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リリカルなのは二次小説中心。 魂の唄無印話完結。現在A'sの事後処理中。 異邦人A'sまで完結しました。
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 傷も癒え、仕事も順調に消化。
 はやてへのレッスンも大方終えて、今日から皆で温泉旅行である。

「ま、2泊3日だけどな」
≪最近のキングは働き過ぎでなので、今回はゆっくりする事をお勧めします≫
「わーってるよ。俺だってゆっくりしたいさ。
 ……トラブルが舞い込んでこないなら、な」

 それが一番難しいんだけどなあと嘆息しながら八神家のチャイムを押す。
 ここ数年高町家のイベントごとには殆どはやても参加させている。
 そのおかげか、最近のはやては笑顔が多くなり、年相応の顔をする事も増えた。
 この間定期健診で病院に付き添いで行った時、担当医の石田先生に感謝されたほどだ。

 まあ正直俺がどうこうと言うよりも、友人が増えた事の方が良い方向に向かっている要因だと思うんだが。

≪キングは自分の影響力をきちんと認識すべきだと私は思いますが≫

 いきなりわけの分からん事を。
 あと俺の思考を読むな。

「兄ちゃん、おはよう」
「ああ、おはよう、はやて。昨日はきちんと眠れたか?」
「駄目やあ。興奮して中々寝付けんかった」

 はやての荷物を受け取り肩に担ぐ。
 2泊にしては大きい鞄の中には、実は1週間分の着替えが入っている。
 同じロストロギアを用いるとはいえ、第1級捜索指定にまでなっているロストロギアの危険を取り除こうという無茶な計画だ。
 神経を使う作業になるのは間違いなく、工房化している俺の部屋で作業を行った方が安全だと判断した。
 そんなわけで、温泉後はやてはそのまま家に泊まってもらう予定になっているのだ。

 待ちきれないと言った様子のはやての車椅子を押す。

 そういや、なんだかんだでうちに泊まりに来た事はあっても、旅行に同行するのは初めてか。
 いっつも定期健診とかが被ってたからなあ。

「私温泉初めてやねん。めっちゃ楽しみやわあ」
「そか。向こう行ったらノエル嬢に色々頼んであるから、遠慮なく頼れよ。
 まあうちの美由希でも構わないけど」
「兄ちゃんじゃないん?」
「阿呆。俺に女湯に入れと?」
「別にええやんか。皆気にせんよ」

 こ、このお子様は。

 にやけるはやてにでこピンをかます。

 大体お前等は気にせんでも美由希や忍が気にするわ。
 なんせあいつ等は俺の実年齢を知ってるわけだし。

「あてっ」
「ま、ユーノ位ならそっちに行っても問題ないだろうが……いや、やめておこう。
 あいつがかわいそ過ぎる」

 先週お茶会の時に置いていったらあの後えらい愚痴られた。
 どうやらはやてとアリサ嬢に根掘り葉掘り聞きだされたらしい。
 あの恨みがましい目をもう一度向けられるのは、良心が痛んだ事を除いてもごめんこうむりたい。

 額を押さえて痛がっているはやてを見る。

 こいつも今日は大概テンション高いな。

「まあめいっぱい楽しむのはいいが、はしゃぎ過ぎるなよ。
 来週から始めるんだし体調でも崩せばことだ」
「ん、わかっとるよ」

 一気に大人しくなるはやてを見て、今までのはしゃぎっぷりに空元気が混ざっていた事にようやく気付いた。
 お詫びも兼ねてくしゃりと頭を撫でてやると、はやての顔が少しだけ穏やかになる。

「なぁはやて、今、幸せか?」
「なんやいきなり。皆が一緒におってくれるから幸せや、当たり前やないか」
「そうか。じゃあ俺がはやての幸せを続けるのに邪魔な壁をぶち壊してやるよ。その為の拳で」
≪その為の魔法で≫
「────その為の、力だ」

 タイミングよく合いの手を入れてくれた相棒に感謝しながら、少しでもはやての不安を吹き飛ばせるよう、力強く、不敵に笑う。
 それを見ていたはやての顔が元気を取り戻し、少しだけ頬を染めた。

