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まあ窓と扉を遮断するわけにはいかないのでそこまで強力なものでもないが、少なくとも直接目視する以外の手段で室内を覗こうとすると酷く苦労する事請け合いだ。
監視がある事に気付いた時に張ったものだが、まさかこういう風に使う日が来るとは思わなかった。
現在は窓と扉にも結界を張る準備をしているところ。
結界を張って、カーテンを閉めれば完全に閉じた場が出来上がる。
それでこそ落ち着いて作業ができるってものだ。
「あとはこの札を窓と扉に貼ってくれ」
「うん、わかったよ。ところでお兄ちゃん、こんな色のインク、家にあったっけ?」
「そりゃ俺の血だ」
「はにゃ!?」
落とすなよ?
そいつを作るにゃ結構な時間がかかるんだから。
ドアを閉めてはやて、なのはと向き合う。
これで準備は終了。
「──オン」
札に魔力を通す。
窓と扉に貼った札と、あらかじめ貼ってある結界用の札を連動させ、
「白龍王が三子アルギスの名によりて我が血族が願い、不破の名においてアラン・F・高町が命ずる。
四方閉づる間を世の理[ことわり]から外し、全ての災厄から身を護らん。
──────六芒星血界陣・王の聖域[absolute sanctuary]」
呪を紡ぎ終わると同時に深い蒼が部屋に広がり、消えた。
なのはとはやては口々に今の魔法の感想を言い合ってるが、それですまないのがユーノである。
「な、なんですか、今の出鱈目な魔法は
……こんな効果のある結界見た事ありませんよ!?」
ま、これが一般的な魔導師の反応なんだろうが。
今ははやてに集中したいので、そちらにリソースを割くつもりはない。
そんなわけで綺麗さっぱりとユーノの発言を無視するが、ユーノは俺の様子に気付く様子もなく食いついてくる。
作業を続けていくも、徐々にユーノをスルーしているのが面倒になってきたので、ちょっと黙れと言おうとした瞬間、
≪ユーノさん、五月蝿いです。そういう質問は後にしてください≫
相棒がフォローに入った。
ドラッケンに怒られたか。
ま、あのまま行ってたら俺が怒鳴りつけてた可能性が高いから正解かな。
俺達の雰囲気をようやく感じ取ったのか、ユーノが黙り込む。
サンキュとドラッケンに念話してから、深呼吸をして心を水平に保つ。
ミスは……許されない。
大粒のルビーを取り出すと、俺は相棒に声をかけた。
「さて、ドラッケン、行けるか?」
≪誰に言ってますか、あなたは。私はキングの相棒ですよ≫
「だな。セットアップ!」
≪ja, my king! stand by ready...set up≫
っと、いざと言う時の為に保険をかけておくか。
「2人とも、一応バリアジャケットは纏っておけ」
「うん」
「は、はいっ」
「それとなのは」
「なに?」
「もし俺が暴走したら、書を俺ごとぶっ飛ばせ」
「──っ」
「兄ちゃん!?」
驚く3人。
なのはは暫く俺を探るように見つめ、そして頷いた。
「なのはちゃん!?」
「はやて」
困惑するはやてへ静かに呼びかける。
はやては俺のほうを向くが、その表情は思いっきり不安を湛えていた。
「大丈夫だ、死ぬこたあ、ねえさ。
むしろ死にたくないから取っておく、いざと言う時の為の保険だ」
「兄ちゃん……」
「あー、それともなにか。俺がこんな大事な場面で失敗するような男だと?」
「……あんま無理、せんでな」
「ああ」
はやてが渋々ながらも認めてくれたので意識を切り替える。
「風斬」
≪wind blade≫
指先を切って、持っていたルビーとジュエルシード3つへ血を付着させる。
「兄ちゃん!?」
「この程度で騒ぐなよ。まだ序の口だぜ」
そう、まだ準備も終わってないのだから。
「溶解」
≪ja≫
血と混ざったルビーは俺の血の代用品。
流石に貧血状態で術を制御するのは不可能だ。
「ここに、理を以てアラン・F・高町が陣を張る。
