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俺がアラン・F・高町になってから3年の月日が流れた。
あれからなのははほんのちょっと大人になって、でも相変わらず向日葵のような笑顔を振りまきながら元気に遊びまわっている。
俺によく懐いているのは変わらないが、それでも一時期ほどべったりじゃなくなった。
恭也とは兄弟と言うよりは悪友と言った関係の方がしっくりくる。
鍛錬の時も恭也とは一緒に組み手をしたりしながら過ごし、美由希を鍛えるときは2人で集中砲火だ。
おかげで美由希は大分強くなったが、鍛錬時の俺と恭也が苦手になった様子。
ちなみに、俺は幼稚園に通うのはさすがに勘弁してもらった。
この年で通うのは苦痛を通り越してもはや拷問である。
その代わりと言っちゃなんだが、学校にはきちんと通うように父さんに説得された。
まあ別に構わないけど。
朝の静謐な空気の中、道場内で恭也と向かい合う。
14歳で大分体ができてきた恭也と、6歳のちっこい体の俺では体格が違いすぎる。
それでもなんとか経験にものを言わせ、今の所戦績はとんとんだ。
「今日は勝つ」
「ぬかせ。奥義を封印したままのお前に負けてたまるか」
その言葉が引き金になって試合が始まる。
先制は恭也。
鋭く打ち込まれた木刀を、懐に踏み入っていなす。
小太刀二刀流の恭也と無手の俺では圧倒的に俺のリーチが足りないのだが、先読みに関しては俺の方が上なので、まだなんとか捌けている状態。
一時期恭也が何かに焦るかのように鍛錬を詰めてやりすぎていた事もあったが、以前のように殴り飛ばしてからはやめた模様。
おかげで体を壊す事もなく、着実に恭也の実力は伸びており、そろそろ捌くのが厳しくなってきた。
マルチタスクで分析、先読みを行い、いなし続ける。
ここの所打ち込みがかなり鋭くなってきているので、先読みだけでなんとかできる時期は終わりなのかもしれない。
「恭ちゃんもアランも熱くなりすぎー」
とやる気なさげに木刀を振るのは美由希。
恭也を遥かに越えた才能を持つにも関わらず、やる気が低いせいで中々伸びていかない。
まあ、鍛錬の度に2人がかりで集中砲火されてるから、やる気が出なくても仕方ないのかもしれんが。
……あれ? もしかして美由希が中々伸びないのって、俺と恭也のせいか?
と、思考の1つが余計な事を考えたせいで、隙が出来てしまった。
「しまっ」
「もらった!」
わき腹に木刀の感触。
ダメージを減らすために、流れに逆らう事なく体を飛ばす。
勢いがつきすぎたらしく、壁に当たってようやく体が止まった。
ぜーはーと、荒く息をつきながら、
「参った」
「よし!」
珍しく恭也がガッツポーズしている。
どうやら久々のクリーンヒットがそれだけ嬉しかったらしい。
座り込んだまま呼吸を整えてると、すっと目の前に手が差し出された。
「ん、あんがと」
父さんの手を掴んで立ち上がる。
あいたた、勢いを殺したとはいえ、こりゃ暫く痛みそうだ。
魔力を流して回復を促しながら頭を掻いた。
「そろそろ無手じゃ勝つのは難しそうだなあ」
「ん? って事は剣も使えるのか?」
「一応、居合いだけな。
最近やってないから鈍ってるとは思うが」
ここ3年は無手を鍛えてきたから刀に触ってないし、いくら才能があっても磨かなきゃ意味がないだろう。
「へえ、居合いか」
「ああ、親父が剣だったから俺も剣を使おうと思ってたんだがな。
やってみたら剣の方は才能ないって親父にばっさり切られた。
まあなんで居合いかって言やお袋が武術は居合い中心だったからだな。
お袋は祖母さんから習ったって言ってたらしいが。
初めて居合いをやったときゃ、親父が『これが血か』って驚いた顔してたぞ」
「それってかなりの才能があったんじゃないのか?」
「かもな」
まあ、鍛えてないからあんま期待できないとは思うが。
ってか軽く出した話題なのにかなり食いつきがいいな。
自分が刀使うから他のにも興味があるのか?