「は、はは。あかんよ兄ちゃん。
 そないかっこええ事言われたら、惚れてまうやんか」

 はやては目の端に浮いた雫を誤魔化すように袖で拭い取る。
 その様子に満足しながら、俺ははやての額に軽くデコピンをお見舞いした。

「阿呆、そゆこたぁもっと良い女になってから言えや。
 尤も、お前がそうなる頃にゃ、俺はおっさんだがな」
「ええー、そんなに時間かけへんよ」
「お前、俺の実年齢忘れてんだろ」
「あ……」

 そうしてはやてと馬鹿話をしながら歩く。
 ふと、最近お馴染みになってしまった視線を感じる。

 ……今日はあっちからか。

 気付かない振りをしてはやてと会話をし続ける。
 ここの所頻度が上がってきたのはあちらが焦ってきたからなのだろうか。
 圧倒的に情報が足りない中、向こうの意図を読むのは難しい。
 いつも通りに秘匿回線を開く。

【ドラッケン】
【βの方ですね。どうやら監視は2名で決まりのようです】
【そうか、ありがとう】

 2人、か。
 まあなんとかギリギリって所かね。

「兄ちゃん?」
「あ?」
「なに難しい顔しとるん?」
「いやな、はやてを動物に例えると何になるか考えててな」

 内心の焦りを誤魔化して咄嗟に馬鹿話にずらす。
 今のは危なかった。
 なのはもそうだが、俺の周りのお子様共は揃いも揃って勘が鋭い。
 これ以上の思考は危険だろう。

「んー、私を動物に例えると、かあ」
「おう。ちなみにはやては俺はなんだと思う?」
「兄ちゃんはあれやな、どっからどう見ても肉食獣やろ。
 うーん、虎辺り? ほら、白いのおるやん、白虎やったっけ?」
「どっからどう見ても……それはまあいいとしても、色のイメージで決めるのか。
 しかも四聖獣ってかなり恐れ多いんだが」
「イメージは大事や。そいで、私は?」
「うむ。…………子狸、だな」

 わざと重々しく頷きながら発表する。
 まあ、前々から思ってた事だし問題ないだろう。

「って、よりによって狸かいっ」
「ナイス突っ込み! だがはやて、そいつぁ違うぞ。『子狸』だ」
「同じや!」
「違う!!!
 このちっこくてぷにっとした所なんかお前はまさしく小動物。
 そして愛嬌と言う点で子狸に決定だ!」
≪キング、そんなに力説する事ではありません≫
「ん、気にすんな。一度こういうノリやってみたかっただけだ。はやてが子狸ってのは譲らんけどな」
「そうなんや……もう子狸でええわ」

 俺の言葉にはやてはぐったりと脱力した。

 程よく肩の力も抜けたようでなにより。

 今朝会ったときよりも強めにぐりぐりと頭を撫でてやる。

「そうそう、その位で丁度良い。
 緊張させた俺が言うのもなんだが、せっかくの旅行だしな。変に緊張してたら楽しめないだろ」
「あ……兄ちゃん、おおきに」
「ははっ、妹を助けるのは兄貴の特権ってな。折角だから黙って助けられてろっての」
「うん!」

 さて、はやての調子が戻ったところでようやく我が家に到着。
 荷物の半分は家に置いて車に乗り込む。

 さあ、今日は色んなものを忘れて、ただ楽しむ事にしようか。




 と、思ってたせいでテンションがだだ下がりだよ。

≪流石はトラブルマスター≫
「嬉しくない。そして俺をその名で呼ぶんじゃねえよ、ポンコツ高性能」
≪ポンコツなのに高性能とは……中々に難しいですね≫
「普通に貶してんだから真面目に返すな」

 も、疲れた。
 ってかなんでこんな所まで飛んできてんだよジュエルシード。
 殆どが近場で見つかってたから油断してた。
 あー、もう、今日は何もしない予定だったってのになあ。

「アラン、どうした?」

 温泉に着いた途端だれた俺を心配してか背後から声をかけられる。

「恭也か。なに、大した事じゃないさ。
 丸一日休めるはずだった休日に、仕事が舞い込んだだけの事だ」

 一応一般客もいるので暈かして伝えるが、恭也はそれだけで理解できたようだ。

「ま、なのはにゃ言わんよ。せっかく寛ぎに来てんだから」
「そうか。お前がそう決めたならまあいいんだが……その、大丈夫か?」
「平気だ。かなり位置がぼやけてるから微妙だが、まあ俺も寛ぎつつ探すさ。……明日もある事だしな」
「無理はするなよ」
「ああ」

