え、はやてちゃんが書に触れたまま気を失った。
 私はただお兄ちゃんに託されたドラッケンを持って、ひたすら祈り続ける。
 どうか、誰もが笑っていられる未来になりますように、と。

 私の隣ではユーノ君とはやてちゃんの守護騎士さんが、落ち着かない様子で魔導書とはやてちゃんを見続けている。

「まだか……まだなのかっ」

 我慢の限界に達したのか、ヴィータちゃんが叫んだその時、

≪キングの介入を確認。
 はやてさんが管理者権限の掌握に成功した模様です≫
「ほんとっ!?」

 聞いた瞬間どっと安堵の溜息が漏れた。

 お兄ちゃんの事を信じていても、心配なものは心配なの。

≪来ます!≫

 ぱりんと音がした後、光が溢れてお兄ちゃんが書から飛び出てくる。
 思わず抱きついたら、そのまま受け止めてくれた。

「待たせたな。続き、行くぞ!」

 なに寝てんだ、と言いながらはやてちゃんにでこピンをして、お兄ちゃんがいつも通りの笑みを浮かべる。

 ああ、これでもう大丈夫。
 こんな風に笑ってる時のお兄ちゃんは無敵なんだから。

「ほれ、起きろ子狸。
 じゃなきゃおいしいとこ全部俺が掻っ攫うぞ」
「あいたた、酷いで兄ちゃん。ま、置いてかれるよりはええけど」

 ちょっと涙目のはやてちゃんも笑顔で返す。

「さて、行くか」
「ほな、行こか」

 2人が同時に構えた。

「誓いを胸に、手にするは龍の牙、我が意に応え顕現せよ」
「夜天の光よ、我が手に集え」
「ドラッケン、セットアップ!」「祝福の風リインフォース、セットアップ!」

────────interlude out

 は、融合[ユニゾン]デバイスね。
 さすがはベルカの至宝ってとこか。

 リインフォースと融合した影響で銀髪になったはやてを見て納得する。

「にゃー、お兄ちゃんと一緒なの。いいなあ」

 誰かうちの暢気な妹をどうにかしてくれ。

「さて、ドラッケン。どこまで来てる?」
≪切り離し準備は完了しています。
 指示があればいつでも摘出できますので、後の問題は封印処理ですね≫
「そうか、よくやった」

 まじで凄えな。
 自分で作ったデバイスの出来のよさにびっくりだ。

「さて、はやて」
「ん?」
「今夜天に蒐集されているのは俺の魔法だけ。
 普通なら使えない術式なんかも入っているが」

 親指を噛み千切る。
 なんか隣から「にゃあああっ!?」とか叫びが聞こえたが、気にしない。

「俺の血を媒介にすれば使えるはずだ」
「って兄ちゃん、ちょっとは躊躇しいや!?」
「ばーか。今無茶しないでいつやるんだよ。
 ヴォルケンリッター!」
「なんだ?」
「今から暴走プログラムを摘出する。はやてを守ってやれ」
「言われるまでもない」

 力強く頷く4人を見て破顔した。

 いい奴等だ。

「ユーノ!」
「はい!」
「お前は部屋の結界を強化しながら更に重ね掛けで封時結界を展開。
 ただし、窓だけは開放して結界に穴を開ける。
 難しいが、お前の得意分野だ、出来るか?」
「もちろん」

 いつもはしない漢くさい笑みで笑うユーノ。

 まったく、いつもこうならいい男になるだろうに。

「なのは!」
「はい!」
「合図と同時にぶっ放せ。お前が一番攻撃力がある」
「わかったの!」

 1つ深呼吸をする。

 さあ、この馬鹿騒ぎももうすぐ終焉だ。

「やれ! ドラッケン!!」
≪ja!≫

 心なしかいつもより気合の入ったドラッケンの声と同時に、




────────闇が、顕現した。
 

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内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
目次はこちら

魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
目次はこちら

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