──────血界円環陣、形成」
血に見立てられたルビーは紅い魔方陣を宙に描き、術式が完成する。
こいつは場[フィールド]だ。
俺の魔力を通り易くして、ジュエルシードの制御難易度を下げる為の場を強制的に作り出している。
お袋の研究ノートから新たに構築した俺専用の魔法。
尤も、そう大きな範囲には張れないので、今回のような事がなければ開発する事もなかっただろう。
これが終わればまた死蔵される類の魔法である事には間違いない。
「はやて、夜天の魔導書を魔方陣の真ん中に置いてくれ」
「うん」
はやてが抱えていた魔導書を陣の上に乗せる。
それを囲むようにジュエルシードを配置した。
これで、準備は終了。
さあ、行こうか。
アラン・F・高町、一世一代の大舞台だ。
観客はたった3名。
だけど最愛の妹と大事な妹分、そして発掘民族のスクライア。
これ以上を望んだら罰が当たるってなもんだ。
「そうだろ、ドラッケン?」
≪ja, my king! get ready?≫
ああ、やっぱお前は最高の相棒だ。
「sure. here we go!」
≪magic field, go ahead≫
目を閉じて魔力を放出。
目前の陣へ流し込んで起動させる。
注がれた魔力は魔方陣と言う血管を巡り、廻る度に力強く、荒々しく変化して行く。
それを宥め、抑え、纏め上げる。
「っく、ドラッケン!」
≪ja... access...≫
束ねた魔力は三方へ。
目を開く。
魔方陣の上ではジュエルシードが深い蒼光に包まれ浮いていた。
汗を拭う。
最初からこんな状態で最後まで保つかが少し心配になったが、3対の視線を感じて気合を入れ直す。
この状況で、無様は見せらんねえだろ!
「場の掌握は完了。これにて第1段階は終了。続いて第2段階へ移行」
手順をもう一度頭の中で確認する。
さあ、ここからが本番だ。
目の前に浮かぶジュエルシードを睨みつける。
「ジュエルシードへアクセス。
書へバイパスを1本供給、シードの魔力に指向性を持たせ主の魔力と誤認させる」
必要ないが確認の意味も込めて口に出す。
気合は充分だ。
「アクセス、スタート!!」
≪ja. access...≫
ドラッケンの無機質な声が頼もしく聞こえ、戸惑わずに書に魔力を送り込む。
まずは起動からっ。
俺のバイパスを通しているが、こいつはジュエルシードによって指向性を持った魔力。
誤魔化しを加えて、はやてからの供給に見せかけてあるので、これでいけるはず。
「よし!」
≪complete≫
成功。
書が闇色の光を放ち、封印するように巻きつけられていた鎖が弾け飛ぶ。
≪anfang≫
光が集束して行く。
いくつかの人影を横目で確認できた。
書が起動したと言うことは、恐らく記録されていた守護騎士達だろう。
確か書の起動が第1段階になった時、起動と同時に現れると言った記述が残っていたはずだ。
光が収まり、リーダーらしき桃色髪をポニーテールに纏めた女性が口を開く。
「闇の書の起動を確認しました」
続けて金の髪をセミショートにした柔和な女性、
「我等、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」
短髪の犬耳と尻尾を生やした青い男性、
「夜天の主の下に集いし雲」
そして赤い髪を三つ編みにした少女。
「ヴォルケンリッター。なんなりとご命令を」
4人がはやての前に傅く。
やはり、守護騎士か。
とりあえずここまでのプロセスは問題なし、だな。
「書の起動を確認、これより第3段階に入る。
はやて、俺が管制人格を叩き起こしたら合図するから書に触れろ。
それで管理者がはやてになるはずだ」
「てっ、てめえっ、いったい闇の書に何してやがるっ!?」
赤い少女が俺に食って掛かる。
だが悪いが俺は今シードの制御で余裕がない。
苛つきを隠す事なくそのガキを睨みつけた。
「てめえ等は黙ってそこで見てろ! 邪魔したらぶっ殺す!!