 無理は、な。

 ここに来たときからずっと感じている魔力がある。
 多分あの子だろう。
 俺はあの子に聞かなきゃいけない、否、聞きたい事があるんだ。
 その過程で必要なら──

【キング】

 ああ、わかってる、わかってるさ。
 だけど、必要なら考えるよりも先に行動するって遥か昔に決めたんだ。
 俺はそうやって今までを生きてきた。
 こいつを躊躇したら、きっと俺は俺じゃなくなっちまう。
 想いを、貫けなくなっちまう気がするんだ。

 俺の意思が念話を通じて伝わったのか、ドラッケンは黙り込んでしまった。
 内心で溜息をつき、気を取り直して恭也に向き直る。

「さて、俺等も温泉に行くか。女性陣は?」
「お前がだれてる間に行った。
 とりあえずあそこでなのはに掴まりかけてるユーノを拾っていこう」
「だな。ってかなのははピュアに育ちすぎたな。
 ありゃ一緒に入る事になんの疑問も持ってないぞ」

 そんな事したら、高町家男子一同にユーノが殺されるっての。
 そこのシスコンと違ってなのはに彼氏ができても文句は言わんが、俺達がいる前での混浴は流石に容認できないよ、俺も。
 嗚呼、無邪気ってのは時に残酷だ。
 いや、これはそんなに深刻な話じゃないけど。

 俺と恭也はさっさとユーノを回収すると、なのはに文句を言われないうちに男湯へ逃げ込んだ。

「あの、助かりました」
「いや、なんと言うか……うちのなのはが悪いな」
「まさかとは思うが、こっちに来ないよな?」
「大丈夫だ。アリサ嬢とすずかが止めてくれる……多分」

 2人で顔を見合わせて、同時に大きく溜息をつく。
 ちなみに無事男湯に退避できたユーノはと言えば、

『これは将来有望なええ乳やーっ!』
『ちょっ、はやて、止まりなさい!』
『にゃああっ、はやてちゃん、そこくすぐったい』
『お姉ちゃん、助けてー』

 おっぱい魔人と化したはやての巻き起こす惨劇を聞きながら、赤くなって縮こまっている。

「あー、やっぱりやったか」
「そういえばこれがあったな。忍に注意するのを忘れてた」
「むしろ忍ならはやてに便乗しそうな気がする」

 家の風呂に入れる時、うちの姉妹は漏れなく被害にあっているのだ。
 ちなみに、なぜ母さんの時はやらないのかと聞いた所、

『あの乳は士郎さんのもんや。人のもんには手え出したらあかん』

 と血涙を流していた。

 こういうノリが関西人なのか、と妙に感心してしまったのを覚えている。
 微妙なラインでモラルを保っている辺りが、はやてらしいと言うかなんと言うか。

 遠い目をしながら回想を入れていると、隣の喧騒が流石に洒落にならないレベルになってきて、ようやく我に返る。

 って、そろそろ騒がしすぎるだろ、これ。

「はやてー」
『なんや、兄ちゃーん』
「他の客も居るからもうちょい自重しとけー」
『はーいっ』
『ええっ!? いやなんであんな散々止めたのに止まらないで、アランさんの一言で止まるのよあんたは!?』
『ア、アリサちゃん、落ち着いてっ』
『にゃははは、はやてちゃん、アランお兄ちゃんの事大好きだから』

 ああ、ユーノからの視線が痛い。
 おかしい、俺は良い事をしたはずなのに。

 ちなみに、あがった後で聞いた所、はやてが最初に揉んだのはノエル嬢の胸だったらしい。
 忍達は美由希に誘導されて避難していたんだとか。

 ま、はやてを抱えた状態じゃ逃げられんわな。
 正直すまんかった、ノエル嬢。




「オレンジ色の髪の女性?」
「うん、浴衣着ててね。
 念話で私達の邪魔するなみたいな事を言ってきたの」

 腕を組んで考える。

 確かにここに来てから感じているあの子の魔力以外にも1つ反応があったが……

「多分あの子の使い魔だな」
「ほえ、お兄ちゃん分かるの?」
「まあ大体は。
 2つの反応があるが、別々の魔導師のものにしちゃあ魔力から受ける印象が近すぎる。
 使い魔は生物をベースにするが、主人の魔力で維持されるから似たような感じになりやすいんだ」
「凄い。私全然そういうのわかんないのに」
「なのはは自分の魔力がでかすぎるからな。
 それに紛れて他の連中の魔力が感じ取りにくいんだろ」
「アランさんも普通よりかなり多いんですけど、魔力」