「皆ご飯できたよー」
と、なのはが呼びに来たので、全員で母屋に戻る事にした。
朝食を食べ始めたら恭也が先程の話をもう一度してきた。
「で、どういう流派なんだ?」
「いや、詳しい事は知らないぞ。
お袋が残した資料と親父から聞いた話位だし」
以前聞いた話を思い出しながら話す。
「確か、祖母さんの家系はどっかの巫女の家系って話だったな。
そっちの業って聞いてるけど」
「ふーん、お祖母さんが日本人だったんだ」
「おう。確か居合いを使うのは一族でも祖母さんとこだけで、本家の方は小太刀二刀流って書いてあった。そういやここと同じだな」
「そうだな。お祖母さんの名前はなんて言うんだ?」
サラダを突っつきながら父さんが先を促した。
「確か…………不破刹那、だったか」
何気ない一言。
その瞬間ピシリと食卓が固まった。
なんかデジャヴを感じるな、これ。
その中でなのはだけがにこにこ飯を食っているのがシュールだ。
「?」
俺としては皆が凍りついた理由がわからず首を傾げるしかない。
錆びたロボットのように軋んだ音がしそうな感じで父さんが首を回し、俺の顔をまじまじと見、次いで俯いてなにやら呟き始めた。
「言われてみれば…………いや、でも……」
「とーさん?」
「士郎さん、不破ってまさか……」
「これだけ固まると言う事は当たりか?」
「父さん、どうした?」
よくわからないがなんか変な事を言っただろうか?
いつもと様子の違いすぎる家族の姿を見ると不安になる。
と、さっきからぶつくさ言ってた父さんが行き成り顔を上げ、真剣な顔で俺を見つめてきた。
「アラン!」
「うわっ、な、なんだよ?」
「よく思い出してくれ。御神という名に聞き覚えは?」
「えっと……」
御神……御神、ねえ。
ああ、確かお袋の日記に記述があったな。
「あるな。
確か祖母さんとこの本家が御神って名だった」
「なんてこった。
今の今まで気付かないなんて間抜けすぎる」
そう言って父さんは額に手を当て空を仰ぐ。
こっちはなにがなにやらさっぱりなので、少しだけ現状を把握しているらしい恭也達の方を見た。
「あはは、うちの流派ね、永全不動八門一派御神真刀流って言うんだよ」
「あ?」
「ちなみに父さんの旧姓は不破だ。御神の分家に当たる。
まあ一族で残ってるのはうちを除けば美沙斗さん位じゃないか」
「はあ!?」
「あ、美沙斗さんっていうのは私のかーさんね。
忙しいらしくて殆ど会う事もないんだけど」
「いや、ちょっと待て」
混乱してきた頭を静めようとした所へ、
「つまり、俺達とアランは遠縁の親戚って事になる。
いや、嘘から出た真ってまさにこういう事を言うんだな」
はっはっはっとか笑ってる父さんから新たな爆弾が投下された。
「え、ええ!? いや、苗字が同じ位じゃそうと決まったわけじゃないだろ」
「いやな、アランのお祖母さんの名前が決定的なんだ。紅の龍巫女、だろ?」
「うわ……まじかよ」
確かにその二つ名は知っている。
お袋の残した日記にも思いっきり記述があったし。
どんな中学生がつけたんだ、この二つ名って突っ込んだ覚えがある。
「一度だけ会った事があるんだ。まだ俺が子供の頃の事だけどね。
それからあまり経たない内に、突然行方不明になったって聞いてたんだけど。
そうか、アランのお祖母さんなのか」
「突然行方不明…………まさか次元漂流者か!?」
「って事になるんだろうなあ。言われてみれば目元なんてそっくりだ。