…………ふぅ、いかんな。どうにも余裕がなくて。
仕方ない、はやて、そいつらは任せる」
「う、うん。皆ごめんなあ、兄ちゃん今ちょいピリピリしてんねん」
はやてがヴォルケンリッターを宥め始める。
俺はそのままドラッケンと意識を同調させた。
「ゆっくり、流し込むぞ」
≪ja, access...≫
起動に向けた魔力をカット。
蒐集機構へ魔力を流し込むと徐々にページが埋まり始める。
っと、これは魔法や技が記録されるんだったか。
魔力タンクはジュエルシードだが、媒介してるのは俺だから俺の魔法が記録されるのか?
俺は自分の魔法の中にいくつかある危険なものを思い出し、密かに冷や汗をかいた。
────────interlude
……また、この時がやってきたか。
今度はどんな主に仕えるのであろうか。
闇の書の起動に合わせ外に出たらいつもの起動とは異なり、主の他にも3人の魔導師がその場にはいた。
内1人は渦巻く魔力の中心で闇の書を弄っており、思わずヴィータが食って掛かったのも当然と言えよう。
恐らくヴィータがやらねば私がやっていた。
しかし、
「てめえ等は黙ってそこで見てろ! 邪魔したらぶっ殺す!!」
少年はその赤い眼でこちらを一瞥すると、殺気だけで我等をその場に縫い付けた。
この百戦錬磨のヴォルケンリッターを、だ。
かく言う私も一瞬固まってしまった。
あれを至近で受けたヴィータの恐怖はいかほどだったのだろう。
「皆ごめんなあ、兄ちゃん今ちょいピリピリしてんねん」
苦笑して近づいてくる車椅子の少女。
繋がりを感じるので、彼女が今代の主なのだろう。
「ほな、まずは自己紹介といこか。
今代の主になった八神はやて言います。よろしゅうな」
「はっ、私はヴォルケンリッターが将、剣の騎士シグナムと申します」
「私は湖の騎士シャマル。主に参謀と後方支援を担当しています」
「盾の守護獣ザフィーラ。主を守るのが仕事だ」
「……鉄槌の騎士ヴィータ……」
いくら先の出来事で素が出ているとは言え、主に対してその態度はいただけん。
「ヴィータッ」
叱責の声を上げるも、主に制された。
「ええんよシグナム。ヴィータ、やったね。ごめんなあ、うちの兄ちゃんが」
「別に……あいつ主の兄貴な……んですか?」
ヴィータがぎりぎりで口調を治す。
どうやらまだうまく切り替えができてないらしい。
だがそれは私も知りたいところだな。
「はやてでええよ。敬語もいらん。そやなあ、血ぃは別に繋がってへんよ。
ただな、ずっとお世話になっとって、いっつも私等を助けてくれるんや」
そう主は本当に嬉しそうに笑った。
その表情からは無上の信頼が伺える。
なるほど、主はあの少年をかなり頼りにされているようだ。
だが、闇の書の力を利用しようとしてる輩の可能性も捨てきれない。
それに管理局員だった場合我等には都合が悪いな。
「えっと、はやてちゃん、でいいのかしら。
書が起動した時魔導師が3人も居るのは珍しいのだけど、彼等は管理局員なの?」
「シャマルやったな。管理局ってあれやろ、次元世界ゆう所の警官さん。せやったら違うで。
兄ちゃんは地球は管理外世界ってゆうとったし、兄ちゃん自身が管理局を嫌いみたいやから」
「そう……」
そうか、ここは管理外世界なのか。
しかし管理局が嫌いとは……次元犯罪者か何かなのだろうか?
「あんな、夜天の書は病気なんやって。
せやから兄ちゃんが今治療しているところなんや」
「夜天の書……」
「うん。夜天の書さんが直ればはやてちゃんの足も治るんだって」
どこか懐かしい響きに動揺していたところへ、先ほどまであの少年の傍に居た栗毛の少女が寄ってきて説明を加える。
しかし、主の足だと?