 なんか疲れた雰囲気のユーノに突っ込まれた。
 なんでも俺が年長組みと話している間、年少組みの卓球に付き合わされたんだとか。
 こいつも大概苦労人ポジションにいる奴である。

【キング程ではありませんよ。
 と言うより、彼が疲れている直接の原因はその卓球ではないと私は思いますが】
【うっせ。俺は好きでやってるからいいんだよ。
 てか思考に突っ込むなって言ってるだろ】
【なら駄々流しにしないでください】

 ドラッケンの突っ込みもそろそろ恒例になりつつある。

「まあそれはともかく、彼女がいる以上この近くにジュエルシードがあると見ていいだろう。
 実際俺もそれらしき波動は来た時から感じているしな」
「にゃ!? なんで言ってくれなかったの?」
「お前なあ。せっかく休みに来たのに仕事入れてどうするよ?
 どうせあの子が確保に動くだろうから、その動きを追うのが一番楽だしな」
「ああ、それで着いた途端げんなりしてたんですか」

 ユーノ大正解。
 一方のなのははなんだかふてくされている。

「それでも言ってくれた方がいいのに……」
「ん?」
「お兄ちゃん、私が気付かなかったら1人で行ってたでしょ?」
「う……」

 鋭い。
 なんか最近パターンを読まれ始めた気が。
 だけど、せっかく休みに来てるんだから、こう言う時位普通に過ごして欲しいってのは間違ってるか?

「いっつもお兄ちゃんが私達を護ってくれてるのは知ってるよ。
 私の実力がまだお兄ちゃん程には達してないのもわかってる。
 だけど! だけど、私だって魔導師、なんだよ……」

 なのはが俯いたまま言葉を続ける。

 って、手がなんかぷるぷる震えてる!?
 いかん。
 これは完全に怒ってるパターンだ。

「いや、でもせっかく休みに──」
「私だってお兄ちゃんを護りたいの!!」
「あ……」

 怒っているのだと思っていたが、顔を上げたなのはの両目には涙が溜まっていた。
 まさか泣いているとは思ってもみなかった。
 普段の生活で、なのはは殆ど涙を見せる事がない。
 それは多分、俺達に心配をかけまいとするなのはの遠慮があるからなのだろう。
 だけど今、そんななのはが瞳に涙を溜めて俺を見つめている。
 内心で大きく溜息をついた。

 俺はこいつをそこまで思い詰めさせていたんだろうか。
 そんな事にも気付かないなんて、いったい何をやっていたんだか。
 …………本当に、俺は駄目な兄貴だな、ドラッケン。

【何を今更】

 空気を読んで、それでも律儀に念話を返した相棒に苦笑する。
 最近なのはとあまり会話らしき会話をしていない事を思い出し、ひょいとなのはを抱き上げると俺と同じ方向を向かせて膝に乗せた。
 昔から続けてきたなのはと俺の“お話”スタイルだ。

 そう言えば最後にこうしたのはいつの事だっただろうか。

「なのは」
「ん、なに?」

 ぐしぐしと袖で目元を拭うなのは。

 ああこら、そんな事したら目が腫れちまう。

「ごめん、な。俺、なのはの気持ち無視しちまってたか?」
「ううん、お兄ちゃんはいつも私達の事を考えてくれてるよ。これは私の我侭なの」
「そうか」

 我侭、か。
 じゃあ兄貴はそいつを叶えてやらなきゃ、な。

「なのはは、どうしたい?」

 かつてと同じように、ゆっくりとなのはの話を聞く。
 静かに、頭を撫でながら。
 あの頃胸の辺りにあった頭は、今は俺の目の前にあった。

「私ね、あの子に会った後に誓ったの」
「ん、何を?」
「私は私の意思で剣を執る。それで護りたいものを護り通すよ」
「そうか……」

 俺の中でずっと小さいままだったなのはの姿が、ようやく今のなのはの姿に変わる。

 この子はもうこんなに大きくなっていたのか。

 今更ながらそんな事に気付いた。

「その上であの子とお話してみたい。
 あの子、ごめんねって言ってたの。きっと何か事情があるんだよ」
「そっか……じゃあ、一緒に行くか」
「うん!」

 なのははひょい、と俺の膝から降りると、振り向いて笑った。
 とくん、と心臓が跳ねる。

 おいおい、何やってんだ、俺の心臓。
 この子は俺の妹だぞ。

「あ、あのー」
「ん?」

 あ、ユーノ。いたのか?