なんで気付かなかったんだか」
祖母さんの事は親父から色々と聞かされている。
なにせ親父にとって祖母さんは畏怖の対象だったのだ。
結婚を申し込みに行ったら本気で斬り捨てられそうになったらしい。
親父が瞬殺される強さだったと言ってたから、やばい位凄い人だったのだろう。
「あれ?」
「アラン、どうした?」
「いや、俺結局祖母さんがどうなったか知らな……痛っ」
ずきり、と頭が痛んだ。
「アラン、大丈夫?」
心配そうな母さんの顔が目に入る。
その瞬間頭痛は一気に引いた。
今のはなんだったのだろう。
「なんか一瞬だけ頭が痛かった気がしたんだが、まあ大丈夫だろ」
「そうか。我慢はするなよ」
「うん」
一通り親父から聞いた話を父さんに話して聞かせる。
全部聞き終えると父さんは深く安堵したように溜息をついた。
どこか浮世離れした人というのが父さんの印象だったらしく、その後どうなったのか気にしていたようだ。
ふと思い出した事を口に出す。
「そういやお袋の日記に書いてあったんだけどさ、『欲せし時に眠りは醒めん。古き血の制約に飲まるれば、また与ふことなかし』ってどういう意味かわかんないか?
多分祖母さんの家系関係だと思うんだが」
それを聞き父さんが唸りながら腕を組む。
いや、そんなに真面目に考えなくてもいいんだけど。
「うーん、ちょっとわかんないな。
あそこは不破の中でも特殊な家系だから」
「特殊?」
「いや俺も聞いた事があるだけなんだけどな。不破の中でも一等変り種らしい。
そもそも代々巫女をやってる時点でかなり特殊だしなあ」
「そっか。どういう意味なのかお袋の研究ノートにも書いてないからちょい気になってたんだが…………ま、いいか」
ちなみにこのノート、どうもこちらの世界の術式を研究したものらしい。
特に血を媒介にしたものは、うちの家系特有のもので、この事からも祖母さんの家系が特殊だった事が伺える。
本来は霊力という力を用いるのだが、霊力を上手く感じる事が俺には出来なかったので、ミッド式魔法学校在学中に魔力用へいくつか作り変えた。
なのはに使った封印術式もここから取っている。
封印関係は苦手だからと言う理由で覚えたんだが、まさかこんな風に役立つとは思ってもみなかった。
閑話休題
さて、話が一段落したところで目下の問題と言えば、
「むー」
蚊帳の外に置かれてたせいで微妙に不機嫌な我が家のお姫様である。
実はさっきからちっともこっちを向いてくれないのだ。
頬を膨らませて、それでも朝食を頬張る様はかわいらしいのだが、できれば機嫌を直してもらいたい。
「なのは」
「なあに?」
顔はそっぽ向いたまま、私不機嫌ですと言わんばかりの声音に苦笑する。
ぐりぐりと頭を撫でると少し顔が緩むのが俺の角度からでも見えるが、一生懸命不機嫌な顔を保とうとしているらしい。
「悪かった。
食事中の話題じゃないよな。
ほら、そんな顔してたらせっかく美味い飯が美味くなくなるぞ」
「むー」
撫で続けると少しずつ顔が戻ってくる。
「お散歩」
「じゃあ今日は公園にでも行くか」
「うん!」
短く飛んできた要求に笑いながら了承する。
ようやくお許しがもらえたらしい。
微笑ましげにそれを見る父さんと母さん。
恭也はなのはの機嫌が直ったので目に見えて上機嫌になり、美由希は微妙にニヤニヤしてたからでこピンをかましてやる。
朝食を食べ終わると日常へ。
祖母さんの事をほんの少しだけ知り、ますます謎が深まった、そんな日だった。