疑問が顔に出ていたのか栗毛の少女が続けた。
「あ、私なのは。高町なのは。はやてちゃんのお友達だよ。
さっき怒鳴っちゃったのが私のお兄ちゃん、アラン・F・高町って言うの。
それでなんではやてちゃんの足が動かないかって言うと……えっと……」
「成長過程にある未熟なリンカーコアから強制的に魔力を搾取されていたせいで、コアが侵食され身体面まで影響を及ぼしている、だよ、なのは。
僕はユーノ・スクライア。
この世界へは今アランさんが使っているロストロギアを回収しに来た者です。
えっと、協力者、でいいのかな?」
「ユーノ君もお友達だよ?」
スクライアと名乗った少年と高町……は2人いるか、なのはが目の前で会話を始めてしまう。
なんというか今の会話、かなり重要な事を話しているはずなんだが、このほのぼのとした雰囲気はなんなのだろうか。
先の少年とのギャップが激しすぎるのだが。
唖然としていると主が苦笑しながら口を開いた。
「私等がこない安心してるんはな、今頑張ってるんが兄ちゃんやからや。
知っとるか、兄ちゃんは魔法使いなんやで」
言葉から伺えるのは少年に対する絶対的な信頼。
というより主、それを言うなら我等も魔法使いなのですが……
主はやての真意を問いただそうとしたところで、
「────はやてっ、来い!」
かの魔導師から声がかかった。
────────interlude out
次々に埋まって行く魔導書のページ。
思っていた以上に制御が難しい。
今俺の体はジュエルシードと夜天の間にあるパイプの役割を果たしているのだから、それも当然。
だが、体を駆け巡る魔力をただ注ぎ込む、それだけの事なのにこんなにきついなんて。
正直予想以上だった。
≪...50...100...≫
ったく、何ページ埋めりゃあ目を覚ますんだ、この寝坊助はっ。
はやて達はどうやらヴォルケンリッターに説明を始めた様子。
あれならヴォルケンリッターとの戦闘にはなりそうもない。
最悪は避けられた、か。
≪...200...250...≫
「くそっ、まだか?」
ドラッケンは答えない。
当然だ、今こいつは全演算能力を魔力制御に傾けているのだから。
≪...300...350...≫
やばい。
この世界に来た時と同じだ。
御しきれない魔力が体内で暴れ始める。
「……負けて……たまるかあっ」
≪...400、管制人格起動を確認。
魔力蒐集路への注入およびジュエルシードからの供給、カットします!≫
供給がカットされても体内に残った魔力は膨大。
暴れまわるそいつを、意思の力だけで無理やり抑え込む。
「はやてっ、来い!」
「兄ちゃん、触ればええんやなっ」
すぐに寄って来てくれたはやてに頷くと、はやてが右手で書に触れる。
≪所有者接続を確認。管制システムとのリンク……正常≫
「セカンドシードを起動! 防衛プログラムを切り離すぞっ!!」
≪ja≫
ドラッケンが作業を切り替え暴走しようとするシステムに介入する。
ふと横に居るはやての様子がおかしい事に気が付いた。
「な、なあ兄ちゃん。なんや吸い込まれそうな感じがあるんやけど」
「くそっ、話すんならこっちに来いってか!? 仕方ねえ……なのはっ」
ドラッケンを待機状態に戻す。
もちろん作業は継続させたままだ。
「にゃ!?」
「ドラッケン持っとけ。書の暴走はドラッケンが抑えてくれる。んでもって、はやて!」
「は、はいっ」
「行くぞ、寝坊助を起こしに」
「……うん!」
「じゃ、暫くでいいからこの場を頼むわ。すぐ帰って来っからよ」
「早く帰ってきてね、はやてちゃん、お兄ちゃん!」
「無事戻ってきてくださいね、はやて、アランさん」
「当然!!」
「もちろんや!!」
なのはとヴォルケンリッターのリーダー──確かシグナムと名乗っていた──に後を任すと、そのまま俺とはやては魔導書の中に吸い込まれていった。