「いましたよ!
 途中から2人の世界に入ってたアランさん達が気付かなかっただけで」
「ふぇ!? あ……にゃ、にゃ、にゃあああっ」
「おお、瞬間沸騰」

 音がしそうな勢いで赤くなると、なのはは微妙に憤ったままのユーノを引っ張って走り去っていった。
 それを見ながら、俺は頬を緩ませる。

「まったく、子供は成長が早いな」
≪それはおっさん臭いですよ、キング≫
「放っとけ」

 なのはの背中が当たっていた胸が熱い。
 笑いが勝手にこみ上げて止まらない。

「俺もうかうかしてらんないな」

 立ち上って、拳を握る。

 クールダウンしないと途中で息切れしそうだ。
 恭也にでも頼んで発散しておこう。

≪キングも大概バトルマニアですよね≫

 だから放っとけっつーの。

────────interlude

「っはぁ……はぁ……」

 心臓がばくばく言ってる。
 いきなり走ったせいか、さっきのが原因か。
 ここまで来てから考えてみたけどもう分からない。
 走らなきゃもっとはっきり分かったかな、と思ってから首を振る。
 そうしたら分かったかもしれないけど、分かってしまうのはちょっと怖い気がした。

 ユーノ君は途中で置いてきた。
 実際にはここに来た時点でいなかったから、置いてきたんだろうってだけだけど。
 多分私が途中で手を離して走り続けたんだと思う。

 と言うかユーノ君がいきなりあんな事言うからいけないの。
 2人の世界って恭也お兄ちゃんと忍さんみたいな……

 そこまで考えてから再度首を振って想像を追い出した。

「あれはないの。…………ない、よね?」

 自分に聞いても答えは返ってこない。
 そんなの当たり前なのに。

「あれ、なのは。どうしたの?」
「にゃあっ!?」

 突然声をかけられてびっくり。
 振り向いたらお姉ちゃんがいた。

「おりょ? 顔真っ赤だけど大丈夫?」
「にゃにゃにゃっ、だ、だいじょうぶ、なの」
「んー」

 ちょっと考え込んでからにやりとお姉ちゃんが笑う。

 あ、これはまずいかも、なの。

「恭ちゃんって事はなさそうだからね、ユーノ?」
「!?」
「関係はしてるけど本題ではない、か。じゃあアランだ!」
「にゃああああああああっ!!?」

 なんでこんな時ばっかり鋭いの!?

 せっかく落ち着いてきたのにまた顔が熱くなっていくのを感じる。
 ぽん、と感触があって気付けばお姉ちゃんに撫でられてた。

「んー、アランもあれで色々複雑だからね。
 応援はしたげるけど、きっと大変だよ」
「?」

 お姉ちゃんが何について言ってるのかはわからないけど、頑張らなきゃいけない事だけはわかったので頷く。
 すると、お姉ちゃんがいきなり苦笑した。

「自覚なし、か。今はそれでもいいよ。頑張れなのは」
「うん!」

 そう言ってお姉ちゃんは部屋に戻っていってしまった。

 ところで、元気よく返事をしたのはいいんだけど、何を頑張ればいいんだろ?

 首を捻りながらちょっと考えて、やっぱりよくわかんないやと疑問を頭から追い出す。
 ぺたぺたと両頬を手で触って、大丈夫な事を確認してから歩き出す。

 心臓も顔に上った血もちょっと落ち着いてきたし、私も部屋に戻ろっと。
 …………あ、ユーノ君どうしよ?

────────interlude out
 

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HN:
内海 トーヤ
性別:
男性
自己紹介:
ヘタレ物書き兼元ニート。
仕事の合間にぼちぼち書いてます。

其は紡がれし魂の唄
(なのはオリ主介入再構成)
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魂の唄ショートショート
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遥か遠くあの星に乗せて
(なのは使い魔モノ)
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異邦人は黄昏に舞う
(なのは×はぴねす!+BLEACH多重クロス再構成)
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